神話と美神
←前  次→
2013年9月22日(日) 14:00  だいしホール
 
フルート:清水理恵、ソプラノ・リリコ:柳本幸子、ピアノ:石井朋子、藤井晶子

ドビュッシー:無伴奏フルートのためのシランクス (Fl:清水)
ドビュッシー:喜びの島 (Pf:藤井)
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲 (Fl清水xPf:石井)
ドビュッシー:ロマンス (歌曲《2つのロマンス》より) (Sop:柳本xPf:石井)

ラヴェル:ハバネラ形式によるヴォカリーズ (Sop:柳本xPf:石井)
ラヴェル:ガディッシュ 「2つのヘブライの歌より」 (Sop:柳本xPf:石井)
ラヴェル:「マ・メール・ロワ」より 「美女と野獣の対話」、
        「レドロネット姫・パゴダ達の女王様」 (Pf:石井xPf:藤井、連弾)

(休憩15分)

ストラヴィンスキー:《ペトリューシュカからの三楽章》より 
            第二楽章「ペトルーシュカの部屋」 (Pf:石井)

アーン:クロリスに (Sop:柳本xPf:石井)

フォーレ:「マンドリン」《5つのヴェネツィアの歌》より (Sop:柳本xPf:石井) 
フォーレ「月の光」〜艶なる宴〜 (Sop:柳本xPf:石井) 
フォーレ:ヴァイオリンソナタ イ長調 作品13(フルート版) (Fl:清水xPf:藤井)

(アンコール)
ドビュッシー:「小さな黒ん坊」 (Pf:石井xPf:藤井、連弾)
ラヴェル:「亡き王女のためのパヴァーヌ」 (全員)
 
 

 コンサートの題名だけ見ても、何のことやら想像できません。副題に「パリの詩人と作曲家が愛した耽美なる古代神話と音楽への誘い」とあります。「印象派と象徴派、耽美なるデカダンス」とか、チラシにはいろんな言葉が踊っていますが、無教養な私にはよく分かりません。要するに19世紀末から20世紀初頭にパリで活躍した音楽家たちの曲を演奏するようです。

 なんだか良くわかりませんが、曲目と演奏者に興味を持ち、出かけることにしました。ホールは老若男女でかなりの盛況です。子供もいたのは教え子さんたちでしょうか。

 照明が落とされ、暗い中で清水さんのフルートの演奏で開演しました。幻想的なフルートの調べは神話の世界に誘うに良い演出だったと思います。続いて、暗めの照明がピアノを照らして、藤井さんの演奏。以後は柳本さんの解説を挟みながら演奏が進みました。
 柳本さんの話はわかりやすく、曲が作られた時代背景と曲の内容を的確に解説してくれたため、容易に曲に感情移入できて良かったです。これまで意味を知ることなく、何気なく聴いていた曲の深遠さも知ることができました。

 清水さんのフルートは始めて聴きましたが、さすがにフルート界の重鎮であり、落ちついた音色で朗々と演奏し、幽玄さを感じさせました。

 続く柳本さんの歌声も良かったです。緑色のドレスで花を手にして歌われました。ソプラノ・リリコと紹介されていましたが、存在感ある歌声でした。たしかに高音域は細めでリリカルな印象ですが、低音域の音量と重厚さはドラマティコというべきであり、重心の低い歌声は魂を揺さぶるようなパワーがあり、胸に響いてきます。石井さんの伴奏も輝いていました。

 前半最後は、石井さんと藤井さんのピアノ連弾(低音側:藤井、高音側:石井)。容姿をそのまま反映したような、藤井さんのほんわかした柔らかな演奏と、輝きのあるやや硬質的な石井さんのピアノが見事に融和したすばらしい演奏でした。

 休憩後は、個人的には今回の一番のお目当てである石井さんのペトルーシュカです。さすがにロシアで学んだ石井さんだけあり、期待通りのダイナミックな演奏でした。だいしホールのベーゼンドルファーから、こんなにも豊潤で力強い音を聴く機会はなかなかありません。第二楽章だけでしたが、全曲聴いてみたかったです。

 続いて、柳本さんによりアーンとフォーレの歌曲が歌われました。前半に感じたとおり、柳本さんの歌声は素晴らしいですね。存在感たっぷり。石井さんのピアノも良かったです。

 最後は清水さんによるヴァイオリンソナタのフルート版。ピアノが藤井さんに代わって、ソフトなピアノの響きがフールトの音色と良く合っていました。ヴァオリンをフルートに置き換えたということで、若干の違和感を感じないでもなく、若干冗長に感じたりもしましたが、楽しませていただきました。

 アンコールは、藤井さんと石井さんの連弾を演奏した後、全員で「パヴァーヌ」。最後を締めるにふさわしい演奏で盛り上がって終演となりました。

 曲目だけ見ていますと、ごちゃごちゃした演目に感じますが、ひとつのテーマに沿って考え抜かれたプログラムであり、わかりやすい柳本さんの解説と照明効果もあって、音楽の世界に身を投じることができました。日曜日の午後にぴったりの演目だったとと思います。

 4人の演奏家は、それぞれが活発な活躍をされている実力者揃い。演奏は安心して聴いていられました。チラシの写真と同じ人、印象の違う人がありましたが、皆さん美しい方々で、まさに「美神」。白いスラックス姿の藤井さん以外は艶やかなドレス姿。それぞれの個性が発揮された楽しい演奏会でした。

  

(客席:G−6、\3000)