毎年恒例の東京フィルの長岡特別演奏会です。新潟市は東京交響楽団と提携していますが、長岡市は東京フィルハーモニー交響楽団です。新潟市は東京交響楽団ばかりで東京フィルを聴く機会はありませんので、長岡遠征して聴かせていただくことにしました。今年も長岡市立劇場が改修工事中であり、長岡リリックホールでの開催となりました。
昨年は主席指揮者のバッティストーニの指揮で、ベートーヴェンの「運命」が2日間に渡って演奏されましたが、今年は名誉音楽監督のチョン・ミョンフンの指揮で、「英雄」がメインとなっています。
なお、今年は11月にも長岡特別演奏会が予定されており、三ツ橋敬子の指揮で「田園」が演奏される予定です。2015年にはチョン・ミョンフンの指揮で「7番」が演奏されており、ベートーヴェン・シリーズが続きます。そういえば、2003年にもチョン・ミョンフンの指揮で「第九」も聴いたことがありました。ベートーヴェン・チクルスの完結を期待しましょう。
ということで、チョン・ミョンフンは長岡には何度も来演していますが、新潟市での演奏はなく、2001年5月以来ないのではないのでしょうか。そのため、長岡特別演奏会は、マエストロ・チョンを聴く貴重な機会になっています。
そして、今日の共演者である清水和音さんは以前にも聴いたことがあったと思いますが、記憶が薄れていつだったか忘れてしまいました。
7月も末というのに梅雨明けしない新潟。曇り空のすっきりしない天候ではありますが、その分猛暑にならず過ごしやすかったです。
いつもの分水・与板経由で長岡入りしましたが、早めに行って、某温泉で休息して時間調整しました。開場時間前にリリック入りしましたが、すでに多くの人が集まっていました。
ホール内は後方に多少の空席がありましたが、老若男女で賑わっていました。子どもたちの招待企画もあったようでしたが、良い試みだと思います。
ステージ上では団員の皆さんが開演時間間近まで音出しに励んでおられました。今日の公演のプログラムは長岡だけではなく、27日に川崎で演奏されています。一度本番が済んだ後の公演になりますので、期待が高まります。
開演のチャイムが鳴り、拍手の中団員が入場。ステージの広さ、曲目も関係しましょうが、オケは若干小振りで、弦5部は、私の目視で12-10-10-8-6のようでした。配布されたプログラムには記載されていませんでしたが、コンサートマスターは三浦章宏さんのようでした。
清水さんとチョンさんが登場して、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番で開演しました。全体に早めのテンポで、快適に飛ばしました。ホールの響きのためと思いますが、オケの響きは硬質で、ふくよかさに欠けるように感じました。その分、音の解像度は高く、切れの良いサウンドでした。
小型の車に大型のターボエンジンを積んで、緑豊かに育った水田の中を貫く農道を、全速力で走り抜けるようでした。清水さんはオケに一歩も引かず、アクセルを踏み続けるチョンさんとデッドヒートを繰り広げ、興奮のフィナーレへと突進しました。
ベートーヴェンに感じる暗さは微塵もなく、古臭さも感じさせず、21世紀の、今を生きる音楽として色鮮やかに、爽やかに甦らせました。
アンコールのブラームスの小品は、興奮を鎮めるに最適なデザートでした。心に優しくしみこんでくる音楽に、清水さんの粋な計らいを感じました。
休憩を置いて、後半は「英雄」です。これは前半以上に興奮の演奏でした。チョンさんが指揮台に上るや否や、間髪を置かず最初の和音のニ連打が鳴り響きました。
速めに突き進む生命感にあふれる生き生きした演奏であり、エネルギーの爆発を感じました。第2楽章の葬送行進曲も暗くならず、第3楽章、第4楽章とエンジン全開に飛ばしました。煽り続けるチョンさんの指揮に、一糸乱れずに応えて突き進むオケのパワーと機動力に脱帽しました。
暗さはなく、新時代の「英雄」を聴かせてくれました。「7番」を聴くような、体が踊りだす躍動感に満ちていました。熟練の巨匠が創り出す若々しい演奏は、何かを吹っ切ったような潔さを感じ、爽快感をもたらしました。
怒涛のフィナーレを迎え、ホールを埋めた聴衆の感動の嵐に体をゆだねました。東フィルとチョンさんの互いの信頼感の強さを感じました。
とまあ、良い演奏だったのですが、オケのサウンドとしましては、もっと艶があったら良かったかな、などと、へそ曲がりな私は感じるのでありました。ホールの響きの問題かも知れませんが・・。
暗闇の農道を快適に飛ばし、あっという間に帰宅できましたが、苦難の現実世界が待ち構えていたのでありました。
(客席:18-10、¥8000) |