オーケストラ ファン・ヴァセナール イタリア・ヴァイオリン音楽の夜明け
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2019年11月4日(月・祝) 15:30 越後森林館
オーケストラ ファン・ヴァセナール
ヴァイオリン:赤津眞言、鳥生真理絵、チェロ:武澤秀平、チェンバロ:岡田龍之介
 

ロッシ: ソナタ 6番 「対話によるソナタ ラ・ヴィエナ」(作品12より)
フレスコバルディ:カンツォーナ 6番 「アルテラ」による
マリーニ:ソナタ 21番 「逃れよ、悲しい心よ」による (作品22より)
メルーラ:カプリッチョ クロマティコ
フレスコバルディ:カンツォーナ 5番 トロンボンチーナ

ファリーナ:3声のソナタ モレッタ
ウッチェリーニ:アリア 5番 「ラ・ベルガマスカによる」(第3集より)

(休憩15分)

レグレンツィ:ソナタ 6番(La Cetra(作品10)より)

レオナルダ:ソナタ 12番(教会ソナタ集 op.16より)

ソトラデッラ3声のシンフォニア 8番 イ短調

コレルリ:トリオソナタ 12番 ト長調 “シャコンヌ”(作品2より)

(アンコール)
ウッチェリーニ:アリア 5番 「ラ・ベルガマスカによる」(第3集より)
 

 新潟西バイパスの終点である曽和ICのすぐ横にある越後森林館。正式名は“越後杉流通活性化センター”といい、新潟県産の杉(越後杉)をふんだんに使用して建設されました。その木造の特徴ある建物は、遠くからでも目立ちます。
 この建物の左側部分には、樹齢100年の根曲り杉を6本使用し、金物を使用せず、職人の技と工夫で組み上げたという六角形の多目的ホールがあります。
 このホールでは定期的にコンサートが開催されており、私の家から近いこともあり、これまでに何度か聴かせていただいています。前回来たのは2017年12月でしたので、2年振りになります。

 今回のコンサートは、オーケストラ ファン・ヴァセナールです。バロックヴァイオリンの赤津眞言さんが結成したアンサンブルで、そのときどきで、編成もメンバーも変わるようです。ヨーロッパではそれこそオーケストラ的編成での活動もされているようですが、今回の公演は、バロックヴァイオリン2人、バロックチェロ1人、チェンバロ1人の4人編成です。
 今回の日本ツアーは、その日によりメンバーの入れ替えもあるようですが、スケジュールはかなり混み合っており、移動も大変だろうなと心配するほどです。
 これまで新潟には何度か来演されていますが、私が聴かせていただくのは今回が初めてです。改めてメンバーの経歴を見てみますと、国際的に活躍されている凄い人たちで驚きです。こんな人たちの演奏を、間近で聴けるというのは、貴重な機会といえましょう。

 さて、仕事と重なって、当初はこのコンサートを聴く予定はなかったのですが、仕事を早く切り上げることができて、ぎりぎりながら開演に間に合いそうになりましたので、急遽聴きに行くことにしました。

 昨日からの泊まりの連続勤務を終えて、大急ぎで車を走らせ、越後森林館に到着しました。既に開場時間は過ぎており、ぽつりぽつりと入場する人の姿がありました。チラシには「事前予約のみ」とありましたので、入場させてもらえるか心配だったのですが、無事にコンサートを聴かせていただくことができて良かったです。

 靴を脱いで中に入りますと、床暖房が効いていて足の裏が心地良いです。新潟県産の杉で作られた木の香漂う6角形のホール。全てが木造のホールは個性に溢れ、ホールそのものが芸術作品とも言えそうです。正面に小さなステージがあり、2階にバルコニーもあります。窓からは角田山が一望され、絵画を見るかのようでした。
 すでに客席の多くは埋まっていましたが、前方の席が空いていましたので、正面2列目に席を取りました。結果として、私の前には誰も座られませんでしたので、実質的に正面最前列になりました。

 時間となり、主催者の挨拶があって開演です。ヴァイオリン、チェロ、チェンバロの3人が登場し、ロッシのソナタで演奏が始まりましたが、奏者は3人のみでリーダーの赤津さんの姿がありません。どうしたのかと思いましたが、赤津さんは演奏しながら左後方より現れて合流しました。
 ステージ中央のバロックチェロの竹澤さんを挟んで、左にバロックヴァイオリンの赤津さん、右に鳥生さん、後方にチェンバロの岡田さんという並びです。
 ノンビブラートのガット弦を使った古楽器のちょっと渋くて優雅な響き。ヴァイオリンは鎖骨の下に押し当てて弾く独特のスタイル。弓も小さめです。チェロはエンドピンがなく、ヴィオラ・ダ・ガンバのように膝で挟んで弾きます。
 ほど良い広さのホール。木造のホールならではの柔らかな響き。心地良い音楽に身を委ね、演奏に引き込まれました。

 今回のプログラムは、「イタリア・ヴァイオリン音楽の夜明け」という副題があり、17世紀初頭のイタリアバロック初期の作曲家から、現代ヴァイオリン奏者の祖と称されるコレルリに至るヴァイオリン音楽の歴史を俯瞰しようとするものです。
 音楽的教養がなく、近現代のオーケストラ曲を好む私には、このような古楽は守備範囲外でなじみにくかったのですが、プロジェクト・リュリで鍛えられて、最近は楽しめるようになりました。この年になって、少し大人になったと自己満足しています。

 2曲目のフレスコバルディのカンツォーナはチェロとチェンバロのみ。3曲目のマリーニのソナタ、4曲目のメルーラのカプリッチョ クロマティコは4人での演奏。5曲目は再びチェロとチェンバロでのフレスコバルディのカンツォーナと、5曲続けて演奏されました。

 ここで赤津さんの挨拶があり、6曲目はファリーナのの3声のソナタです。左のヴァイオリンのメロディを右が模倣することを繰り返す面白い曲で、やがて癒合して壮大な音楽へと変容しました。どんな演奏になるかはその日次第で、同じ演奏は二度と再現できないそうです。

 前半最後の7曲目はウッチリーニのアリア。これまでの曲とは一転して、軽快で明るくウキウキするよう演奏で楽しめました。

 休憩後の後半は赤津さんの解説を挟みながら演奏が行われました。楽器の説明があり、ヴァイオリンの当て方による奏法の違いや弦の材質の違い、弓の違いなどの解説を興味深く拝聴しました。ガット弦ならではの枯れたような渋い響きは良いですね。弓も小さめで、黒い毛が張られていて、現代の弓との違いも勉強になりました。

 後半1曲目はレグレンツィのソナタ。2曲目は赤津さんのヴァイオリンとチェロ、チェンバロで女性作曲家レオナルダのソナタ。3曲目はコンチェルト・グロッソの原理を示したというストラデッラの3声のシンフォニア。そして最後はイタリアヴァイオリン音楽を発展させたコレルリのトリオソナタでした。

 ヴァイオリン奏法、ヴァイオリン音楽の発展の歴史を、多彩な作曲家の曲をたどりながら示してくれました。最後のコレルリでは弓も現代の弓(長くなって白い毛が張られている)に持ち替えての演奏で、現代に連なるヴァイオリン新時代の到来を示していました。

 ロッシ、フレスコバルディ、マリーニ、メルーラ、ファリーナ、ウッチェリーニ、レグレンツィ、レオナルダ、ストラデッラ、コレルリと、ヴァイオリン音楽の誕生から成熟までの道のり。不勉強な私にとりましては、知っている作曲家はフレスコバルディとコレルリくらいで、知らない名前ばかりでした。今回聴かせていただいて、少し視野が広がり、また少しだけ大人になれたようで感謝です。

 会場には新潟古楽界の重鎮がずらり。オールスターメンバーに圧倒されそうでしたが、聴衆の一人に混ぜてもらって良かったです。
 私の人生もだんだん残り少なくなっていく年齢になりましたが、これからもいろんな音楽を聴いて、豊かな人生で終われればと思います。

  

(客席:正面2列目 、¥2500)