新型コロナ感染症の拡大に伴い、他のオーケストラと共に、演奏会を開催できない状態が長期に続いていましたが、緊急事態宣言の解除に伴い、感染予防策を十分に講じた上で、演奏活動を再開することになりました。
東京交響楽団としましては、6月23日に、無観客での演奏会をライブ配信を行い、観客を入れての演奏会は、6月26日にサントリーホールで開催された第681回
定期演奏会が最初となりました。
そして、昨日の無観客ライブ配信公演に続き、本日は観客を入れての川崎定期演奏会が開催される運びとなりました。
この演奏会は、6月8日に開設したニコニコチャンネル「ニコニコ東京交響楽団(ニコ響)」を記念して、無料で配信されることになり、視聴させていただくことにしました。
今日の川崎定期演奏会は、26日のサントリー定期演奏会と同じプログラムです。本来は、指揮はユベール・スダーン、ピアノはイルン・バルナタンでしたが、新型コロナウイルス感染による出入国制限のため来日できなくなりました。代役を調整し、指揮は飯守泰次郎さん、ピアノは田部京子さんとなり、曲目の変更はありませんでした。
開場時間の13時半にパソコンをセットし、ニコニコ生放送のサイトにつなぎますと、ミューザ川崎のステージが映し出されていました。指揮台の上には椅子が置かれており、ご高齢の飯守さんへの配慮かと思います。
観客がパラパラと入場・着席していましたが、客席は間隔を空けて使用され、密集・密接が避けられていました。販売済みの座席をどう割り振ったのかが気になります。
ステージ上では、まずコントラバスが音出しを始め、その後管楽器が音出しを始めて緊張感を高めました。開演の合図の鐘が鳴り、開演のアナウンスがなされますと、他の団員も順にステージに現れ始めました。
開演時間に全員揃い、最後にコンマスの水谷さんが礼をしたところで拍手が贈られ、チューニングとなりました。やっぱり、拍手の中に入場し、全員揃うまで起立して待つ新潟方式が好きですね。
オケは小型で、弦5部は私の目視で 10-8-6-4-3、対向配置ではない通常の配置です。コンマスは前記しましたように水谷さん。次席は廣岡さんです。管楽器奏者以外は、お揃いのグレーの東響マスクを着けています。
拍手の中に指揮の飯守さんが登場。ご高齢ですが、お元気なご様子でした。昨日は飯森さん、そして今日は飯守さん。「イイモリ」続きですが、偶然でしょうね。まあ、どうでも良いことですけれど。白髪の飯守さんは黒いマスクを着け、白黒の対比が目を引きました。
1曲目はベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲です。堂々とした出だしに続いて軽快な音楽が泉のように湧き出ました。柔らかな東響のアンサンブルが美しく、うっとりと引き込まれました。やはり観客がいての演奏は、どこか気分も違うものと思います。演奏への意気込みが伝わるかのようでした。
ステージにピアノがセットされ、2曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番です。オケの編成は同じですが、コントラバスが2人交代しました。ゴールドのドレスが麗しい田部さんが登場。手作り風の豪華なマスクを着用されていました。(タベノマスク?)
風格があり、堂々と力強い第1楽章。カデンツアで圧倒されました。そして、ゆったりと歌わせ夢見心地の第2楽章。力強く駆け抜ける第3楽章。
ゆるぎなく、どっしりと構えながらも、躍動感を失わず、生き生きとサポートする飯守さんに支えられて、田部さんの安定した演奏が強靭な力となって、音楽が奏でられました。
ホールにいることを許された幸運な聴衆のみならず、ネット回線を通じて心を通わす音楽ファンの心を揺さぶりました。
アンコールはメンデルスゾーンの「無言歌集」から「ベネツィアの小舟」。後半のメンデルスゾーンにちなんでの選曲と思いますが、「無言歌」というのは、マスクを義務付けられ、むやみに話すことを禁じられた現実にちなんでの選曲というのは考えすぎでしょうね。
休憩時間となり、私もトイレ休憩し、その後はこの原稿を書き始めました。開演のアナウンスがあり、その後団員が入場。最後にコンマスの水谷さんが登場して、拍手が贈られ、チューニングとなりました。ややすり足気味に飯守さんが登場。後半は、メンデルスゾーンの「スコットランド」です。
第1楽章は、美しい旋律を情感豊かに歌わせて、胸に染みました。アタッカで第2楽章へ突入。軽快にリズムを刻み、管楽器の妙技に載せて猛スピードで快く疾走しました。
第3楽章は、美しいホルンの調べに酔い、弦のピチカートに載せて第1ヴァイオリンが美しいメロディを奏で夢見心地。ときどき安らぎをかき消されたりもありますが、美しい楽章ですね。
アタッカで第4楽章へ。重厚で華やかな音楽。激しく打ち鳴らすティンパニと細かく軽快に刻むリズムに精神的高揚が引き出されました。一瞬の安らぎの後、ホルンのファンファーレが奏でられ、感動と興奮の頂点へと駆け上がりました。
素晴らしい演奏でした。生きた音楽がそこにありました。この曲がこんなにも素晴らしいとは、人生ここまで生きてきて、初めて気づいた次第です。
80歳という年齢を感じさせない情熱あふれる飯守さん。それに見事に応えて、一糸乱れぬアンサンブルで、それれぞれのパートが最善の仕事をし、一期一会の演奏を創り出してくれました。
拍手は鳴りやまず、団員が引き上げた後にも飯守さんが呼び出され、拍手に応えていました。本来ならブラボーが飛び交うはずなのですが、声出しは厳禁です。
最後に、指揮台に置かれていた飯守さんの使い込まれた、ぼろぼろの小型スコアを手にとって、ステージから去られました。
生で聴けなかったのは誠に残念でしたが、私の貧弱な視聴環境でも、生きた音楽が伝わってきました。東響の素晴らしさを改めて見せ付けられたように思います。無料配信に感謝したいと思います。
(客席:自宅 、無料) |