新潟大学管弦楽団第45回サマーコンサート
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2024年7月6日(土) 14:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:阿部未来
 
(ロビーコンサート)
弦楽五重奏
 チャイコフスキー:弦楽セレナーデ より 第2楽章
トロンボーン四重奏
 花は咲く


ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲
ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より 「韃靼人の踊り」

(休憩20分)

カリンニコフ:交響曲第1番 ト短調

(アンコール)
チャイコフスキー:「眠れる森の美女」より 薔薇のアダージョ
 今日は新潟大学管弦楽団のサマーコンサートです。昨年7月の第44回サマーコンサートに引き続いて、今年も聴かせていただくことにしました。
 サマーコンサートしては1年ぶりですが、新潟大学管弦楽団としては昨年暮れの第60回定期演奏会以来7ヶ月ぶりとなります。
 新潟大学管弦楽団は、私が新大に入学したときの入学式での式典演奏の「マイスタージンガー前奏曲」を聴いて以来のお付き合いですので、聴き始めて半世紀近くにもなります。
 この間に何回演奏会を聴いたか数えられませんが、毎年団員が入れ替わるのが学生オケの宿命ですので、毎回新しいオケとも言えて、新鮮な気分で聴かせていただいております。
 今回の指揮者は、お馴染みの河地先生ではなく、阿部未来さんです。阿部さんは、今回始めて聴かせていただきます。1985年生まれですので、まだ30歳代でいらっしゃいますが、国内の各オーケストラに客演を重ねておられます。今日はどのような演奏を聴かせてくれますでしょうか。
 曲目は、前半に名曲どころの「タンホイザー序曲」と「韃靼人の踊り」の2曲が演奏されますが、後半のカリンニコフの交響曲第1番が注目されます。隠れた名曲ながらもプロオケは取り上げてくれませんので、このような機会は貴重です。このオケとしましては、2015年7月の第36回サマーコンサート以来になります。ということで、曲目にも魅力があり楽しみにしていました。

 梅雨空の土曜日。今にも雨が降りだしそうな中に、りゅーとぴあへと車を進めました。白山公園駐車場に車をとめて、県民会館で某演奏会のチケットを買い、りゅーとぴあ入りしました。
 ちょうど開場の列ができ始めたところでしたので、その列に私も並んで、開場とともに入場し、いつもの2階正面に席を取りました。
 配布されたプログラムには、演奏曲目毎の出演メンバーと並び順が表示された紙が挟み込まれていましたが、これは良いことであり、他のオケも見習ってほしいですね。
 メンバー表を見ますと、コンミスと一部奏者以外は曲毎に大きく入れ替わっていて、全員参加のこのオケの伝統が守られているようです。選抜された限られたメンバーだけで最良の演奏を目指すのでなく、学生時代の思い出として全員ステージに立って演奏するというのは素晴らしいことだと思います。

 開場開始後すぐにロビーコンサートが始まりましたので、急いでロビーに移動して演奏を聴きました。弦楽五重奏でのチャイコフスキーの弦楽セレナーデを美しいアンサンブルで楽しませていただき、トロンボーン四重奏での「花は咲く」のふっくらと柔らかなサウンドにうっとりとしました。2曲とも素晴らし演奏であり、日々練習を重ねている学生たちの頑張りが伝わってきました。

 客席に戻り、この原稿を書きながら開演を待ちました。客の入りとしましてはいつも程度でしょうか。学生オケの演奏会ですので、客席の平均年齢もいつものコンサートよりかなり若いですね。
 この若者たちが東響新潟定期にも来てくれたらなあと思ったりしますが、学生さんたちは卒業すると新潟から出て行く人がほとんどなんだろうなと思い巡らし、人口流出が続き、急速に人口減が進む新潟の現実を思い巡らしました。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。最後にコンミスが登場してチューニングとなりました。オケの配置は通常型で、弦5部は 11-11-7-8-7 と変則的です。
 指揮者の阿部さんが登場して、1曲目は、ワーグナーの「タンホイザー序曲」です。ホルンの柔らかな合奏でスタートし、ヴィオラとチェロが加わって演奏が始まりました。中間部も美しくまとめ、エネルギーを増して、タンバリン、トライアングル、シンバルが鳴り響き、最初のテーマが回帰され、壮大にメロディを奏で、熱くて厚いアンサンブルとともに、感動のフィナーレへとエネルギーを高めました。
 挨拶代わりの1曲目ではありましたが、鮮やかな演奏に感動をいただき、今日の演奏会の成功が確信されました。

 団員が全員下がって、団員の入れ替わりがあり、弦の編成は 12-11-12-8-7 となりました。やはりアンバランスな編成で、ヴィオラの増強が目立ちました。
 2曲目はボロディンの「韃靼人の踊り」です。冒頭は、ハープとともにオーボエが美しく歌い、お馴染みのメロディにうっとりし、クラリネット、ピッコロが歌って、タンバリンとともにエネルギーを増して壮大に音楽を奏で、そして強靭な打楽器の連打とともに力強く歌い上げました。ひと呼吸置いて、駆け足を始め、ヴィオラが力強くリズムを刻み、ヴィオラを増強した意味を感じました。
 最初のメロディに戻り、そしてどんどんとスピードアップし、エネルギーを増して、壮大なフィナーレを向かえ、オーケストラを聴く醍醐味を、まざまざと知らしめてくれました。
 見事な演奏であり、これまで聴いてきたこのオケの演奏の中でも、最良の演奏ではないかと思われ、大きな満足感をいただき、前半の演奏が終わりました。

 休憩後の後半はカリンニコフの交響曲第1番です。前半同様に拍手の中に団員が入場し、最後にコンミスが入場してチューニングとなりました。オケは増員されて、弦5部は 14-13-9-10-7 です。
 第1楽章は、哀愁漂うメロディでスタートしました。耳なじみの良い旋律を雄弁に歌わせてましたが、緊張感を失うことがありません。引き締まった演奏であり、この曲の魅力を、一気に知らしめてくれるような、見事な演奏でした。
 第2楽章は、ハープとともに第1ヴァイオリンがしっとりと歌い、美しい弦楽アンサンブルとなって曲が始まりました。オーボエをはじめ、各パートとも美しく歌い上げ、再びハープとヴァイオリンが静かに歌い、楽章を閉じました。
 第3楽章は、快活に、力強く、歯切れ良く歌い、中間部ではオーボエの哀愁に満ちた演奏が際立ち、再び力強くリズムを刻み、高らかに歌い上げて、スカット爽やかに演奏を終えました。
 第4楽章は、第1楽章のメロディが奏でられた後は、スピード感たっぷりに演奏が進み、管のパフォーマンスに魅了され、滑らかな弦のアンサンブルに酔いしれました。パワーと躍動感がいっぱいで、心はウキウキ・ズキズキ・ワクワク。ストレスで沈んだ心を明るくさせて、しぼむばかりの老体にエネルギーが注入されるかのようでした。
 圧倒的な演奏に、ブラボーと大きな拍手が贈られて、見事な演奏を讃えました。阿部さんの渾身の指揮に見事に応えた学生たちのパフォーマンスに圧倒され、私も力の限りに拍手を続けました。
 どこを探しても欠点など見つからず、これまでの新潟大学管弦楽団の長い歴史の中でも、屈指の、いや最高の名演奏ではなかったでしょうか。

 大きな拍手に応えてカーテンコールが繰り返され、指揮者とコンミスに花束が贈られました。その間に団員が増員され、アンコールにチャイコフスキーの「眠りの森の美女」からの「薔薇のアダージョ」が演奏されました。客演のハープ奏者に敬意を示して選曲したものと推測しますが、これも見事な演奏でした。美しくも迫力あるオーケストラサウンドに身を委ねました。

 前半も後半も、そしてアンコールも含めて、文句の付けようもない素晴らしい演奏でした。これまでの演奏会では、曲毎にメンバーが大きく入れ替わることもあって、曲によって出来・不出来の差があったりすることがありましたが、今日はどの曲も良い演奏であり、今年のオケの水準の高さを実感しました。コロナ禍から明けて、十分な演奏が積まれていること、そして、指揮者の阿部さんの指導、曲作りがあってのことと思われますが、学生たちの渾身の演奏にブラボーを贈りたいと思います。
 アマチュアですので、演奏技術ではプロとは一線を隔すわけですが、プロの演奏でもめったに味わえない高揚感と感動をいただきました。若者たちの真摯に音楽に向き合う努力とパワーのなせる業でしょう。もちろん、今年のベストコンサート候補に上げたいと思います

 若者たちからエネルギーを注入され、充電切れの赤いランプが付いた私の身体にパワーをいただくことができました。
 素晴らしい演奏を聴いた大きな満足感を胸に外に出ますと、小雨が降っていましたが、気分は晴れやかです。束の間の幸福感を胸に抱きながら、ストレスが待つ現実世界へと身を投じました。
 
 
(客席:2階C5-11、¥700)