最悪のシナリオ Part1
硬井雲子さん(55歳女性)は、若いころから便秘気味で、最近どうもおなかが張って便秘が続き、そのせいか吹き出物などもできやすく困っていました。大腸癌なども心配でしたが、健康診断でやった便の検査では陰性(注;進行癌があっても約1割は便潜血反応が陰性に出ます)だったので、便秘の解消に最近評判の腸内洗浄を行うことにしました。 厚生労働省認可の洗腸セットを買って、肛門から恐る恐るぬるま湯を入れたところ、快便。今まで溜まっていたと思われる大量の便が出て、気分すっきり。体重だって、いっぺんに3キロも減ってウエストも幾分細くなったようで、良いこと尽くめ。 毎回洗腸するのは面倒だったけど、下剤のようにおなかが痛くなったり下痢をするようなことはないし、なにしろランニングコストはタダですから、毎日の日課となりました。 しかし、実際は大腸癌が育ちつつあったのです。大腸癌のために、便が通過しづらくなり、おなかが張っていたのでした。 ある日、いつものように洗腸したところ、なかなかお湯が入っていきません。いつもより圧力を高めにして注入しているうちに、急におなかに激痛が走りました。お産のときに気を失うほど痛かったのですが、それにも増し全く身動きが取れないくらいの激しい痛み。痛みだけではなく意識も遠のいてしまいそうになり。「このままでは死んでしまう」と思った雲子さんは、救急車を呼んで大学病院の救急センターに運ばれました。 病院に運ばれた時点で、意識はなく血圧も極端に低いショック状態。外科医が呼ばれて緊急手術が行われました。 手術所見 上行結腸(大腸の奥の部分。体の右側腹部に位置し、この部分では便が水様なので完全に癌で詰まるまで症状は出にくい部位)にこぶし大の大腸癌あり。その部分で穿孔を起こし、便が腹腔全体に広がり、細菌性ショック状態。癌は腹壁まで浸潤し、肝臓や腹膜にも多数の転位巣があり、根治切除不能。ショック状態で血圧も安定せず、最小限の救命処置しか行えず、腹腔内を洗浄しシリコンドレーンを多数留置。癌のある部位より口側の腸管を体外に出し、人工肛門を造設し手術を終了した。 術後、何度も危篤状態となりましたが、元来健康でまだ若い雲子さん。どうにか集中治療室から出ることができ、食事もできるようになりました。手術の痛みも遠のき、人工肛門は不便だけど、いづれは健康な体に戻れると信じて疑わない彼女。お見舞いに来た3ヵ月後に結婚式をひかえた娘さんに「こんな時期にゴメンネ、来月には退院できるから、式には間に合うと思うわ」と明るく話す彼女に、主治医はどうやって今後の厳しい運命を説明したらよいか、頭を悩ませて眠れない毎日です。 これは、全くのフィクションだと思いますか? 外科医なら誰でも一度となく経験している現実なのです・・ 最悪のシナリオPart2も読む気がありますか? |