前橋汀子 デビュー50周年記念 ヴァイオリンコンサート
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2012年7月7日(土) 15:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
ヴァイオリン:前橋汀子
ピアノ:松本和将
 


エルガー:愛の挨拶 Op.12
ヴィターリ:シャコンヌ ト短調

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ短調 Op.47 「クロイツェル」

(休憩20分)

ヴィエニャフスキー:モスクワの思い出 Op.6
ドヴォルザーク:ジプシーの歌 Op.55 第4番 「我が母の教え給いし歌」
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 Op.72-2
クライスラー:愛の喜び&愛の悲しみ
マスネ:タイスの瞑想曲
ファリャ(クライスラー編):スペイン舞曲第1番
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 Op.28

(アンコール)
ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女
ブラームス:ハンガリー舞曲第1番、第5番
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
 
 

 りゅーとぴあ友の会会員優待コンサートということで、会員はS席2000円(通常S席4000円、A席2500円)で聴けるというお得なコンサートです。新規入会を増やすための取り組みと思いますが、せっかくの機会ですので、聴きに行くことにしました。
 前橋さんの新潟での演奏は、2000年12月31日のジルベスターコンサート以来とのことですが、私はそのコンサートは行っていません。でも、以前新潟で聴いたことがあったように記憶していたので調べてみましたら、偶然古い記録が残っていて、昭和54年に県民会館で新日本フィル(指揮:小泉和裕)とブルッフの協奏曲を演奏したのを聴いていました。それ以来ですから実に33年ぶり。あの頃は青春してたなあと感慨にふけっております。

 さて、今週は雨が続いてうっとうしい日々でした。今日は新潟地域でも大雨警報が出ましたが、新潟市内はほどほどの雨で済んで良かったです。
 
 県民会館の情報ラウンジで音楽雑誌を読み、時間を見計らって入場。3階席は使用されませんでしたが、まずまずの入りでしょうか。いつものコンサートの顔ぶれとかなり異なり、知人を探してみましたが、誰もいませんでした。名曲コンサート的なプログラムを敬遠した人も多かったようです。周りを見回すと、前橋さんと同年代と思しきオバサマ方が多いように思われました。

 レモンイエローのドレスが鮮やかな前橋さんが松本さんと譜めくりを従えて登場して開演です。燻し銀とでも言いましょうか、ちょっと枯れたヴァイオリンの音。さらりとエルガーを演奏し、朗々とシャコンヌを演奏。貫禄ですね。

 次にベートーヴェンのクロイツェル・ソナタを持ってきて、小品ばかりの名曲コンサートで終わらせない所はさすがと思います。渋さを感じさせる水墨画のような演奏で、50年の年輪を感じさせました。

 後半は衣裳換えして鮮やかな真紅のドレスで登場し、客席からため息が上がりました。お馴染みの小品を、間を置かずに続けて演奏しました。
 渋く乾いたような演奏だった前半とは趣が異なり、後半は、フリーズドライに水を掛けたように、潤いや柔らかさを感じさせました。前半は水墨画のようだと書きましたが、後半は色彩感を感じました。ただし、油絵のような鮮やかなものではなく、水彩画のような、淡く、上品な色彩であり、輝きです。円熟した演奏とでも言いましょうか、優しく包み込まれるように感じました。
 中でもタイスの瞑想曲は心に染みました。聴き飽きた感もある超有名曲ではありますが、こんなにも柔らかな、優しさに溢れた演奏はありません。若い演奏家では表現できない何かを感じさせました。母の胸に包み込まれるようとでも言いましょうか、そんな癒しを感じました。
 そして、ファリャとサン=サーンスで盛り上げて、予定のプログラムを終了しました。アンコールは、ドビュッシーを渋く演奏し、ブラームスのハンガリー舞曲で盛り上げました。第1番だけで十分満足でしたが、譜めくりを呼び寄せて、第5番も演奏し、客席からの喝采を浴びました。
 会場は大盛り上がり。誰もがこれで終わりと思いましたが、最後にツィゴイネルワイゼンときましたから、興奮しないわけにはいきません。オバサマ方からブラボーの声が上がり、スタンディングオベーションする人もいました。

 デビュー50周年ですから、お年もそれ相当にめされたはずですが、背筋が伸びて、凛としたお姿は年齢を感じさせません。色鮮やかなドレスが良く似合い、存在感は抜群です。足が悪そうな歩き方が気になりましたが、情熱溢れるアンコールの弾きぶりからは、若い者には負けないという自身と気概が感じられました。

 そして、ピアノの松本さんも賞賛しないわけにはいきません。常に前橋さんから一歩引き、引き立て役に徹していました。親と子以上の年齢差がありますが、優しくサポートし、時には同等に渡り合い、一期一会の音楽を作り出していたように思います。
 
 最初は、50周年記念という触れ込みで、どうしてこんな小品ばかり並べるんだろうと疑問に感じましたが、50年の経験と蓄積ならではの演奏だったと思います。技術的衰えはあるはずであり、実際音がかすれたり、外れたりというような場面もないではありませんでしたが、そんなことを超越した音楽の心を伝えてくれたように思います。これからも元気で演奏活動を続けていただきたいものです。
 

(客席:2階C5−5、会員割引S席¥2000)