アレクサンドル・ギンジン ピアノ・リサイタル
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1999年11月29日  東京芸術劇場大ホール
 
ピアノ:アレクサンドル・ギンジン
 
 
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 op.13「悲愴」
シューマン:子供の情景 op.15
シューマン(リスト編曲):献呈

(休憩)

プロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット」からの10の小品 より
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第2番ニ短調 op.14

(アンコール)
チェルニー:シューベルトのワルツによる変奏曲
シューベルト(リスト編曲):わが宿
ロッシーニ(ギンズブルグ編曲):フィガロのアリアによるファンタジー
チャイコフスキー(ラフマニノフ編曲):子守歌 op.16-1
リムスキー・コルサコフ:熊蜂の飛行


 
 
 
 久しぶりの東京出張の夜です。秋葉原の安宿に荷物を置き、どう過ごそうかと悩みました。あれこれ考えた末、今日はネオンの誘惑に負けず、芸術を楽しもうということにしました。
 しかし、今夜はどこでどんな公演があるか調べて来るのを忘れました。さらに時刻はすでに18時を回っていました。確か渋谷のオーチャード・ホールで佐渡裕がバーンスタインのキャンディードをやるんじゃなかったかなあ。でも、値段が高かったはず。サントリーホールなら何かやっていそうですが、間に合わないかもしれません。近いと言えば上野の東京文化会館ですが、いいものがなければどうしよう。
 と、思案の末、池袋に行くことにしました。時間も迫っていましたので、東京芸術劇場を覗いてみて、いいコンサートがなければ、芸術はあきらめて東口方面に消えようかと考えました。

 行ってみると、幸か不幸かこのピアノ・リサイタルをやっていました。とは言っても、初めて聞く名前。弱冠22歳のロシアの期待の若手で、今年のエリザベート王妃国際コンクールで2位だったそうです。そして、これが初めての日本公演だということです。何だか良くわからないですが、懐も寂しいことですし、今日はこれでいきましょう。
 ということで、A席3000円の切符を買い、軽い気持ちでコンサートに臨みました。前半は古典派、ロマン派の作品で、後半は20世紀ロシアの作品ということでプロコフィエフが選ばれています。音楽の流れを示したかったとプログラムに書かれていました。

 ベートーヴェンの悲愴で演奏開始。席は2階席中央中段ですが、ちょっと音が響きすぎるように感じました。そして、このホールは、ピアノ独奏には大きすぎるかもしれません。
 さて、演奏はちょっと一本調子かなという印象。緊張しているのかな。好きな第2楽章も今ひとつ情感に欠けました。もっと軽いタッチで弾いてくれればいいのになあ。力が入りすぎているのかも。

 2曲目はシューマンの子供の情景。トロイメライはもっとムーディーに演奏してほしかったですけれど、だんだん調子が上がってきた様子です。
 献呈は知らない曲。短い曲で、あっさりと終わりました。前半は、音が濁らず輝きのある演奏でしたが、力が抜けず、緩徐な部分での情感の表現が今ひとつかなという感想でした。

 後半は、プロコフィエフのロメオとジュリエットからの4曲。バレエ曲を作者自身がピアノ演奏用に10曲の組曲としたものから、民衆の踊り、仮面舞踏会、モンタギュー家とキャピュレット家、マーキュシオ、別れの前のロメオとジュリエットの4曲が選ばれています。
 これはもう何とも言いようのない素晴らしい演奏でした。得意としている曲らしく、本領発揮です。力強さのなかにきらめきがあり、若さあふれる中に叙情が漂います。訳の分からない表現ですが、要するに良かったということ。弱音の美しさも感じさせてくれ、聴衆はみな息をのんでいました。オーケストラの原曲以上の魅力を感じることができました。
 ピアノ・ソナタも、初めて聴く曲でしたが、力強さと繊細さを併せ持つ演奏に引き込まれてしまいました。アンコールは5曲と大サービス。最近発売したCDに含まれている編曲物ですが、テクニックの素晴らしさを披露。
 この人は、ロシア物を得意とするようです。きっと今後注目されるに違いないです。日本最初のリサイタルを聴いたと自慢できる日が来るような予感を感じあした。ロビーで売っていた来日記念盤のロメオとジュリエットのCDを買って会場を後にしました。

 楽屋入り口でサイン会が開かれるとのことでしたが、ミーハー的なので、中年のオジサンとしては大人しく参加しないで、駅の雑踏に身を投じました。