東京交響楽団 第707回 定期演奏会 Live from Suntory Hall
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2023年2月19日(日)14:00 サントリーホール
指揮:原田慶太楼
ピアノ:アレクサンダー・ガヴリリュク
コンサートマスター:水谷 晃
 
小田実結子:Kaleidoscope of Tokyo
       (東京交響楽団委嘱作品/世界初演)

グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 op.16

(ソリストアンコール)
ショパン:ノクターン第8番 OP.27-2

(休憩20分)

菅野祐悟:交響曲 第2番“Alles ist Architektur"-すべては建築である
 

 恒例の東京交響楽団のニコニコ生放送のネット配信(ニコ響)です。今回はサントリーホールから東京交響楽団第707回定期演奏会が配信されました。当日同時刻では、他のコンサートに行っていましたので、オンタイムでは視聴できず、タイムシフトで視聴させていただきました。

 ネットに接続しますとステージが映し出されており、ほどなくして拍手の中に団員が入場し、最後にこの3月で退団するコンマスの水谷さんが登場して大きな拍手が贈られました。次席は田尻さんです。オケの配置はヴァイオリンが左右に分かれる対向配置で、コントラバスとチェロが左で、ヴィオラが右です。

 チューニングが終わり、洒落たスーツの原田さんが登場。1曲目は小田実結子さんの東京交響楽団委嘱作品「Kaleidoscope of Tokyo」で、今日が世界初演です。
 東京出身の小田さんが、「Tokyo」をテーマに作った曲だそうです。様々な景色や音で満たされ、様々な人が行き交い、思いが交差し、常に変化し続ける街の様子が描かれているようです。
 鳥の鳴き声か横断歩道の警報音のようなフルート、そして江戸を感じさせる締太鼓に始まり、聴いたことがあるようなメロディや音が次々と現れ、新旧多彩な文化が入り混じる東京を象徴するようで、まさに万華鏡です。
 明るく楽しい曲で、暗さや重厚感、深刻さは微塵も感じられず、吹奏楽のコンサートで出てきそうな音楽です。緩徐部では美しく歌わせて、銅鑼を鳴らして盛り上げてフィナーレになりました。
 拍手に応えてカラフルなドレスの作曲者がステージに呼び出されました。映画のエンドロールで流れていそうなゲーム音楽風の曲調は、軽めに感じましたが、明るくて鼓舞するようで良かったです。

 ステージにピアノが設置され、2曲目はグリーグのピアノ協奏曲です。独奏はスキンヘッドに眼鏡をかけ、年齢以上に存在感のあるガヴリリュクです。2007年11月にリサイタルを聴いたことがあったのですが、随分と風貌が変わりましたね。お互い様ですけれど。
 ティンパニの連打に導かれてピアノが入って演奏開始です。ゆっくり目の演奏ですが、その分思いっきり美しく歌わせ、うっとりとさせられました。管楽器のソロもお見事。強奏部では左手を大きく挙上し、緩徐部での弱音のクリアなサウンドも素晴らしかったです。熱く燃えるような聴き応えあるカデンツァは圧巻でした。
 美しい弦楽で始まる第2楽章は天上の音楽のよう。汚れた私の心が洗われました。そして飛び跳ねるように勢いよく駆け回る第3楽章へ突入。
 相澤さんの美しいフルートソロからピアノがゆったりと歌い上げ、ギアチェンジして感動のフィナーレへ。テンポ設定がうまく功を奏して、感動を誘う演奏でした。
 大きな拍手に応えて、ソリストアンコールのショパンのノクターンはこの上なく美しく、指揮台に腰を下ろして聴いていた原田さんとともに、うっとりと聴き入りました。
 グリーグの名演もさることながら、アンコールのショパンの透明感のある調べに、ガヴリリュクの素晴らしさが如実に示されました。

 休憩後の後半は、菅野祐悟の交響曲第2番です。菅野さんは、NHKの大河ドラマをはじめ、テレビドラマの音楽や映画音楽など、主に商業音楽の世界で活躍されていますが、クラッシク音楽の作品も作られています。
 この交響曲は、建造物に惹かれた菅野さんが、日本や世界各地を旅する中で、ウイーン生まれの建築家ハンス・ホラインの「すべては建築である Alle ist Architektur」と言う言葉に啓発されて作曲したそうで、各楽章は世界の建築家の言葉にちなんで作られています。
 原田さんが登場し演奏開始です。第1楽章はイタリアを代表する建築家レンゾ・ピアノの「建築の偉大な美しさの一つは、毎回人生が再び始まるような気持ちになれることだ」という言葉が副題として付いています。
 大河ドラマのテーマ音楽的な重厚な響きで始まり、各地を旅をするように様々に曲調を変え、大きな流れに乗りながら様々な楽器が鳴り響き、とりとめなくも感じましたが、美しいメロディに惹かれました。
 第2楽章は、スペインのアントニ・ガウディの「建築とは光を操ること。彫刻とは光と遊ぶことだ」がテーマとなっています。マリンバやビブラフォンなど様々な楽器が軽快にリズムを刻み続け、ラテン音楽的な響きが心地良く感じられました。
 第3楽章は、フランスのル・コルビュジエの「建築は光のもとで繰り広げられる、巧みで正確で壮麗なボリュームの戯れである」がテーマです。ゆったりとした弦楽で始まり、チェロのソロも美しく、泣かせるメロディが心を癒やしました。大河の雄大な流れに身を任せ、感動の音楽世界に涙しました。
 第4楽章は、安藤忠雄の「可能性を超えたものが、人の心に残る」がテーマです。ゆったりと音楽が始まり、次第に熱を帯びていき、第1楽章同様の重厚な響きの後に、形を変えながら音楽の旅が続き、ピアノが刻む静寂の後にチェロが癒やしのもロディを奏で、やがて同じメロディを奏でながら次第に熱量を増し、壮大な響きの中にフィナーレとなりました。
 大きな拍手に応えて、客席から作曲者がステージに上がり、幾度かカーテンコールを繰り返して終演となりました。現代音楽らしからぬ美しい音楽を楽しませていただきました。

 グリーグは別にして、邦人作曲家の作品をメインにすえて、定期演奏会でもなければ聴く機会がないプログラムでした。
 集客的にはどうなのかなと思いましたが、ガヴリリュクの名演に出会えましたし、原田さんならではのプログラムだと感じ入りました。このような演奏を無料配信していただき、東京交響楽団、ニコ響に感謝したいと思います。

   

(客席:PC前、無料)