今日は2022年度のシーズン最後の東京交響楽団新潟定期演奏会です。1999年4月に始まった東京交響楽団新潟定期演奏会は、今回が130回目となります。私は初回からの定期会員ですので、私も東響とともに歩み、年齢を積み重ねてきました。切れの良い数字を前にして、感慨にふけってしまいました。
今回の演奏会は、昨日午後にミューザ川崎シンフォニーホールで開催され、ニコ響で生配信もされた名曲全集第185回と同じプログラムです。
指揮は、マカオ生まれで香港フィルの常任指揮者を務めるリオ・クオクマン、共演するヴァイオリニストは、2018年のロン=ティボー国際音楽コンクール第2位&最優秀協奏曲賞を受賞、2019年のチャイコフスキー国際コンクール第4位という経歴を誇る金川真弓さんです。どちらもこれまで演奏に接する機会はなく、今回が初めてになります。
前半はこの二人が共演するコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲です。私が好きな曲ですが、東響新潟定期では2004年12月の第29回新潟定期演奏会(指揮:秋山和慶、ヴァイオリン:五明佳廉)以来、18年振りで2回目となります。
後半は、R.シュトラウスの「ばらの騎士」組曲とラヴェルのラ・ヴァルスです。「ばらの騎士」組曲は今回が新潟定期初であり、ラ・ヴァルスは、2016年3月の第94回新潟定期演奏会(指揮:飯森範親)以来、7年振り2回目となります。二人の作曲家によるワルツを楽しませていただくことにしましょう。
なお、東京交響楽団は、コンサートマスターを10年間務めた水谷 晃さんのほか、オーボエ主席の荒木奏美さん、ホルン主席の大野雄太さん、同じくホルン主席のジョナサン・ハミルさん、そしてハープ主席の景山梨乃さんの5人が一気に退団されます。既に最後の出演を終えられたメンバーもおられますが、今日が最後のメンバーもおられます。
それぞれに事情があってのこととは思いますが、各パートの主要メンバーが一気に退団というのは残念です。全くの偶然だそうですが、寂しいですね。別れを惜しみたいと思います。
さて、昨日は気温は低めながらも天候は良かったですが、今日は朝から雨模様で、心もジメジメするような日曜日になりました。我が家の暴君のご機嫌もよくなく、心も暗くなる日曜日になりました。
今日は13時から、新潟定期の日恒例のロビーコンサートがあり、今日の演目にちなんでかコルンゴルトの弦楽六重奏曲が演奏されたのですが、心身の疲労が蓄積しており、夕方の定期に備えて休養することにしました。元気なら新潟サクソフォーン協会第28回定期演奏会にもはしごして3連ちゃんするところなのですが、今やそんな体力も気力もありません。
こんな日曜日ですが、各地でこれでもかというくらいにたくさんのコンサートが開催されています。新潟市では、りゅーとぴあ、県民会館、音楽文化会館、だいしほくえつホールなど、ホールはフル稼働。ビッグスワンではアルビの試合、新潟市陸上競技場ではラグビーの試合と、イベントだらけの日曜日です。
ゆっくりと昼食を摂り、雑務をこなして、おもむろに雨降る中にりゅーとぴあへと向かいました。ただでさえストレスがたまって憂鬱なのに、天気が悪いと気分は落ち込むばかりです。
駐車場に車をとめ、急ぎ足でりゅーとぴあへと向かいました。白山公園の桜は雨に濡れていましたが、昨日よりつぼみは膨らんでいるようで、開花した木も数を増していました。
ホールに入りますと、程なくして開場時間となり、早めに入場して、この原稿を書き始めました。しばらくして、ステージに榎本さんが登場。楽団長の廣岡さんを紹介し、2人による軽妙なプレトークが始まりました。廣岡さんは、長らくアシスタントコンサートマスターを務められていましたので、すっかりお馴染みですが、お話を聞くのは今回が初めてでした。今日のプログラムを楽しく、分かりやすく解説してくれました。
その後ステージではコントラバス、打楽器、ハープなどが音出しを始め、気分を盛り上げてくれました。開演のチャイムが鳴って、団員がステージから下がりました。
今日の客の入りは良いとは言えず、いつもより空席が目立ちました。ちょっと寂しさを感じましたが、集客しにくいプログラムも一因があったかもしれません。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場し、最後にニキティンさんが登場して、一段と大きな拍手が贈られました。次席は田尻さんで、団員は全員マスクなしでした。
オケのサイズは14型で、対向配置ではない通常の並びです。弦5部は 14-12-10-8-6で、左端にヴィブラフォンとチェレスタ、ハープが設置されていました。
オーボエの荒木さんはおられず、荒さんでした。今日でお別れのホルンのハミルさん、ハープの景山さんのお姿はありました。
金川さんとクオクマンさんが登場して、コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲です。金川さんは、髪を後ろで束ね、左肩を露出し、スリットが入ってちょっとセクシーなダークグレーのドレス姿が麗しかったです。
演奏が始まるとともに、音量豊かに艶やかに響くヴァイオリンの美しさに感嘆しました。ウィーンで活躍した後、アメリカに移住し、ハリウッドの映画音楽で活躍したコルンゴルトらしく、いかにも映画音楽というような甘く切ないメロディとうねるようなオーケストラの響きが心地良く感じられました。
長身でスリムなクオクマンさんは、全身を使って指揮をして、寄せては返す並みの如く揺れ動く魅惑の音楽を作り上げました。
第2楽章の繊細な響き、高音の美しさに酔いしれ、心に染み渡る音楽に身を委ねました。ギアチェンジして第3楽章へ。次第に熱を帯び、パワーを増して行きました。チェレスタが良い味付けになり、ハリーポッターの音楽のよう。大きな音楽のうねりは勢いを増して頂点へと駆け上がり、ホルンが咆哮して感動のフィナーレを迎えました。
金川さんとクオクマンさんは、1945年の作品ながらも美しいメロディと妖艶な響きが心に迫り、感情移入しやすいこの曲の魅力を、見事に示現してくれました。
馴染みやすいオーケストラの響きは、現在で言えば、まさにジョン・ウィリアムズ的サウンドであり、コルンゴルトがいなければジョン・ウィリアムズもいなかったんだろうなあ、などと思い巡らしました。
金川さんの音量豊かで艶やかさも感じさせるヴァイオリンの素晴らしさ、クオクマンさん率いる東響のゴージャスなサウンド。これらが三位一体になり、感動の音楽へと昇華しました。
大きな拍手に応えて、金川さんから「アフリカ系アメリカ人の霊歌、Deep River」と紹介があって、アンコールが演奏されました。美しくホール中に響き渡るヴァイオリン。重音の美しさに息を呑みました。
休憩時間を終えて、拍手の中に団員が入場。後半はR.シュトラウスの「ばらの騎士」組曲です。ハープは2台になりました。指揮台には譜面台はなく、クオクマンさんは暗譜での指揮でした。
ホルンのファンファーレで演奏が開始され、迫力のオーケストラサウンドとともに音楽劇が始まりました。いかにもR.シュトラウスというような壮大な音楽世界が眼前に広がりました。
オペラの物語が25分ほどの音楽にまとめられ、各曲は切れ目なく演奏されました。オケの各セクションとも渾身の演奏であり、管楽器の素晴らしさ、そして、ビロードのように美しく、潤いのある弦楽アンサンブルにうっとりとしました。
ウィンナワルツのような美しいワルツが、次第に熱を帯び、力強くゴージャスなサウンドへと変身しました。壮大な交響詩を聴くかのように、色彩感にあふれ、大きなうねりとともに押し寄せました。賑やかなワルツがおどろおどろしく響き渡り、壮大なコーダとともにフィナーレを締めくくりました。
素晴らしい演奏に圧倒され、分かりやすい音楽は気分爽快です。大きな感動をホールにもたらし、割れんばかりの拍手が贈られました。
そして最後は、ラヴェルのラ・ヴァルスです。コントラバスの不気味な響きに始まり、ハープが加わって、美しいワルツの世界が始まったかと思いましたが、ほんの束の間のこと。すぐに激しさを増し、賑やかなサウンドに変身しました。
これまでこの曲に感じていた美しさは排除され、豊潤でパワーに溢れる、総天然色のオーケストラサウンドがホールを満たし、音の洪水に溺れそうになりながら、音楽に酔いしれました。
一糸乱れぬオーケストラ。演奏は完璧といってよいでしょう。全身を駆使して、力強く指揮するクオクマンさんに呼応して、見事なサウンドが作り出されました。
管楽器の素晴らしさ、ホルン軍団の素晴らしさ、7人の打楽器奏者の素晴らしさ。そして乱れることなく、美しい響きで魅了した弦楽アンサンブル。東響の底力を見せ付けられたように思います。
音楽としての出来がどうなのかは私にはわかりませんが、音響としてのオーケストラサウンドに圧倒され、その迫力の前にひれ伏すのみでした。
オーケストラを聴いたぞ、という満足感を感じ、理屈ぬきに楽しむことができ、音楽を聴く喜びを感じて恍惚感に浸りました。
クオクマンさん恐るべし。東響恐るべし。感動と興奮で高鳴る胸とともに、力の限りに拍手して、健闘を讃えました。
プログラム的にはボリュームは少なく、早い時間に終演となりましたが、音楽は濃密であり、感動の量としてはお腹いっぱいでした。こういう分かりやすい音楽、分かりやすい演奏は、私は大好きです。
終演後は金川さんのサイン会が開催されましたが、ホールを後にして、冷たい雨が降る中、駐車場へと急ぎました。
天気は悪いですが、良い音楽を聴いた私の心は晴れ晴れしていました。家に帰ると現実世界の嵐が待っていましたが・・。
(客席:2階C*-*、\6500) |