長岡市立劇場開館50周年を記念して、昨年まで第10代東京藝術大学長を務めていた澤和樹さんのプロデュースによる、葉加瀬太郎さんを迎えてのコンサートです。
葉加瀬さんは、高校2年生から澤さんの指導を受け、東京藝大入学後も澤さんが担当教授だったとのことです。その後葉加瀬さんはクラシック音楽とは別の道に進まれて、現在に至っておられますが、葉加瀬さんは、昨年から東京藝大の客員教授を務めているそうです。その葉加瀬さんと澤さんという、ジャンルを越えての師弟共演というのが注目されます。
澤さんは澤クヮルテットを主宰され、1991年の澤クヮルテットのデビュー以降、メンバーに長岡市出身の大関博明さんがいる関係もあって、毎年長岡リリックホールをホームグランドとして演奏会を続けておられます。
そんな澤さんの長岡市との深い関係から、今回の夢のような師弟共演による長岡市立劇場開館50周年記念演奏会が実現できたものと思います。
葉加瀬さんは、音楽のジャンルを超えて、日本で一番人気のあるヴァイオリニストであることは間違いありません。私も新潟市での演奏会を何度か聴かせてもらっていますが、その楽しさは、音楽をジャンル分けすることの無意味さを実感させてくれました。
毎回チケットは即完売という大人気で超多忙な葉加瀬さんを長岡に引っ張り出せたのは、澤さんの力のなせる業でしょう。
おそらくは現在放送中の大河ドラマの題名をまねてのことと思いますが、「どうする太郎」というキャッチーで奇抜なネーミングは、最初は何のことか理解できませんでした。
しかし、太郎とは葉加瀬太郎のことだということを知り、これは行かねばという思いが募り、チケット発売早々にネット購入しました。その後すぐにチケットは完売となり、手に入れることができて良かったです。
葉加瀬さんと葉加瀬さんファミリー、澤先生と澤クヮルテットのメンバー、そして東京藝大関係者による米百俵アンサンブルの皆さんが、どんな演奏を聴かせてくれるのか期待したいと思います。
梅雨の中休みで、昨日から天候は落ち着いてはいますが、雲が多くてすっきりしない日曜日になりました。家を早めに出て、長岡市内の某所で休憩と昼食をとり、13時頃に駐車場入りしました。
ホールに入り、ぶらぶらと過ごすうちに開場時間となり、開場とともに入場し、奥のロビーでこの原稿を書きながら時間をつぶしました。
開演10分前に係員に促されて席に着きましたが、ステージ奥にピアノが置かれており、その手前に弦楽アンサンブル用の椅子が並べられていました。左手には生花が飾られ、50周年の祝祭気分を醸し出していました。
ステージ後方の壁にはスクリーンが設置されており、「どうする太郎」というタイトルと葉加瀬太郎さんと澤和樹さんの写真が映し出されていました。チケット完売だけあって、満席のホールは熱気で満ちていました。
開演時間となり、弦楽アンサンブルのメンバーとピアノの榊原さんが入場しました。弦楽アンサンブルの中には澤クヮルテットのメンバーやチェロの柏木さんも加わっておられました。女性メンバーは華やかなドレス姿で、目に鮮やかでした。
チューニングが行われているうちに、いつの間にか演奏に変わり、葉加瀬さんが登場して「エトピリカ」の演奏が始まりました。葉加瀬さんの名曲ですが、アンサンブルをバックにして、一段と美しく感じました。終盤になって、澤さんが右手からヴァイオリンを弾きながら登場して、師弟二人の二重奏となって盛り上げました。
ここで司会進行の箭内道彦さんが登場しましたが、藝大の美術学部の教授をされているそうです。出演者の紹介のほか、箭内さんと葉加瀬さん、澤さんの楽しいトークががあり、二人の出会いとその関係など、面白おかしく聞かせてくれました。葉加瀬さんは藝大に入学して半年で澤さんのレッスンに出なくなったそうで、その罪滅ぼしでこのコンサートに出演することにしたと冗談交じりに話しておられました。
続いては、バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」が弦楽アンサンブルをバックに、二人の独奏で演奏されました。師弟それぞれの魅力が示されたほのぼのとした演奏でした。
そして、続いては同じバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」をジャズセッションでグラッペリが演奏したものを葉加瀬さんが楽譜に起こしたというジャズバージョンの「Swingin’
Bach」です。
クラシック界の重鎮の澤さんや澤クワルテットのメンバーにとってはジャズは初心者ということで、初心者マークや高齢者マークを提示して客席を笑わせました。
演奏は楽しいもので、葉加瀬さんはお得意でしょうが、澤さんもスウィングして、ノリノリの演奏を披露してくれました。
続いて、葉加瀬さんと澤さんの関係を紐解く趣向として、葉加瀬さんの若い頃の写真などがスクリーンに投影されて楽しませてくれました。
次は、葉加瀬さんの独奏で、弦楽アンサンブルを澤さんが指揮して、クライスラーの「前奏曲とアレグロ」が演奏されました。葉加瀬さんの緊張感ある演奏が素晴らしく、バックのアンサンブルも編曲が良くて聴き応えがありました。
続いて、ピアノとギターが加わって、葉加瀬さんの「冷静と情熱のあいだ」を、しっとりと、内に秘めた情熱を感じさせながら演奏し、青白い炎のような感動を誘いました。これもいい曲ですね。
休憩後の後半は、ブラームスの弦楽六重奏曲で開演しました。メンバーは、ヴァイオリンが葉加瀬さん、大関さん(澤クヮルテット:長岡出身)、ヴィオラが澤さん、市坪さん(澤クヮルテット)、チェロが林さん(澤クヮルテット)、柏木さんの6人です。重厚で、切々と訴えるようなこの曲の魅力をしっかりと伝えてくれました。
ここで、長岡を本拠地として長らく活動してきた澤クヮルテットの紹介がされたほか、澤さんの歴史がスライドを映しながら紹介され、3人による対談で楽しませてくれました。昨年東京藝大の奏楽堂で「お帰り太郎」というコンサートが開かれて、澤さんと葉加瀬さんが共演したことなど、楽しく聴かせていただきました。その間にステージ転換されて、ピアノが前方に移動されました。
続いては、榊原さんのピアノと葉加瀬さん、澤さんにより、「ロンドンデリーの歌」と「花は咲く」がしっとりと情感豊かに演奏され、感動を誘いました。
ここで、コロナ禍で大学の活動や演奏活動が行えなかったときに、澤さんが作ったビデオ(G線上のアリアを演奏)が上演され、コロナ初期の暗い時代を思い出させました。
3人の対談の間にステージ転換され、ピアノが後方に移動し、アンサンブルの演奏席が並べられ、メンバーが全員が静かに入場しました。
そして、葉加瀬さんの独奏、澤さんの指揮により、「リベルタンゴ」が演奏され、最後は葉加瀬さんを代表する曲の「情熱大陸」を葉加瀬さんのほかに澤さんも一緒に演奏し、大きく盛り上がる中に予定のプログラムは終演となりました。
拍手に応えて、アンコールは、葉加瀬さんの独奏、澤さんの指揮で「ひまわり」が演奏され、感動の中に演奏会は終演となりました。
葉加瀬さんと澤さんは出ずっぱりで、大変ご苦労様でした。葉加瀬さんが通常のコンサートでは演奏しない曲ばかりで、葉加瀬さんのオリジナル曲は、アンコールを含めて4曲のみでした。それも通常とは違った編曲でしたので、葉加瀬さんは大変だったことと思います。
昨日に長岡入りして4時間のリハーサルを行い、今日も全曲通してのリハーサルを行って本番に臨まれたそうです。澤さんからの依頼でなければ受けなかった仕事だと話されていましたが、師弟関係があってのことだと思います。
出演者や演奏曲目もあって、通常の葉加瀬太郎さんのコンサートと比べれば、大変大人しく、上品なコンサートでしたが、満員の聴衆は大きな感動を得られたものと思います。
葉加瀬さんは、長岡での演奏は今回が初めてだったそうです。9月12日には新潟県民会館でのコンサートが予定されており、そのときは今日とは違って、熱狂的なものとなろうと思います。
どういうジャンルでも、葉加瀬さんは葉加瀬さんであり、その場、その環境で、最善の演奏を聴かせてくれて、やはり最高の演奏者であり、エンターテイナーだと思います。
そして、驚くべきは澤さんです。東京藝大の前学長とは思えないほどの芸達者振りを披露してくれて、長岡の観客を楽しませてくれました。さすがですね。
大きな感動と満足感をいただいて、新潟へと帰路に着きました。天候は回復し、西日がまぶしく感じられました。
(客席: 31-14、A席:¥5000) |