仲道郁代ピアノ・リサイタル
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2018年10月20日(土) 14:00  長岡リリック コンサートホール
 
ピアノ:仲道郁代
 
〜いつもあなたとショパン〜 スタインウェイとプレイエル

第1部
 バラード 第3番 変イ長調 op.47 (S、P)

 ワルツ 第7番 嬰ハ短調 op.64-2 (P、S)

 (ピアノの説明)

 ノクターン 第20番 嬰ハ短調 (P)
 バラード 第4番 ヘ短調 op.52 (P)

 (休憩15分)

第2部
 24の前奏曲 op.28 より  (P)
 第1番 ハ長調
 第2番 イ短調
 第3番 ト長調
 第4番 ホ短調
 第7番 イ長調
 第13番 嬰ヘ短調
 第15番 変ニ長調 「雨だれ」
 第20番 ハ短調

 12の練習曲 op.10 第12番 ハ短調 「革命」 (P)
 12の練習曲 op.10 第3番 ホ長調 )別れの曲」 (P)

 ノクターン 第20番 嬰ハ短調 (S)
 バラード 第1番 ト短調 op.23 (S)

(アンコール)
 ワルツ 第6番 変ニ長調 op.64-1 「子犬のワルツ」 (S,P,S,P,S,P)
 エルガー:愛の挨拶 (P)

 秋も深まり、平地でも紅葉が始まり、白鳥の姿も目につくようになりました。今日は長岡まで遠征して、仲道さんのコンサートに出かけました。

 長岡では毎年仲道さんのコンサートが開催されでおり、仲道さんの大ファンである私は、何度か聴かせていただいてきましたが、今年も昨年に引き続いて出かけることにしました。今回の演目はオール・ショパンですが、スタインウェイとブレイエルのピアノの聴き比べというのが楽しみでした。

 ぐずついた天気のなか、いつものように分水・与板経由で快適に長岡に到着。予想以上に早く着き、開場30分前に会場入りしました。ラウンジでチラシ集めをし、この原稿を書きながら開場を待ち、開場とともに入場しました。
 通常前方の席は取らないのですが、今回は仲道さんですので視覚も重視。チケット発売早々に、前方正面の席を確保していました。客席はサイド席を含めて埋まっており、人気のほどが伺えます。

 ステージ上にはピアノが2台。手前にプレイエル、奥にスタインウェイです。今日のコンサートの目玉といえるプレイエル・ピアノは、ショパンが存命中の1842年製で、仲道さんが所蔵のものだそうです。鍵盤は80鍵で、ピッチは430Hzだそうです。

 開演時間となり、ブルーのドレスの仲道さんが登場し、以後仲道さんのトークを交えながら演奏が進められました。繊細なプレイエル・ピアノということで、照明は暗くされ、小さな音量に耳が慣れるようにとマイクの音量も控えめにされました。演奏曲目、曲順は当初よりかなり変更され、配布されたプログラム冊子に変更されたプログラム表が挟み込まれていました。

 最初は「バラード第3番」です。スタインウェイで弾いた後、プレイエルでも再度弾いて音色の違いを示してくれました。続く「ワルツ第7番」はプレイエルで弾いた後にスタインウェイで弾きました。
 聴きなれたスタインウェイに比してプレイエルは音量は小さく、繊細であり、セピア色とでも言いましょうか、ちょっと渋めの、柔らかな音色でした。ショパンはこのピアノを好み、このピアノで作曲したことを思いますと味わいもまた格別です。

 ここで、プレイエルを調律したユーロピアノの調律師とスタインウェイを調律した松尾楽器の調律師がステージに呼ばれて、各ピアノについての解説がありました。ハンマーの違い、弦の張り方や張力の違い、これに伴うピッチの違いなど、興味深く聞かせていただきました。

 続いてはプレイエルで「ノクターン第20番」と「バラード第4番」が演奏され、仲道さんの繊細かつダイナミックな演奏と相まって、ピアノの魅力を知ることができました。

 休憩後は、仲道さんは美しいクリーム色のドレスに衣裳換えして登場。一段とエレガントさが際立ちます。まずは、「24の前奏曲」から8曲が、プレイエルを使用して続けて演奏されました。続いて「革命」と「別れの曲」がプレイエルで演奏され、うっとりと聴き入りました。
 そして、前半でプレイエルで演奏した「ノクターン第20番」をスタインウェイで再び切々と演奏し、「バラード第1番」をスタインウェイで迫力いっぱいに演奏して予定されたプログラムを締めくくりました。
 やはりスタインウェイはパワーが違いますね。プレイエルの繊細な音に慣れた後でしたので、ダイナミックレンジの大きさとパワーに圧倒されました。

 大きな拍手に応えて、アンコール1曲目は「子犬のワルツ」。スタインウェイとプレイエルを行ったり来たり、交互に演奏してホールを沸かせて楽しませてくれました。
 そして最後は、仲道さんのコンサートの定番である「愛の挨拶」。どっちのピアノで弾くのが良いのか客席に尋ね、挙手が多かったプレイエルで優しく演奏して終演となりました。

 現代ピアノの代表であるスタインウェイとショパンが愛したプレイエル。それぞれの魅力を感じましたが、仲道さん所蔵の貴重なピアノを聴くことができて良かったです。おそらくは、もう二度とこのピアノを聴く機会はないかも知れず、長岡遠征した甲斐がありました。ちなみに、個人的にはプレイエルの歴史的価値は別にして、聴き慣れたスタインウェイの音色が好きです。

 同じ曲でもプレイエルで弾くとスタインウェイより演奏が速くなるそうです。前半に「ワルツ第7番」をプレイエルとスタインウェイで続けて演奏しましたが、マネージャーの計測で、短い曲ながらも演奏時間が15秒違ったそうです。スタインウェイは音の持続が長い分だけ、同じに演奏したつもりでも自然に長くなってしまうんだそうですが、これは面白いですね。

 二つのピアノの違いが興味深かくて楽しめましたが、もちろん仲道さんの演奏の素晴らしさはいうまでもありません。いつものようにつぶやきながらの演奏。キュートな容姿からは想像できない力強い音楽で圧倒したかと思うと、繊細で胸に染み入るような音楽で泣かせてくれます。演奏の終わりには後方にのけぞるような仕草。ひとつひとつの所作がチャーミングであり、視覚的にも楽しませていただきました。暦の年齢を超越した美しさに見とれるばかり。トークも楽しく、演奏もヴィジュアルも全てが一級品。大いに満足したコンサートでした。

 来春、長岡でN響との共演が予定されています。是非とも聴きたいところですが、金曜日の開催であり行けそうもありません。その前に来月24日、新潟市でのリサイタルがあり、それには行きたいと思い、既にチケットは買ってあるのですが、仕事関連の予定もあって過密スケジュールが予想され、どうなるか悩ましいところです。

 ホールを出ると黒い雲が空を覆い、雨が降り出しました。空は暗いですが、良い音楽を聴いて心は明るく晴れています。気分も軽やかに、暗黒の雲から逃れるように、明るさのある北に向けて農道を走り抜けました。
 

(客席:3-13、¥3000)