室内楽の愉しみ プルチネッラ三重奏団
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2024年7月6日(土) 14:00 だいしほくえつホール
プルチネッラ三重奏団
ヴァイオリン:グレブ・ニキティン、チェロ:黄原亮司、ピアノ:品田真彦
 
エルガー:愛の挨拶
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番

ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ
姜万通:鴻雁

ラフマニノフ:ヴォカリーズ
サラサーテ:カルメン幻想曲

(休憩20分)

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 作品97「大公」

(アンコール)
ピアソラ:リベルタンゴ
アイルランド民謡:ロンドンデリーの歌
 
 今週は梅雨空が続いて雨続きの毎日でしたが、今日は梅雨の中休みとなり、曇り空ながらも天候が落ち着き、過ごしやすい土曜日になりました。
 こんな今週末の新潟の最大のイベントは、新潟ジャズストリートでしょうが、このコンサートを選ばせていただきました。
 音楽を楽しむ会主催のコンサートで、東京交響楽団新潟定期演奏会でお馴染みの第1コンサートマスターのグレブ・ニキティンさん、中国出身で、2020年まで東京交響楽団フォアシュピーラーとして活躍されていたほか、ときどき新潟に来演されている黄原亮司さん、そして新潟で活躍されている品田真彦さんによるプルチネッラ三重奏団の演奏会です。
 品田さんと東響の二人が、どういう経緯でユニットを結成されたのか興味深く思い、品田さんを応援するためにも聴かせていただくことにしました。

 いつものルーチンワークを終えて、早めに家を出て、だいしほくえつホール横のコインパーキングに車をとめて、古町を散策しました。街はいつもの土曜日に比して人通りが多く、かなり賑わっており、ジャズストリートのパンフレットを持った人たちとも出会いました。
 上古町まで歩き、某所でいつもの昼食をいただこうと思ったのですが、珍しくも満席で断念しました。繁盛して何よりです。
 軽食を摂ってだいしほくえつホールに行きますと、開場時間まで15分ほどありましたが既に開場されており、そのまま入場しました。受付時に飴のサービスがあり、手作り感のあるアットホームな雰囲気が感じられました。このホールでのいつもの場所に席を取り、この原稿を書きながら開演を待ちました。

 開演時間となって場内が暗転し、3人が登場してエルガーの「愛の挨拶」で開演しました。ニキティンさんも椅子に座っての演奏です。
 柔らかなピアノにのせて、ヴァイオリンとチェロが軽やかに歌い、挨拶代わりの爽やかな演奏でホールを埋めた聴衆を和ませてくれました。
 2曲目は、ブラームスのハンガリー舞曲第5番です。激しいヴァイオリンの序奏に始まり、お馴染みのメロディーを情熱的に歌わせました。

 3人が下がって、黄原さんと品田さんが登場し、4曲目は、ショパンの「序奏とポロネーズ」です。ピアノとともに雄弁に歌うチェロの美しさにうっとりし、ポロネーズでは軽やかにリズムを刻み、華麗に舞い踊りました。
 ここで、黄原さんの挨拶と、演奏を交えながらの曲目紹介があり、5曲目は、姜万通の「鴻雁」です。モンゴルの草原の朝露が滴る朝に始まり、鴻雁が優雅に空を舞い、馬車が猛スピードで市場へと疾走し、やがて日が暮れていく。そんなモンゴルの草原の風景が眼前に、色鮮やかに浮かび上がりました。

 2人が下がって、ニキティンさんと品田さんが登場して、5曲目は、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」です。ニキティンさんは自分で椅子を片付けて、立っての演奏です。
 少し速めに感じましたが、切々としたメロディが心の琴線を刺激するようでした。美しいヴァイオリンの音色は、ニキティンさんならではと感じ入りました。
 ここでニキティンさんの挨拶がありましたが、ロシアを離れて、その後は二度とロシアに帰ることがなかったラフマニノフと日本に居てロシアに帰れない自分とを重ね合わせておられました。
 続いて6曲目は、サラサーテの「カルメン幻想曲」です。情熱的でありながらも、ヴァイオリンはあくまでも美しく、これほどまでに力強くも美しいヴァイオリンは、めったに聴けません。
 朗々と響く低音、クリスタルのように輝く高音の美しさ。これまでにこれほど美しいヴァイオリンを聴いたことがあっただろうかと自問しながら聴いていました。小さなホールの濃密な空間なればこそであったかもしれません。
 超絶技巧を駆使しているはずなのに軽々と演奏し、スピード感を増してどんどんとヒートアップし、感動を誘い、ブラボーとともに大きな拍手が贈られました。

 休憩後の後半は、メインのベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番「大公」です。場内が暗転し、3人が登場して演奏開始です。
 第1楽章は、明るいピアノで始まり、ヴァイオリンとチェロが加わって演奏が進みました。春の日差しのような爽やかで明るいメロディが流れ、心も明るくなりました。ヴァイオリン、チェロ、ピアノの三者が調和し、せめぎ合い、熟練の2人に負けることなく、品田さんは堂々と渡り合い、美しい音楽を創り出していました。
 第2楽章は、チェロに始まり、ヴァイオリン、ピアノが加わって軽やかに演奏が進みました。急-緩を繰り返し、熱を帯びながら伸びやかに歌いました。
 第3楽章は、ピアノがしっとりと歌い、ヴァイオリンとチェロが優しく加わり、ゆったりとした音楽にうっとりと聴き入りました。
 連続して第4楽章へ。歩みを速めて、軽やかな中にも力強く、熱量を上げて前進し、感動のフィナーレへと突き進みました。
 この文章は、若い頃から聴きなじんでいる名盤として知られるスークトリオの演奏を聴きながら書いていますが、その演奏を凌駕し、この曲の魅力を余すことなく知らしめてくれたように思います。

 大きな拍手が贈られて、品田さんの挨拶がありました。緊張した話し振りでしたが、音楽を楽しむ会から出演の依頼を受けて、ニキティンさん、黄原さんという素晴らしい演奏家との共演はプレッシャーで大変だったと語られておられました。
 そのプレッシャーを力に替えて、実力を遺憾なく発揮され、素晴らしい演奏を聴かせてくれた我らが品田さんに大きな拍手を贈りたいと思います。

 アンコールに、ピアソラの「リベルタンゴ」が演奏されました。ピアノの激しいタンゴのリズムにヴァイオリンが加わってリズムを刻み、チェロがメロディを歌わせました。その後もピアノは情熱的にリズムを刻み続け、ヴァイオリンとチェロが熱くメロディを奏で、燃え上がる演奏でホールに興奮をもたらしました。
 そして、その興奮を鎮めるために、アンコールの2曲目に「ロンドンデリーの歌」が、しっとりと演奏され、感動のコンサートを締めくくりました。

 前半は、品田さんのピアノとともに黄原さん、ニキティンさんの魅力を知らしめてくれたプログラムで、後半はピアノ三重奏曲の名曲を渾身の演奏で楽しませてくれました。
 はじめは名曲コンサートくらいに考えていましたが、内容の濃いプログラムで、お腹いっぱいに楽しむことが出来ました。
 正直言えば、当初は4000円のチケットは高いと思って、最近までチケットを買うのをためらっていたのですが、値段以上の内容に大満足でした。このようなコンサートを企画してくれた音楽を楽しむ会の皆さんにも感謝したいと思います。
 
 
(客席:G-6、¥4000)