東京佼成ウインドオーケストラ 楽団創立60周年記念 新潟公演
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2020年11月20日(金) 18:30  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:大井剛史
 
ホルスト/伊藤康英・校訂:吹奏楽のための第一組曲
  T. シャコンヌ
  U. インテルメッツォ
  V. マーチ

芳賀 傑:水面に映るグラデーションの空

グレインジャー/フェネル・校訂:リンカンシャーの花束
  T. リスボン(船乗りの歌)
  U. ホークストウ(守銭奴とその召使い:地方の悲劇)
  V. ラフォード公園の密猟者(密猟の歌)
  W. 元気な若い水夫(恋人と結婚するために帰郷した)
  X. メルボルン卿(戦いの歌)
  Y. 行方不明のお嬢さんが見つかった(踊りの歌)

(休憩20分)

保科 洋:吹奏楽のための交響曲第3番(TKWO委嘱初演)
  第1楽章 レント・ミステリオーソ〜アレグロ・アッサイ
  第2楽章 レント・フリービレ
  第3楽章 プレスト・エネルジコ

(アンコール)
保科 洋:風紋
宮下秀樹:吹奏楽のための「エール・マーチ」

 東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)といえば、名前の如く立正佼成会付属の吹奏楽団として、1960年に創立されました。現在では日本最高峰の吹奏楽団としてゆるぎない地位にありますが、創立時はわずか15人で、楽器経験者は1人だけだったというのは驚きです。

 今回の公演は、東京佼成ウインドオーケストラの創立60周年記念の全国ツアーの最終公演に当たります。11月7日の東京公演に始まり、大阪〜広島〜福岡〜札幌〜山形と、新型コロナ感染第3波真っ只中の流行地を巡って、新潟の最終公演を無事に迎えられて何よりと思います。

 私は、新型コロナ感染が拡大する前の2月に、たまたま東京で東京佼成ウインドオーケストラの定期演奏会を聴く機会があり、それが“コロナ前”最後の吹奏楽団のコンサートとなりました。
 そして、今日は“ウィズコロナ”最初の吹奏楽団のコンサートですが、それが東京佼成ウインドオーケストラというのも何かの縁かなと思っています。

 今回のプログラムは、吹奏楽の分野では古典的名曲とされるホルストの「吹奏楽のための第一組曲」とグレインジャーの「リンカンシャーの花束」のほか、日本人による最新の曲がプログラムされています。中でも、創立60周年記念に委嘱された保科 洋の交響曲第3番の初演が注目されます。正統的吹奏楽演奏を楽しめるものと期待は高まりました。
 指揮は正指揮者の大井剛史さん。名前に聴き覚えがあり調べてみましたら、2015年8月の新発田市での山形交響楽団特別公演で指揮しているのを聴いていました。当時は山形交響楽団の正指揮者、今回は東京佼成ウインドオーケストラの正指揮者としての吹奏楽公演です。どんな演奏を引き出してくれるか楽しみにしましょう。


 今日の開演は18時半。この時間は厳しく、先月から早く帰れるように根回しして、17時半前に職場を出ることができました。雨の中に車を進め、余裕を持ってりゅーとぴあに到着できました。
 館内に入りますと、吹奏楽部らしき学生さんでホワイエが賑わっていて驚きでした。まるで吹奏楽コンクールの会場みたいです。いつものクラシックコンサートとは大違いで、平均年齢はかなり低く、私は立派な高齢者でしょう。
 私はクラシックと吹奏楽の違いなどないと思っているのですが、実際にコンサートに行きますと、客層・年齢層の違いに驚きを感じます。クラシックと吹奏楽との間には目に見えない壁があることを痛感します。若い人にもクラシックコンサートに足を運んでもらいたいですね。

 客席は1席おきに発売され、S席エリアのサイドに空席がありましたが、A席エリア、B席エリアには学生さんを中心に満遍なく客が入り、きれいな市松模様状態でした。盛況で何よりと思います。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。大編成で、ステージいっぱいの吹奏楽団は壮観です。コンマスのサックスの田中靖人さんの合図で音出しし、大井さんが颯爽と登場して開演です。

 1曲目はホルストの「吹奏楽のための第一組曲」です。第1楽章のシャコンヌは、テューバの重厚な低音で始まり、変奏を重ね、壮大な音楽へと組み上がりました。第2楽章の間奏曲は、軽快に弾み、ゆったりと歌わせ、そして爽やかに駆け抜けました。第3楽章のマーチは、豪華絢爛、華やかな音楽で吹奏楽の愉しみ、喜びを感じさせました。
 これぞプロの演奏というよな素晴らしいアンサンブルに息を呑み、ホールいっぱいに響き渡る豊潤な調べに酔いしれました。さすがです。

 続いては、芳賀 傑さんの「水面に映るグラデーションの空」です。2018年にフランスで開催されたクー・ド・ヴァン国際交響吹奏楽作曲コンクールで第1位と聴衆賞を獲得した作品だそうです。
 朝霧に包まれた森の中の湖の湖面に広がる波紋。その穏やかな波紋がいつしか大きな波となり、静かな湖に怪物が現れ、荒々しさが訪れましたが、再び静かな、安らぎが訪れました。鉄琴を弓でこすったりなど、静寂に響く高音が心の叫びにも感じました。1989年生まれという芳賀さん。この若さで、こんなにも素晴らしい作品を作るなんてすごいですね。

 次はグレインジャーの「リンカンシャーの花束」です。1984年にフェネルの指揮で演奏して以来、このオケの重要なレパートリーになっているそうです。全6曲からなり、それぞれに標題が付けられています。
 第1曲は、明るく陽気に歌い、第2曲は、一転して物悲しげとなり、しんみりと朗々と歌い、最後は壮大に歌い上げました。第3曲は、怪しげなメロディーが大きくうねり、第4曲は、再び明るく歌いました。第5曲は、力強く重厚なコラールから牧歌的な空気を一瞬漂わせた後、激しく燃え上がる想いを爆発させ、第6曲は、賑やかに、豪華絢爛な音響で圧倒して曲を〆ました。

 休憩後の後半は保科 洋さんの「吹奏楽のための交響曲第3番」です。今回の創立60周年記念公演が初演となりましたが、新潟は7公演目の最終公演ですので、初演という表現は当たらないのかもしれませんね。
 第1楽章は重厚な響きで圧倒し、胸打つ音楽にこの身を委ねました。第2楽章は、ハープも加わって、多彩な響きで歌い上げ、第3楽章は、サラブレッドが疾走すかのように駆け抜け、メロディアスに歌ったかと思えば、再び駆け出し、ユーモアを感じさせるフレーズも挟んでニヤリとさせて、一気にクライマックスへと駆け上がりました。
 84歳にしてこのような生き生きと、生命感あふれる音楽を創り出すなんて、すごいことですね。吹奏楽の世界の奥深さを感じ、その高みに圧倒される思いでした。

 アンコールは、1987年の吹奏楽コンクールの課題曲で、吹奏楽の世界では定番の人気曲である保科 洋さんの「風紋」が演奏され、吹奏楽の楽しみを再度味わわせてくれました。

 そして鳴り止まない拍手に応えて、最終公演ということでアンコールがもう1曲演奏されました。コロナ禍で開催できなかった今年の吹奏楽コンクールの課題曲であった吹奏楽のための「エールマーチ」です。
 作曲者の宮下秀樹さんは、新潟県内の中学校教師で、今日会場に来られていました。大井さんに紹介され、3階サイド席で拍手を受けていました。新潟サクソフォーン協会にも属しておられ、8月の第26回演奏会で自作自演されています。明るく爽やかなマーチに元気をいただきました。

 日本最高峰の演奏で聴く吹奏楽の醍醐味。ホールを埋めた聴衆は大きな拍手で応えました。ブラボーの声は出せませんので、若者たちは「ブラボー」と書かれたプラカードならぬ布を掲げていました。
 カーテンコールでは新潟出身の2人の奏者、トランペットの本間千也さんとピッコロ/フルートの丸田悠太さんが紹介され、大きな拍手を受けていました。

 苦難の全国ツアーを無事にこなした団員の皆さんに感謝し、新型コロナのストレスを吹き飛ばすパワー溢れる演奏に大きな満足感をいただき、ホールを後にしました。
 
 

(客席:2階C2-9、S席:¥5000)