加藤礼子ヴァイオリン・リサイタル Vol.5 「ドイツ・オーストリア」
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2021年6月12日(土)14:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
ヴァイオリン:加藤礼子
ピアノ:田村 緑
 

モーツァルト(クライスラー編):ロンド 《ハフナー・セレナーデKV250》より

シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調 op.162 D.574

(休憩20分)

ヒンデミット:ヴァイオリン・ソナタ Op.11 No.1 変ホ長調

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 Op.108


(アンコール)
ブラームス:ワルツ Op.39-15
ブラームス:F.A.E ソナタ 第3楽章

 今日は、大ファンである加藤礼子さんのリサイタルです。新潟にはたくさんの音楽家が活動されていますが、新潟を代表するヴァイオリニストといえば、加藤さんの名を忘れてはいけません。

 加藤さんは、新潟の地で、指導者として、演奏者として活発な音楽活動をされいます。演奏者としては、独奏者としてだけでなく、アンサンブルやオーケストラのメンバーやコンサートマスターとしてなど、多彩な演奏活動をされており、私もいろんな場面で演奏を聴かせていただいています。

 私個人としましては、2013年12月の秋葉区文化会館での「ワンコインコンサート」で加藤さんの魅力を知り、その後、2014年4月の「りゅーとぴあ春フェスタ」でのステージで魅了され、その実力を確信しました。以後大ファンを自認して現在に至っています。

 加藤さんの正式なリサイタルとしましては、2015年1月にアウトリーチ活動の集大成としてのりゅーとぴあ主催の「加藤礼子ヴァイオリン・リサイタル」(ピアノ:田村緑)が最初だと思います。

 その後、2015年9月から自主公演としての「加藤礼子ヴァイオリン・リサイタルシリーズ」がスタートし、第1回(ピアノ:吉兼三紀子)が「ドイツ・オーストリア」、第2回(ピアノ:斉藤晴海)が「フランス」、第3回(ピアノ:小林浩子)が「ラテンアメリカ」、第4回(ピアノ:中川賢一)が「ベルギー」で、今回の第5回は再び「ドイツ・オーストリア」をテーマとしてプログラムが選曲されました。ピアノは、2015年1月のリサイタルで共演し、そのほかでも新潟で何度か演奏されている田村さんです。
 田村さんといえば、直近では、2019年5月にりゅーとぴあで開催された「ピアノ駅伝」と「5台ピアノの世界」での演奏が記憶に新しいところです。

 さて、新潟の音楽家の個人のリサイタルといえば、りゅーとぴあスタジオA、新潟市音楽文化会館、だいしホールあたりが定番ですが、だいしホール(だいしほくえつホール)は、現在使用できませんし、ソーシャルディスタンスを考えるとスタジオAは狭すぎます。となれば、通常なら音楽文化会館となりましょうが、今回は何とコンサートホール!

 このリサイタルシリーズは、残念なことにこれが最終回とのことであり、ピアノは地元のピアニストではなく田村さんを招聘ということもあり、力の入れようも違うように思います。
 これまでは平日夜の開催であったため、仕事の都合で聴きに行けず、買ったチケットを何枚も無駄にしてしまいました。今回は土曜の午後の開催であり、最終回は何としても聴かせてもらわなければなりません。

 加藤さんの演奏は、4月29日にマルタケホールで開催されたリサイタルで聴いたばかりですが、残響の少ない小さなホールでの演奏でした。今回は、新潟のクラシック音楽の殿堂といえる、大きなコンサートホールです。残響豊かなホールで、どのような演奏を聴かせてくれるのか楽しみであり、予定を調整して、無事に聴きに行くことができました。

 いつものように、カメの水替え、ネコのトイレ掃除、洗濯、掃除機がけ、ゴミ出しを終え、題名のない音楽会を見ながらひと休みし、家を出ました。
 白山公園駐車場に車をとめ、上古町でいつもの冷やし中華をいただき、幸せな気分でりゅーとぴあ入りしました。周囲には、リュックを背負った親子連れがやたら多かったですが、何か催しでもあったのでしょうか。

 中に入りますと既に開場されていましたので、私も入場して2階正面に席を取りました。ステージ中央にスタインウェイ、その右横に豪華な生花が飾られ、スポットライトに照されてきれいでした。
 次第に客が増えて来ましたが、余裕十分な客席にも関わらず、グループ毎に密集・密接して着席しておられました。席の間隔を空ければいいのにと余計な心配をしていました。
 「客席内での会話はお控えください」というプラカードを持って係の人が何度も客席内を回っているのは大変良かったです。他の公演でも見習って欲しいですね。
 しかしながら、例によって、開演前も休憩時間も、客席内でおしゃべりする人がおられるというのが現実です。こういうことを書くとまたお叱りを受けると思いますが、おしゃべりはホールの外で、たっぶり楽しんでください。

 開演時間となり、ゴールド・シルバーのキラキラドレスの加藤さん、ブルーと白い“腰巻”ドレスの田村さん、そして譜メクリストが登場して演奏開始です。前半の2曲は、先日のマルタケホールでのリサイタルの前半で演奏された曲と同じです。

 1曲目は、モーツァルトの「ロンド」。この曲は、ハフナー・セレナーデの第4楽章をクライスラーが編曲したもので、「ロンド」という一見軽そうなイメージとは裏腹に、超絶技巧を駆使した内容の濃い曲です。コンチェルトを聴くかのような聴き応えある曲であり演奏でした。
 デッドな響きで直接音だけのマルタケホールとは違って、残響豊かなコンサートホールで聴く加藤さんのヴァイオリンは豊潤さを増して、美しく響いていました。コンサートホールの広い空間を我が物とし、加藤さんの凄さを一気に知らしめてくれました。

 2曲目は、シューベルトの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」です。この曲も先日聴いたばかりですが、耳に良く馴染むピアノのメロディが特徴的な第1楽章に始まり、急・緩入り混じる楽章の対比も楽しく、せめぎ合うピアノとヴァイオリンに圧倒されました。

 休憩時間の後、キラキラを取ってシックなイメージの加藤さんと“腰巻”を取ってブルーだけになった田村さんが登場。曲にあわせてのチェンジでしょうか。

 前半の1曲目は、ヒンデミットの「ヴァイオリン・ソナタ」です。2楽章からなる曲ですが、第1楽章は、ピアノとヴァイオリンが激しくせめぎ合い、第2楽章は、幽玄さ、不気味さも感じさせる静かな調べが心に迫りました。初めて聴きましたが、なかなか良い曲ですね。

 最後はメインのブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ第3番」です。第1楽章は、憂いを秘めた情熱が絡み合うようなヴァイオリンとピアノ。心の隙間に音楽が染み渡りました。
 甘いメロディが切なく心を揺り動かした第2楽章。一転して、ちょっとおどけたふりをして跳ねてみせた第3楽章。そして、第4楽章は、激しく高鳴る胸の鼓動が爆発し、ヴァイオリンとピアノがせめぎ合い、絡み合い、激しい流れとなって聴衆の心に迫り、圧倒されました。

 大きな拍手に応えて、アンコールはブラームスつながりで、「ワルツ」を静かに、情感豊かに染み入るように演奏。感動で興奮した心を鎮めるには最適なデザートでした。お馴染みのシンプルなメロディですが、演奏は重音を多用した技巧を凝らしたもので、うっとりと聴き入りました。

 鳴り止まぬ拍手に応えて、アンコール2曲目は、ブラームスの「F.A.E.ソナタ」第3楽章(スケルツォ)。最後を締めくくるに相応しい熱い演奏に、否応なく興奮させられました。これは本プロ以上に凄い演奏で、「ワルツ」で癒された心に、再び火が付けられ、否応なく興奮させられてしまいました。

 聴き応えある曲を並べた素晴らしいリサイタルでした。加藤さんの努力と実力の賜物であることは間違いないのですが、堂々とした田村さんのピアノも忘れてはなりません。
 任せておけというような安定感あるピアノで、終始加藤さんを支え、ふくよかな音で包み込んでいました。各曲の演奏開始時に、後方から優しい眼差しで加藤さんを見つめる田村さんが印象的でした。

 このリサイタル・シリーズは今回が最後ということですが、これで終わりというのはもったいないです。趣向を変えて、新たなシリーズ展開を期待したいと思います。アンコールでの興奮の演奏が、次回への布石だと信じています。

 帰り際、予期せぬことに、ピアニストのKさんに声を掛けていただきました。ありがとうございました。今後のますますのご活躍を祈念し、これからも陰ながら応援させていただきます。

 外に出ますと、白山公園は家族連れで賑わっていました。穏やかな初夏の土曜日。良い音楽を聴かせていただき、心も晴れやかです。
 

 追記:コンサート運営も素晴らしかったです。ステマネ業務をりゅーとぴあのEさんがやっておられましたし、周りのサポートも万全だった様にお見受けしました。客席内会話禁止のプラカードを持っての巡回は良かったと思います。イエローカードを提示してくれたら最高なんですけれど、さすがにやりすぎかな。

 新潟在住の実力十分な演奏家は多数おられます。このような方々の演奏を、県内最高の音響を誇るコンサートホールでもっと聴けると良いですね。
 小さなホールでの、アットホームなサロンコンサート的演奏も良いのですが、豊かな音響の中での演奏も格別です。大ホールに響き渡る演奏は、それなりの演奏技術が必要だとは思いますけれど。
 
 

(客席:2階C2-9、¥3000)