ジャン=マルク・ルイサダ ピアノ・リサイタル
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2011年11月21日(月) 19:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
ピアノ: ジャン=マルク・ルイサダ
 


ベートーヴェン:6つのバガテル Op.126

シューベルト:ピアノ・ソナタ 第15番 ハ長調 D.840 遺作「レリーク」

(休憩15分)

モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331「トルコ行進曲付」

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27-2「月光」

(アンコール)
ショパン:ノクターン 第17番
ベートーヴェン:エリーゼのために
J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
山田耕筰:赤とんぼ

 
 

 昨日に引き続いてのりゅーとぴあです。平日夜は厳しいのですが、仕事を大急ぎで片づけて、開演に間に合うことができました。

 ルイサダのコンサートということで、かなりの賑わいかと思っていたのですが、予想に反して会場は空席が多く、もったいなく感じました。世間での知名度は少ないのでしょうか。
 コンサートホールでのピアノリサイタルは、1〜2階のみのことも多いのですが、今回は強気に3階までフルに使用しましたので、空席がより目立ったように感じました。私の座ったCブロックは、前方こそ埋まっていましたが、後方は誰もおらず、その分、ゆったり気分で臨めて良かったとも言えます。

 開演時間となり、ルイサダが譜めくりの青年と一緒に登場しました。最初に「Good evening!」と客席に話しかけ、譜めくりの青年を紹介したりしていました。ピアノの椅子は背もたれ付の木製椅子です。

 最初はベートーヴェンの6つのバガテルが演奏されましたが、まずピアノの音の良さに感激しました。りゅーとぴあのスタインウェイから、これまでに聴いたことがないような、きれいな響きを生み出していました。
 ベートーヴェン全集を持っているので、この曲のCDはあるのですが、予習で聴くのを忘れていて、この曲を聴くのは全く初めてでした。正直言えば、不勉強で名前も知りませんでした。私の持つベートーヴェンのイメージとは違って、ロマン派的な印象も感じられ、6曲のそれぞれが、新鮮に心に響きました。
 演奏が終わってルイサダは引っ込みましたが、譜めくりの青年はステージに出たままでした。(後半も同様でした。)

 続いてはシューベルトのソナタです。シューベルトのピアノ曲は聴くことが少なく、この曲も初めて聴きました。2楽章のみの曲ですが、長大な曲です。柔らかな音色で、ゆったりと弾き、力強さの中にも優しさが感じられました。フランス的とでも言いましょうか。
 今回の日本公演のプログラムは2種類ありますが、この曲はどちらでも演奏され、ルイサダが一番メインに考えている曲のようです。非常に熱のこもった演奏であり、聴く方も演奏に引き込まれ、知らず知らずのうちに精神集中させられました。強奏でも音の濁りがないのはさすがに感じました。
 ルイサダはときどき唸り声をあげたりし、椅子をギシギシ軋ませながら弾いていました。演奏スタイルはベートーヴェンと共通しており、同じ作曲家と思うほどでした。
 この前半を聴いただけでお腹いっぱいという気分でした。当初はもう1曲(シューベルト:即興曲集より第1番)予定されていたのですが、「演奏者の芸術的意向」により中止されました。前半のボリュームを考えれば、中止してちょうど良かったと思いました。

 後半は、モーツァルトとベートーヴェンのお馴染みの曲です。前半が玄人向けの重い曲でしたので、少し気楽に聴けましたが、ポピュラーなこの曲も、ルイサダ流の味付けがされており、軽くは聴かせません。濃厚なポタージュスープ的な味わいが感じられました。品の良さを感じさせ、あのトルコ行進曲も飛ばすことなく、ゆっくりと聴かせてくれました。(ちょっと危なげな点もなくはなかったですが・・)

 月光もゆっくりと演奏が進められましたが、第3楽章では爆走しました。聴き慣れたはずのこの曲も、全く別の曲のような味付けがされ、ルイサダの世界が作られていました。

 アンコールは4曲。2曲目までは譜めくりが付いて演奏しました。アンコールの1曲目が終わっても、譜めくりの青年はステージに出たままで、まだアンコールが続くんだろうなと予想させていました。ルイサダと一緒に引っ込むべきじゃなかったでしょうか。3曲目、4曲目はルイサダひとりだけでの演奏でしたが、やはり楽譜を見ながらの演奏でした。

 アンコールを含めて、すべての曲がルイサダ流の味付けがされていて、独自の世界を形成していました。楽譜を見ながらの演奏がルイサダ流なのでしょうか。
 後半で、ルイサダはどこを演奏しているか分からなくなったようにして、譜めくりともめた場面があったのは面白かったです。

 空席だらけの客席の全方向に丁寧に挨拶し、譜めくりの青年にまで礼をしていました。こんなところにルイサダの人柄が出ているのかも知れません。

 こんなにきれいなピアノの音をここで聴くのは初めてのように思いました。そのピアノから紡ぎだされる音楽は、作曲家が違っても、全てがルイサダの音になっているように思いました。楽譜を見ながらの演奏でしたが、決して楽譜通りではなく、独自の解釈で、新たな音楽を生んでいたんじゃないかと思います。

 終演は9時20分。プログラム的にもボリューム満点でしたが、演奏内容も大満足。ベートーヴェンやシューベルトを聴いたというのではなく、ルイサダを聴いたというようなコンサートでした。良かったです。
  

(客席:2階C4-5、S席6500円)