腋の下
須田町で乗換へて、江戸川行きの電車に乗る。飯田橋で十五六の女が乗つた。眉毛が濃い。白く出した腕の線は肘の所で柔かく曲つて、袖の奥へ走る。風の吹くにつれて、女の袖がふわりふわりと動く。ちらと腋の下が見えた――十五六と思つたのが、急に十七八に見えた。
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侮辱
十二月――日夜、萬世橋で乗換へて外濠電車に乗る。前に「色の褪めた女」と云ふ様な感じがする、交換手らしいのがゐる。時々ものうい眼を上げて車内を見廻す。松住町で被布を着たハイカラ女が入つて来た。乗客の視線は一時に其方に集まる。廣く席が空いて居るのに、無理に窮屈に、褪めた女の隣に腰を下す。
而して両手を膝の風呂敷包の上にそろへてちんとすます。指には光るものがはまつて居る。被布の紫色は電気の光りに極めて華かに見える。――褪めた女は明かに侮辱された。うつむいて膝を見つめて居る。
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