毎年夏に恒例の、新発田市での山形交響楽団の演奏会です。2015年8月に、開館35周年記念イベントとして山形交響楽団特別演奏会(指揮:大井剛史)が開催され、以後、2016年7月(指揮:山下一史)、2017年7月(指揮:永峰大輔)、2018年7月(指揮:垣内悠希)、2019年8月(指揮:阿部未来)と毎年開催されましたが、2020年、2021年は新型コロナ禍で開催されませんでした。今回は3年ぶりの開催となります。
今回の指揮者は、女性指揮者として活躍が目覚しい齋藤友香里さんで、ヴァイオリン独奏は山響のアシスタントコンサートマスターを務める平澤海里さんです。
齋藤さんは、2018年5月の東京交響楽団第107回新潟定期演奏会で指揮をしており、まだ若いにもかかわらず、抜群の統率力と音楽性で感嘆したことが思い出されます。そのときのプログラムにも、今日演奏されるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲があり、今回も素晴らしい演奏が期待されました。
一方、平澤さんは、1994年生まれといいますから、まだ28歳です。桐朋学園で学んだあと、数々の国際コンクールでの受賞歴があり、2019年に25歳の若さで山形交響楽団のアシスタントコンサートマスターに就任していますので、その実力は想像できます。
魅力ある指揮者・独奏者と競演するプロオケのコンサートが、わずか2000円という低料金で聴けるというのは大きな魅力であり、今回も聴かせていただくことにしました。
7月最後の日曜日。猛暑続きで夏バテ状態ですが、昨日の東京交響楽団の興奮が冷めやらない中、今度は山形交響楽団。プロオケを2日続けて聴くというのは、新潟のような田舎にあっては貴重な機会です。
今日も朝から暑さが厳しかったですが、所用を済ませたあと、ゆっくりと家を出て、バイパスを新発田へと向かいました。道路は混雑もなく、思いのほか早く新発田市民文化会館に到着しました。
開場まで時間がありましたので、ロビーで涼んでいましたが、次第に客が増え、予定開場時間より早めに開場されました。早速私も入場し、客席でこの原稿を書きながら開演を待ちました。
扇型で3層構造のホールは、県内でも珍しい形状だと思います。ステージと客席の距離が近いのは良いのですが、客席までのアクセスが分かりにくく、階段が多いのは難点に感じます。
また、このホールでの階の表記が、通常とは異なり、ホールの1階席は、建物の2階にあるためか2階席と表記されています。同様に、通常2階席のはずが3階席となっていて、混乱しています。
さらに、客席はSブロック、Aブロック、Bブロック、Cブロック、・・と、場所によってブロックに分かれているのですが、ホールでの表記は、S席、A席、B席、・・となっていて、チケットの種類のS席、A席、B席、・・と混同してしまいます。まあ、慣れれば問題ないのでしょうが、初めての人は混乱してしまうのではないでしょうか。
また、座席は固定式で、背もたれが低く、座り心地は良いとは言えません。私の席は7列目で、少し見上げる形になってしまいました。
開演前に、山形交響楽団の事務局の人が出てきて挨拶があり、コンサートの説明があり、その後指揮者の齋藤さんを呼んで、2人でのプレトークが行われました。
今日が齋藤さんと山響の初共演であることや、今後の抱負、ジュピターの終楽章のフーガの素晴らしさ、ホルン、トランペット、ティンパニは古楽器を使用することなど興味深く拝聴しました。
齋藤さんや山響の皆さんは昨日から新発田入りしていたそうですが、今日の開演は16時ですので、十分なリハーサルができたものと推測します。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンミスが登場して大きな拍手が贈られました。オケのサイズは、8型(8-7-5-4-3)と小型で、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置でした。
齋藤さんが颯爽と登場して、1曲目はメンデルゾーンの「フィンガルの洞窟」です。悲しみを秘め哀愁を感じさせる主題が、形を変えて繰り返されました。
曲名からの先入観もありますが、薄暗い海岸の洞窟に打ち寄せる波の風景が眼前に現れるように感じ、演奏に引き込まれました。
響きのないデッドなホールではありましたが、乱れのない弦楽アンサンブルの美しさに耳を奪われました。管楽器も見事なパフォーマンスであり、齋藤さんのオケの統率力の素晴らしさが最初から如実に示されました。
コンチェルト用にステージが整えられて、2曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲です。これは平澤さんと齋藤さんとのせめぎ合いと融合により、聴きごたえある演奏となりました。
平澤さんはテクニック的にも素晴らしく、音量も豊かです。歌わせどころは美しく歌わせますが、メランコリーさの中に埋もれることはありません。カデンツァは緊張感を保ち、堂々としていました。齋藤さんの躍動感とパワー溢れる指揮に呼応し、みなぎる情熱とともに、熱い音楽を創り上げました。
切れ目なく演奏される第2楽章は、優しく、美しく歌わせましたが、感傷に浸りすぎることなく節度あるもので、秘められた青白い炎が感じられました。
ひと息ついた後の第3楽章は、呪縛から解放されたかのようにヴァイオリンが軽快にステップを踏んで跳ね回り、生き生きと躍動し、一糸乱れずエンジン全開に疾走するオケとともに、興奮のフィナーレへと突き進みました。
平澤さんの熱い演奏を、同僚である山響の皆さんは齋藤さんとともにサポートし、感動の演奏へと昇華させました。ホールを埋めた聴衆から盛大な拍手が贈られるとともに、山響の団員からも大きな拍手と足踏みが贈られ、同僚の快演を讃えました。
休憩後の後半はモーツァルトの「ジュピター」です。先ほど独奏を努めた平澤さんは、今度は本業のアシスタントコンサートマスターとしてコンミスの隣に座り、第1ヴァイオリンは9人になりました。
この曲も前半の印象と同様に、スピード感、躍動感にあふれる演奏で、パワーに溢れていました。第2楽章を美しく歌わせて、第3楽章をダンスを踊るかのように軽快に演奏。
そして終楽章のフーガは圧巻でした。齋藤さんは畳みかけるようにオケを鼓舞し、オケも負けじと応え、生み出された音楽はパワーがみなぎり、聴く者の心を揺り動かし、否が応でも胸が高鳴りました。
オケのサイズとしては軽自動車ですが、そこにスポーツカーのエンジンを積んで疾走している感じでした。齋藤さんの創り出す音楽のパワーと躍動感に圧倒された演奏であり、お見事としか言いようがありませんでした。
全体を通じて、気分爽快な音楽は、暗い世相で沈んだ心を暗闇から開放し、パワーを注入してもらったように感じました。もちろん齋藤さんの指揮に応えて、実際に具現化したオケの素晴らしさは言うまでもありません。
抜群の弦楽アンサンブル。対向配置が演奏効果を上げていました。管も素晴らしく、演奏が難しいはずの古楽器のホルン、トランペットも最高のパフォーマンスでした。バロックティンパニも良い味付けをしていました。期待以上の大きな満足感をいただき、力の限り大きな拍手を贈りました。
アンコールは意表をついて、ハイドンの「驚愕」の第2楽章。曲名の如く、この選曲にはびっくりしました。演奏はこれまでの力のこもった熱い演奏から解放され、爽やかで美しく感じられました。
デザートとしては大盛りで濃厚であり、ラーメンの替え玉をいただいたかの如く、お腹いっぱいに楽しませていただきました。
若き指揮者とともに、会心の演奏を聴かせてくれた山響。この素晴らしい演奏を2000円という低料金で聴けたとは、夢のような話でした。感謝しかありません。
終演後は分散退場となり、私は前方の席でしたので、最後まで待たされてしまいましたが、気分爽やかにホールを後にし、駐車場へと急ぎました。外はこれまでの演奏以上の暑さで、エアコン全開で家路につきました。
(客席:A-7-28、¥2000) |