クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル
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2019年2月16日(土) 17:00 柏崎市文化会館アルフォーレ 大ホール
 
ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
 



ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 Op. 5

(休憩20分)

ショパン:スケルツォ 第1番 ロ短調 Op. 20

ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op. 31

ショパン:スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op. 39

ショパン:スケルツォ 第4番 ホ長調 Op. 54

(アンコール)
ショパン:4つのマズルカ Op. 24
        第14番 ト短調 Op.24-1
        第15番 ハ長調 Op.24-2
        第17番 変ロ短調 Op.24-4

 2007年7月16日に、柏崎は新潟県中越沖地震に被災しました。これを知ったツィメルマンはチャリティコンサートの開催を決めましたが、体調不良で実現できず、1年後の2008年7月に被災者を招待してコンサートを開催し、寄付金100万円を市に贈りました。
 このとき当時の市長より被災した市民会館に代わるホール建設の話を聞き、ホール開館後にはリサイタルを開催することを約束し、約束どおり2015年11月28日にリサイタルが開催されました。
 このときホールの音響の良さに感動したツィメルマンは、2016年1月21〜26日の6日間柏崎に滞在し、このホールでソロアルバムの録音を行いました。
 このとき録音されたシューベルトのピアノソナタ第20番・21番はグラモフォンから世界発売され、25年振りのソロアルバムということのほか、演奏の素晴らしさ、録音の素晴らしさで大きな話題となりました。

 ということで、ツィメルマンと柏崎、そしてアルフォーレとは密接な関係があり、今日のリサイタルの開催につながったものと思います。

 さて、ツィメルマンは度々新潟に来演しており、私はこれまで 2008年7月2010年6月2012年12月の3回新潟市でのリサイタルを聴き、そして2015年11月28日の柏崎でのリサイタルを聴いていますので、今回は5回目ということになります。

 コンサートの開催は決まったものの、曲目は未定で、つい最近までプログラムの発表はありませんでした。曲目というよりツィメルマンを聴くのが目的で、チケット発売早々に買ってしまいました。
 その後発表された演目は、前半がブラームスのピアノソナタ第3番、後半がショパンのスケルツォです。ブラームスのソナタは2012年12月のリサイタルで第2番を演奏しています。また、ショパンのスケルツォは2010年6月のリサイタルで第2番が演奏されていますが、今回は全4曲が演奏されます。

 曲目はさておき、世界最高峰のピアニストであるツィメルマンの演奏を楽しむべく、スケジュール調整して柏崎へと出かけました。途中某所で休息を取り、海岸沿いに柏崎入りしました。

 駐車場に車をとめ、早めにホールに入り、この原稿を書き始めました。新潟からの遠征組も多いようで、見覚えのある顔もチラホラ見かけました。音楽家の姿も・・。駐車場には県外ナンバーの車も見られ、県外からの客も多いようでした。

 さて、今日は今回の日本ツアー全8公演の最初の公演です。前半の3公演は、今日と同じ演目のAプロで、後半5公演はBプロで、後半は同じですが、前半はショパンの4つのマズルカとブラームスのピアノ・ソナタ第2番となっています。日本公演に先立って、ヨーロッパで同じ演目のコンサートをしており、弾き込まれてきたものと思います。

 今日の柏崎公演の次は、23日の長野公演ですが、ちょうど1週間の空きがあります。もしかしたら、前回のようにこのホールで録音でもするのかも・・・

 と、原稿を書いたところで開演時間となりました。開演のアナウンスが終わって数分の静寂ののち、待ちくたびれた頃に、おもむろにツィメルマンが楽譜を持って登場。楽譜をピアノに載せ、椅子を調整するやいなや演奏が始まりました。

 ブラームスのピアノソナタはなかなか聴く機会がありませんが、まずはクリスタルの如くクリアなピアノの響きに驚きました。いつものように自分のピアノを持ち込んだものと思いますが、入念に調律されたスタインウェイの音は美しく、そして芳醇でありながら濁りの全くないホールの響き。これらが相まって、極上のサウンドを生み出していました。改めてホールの良さを実感しました。ツィメルマンが世界の3指に入るホールと絶賛するだけはあります。

 全5楽章からなる長大な曲ですが、至福の時間でした。ダイナミックな第1楽章で圧倒され、これだけでソナタ1曲聴いたような満足感でした。ロマンティックで胸に染みるような第2楽章で涙し、第3楽章は足早に駆け抜け、第4楽章で再び叙情的な響きを聴かせ、変幻自在な第5楽章で興奮の頂点へと誘いました。
 何とも聴き応えある、胸に迫る演奏でした。強奏部では足を踏み鳴らして思いっきりピアノを響かせ、緩徐部では時折つぶやきながらの演奏。弱音部での水晶のように透明感のある音もお見事でした。
 最後の音が消え、ツィメルマンが後方に体を反らすとともに割れるような拍手。さすがツィメルマン。これぞツィメルマン。一音たりとも聴き逃さないぞという聴衆とともに、感動と興奮のソナタを創り上げました。

 後半はショパンのスケルツォです。前半同様に楽譜を持ってステージに登場。楽譜を自分でめくりながら全4曲を1曲ずつ演奏しました。
 前半同様に、強奏部では足を踏み鳴らし、歌わせどころでは自分でも歌っていました。緩急自在。ダイナミックレンジは大きく、テンポも大きく揺り動かし、十分すぎるほどの間を取って、パワー溢れる興奮と感動の音楽を聴かせてくれました。
 こんなスケルツォはこれまでに聴いたことはなく、ショパンの音楽にツィメルマンが味付けをして、生命感あふれる光り輝く音楽に昇華させ、新しい息吹きを与えました。

 大きな拍手に応えて、アンコールには4つのマズルカから3曲が演奏されました。Bプロでやるはずの曲を演奏してくれて、うれしかったです。

 いやー、もう参ったというしかありません。ピアノのリサイタルでこんなにも興奮するなんて。演奏もさることながら、こんなにも美しいピアノの音はめったには聴けません。このホールでこそ味わえた極上の響きだったと思います。録音では決して味わえない、生ならではの感動であり、この場にいることのできた幸運をかみしめました。

 大きな感動の高鳴りを胸に、交通量の少ない海岸沿いを北に向かって快適に走り、程なくして家に着きました。良い音楽が聴けて、はるばる遠征した甲斐がありました。

 まだ早いですが、当然今年のベストコンサートに挙げるべきものであり、これ以上の演奏にはなかなか出会えないものと思います。次はいつ聴けるかなあ・・。

 

(客席:1階14-14、S席:¥7000)