SanDo コンサート vol.121 大瀧拓哉 ピアノリサイタル
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2021年1月16日(土) 15:00 朝日酒造 エントランスホール
ピアノ: 大瀧拓哉
 

藤倉 大:エチュード第1番「フローズン・ヒート」
藤倉 大:エチュード第2番「ディーペンド・アーク」
藤倉 大:春と修羅
藤倉 大:ジュール

シルヴェストロフ:使者
シルヴェストロフ:オーラルミュージック第1番

(休憩15分)

リスト:ソナタ ロ短調

(アンコール)
シルヴェストロフ:ノスタルジア
J.S.バッハ:羊は安らかに草を食み

 毎月第3土曜日に朝日酒造本社のエントランスホールで開催されている「SanDoコンサート」ですが、2021年の最初は、「大瀧拓哉 ピアノリサイタル」です。大瀧さんは、2019年5月以来の「SanDoコンサート」登場です。

 大瀧さんは新潟県出身のピアニストとしては現在最も活躍が目覚しいのではないでしょうか。県内のほか、東京や名古屋で演奏会を開催されています。
 
 私が大瀧さんの演奏を初めて聴いたのは、2011年5月のLFJ新潟の交流ステージでのチェロの紫竹友梨さんとの演奏でしたが、個人の演奏会としては、2014年8月のリサイタルが最初です。以来ファンとなり、2018年3月の新潟セントラルフィルとのコンチェルトも記憶に新しいです。

 実は、2020年8月の新潟県民会館でのリサイタルを聴く予定にして、チケットも買って楽しみにしていたのですが、コロナ禍で中止となり、残念に思っていました。
 こんなときに今日のコンサートが開催されることを知り、今度こそはという思いもあり、長岡まで遠征して聴かせていただくことにしました。

 いつものように、分水・与板経由で長岡入りし、西側を進んで越路に向かい、快適なドライブで朝日酒造本社に到着しました。ここに来るのは、2020年9月の「SanDoコンサート」以来です。

 時刻は2時前で、しばし車内で休息し、開場待ちの列が延びたところで私も列に加わりました。片野さんから検温してもらい、当日券を買って入場しました。

 細長いエントランスホールの左手奥にスタインウェイが置かれており、調律が行われていました。椅子は間隔を空けて配置されていましたが、全くランダムな配置で、通路もなくて通り抜けるにも大変でした。私は左最前列に席を取り、調律の音を聴きながらこの原稿を書き始めましたが、開演時間が近付くにつれ、次第に客席は埋まり、かなりの集客となりました。

 開演時間となり、右奥から黒いスーツ姿の大瀧さんがマスクを着けて登場。挨拶と前半演奏する藤倉大とシルヴェストロフについて詳しく解説した後に演奏が始まりました。ピアノにタブレットを設置し、表示された楽譜を見ながらの演奏です。私は大瀧さんの右後方45度の位置で、楽譜も演奏も良く見える場所です。

 最初は藤倉大のピアノ曲が4曲続けて演奏されました。藤倉大は、現在世界的に活躍してる日本を代表する作曲家です。聞き覚えがある名前と思いましたが、昨年12月の東京交響楽団川崎定期演奏会の無料配信で管弦楽作品の「海」を聴いており、神秘的な深遠な響きを味わったことを思い出しました。

 1曲目の「エチュード第1番」は、右手が刻む激しいリズムと不協和音の連続で、音の機関銃の連射に打ちのめされました。2曲目の「エチュード第2番」は、一転してゆったりとした曲で、幽玄な響きが心に染み渡りました。
 3曲目の「春と修羅」は、もやが立ち込める深い森の中で、差し込む光に美しく輝く水滴が漂っているような光景が眼前に広がり、ピアノの音の美しさ、ホールの響きの美しさを堪能しました。
 4曲目の「ジュール」は、不協和音と乱れるリズムは、まさに現代音楽という印象です。メロディというよりピアノの響きを楽しみましたが、これはこれでいい曲だったと思います。

 続いてはシルヴェストロフが2曲演奏されました。シルヴェストロフといえば現代作曲家らしからぬ癒しの音楽で、ペルトと並んで私がはまっている作曲家で、CDもかなり集めています。
 1曲目の「使者」は、モーツァルト風と大瀧さんが解説していましたが、まさにその通りで、モーツァルトの曲をスロー再生したような印象です。心に染み入る優しさに満ちた曲に癒されました。静寂もまた音楽です。
 2曲目の「オーラルミュージック第1番」は、ピアノの蓋を閉めて演奏し、柔らかなピアノの響きとともに、ゆったりと夢幻の世界へと誘いました。シルベストロフの魅力が凝縮されたヒーリング音楽に、ストレスから解放され、脱力感を感じました。静寂の中に音が消えていき、前半が終了しました。

 後半は、大瀧さんの曲目解説があった後、リストの「ソナタ ロ短調」です。今度はタブレットなしでの演奏です。全1楽章で30分以上の大曲ですが、強靭な打鍵から生み出されるパワフルな音楽は、美しい響きに満ちており、フォルテシモでも濁りのないクリアな音楽は大瀧さんならではであり、大瀧ワールドの炸裂です。
 解説で大瀧さんが話されていましたが、この音楽に中に前半演奏した藤倉大、シルヴェストロフの音楽が垣間見えており、この曲の魅力を再発見したように思いました。

 アンコールは、タブレットを設置して、シルヴェストロフの「ノスタルジア」。リストの興奮を鎮めるには最適な音楽であり、演奏だったと思います。これぞシルヴェストロフという響きに身を委ねました。
 そしてアンコール2曲目としてバッハの「羊は安らかに草を食み」を優しく、爽やかに演奏し、感動のコンサートを締めくくりました。

 最後は恒例の大抽選会です。片野さんの軽妙な進行により、大瀧さんが箱から半券を選び、朝日山の逸品が3人に当たりましたが、私ははずれでした。

 パワフルながらも美しい響きに包まれる演奏は大瀧さんならではです。残響豊かなホールと、入念に調律されたスタインウェイが相まって、極上の音楽が届けられました。早くも今年のベストコンサートにあげるべき演奏に出会って幸せでした。
 昨年夏のコンサートを聴けなかった悔しさを吹き飛ばしてくれた快演に、大きな満足感を胸に新潟へと車を進めました。

 なお、今日のプログラムは、2月に東京、名古屋でも演奏されますが、多くの人に感動をもたらしてくれるものと確信します。また、1月23日には新潟室内合奏団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番を演奏します。これも楽しみですね。
 

(客席:最前列左、当日券:¥1200)