『海軍兵学校教育方針』
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校長 井上成美
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| １ 如何ナル将校ヲ養成シ度キカ 帝国海軍教育ノ根本方針八厳然トシテ存ス。校長ノ意ヲ以 テ変更アルペキ筈ナシ。只本職今次ノ戦争ニ於テ特ニ強調 スルノ必要ヲ感ジタルモノニアリ。勇敢ナル将校ヲ養成シ 度キコトト原始的且素撲ナル生活ニ耐ウル気カト体カトヲ 有スル将校ヲ養成シ度キコトコレナリ。 本校ノ生徒教育ハ一方海軍士官トシテ一般社会ノ儀表トナ ルベキ気品アル高キ人格ヲ望ミ又学術ニ於テハ現代文化ノ 最尖端ニ立チテ之ヲ理解活用シ得ル高度ノ学識技術アルヲ 求メ他方戦争其ノ他ノ実務ニ当リテ困苦ニ耐ウル気カト体 カトヲ具ウルヲ要ス。此ノ三者ノ要求竝存スル処ニ生徒ノ 大ナル負担アルトトモニ又教育ノ任ニ在ル吾人ノ非常ナル 研究卜努カトヲ要スルナリ。 ２ 精神教育ニ就テ 之ガ根本ハ，御勅諭ノ御精神二明カナリ。生徒二対スル御 勅諭ノ説キ方ニ於テタゞ字句ノ解釈,衍義ニノミ終始シテ， 其ノ根本義ニ徹シ確固タル信念ニ達シ之ヲ把握セシムルコ トヲ等閑ニ付スルガ如キコトアルベカラズ。御勅諭ニ関ス ル本職ノ所見ハ別ニ記シテ配附ス。就テ熟読ヲ望ム。 精神教育ニ於テ最モ注意スペキコトハ精神教育ノ為特ニ時 間ヲ定メテ講話，訓話，訓示ヲナスコトモ必要ナルモ，カ ク改マリタル教育ヨリモ何等カノ機会ヲ捕エテ行ウ機会教 育又八躾教育ノ方一層効果的ナルコトナリ。 更ニ一歩進ンデハ機会教育又ハ躾教育ヨリモ教育者が無意 識ノ間ニ其ノ言動ニヨリテ生徒ニ与ウル感化教育ノ極メテ 大ナルカアルコトニ注意スルヲ要ス。上長ノ言動ノ善良ナ ル感化ガ改マッテ実施セル訓話，訓示ノ効果ニ補益スルハ 大イニ望マシ。万一平素教示セル所ヲソノ上長自ラガ其ノ 言動ニ於テ打壊スルガ如キコトアラバ精神教育ハ全ク失敗 セリトイワン。 ３ 躾 教 育 躾教育ハ元来家庭ニ於ケル子女ノ教育ニ於テソノ言動ニ就 キ善キヲ賞シ悪シキヲ戒メ，連綿不断ノ是正ニヨリテ良習 慣ヲ附与スルコトニ始マルナリ。之ヲ多人数ヲ有スル学校 軍隊ニ於テ実施スル場合ハ方法ニ於テ若干ノ相違ヲ来スベ キモ「良習慣ヲ附与ス」トノ根本主旨二於テハ変ルコトナ シ，タダ相手ノ人数ノ多キガ為之が徹底ニハ教官全部ノ不 断ノ努カヲ必要トス。 躾ハ良習慣ヲ附与スルガ本旨ナリ。従ッテ罪ヲ犯シテ刑ニ 触レ又ハ規律ニ違反シテ懲罰ヲ受クルガ如キ重大ナル言動 ヲ対象トスルハ其ノ本旨ニ非ズ。日常ノ軽易ナル言動ニ於 テ微細ノ点ニツキ本人ノ気付カザル点ヲ教示シテ之ヲ実行 反復セシメ遂ニ習性タラシムルヲ本旨トス。従ツテ上長自 ラノ言動が部下ノ躾ノ標準トナルコト必然ナリ。上長自ラ 気付カズシテ平気ニテ犯シ居ル如キ言動ニツキテハ部下ヲ 躾ケ得ル筈ナシ。 生徒ノ躾ニツキ本職ノ気付キタルモノ二三 （1）西生徒館卜庁舎間ノ最短距離ヲ毎日生徒ガ歩行スルガ 為二体操場ノ芝生ヲ損シ且ツ小径ヲサエ成セルハ不可ナリ。 (2）卒業式当日候補生ニシテ乗艇ノ際吾先ニト「デッキハ ウス」二靴ノママニテ上リタルモノアリシハ遺憾ナリ。 （3）官舎訪問ノ生徒ノ靴,「スリッパー」ノ脱ギ方ノ整イタ ル躾ニハ敬服セリ。以上ノ例ノ如ク躾ノ要ハ極メテ些細 ナル事ヲ見逃サヌ処二在リ。大ザッパナル人ヨリ云ワシ ムレバ「カヽル事ハ天下ノ形勢ニハ関係ナシ」卜見ラル ルガ如キ事柄二存スルナリ。尚躾ノ対象トナル事柄ハ其 ノ人人二依リテ右ニテモ左ニテモヨロシキ程ノ事二存シ 又多人数ノ生活二在リテ少数ノ者ノ違背ノ如キハ大事件 二非ザルガ為兎モスレバ見逃サルル場合多キヲ通例トス。 躾教育上生徒二与ウル言動ノ標準ナキカ。 一案アリ，研究ヲ望ム。 「自己ノ考ウルガ如ク他人が皆考エ,自己ノ考ウルガ如ク皆 言イ，自己ノ行ウガ如ク万人が行ウナラバ，其ノ社会ナリ 団体ナリガ如何ニモ良クナリ，愉快ニナルベシト認ムルコ トハ之ヲ為ス，之二反スルコトハ之ヲ為サズ」 躾教育二関スル注意事項 （1）躾教育二於テ其ノ方法ヲ誤リ「ペカラズ」ノ連発ノ為 生徒ヲシテ其ノ全精神ヲ上長ヨリ咎メラルルガ如キ事ヲ 為サザル為ノ努カノミニ注ギテ，水平線以上ノ善キ事ヲ 進ミ求メテ為サントスル努カヲ消失セシメザルコト。 （2）躾ニハ時ニハ軽度ノ体罰ヲ必要トスルコトアリ，之が 実施ハ是非共簡明直截，男性的ニシテ後口ノ悪カラザル 様注意ヲ要ス。 （3）学校内ノ事々物々ニハ生徒ノ躾上有害ナル事柄ノ存在 セザル様注意ヲ要ス。 ｏ不要ノ電燈ノ消燈 ｏ清潔 ｏ整頓，几帳面 ｏ無精 ノ不存在 ｏ当直ノ尊重 ４ 数学教育ニ就テ 数学ハ暗記スル学問ニ非ズ，考ウル学問ナル故数学教授ニ 当ッテ八分ハ生徒ニ考エサセ二分丈説明スル様ニシ度 シ。尚此ノ二分ノ説明ニ於テモ教官ノミガ活躍シ生徒が全 然受身ノ立場ヲ持スルハ宜シカラズ，出来ル丈生徒ニ考エ サセツツ生徒ガ追従シ得ル如キ調子ニテ説明ヲ進メ説明セ ル事丈ハ生徒ヲシテ講堂ニテ充分理解セシムルヨウシ度 シ。 説明解説ニ際シテハ当面ノ問題ノ解モ必要ナルモ出来ル丈 其ノ問題ヲ借リテ物ノ考エ方トハ斯クスルモノナリトノ説 明教示スルヲ必要トス。又数学ノ定理ナリ函数式ナリヲ出 シタル場合ニハ其レヲアラユル角度ヨリ検討シ之ヲ味イ之 ニヨリ生徒ノ「センス」ヲ養成スルヨウ心掛ケラレ度シ。 「センス」ハ「識」トモ云ウベク数学ヲ味イ理解スル能カト モイウベキモノナリ。 尚数学ノ「センス」ヲ育成シ願クバ生徒ヲシテ数学ニ対ス ル趣味ヲ養ウ所マデ達セシメタキモノナリ。将棋，碁，「カ ード」，麻雀,十字語謎八娯楽ナリ，而シテ其ノ楽シミハ考 ウル楽シミニ非ザルハナシ，探偵小説ノ興味ハ純粋ナル考 ウル楽シミニ存ス。 数学ヲ味ウ「センス」ノ養成ニヨリ趣味ニ進ミ得ザル理ナ シ。数学ハ難解ナリトテ趣味トハナラズト云ウ人アランモ 釣魚ノ趣味アル人ガ常ニ難シキ釣魚ニ向イ，又探偵小説ヲ 楽シム人ハ其ノ構成「トリック」が巧妙ニシテ難解ナル程 面白味ヲ覚ユルヲ見レバ数学トテモ趣味トナラザル理ナ シ。数学教官ノ工夫努カヲ望ム。 極メテ大胆ナルモ次ニ数学ヲ考ウル楽シミヲ生徒ニ植付ク ル為ノ方策ニ関スル本職ノ一案ヲ示ス，研究ヲ望ム。 （1）生ニ数学ノ「切レ味」ヲ味ワシメ数学ノ快刀乱麻ヲ 断ツガ如キ怪カヲ知覚セシムルコト。 （2）常識ニテハ関係アリト思ワレタル二事が数学ノ力ニ依 リテ始メテ無関係ナル証明ヲ得タルガ如キ場合ノ数学ノ 「有難味」ヲ知ラシムルコト。 （3）数学ハ economy of thinking, economy of labour, economy of material ニ迄持来スカアルコトヲ味ワシム ベシ 独人ハ曰ウ「英米人ハ金銭ノカニテ橋ヲ架ス，独人ニハ金 銭ナシ。然シ数学ニテ橋ヲ架ス,数学ハ金銭ヲ要セズ」卜。 数学ノ公式其ノ他一切ハ海軍生活ノ永ク継続スルニ従イ大 部分ハ忘却スベシ，サレド養ワレタル「センス」ハ忘ルル 事ナシ，数学ヲ趣味トナスニ至レバ公式モ忘レザル程二之 ヲ使ウコトトナルペシ。 然レドモ兵学校ノ数学教官ニシテ「余ハ数学ニハ趣味ヲ感 ゼズ」トイウ者アラバ吾亦何ヲカ云ワン。 ５ 理化学教育ニ就テ 前節数学教育ニ関シ述ペダル諸点ハ概ネ理化学教育ニ就テ モ亦同ジ。理化学ニ於テハ生徒ヲシテ諸現象ヲ正確ニ観察 シ之ヲ分析綜合シテ整理スルコトヲ教エ且之ニ習熟セシメ 之ヲ習性タラシムルコトニ注意スベシ。蓋シ吾人ハ海軍生 活勤務中幾多ノ理化学的現象ニ直面シ之ヲ利用シ又之ヲ征 服スルヲ要スルモ，本職ノ見ル所海軍将校ノ此等現象ニ対 スル説明，判断，処置ニシテ極メテ非科学的ノ事多ク此等 ノ非科学性が何等ノ不思議ナク通用シ居ルコト多シ。諸技 術又ハ術科ノ正常ナル進歩ヲ妨グルコト之ヨリ大ナルハナ シト認ムルナリ。 理化学ノ諸実験，計測ヲ生徒ガ行ウ場合測定ノ誤差，観測 ノ誤差入リ来ルペシ。実験スル立場ヨリ見レバ此等ノ誤差 ナルモノハ誠ニ厄介物ナル故誤差ノ入リ来ルヲ嫌ウハ当然 ナルベキモ本職ヲシテ云ワシムレバ実験ノ際ノ誤差ハ寧ロ 歓迎スペキナリ。教官ハ須ク此等ノ誤差ヲ厄介視シテ簡単 二「之ハ差ナリ」卜片付クルコトヲナサズ，生徒ヲシテ 誤差ノ質的及量的検討ヲ為サシメ誤差ニ充分親マシムルヨ ウ指導教授スベシ。 蓋シ吾人ノ勤務百般ノ事誤差ヲ含マザルモノナク由来名航 海長，名砲術長，名飛行将校等ハ何レモ此ノ誤差ニ対スル 観念明確ニシテ其ノ判断処置ノ適切ナルニ因ルト見ルモ過 言ニ非サルベツ。 理化学教育ノ実施ハ出来ル限り実験ヲ以テシ生徒ノ五感ヲ 通ジテ習得セシムルヨウ実施スベシ。生徒ヲシテ「電鈴」 「ラジオ」受信機ヲ作ラシムルガ如キ教育法ハ之二仕払ウ 時間ハ相当大ナルベキモ之ニ因リテ得ル所ハ費ス所ヲ償ッ テ余アリト信ズ。 ６ 外国語教育ニ就テ 最近日本精神運動勃興シ拝外思想ヲ排斥スル思潮盛ナリ。 誠ニ結構ナル事ナルモ此等ノ運ニ従事スル人物ノ主張ス ル所概ネ浅薄軽卒ニシテ島国根性ヲ脱セズ，外国語ヲモ眼 ノ仇ノ如ク為ス者多ク為ニ中等学校ニ於ケル英語熱ノ誠ニ 振ワザルモノアルハ遺憾ナリ。本職ハ明言ス「此等浅薄ナ ル日本精神運動家ノ外国語排斥ノ如キ似而非ナル愛国運動 家ノ言ニ雷同スベカラズ」卜。（日本精神ハ此クノ如ク狭量 ナル又左様ニ簡単ナルモノニ非ズ，精神運動ヲ起サネバナ ラズト感ジ居ル人コソ自身日本精神ニ欠クル有ルニ非ズ ヤ，運動等セズトモ日本精神ハ日本人ノ血ノ中ニ厳然トシ テ存ス）。再言ス「外国語ハ海軍将校トシテ大切ナル学術ナ リ」。 英語ハ学問ニ非ズシテ技術ナリ。（少クトモ兵学校教程ニ示 ス英語ハ）言葉ハ人種同志ノ符牒ニシテ規約ナリ。其ノ使 イ方ヲ知り之ニ習熟スルコトガ其ノ技術ヲ習得スル所以ナ ルモ本校教程ハ時数少ク之ヲ望ミ得ザルガ如シ。然シ英語 ニ対スル「センス」ハ充分ニ之ヲ育成シテ卒業セシムル必 要アリ，「センス」ハ音楽ヲ解スル為ノ音楽ノ「センス」美 術ヲ鑑賞スル為ノ美術眼ニ比スベシ。英語ノミナラズ外国 語ヲ解スル力ヲ有スルコトハ感覚ヲ一ツ余分ニ所有スル丈 ノ利アリ。少クトモ肉眼ニ加ウルニ望遠鏡ナリ顕微鏡ナリ ヲ以テスル丈ノ利アルヲ信ズ。 外国語ニ対スル「センス」養成ノ方策ハ外国語二愈多ク親 シム事ニ外ナラザルモ本校ノ如キ時間少キ場合之ヲ望ムモ 結局ハ虻蜂取ラズトナルベシ。 依ッテ本職ハ次ニ一案ヲ提ス。（極メテ大胆ナル表現ナル モ） （1）兵学校ノ英語教育ハ文法ヲ基礎トシ骨幹トスベシ。 （2）英語ハ頭ヨリ読ミ意味ノ分ルコトヲ目標トスベシ。英文 ヲ和訳セシムルハ英語ノ「センス」ヲ養ウニ害アリ，和訳 ニ力ヲ入ルルハ英語ノ稽古ナルカ日本語ノ稽古ナルカ分ラ ザルヨウニナルベシ。和訳ハ英語ヲ読ミ乍ラ英語ニテ考ウ ルコトヲ妨ゲ反対ニ英語ヲ読ミ乍ラ日本語ニテ考ウルコト ヲ強ウルヲ以テナリ。 （3）常用語ハ徹底的ニ反復活用練習セシムペシ。 （4）常用語ニ接シテハ其ノｗｏｒd family ヲ集メシメ語変化 ニ対スル「センス」ヲ養ウベシ。 （5）英文和訳ノ害アルガ如ク英語ノ単語ヲ無理ニ日本語ニ置 キ替エ訳スルハ百害アリテ一利ナシ，英語ノ「ｓｅｒｖｉｃｅ」ノ 如キ語ヲ日本語ニ正確ニ訳シ得ザルハ日本ノ「わび」トカ 「さび」トカ云ウ幽玄ナル語ヲ英語ニ訳シ得ザルト同ジ。 ７ 国語漢文教育ニ就テ 兵学校ニ於ケル国語漢文ノ教育ハ海軍用文，法律文，公文 一般ヲ正確ニ解読シ得ルコト及此等ヲ正確ニ作成シ得ルヲ 先決要件トス，時間ニ余カアラバ古典ヲ読マセ古人ノ思想 芸術ニ触ルルモ可ナリ。 漢文ノ「反り読ミ」ハ漢文ニ対スル「センス」ヲ養ウニ害 アリ，棒読ミニスベキモノナリ，然シ今トナリテハ遅ク遺 憾千万ナリ。支那人ノ作リシ詩等ヲ日本読ミニ反り読ミシ テ何ノ妙味アリトスルカ，真意ヲ曲解セラレテ詩人ノ地下 ニ泣クモノアラン。 ８ 歴史教育ニ就テ 歴史教育ニ於テハ史実ヲ暗記セシムル必要ナシ。国家興亡 ノツ因ッテ来ル因果ヲ正確ニ把握スルヨウ「歴史ノ読ミ方」 ヲ教ウベシ。本職ノ此処ニイウ「正確ニ把握ス」トハ史実 ニ固着セズ其ノ根底ヲ掴マシムルノ謂ナルニ注意スベシ。 何故斯ク断言スルカト云ウニ現二海軍将校中歴史家トイウ 如キ人々ハ余リニ歴史ノ表面ノ事実ノミニ固着シ時代ノ進 歩二応ジ史実ヲ活用スルノ能カユ欠クル人士多ク航空機ノ 出現進歩ノ如キ事実ヲ正視スル明ナク，依然トシテ旧套ヲ 脱セザル主張ヲナシ軍艦ダニ多クバ海防ハ安全ナリトノ如 キ思想ヲ脱シ切レザル人士多キヲ見ルガ故ナリ。是レ歴史 ノ罪二非ズシテ歴史ノ読ミ方ヲ知ラザルノ罪ナリ。歴史教 官ノ工夫，研究ヲ促シ度シ。 ９ 自学自習ニ就テ 教育ハ習イタル事ヲ自己ニテ考エ思案シテ始メテ自己ノモ ノトナル，自学トハ習ワズシテ初メヨリ思案ニヨリテ習得 スルナリ。故ニ学習ハ自学ヲ最良トス。然レドモ絶対的自 学ニハ次ノ如キ危険アリ。 （1）誤解ヲ正解卜思イ込ムコト。 （2）自己ノ解ノ拙劣ナル場合，一層気ノ利イタル解法アル モ之ヲ知ルニ由ナシ。 （3）自己ニテ全解卜思イ込ミ居ルコトモ突込ンデ問ワルル トキハ生半解ノコトアリ。 此故ニ自学ニモ「締メククリ」ヲ必要トス。教官ノ必要ナ ル所以ナリ。 尚自学実施ノ為ニハ （1）教科書ヲ自学用ニ適当ナルヨウ編纂スルノ要アリ。 （2）非常ニ多数ノ教材ヲ必要トス。 （3）生徒ニ非常ニ多クノ時間ヲ与ウルノ要アリ。 従ッテ絶対的自学ハ本校ニ於テハ実施不可能ナリ。然レド モ自学ノ利ハ厳然トシテ存ス。故ニ各科教官ハナシ得ル限 り生徒ニ自学セシムルヨウ計画シ実施スルヲ希望ス。 自習ノ量（時間的）ハ生徒ノ能カニ因リテ同ジカラズ，優者 卜劣者トニ其ノ相違アルバ当然ナリ。又生徒ノ個人的性能 ノ差異ニ依り各課目ニ割当ツル自習ノ量モ各人同ジカラザ ルハ当然ナリ。従ッテ自習ノ内容ハ生徒各自ノ選定ニ委ス ノ要アリ，是レ講堂ニ於ケル自学ヲ不可トスル理由ナリ。 故ニ生徒ノ日課ノ案配ハ課業時間ヲ成ルペク減ジ自由時間 ヲ成ルベク多ク生徒ニ与ウルノ必要アリ。 （註）此処ニ自習トイウハ強チ机ニ向ッテ教科書ヲ読ミ 「ノート」ヲ整理スルコトノミヲ謂ウニ非ズ,速歩行進ノ練 習モ敬礼ノ稽古モ号令演習モ体操ヲ行ウモ海岸ニ立チテ海 図卜山形ヲ比較スルモ木刀ヲ振ウモ皆自習ナリ。 温習時間ハ原則トシテ設クルノ要ナク，自由ノ時間ハ 生徒各自必要ナラバ皆自習時間トナルヲ原則トス。然シ自 習ノ内容ニ依リテハ静粛ヲ必要トスルモノアルヲ以テ全員 静粛ノ時間ヲ一日何時間カ与ウルコトノ必要アリ，是レ温 習時間ヲ設クル所以ナリ。 尚温習時間ハ生徒各人一様ニ静粛ニスル義務アリ，又静粛 ヲ害サレザル権利モアリ，時間一杯自習スル権利モアル次 第ナリ。之ハ教官モ監事モ上級生モ尊重スルノ要アルベ シ，一号生徒卜雖モサホド由ナキ御達シノ為ニ温習時間ヲ 勝手ニ利用スル権能ナシ。（厳密ナル法的見解ニヨレバ） 10 生徒ノ生活ニ就テ 「生活ハ愉快二」之ハ本職ノ方針ナリ。 生徒ノ生活ヲ愉快ナラシムル為ニハ （1）生徒ヲシテ精神身体ノ両方面ニ今少シ「ユトリ」ヲ与ウルコト。 （2）日課行事ニ変化ヲ与ウルコト。 （3）学習ニ変化ヲ与ウルコト。 ノ必要ヲ感ズ。生活ハ訓育トモ密接ノ関係アリ。生徒ノ生 活ニ余裕ヲ有セシノザル時ハ（一）心ノ潤イ（二）寛容ナル気 持（三）進ソデ事ヲ為サソトスル気持 （四）他人ノ立場ヲ尊 重スル気持 ㈲他人二親切ヲ尽ス気持 ㈲他人二同情スル 気持ヲ失イ動モスレバ自己ノ事ノミニ追ワレ我利二走ラシ ムル危険アリ。 本職が生徒ヲシテ一日一度ニテモヨロシキ故心ノ底ヨリ笑 ウ機会ヲ作ラシムベシトイウハ其ノ意味ナリ。「真面目ナル 生活トハ笑ナキ生活ナリ」卜思ウハ誤ナリ。 尚訓育上余リ二「ベカラズ」ノ一方的注入二傾クコトハ将 来大木トシテ生長スベキ生徒ヲ盆栽ニスル懼アリ，常二注 意シテ円満ニシテ豊カナル人間味ノアル生徒二育テ度キ念 願ヲ有ス。 鍛ウベキ時ニハアクマデ鍛ウペシ，然シ温味ノ無キ「枯木 寄寒巌」的人格ヲ作り度クナシ，是レ生活問題ヲ特二取り 上グル所以ナリ。 11 考査二就テ 考査ノ目的ハ （1）生徒ガ得セル学術修得ノ程度ヲ検シ爾後ノ教育計画 二資スルコト。 （2）考査前生徒ノ勉学ニヨリ習イタル学術ガ頭ノ中ニテ整 理サレ纒マルコト。 （3）副次的乍ラ生徒ノ成績決定ノ資料ヲ得ルコト。 ニ在ルベキモ，実際ハ考査ノ成績ニテ次期ノ教育ヲ何程案 配シ居ルカ，次期ハ次期ニテ新ニ教ウベキ事項山積シテ待 チ構エ居ルガ現状ナルベシ。 考査前ノ生徒ノ自習勉強ハ極メテ不充分ニシテ考査前ノ自 習ヲ以テ教育ノ大ナル要素トハナシ難キ実情ナリ。尚考査 ノ成績ヲ以テ生徒ノ優劣決定ノ資料ヲ得ルガ為ナラバ現行 ノ考査ハ果シテ妥当ナリヤ否ヤ疑ハシ。考査ノ時間マデ教 科書ヤ「ノート」ヲ空暗記シテ居テ良キ答案が出来レバ後 ハ皆忘ルルガ如キ生徒ニシテ尚且優等生タリ得ルニアラズヤ。 依ッテ （1）生徒卒業時又ハ学年終業時ノ生徒ノ実カノ査定が各科 目ニツキテ可能ナラバ余ハ考査全廃ニ躊躇セズ （2）考査廃シ難シト為スナラバ遽カ勉強ノ直チニ消失スル ガ如キ空暗記セル事項ノ暗記ノ程度ヲ試ミル問題ヲ止メ 理解ノ程度活用実カノ程度ヲ確メ得ル如キ問題ヲ課スベ シ，之が為考査ノ際教科書「ノート」ノ使用ヲ許スモ差 支ナシ 以上ノ如キ考査ノ実行ニヨリ生徒ノ学習態度ハ一変シ棒暗 記ニテ答ヲゴマカスガ如キ生徒ハ無クナリ仕事ノ出来ル活 用ノ実力具ワリタル生徒が出来ルベシ。仕事ノ出来ル活用 ノ実カハ卒業ノ際身ニツキタル学術トシテ具有シ永ク忘レ ザルコト訓練各科目ノ技術ノ如クナルベシ。 校長が何程生徒ニ身ニツキタル学術ヲ習得セヨ，実カヲ有 スル人トナレト口ヲ酸クシテ訓示ノ百万遍ヲナストモ考査 ガ之ヲ目標トシテ行ワレズ成績ノ優劣が之ニヨリテ決スル 間ハ生徒が一夜作リノ空暗記ノ学習ニ趨クハ当然ナリ，教 官各位ノ研究工夫ヲ望ム。 12 成績卜席次ニ就テ 生徒ニ対シテハ「成績ハ優秀ナレ但シ席次ハ争ウペカラ ズ」卜教エラレタシ。尚生徒ニ対シ「自己ヲ少シハ海軍ノ 御役ニ立ツ人間卜考ウルナラバ自己ヨリ優レタル人ハ一層 海軍ノ御為ニナル人物ナリト考エ之ヲ尊敬スベク，非常ニ 優レタル人物ハ之ヲ海軍ノ至宝卜考エ此ノ人ヲ尊敬シ大事 ニシ其ノ発展向上ヲ喜ブ様ニスベシ。自分ヨリ優秀ナル人 物ヲ恰モ自己ノ生存競争ノ競争相手ニテモアルガ如ク考エ 競争意識ヲ働カスガ如キコトナキ様」指導シ度シ。 尚兵学校卒業ノ席次ガ必ズシモ本人ノ生涯ヲ左右スルモノ ニ非ザルコトヲ理解セシムベク要ハ実カヲ有スル事，高キ 人格ヲ有スル事，強健ナル体カヲ有スル事ガ将来ヲ左右ス ルモノナル故此ノ三者ノ基礎ヲシカト生徒ノ間ニ把握修練 スルコトヲ心掛ケシムベシ。 軍神トナラレシ若キ方々ノ卒業席次ハ調ベモセザレド決シ テ最優等ノ席次ノ方バカリニテハナカルベシ。 大将ニナル事ハ決シテ吾人ノ目標ニハアラズ。サレド上級 ニナレバナル丈大キナル責任ヲ委セラレ其レ丈大キナル御 奉公が出来ル故大将卜迄ナラレシ方々ハ何卜申シテモ海軍 ノ御為ニナッテ居ラルル方々卜考エザルヲ得ズ。 今試ニ現役ノ大将方ノ兵学校御卒業ノ席次ヲ見ルニ次ノ如シ。 永 野 大 将 104人中 ２番 加 藤 大 将 187人中 ５番 長谷川 大 将 187人中 6番 及 川 大 将 187人中 76番 塩 沢 大 将 191人中 ２番 山 本 大 将 191人中 11番 吉 田 大 将 191人中 12番 島 田 大 将 191人中 27番 豊 田 大 将 169人中 26番 古 賀 大 将 175人中 14番 13 天才教育 天才ナルモノガ此ノ世ノ中ニ在リヤ否ヤ（努カノ結晶ヲ簡 単ニ天才卜云イテ片附ケルコト多キガ如シ）又在リトスル モ夫レガ果シテ海軍兵学校将校トシテ適材ナリヤ否ヤハ別 問題トシ，生徒ノ中ニハ所謂天才的ニ一学一技ニ優レタル 者ハ在ルペシ。「天分ヲ展バセ」トハ近時吾国ノ一般教育界 ニ於テ喧シク論ゼラレ，如何ニモ尤モラシク聞エ，又耳障 リモ何トナク文化的ナル為，動モスレバ之ニ無条件ニ共鳴 スル者多シ。 然レドモ海軍兵学校ノ教育ハ劃一教育ニシテ，天才教育ハ 不可ナリ。理由ハ至極簡単ニシテ，海軍兵学校卒業者ハ全 部卒業卜同時二海軍少尉候補生ヲ命ゼラレ，又年ナラズシ テ海軍少尉二任官ス。海軍少尉卜中申セバ，海軍高等武官ニ シテ国家ヨリハ夫レ相当ノ礼遇ヲ与エラレ，又海軍トシテ ハ夫レ相当ノ職ヲ課シ，且身分柄軍隊ノ指揮権ヲ保有スル 次第ナリ。而シテ少尉任官ノ為ニハ特別ノ試験考査無シ。 故ニ本校卒業者ニハ一様ニ此ノ任官ニ所要ノ最低限度ノ能 力(徳，智，礼)丈ハ附与シテ卒業セシムルノ要アリ。 兵学校ノ教程ハ其ノ基準ナリ。従ッテ本校ハ生徒全部ガ少 クモ水準迄ハ達スルコトヲ以テ其ノ教育ノ目標トナスベ ク，万一此ノ水準ニ達セザル者ハ之ヲ卒業セシムルコトヲ 得ズ。又将来此ノ水準ニ達セシムル見込ナキ者ハ之ヲ退校 セシムベキモノナリ。 故ニ本校生徒教育ノ目標ハ極メテ明瞭ニシテ退校者ヲ無ク シ又落第者ヲ無クスルコトガ第一。次ニ全体ノ修業成績ヲ 良キガ上ニモ之ヲ向上セシムルコト其ノ第ニナリ。此ノ故 ニ学校ノ努カハ先ズ劣等者ヲ無クスルコトニ注ガルベキナリ。 勿論右ノ意味ニ於ケル教育ノ実地ニ当リ，生徒各人ハ皆夫 夫ノ天分ヲ有シ本人亦之ニ気付カズニ居ルコト多キ故ニ， 教官ガ之ヲ見出シテ之ヲ培養スル気持ニテ教育スル広キ意 味ノ天分教育，啓発教育ハ当然之ヲ行ウベシ。但数学ノ天 才，語学ノ天才，其ノ他種々ノ天才的ノ生徒アル場合，若 シ夫レ教官ニシテ之等優秀生徒ノ天分ヲ展バスコトニ興味 ヲ持チ之ガ培養二努カスルノ余カガ有リトセバ其ノ余カハ 劣等者ヲ指導向上スルコトニ注ガルペシト云ウニ在リ。所 謂天才ヤ優秀生徒ハ兵学校トシテハ放ッテ置イテ可ナリ。 14 学士カ丁稚力 前節ニ於テ海軍兵学校生徒教育ノ最低水準線ハ少尉ニ一様 ニ任官セシメ得ル軍人ヲ仕上グルニ在リト述ベタルガ，此 処ニ目標トセル少尉トハ目前ノ職が直グ勤マルノミノ人ヲ 謂ウニ非ズシテ其処ニハ双葉ノ若木ノ如キ生長発育ノ潜在 カヲ有スルヲ必要トスルコト勿論ニシテ，何レカト云エバ 大木二成長スペキ「ポテンシャル」Ｐｏtｅｎtialヲ持タシム ルコトコソ本校教育ノ重点トスル所ナレ。少尉又ハ候補生 ガ艦船部隊ニ配属セラレ，配置ヲ与エラレタル場合ニ即刻 其ノ職ハ満足ニ成シ得ズトモ致シ方ナシ。其ノ当テラレタ ル職ナリ配置ナリニ就キ自ラ研究センニ短時日ニテ夫レガ 手ニ入ルガ如キ所謂「物ヲコナス能力」ヲ有スルト共ニ将 来漸次階級ガ進ミ又科学ガ進歩スルニ応ジ，順次其境遇ニ 対スル所要ノ研究ナリ修業ナリヲ自ラ成シ得ル如キ素地ヲ 有セシムルコトガ本校教育ノ眼目ナリ。即チ丁稚ハ本校教 育ノ目標二非ズ。本校教育ハ依然学士様ヲ養成スルコトナリ。 現在戦時ナルガ故ニ戦時体制等卜称シ，何事モ直チニ間ニ 合ウ事ヲ目標トスルコト国内一般ノ風潮ナリ。之ハ事柄ニ 因ル。戦争ニ従事スベキ軍人ノ教育ヲ行ウ兵学校ニ於テコ ノ戦時体制ノ教育ヲ必要トナスガ如ク考エラルルモ，実ハ 然ラズ。国家百年ノ計ヲ考エ将来永久ニ益々発展スベキ帝 国海軍ノ核心タルペキ将校ノ責務ニ思ヲ致ストキ本校ノ生 徒教育ハ眼前ノ打算ニ禍セラレ，累ヲ遠キ将来ニ遺スガ如 キコトヲナスペキニ非ズト認ム。 15 科学的躾 海軍将校ハ其ノ勤務及生活ニ於テ高度ノ科学性ヲ要求セラ ル。然ルニ現在迄ノ海軍将校ノ夫レニハ猶幾多ノ非科学性 ノ存在スルヲ見ルハ誠ニ遺感トスル所ナリ。是レ日本人一 般ノ科学水準ノ低キコト其ノ主因ナルペシト雖モサリトテ 之ヲ放任スペキニ非ズ。之ヲ克服スルコトハ本校科学教育 ノ任ナルベシ。 是ニ於テ吾々ハ本校ノ科学教育ガ生徒ノ生活ナリ勤務ナリ ト遊離シ居ルガ如キコトナキヤ又生徒ニ対スル理化学教育 ガ生徒ノ身ニ着カズ，科学教育ガ講堂内ノ教科書紙上ノ極 メテ抽象的ナル事ノ空暗記ニ終始シ居ルガ如キコトナキヨ ウ反省スルノ要アリト認ム。仍テ本職ハ此処ニ生徒ニ対ス ル科学的躾ヲ提唱ス。 教官監事ハ教務時間中ハ勿論訓練中及生徒生活ノ総テニ於 テ，生徒ノ行為作業ノ細部ニ就テ，其ノ非科学性ヲ見バ根 気強ク之ヲ教示是正スルト共ニ進ンデハ何時モ生徒ヲシテ 其ノ行為，作業ヲ科学的ニ合理的ナラシムルノ習性ヲ養ウ ヲ必要トス。 此ノ機会ハ特ニ生徒ガ理化学電機機関ノ実験又ハ工作等ノ 実習ヲナスノ際ニ於テ最多カルペク，教官及補佐官教員等 ハ終始生徒ノ作業ニ注意シ，其ノ非科学性ヲ見バ現場ニ於 テ之ヲ教示スルヲ肝要トス。実験又ハ実習ニ於テ其ノ最後 ノ成果又八成績サエ得レバ夫レニテ満足スル如キ態度ハ不 可ナリ。実験又ハ実習中幾多之ニ附随シテ習得体験スベキ 事項多キノミナラズ，此ノ一見道草的ニ見ユル而カモ些細 ニ見ユルコトヲ利用スル所ニ真ノ教育，身ニ着キタル学問 ヲ為ス機会多シト認ム。 尚生徒ノ科学的躾ノ前提トシテ必要ナコトハ校内全般ノ事 物ニ些カモ非科学的ナル事柄ヲ存在セシメザルコトナリ。 之ニ関シテハ理化学教官ハ率先之ニ当ルベク職員全部が之 ヲ理解努カスルヲ要ス。 （1）校内電気時計ガ冬期渇水期ニ会シ，電気会社ノ「サイ クル」減少ノ結果，全然時計ノ用ヲ為サザルヲ放置シ在 リシハ其ノ悪例ニシテ，本年一月以来機関科教官ノ非常 ナル理解卜努カトニ依リ，本校内限り正確ニ作動スルニ 至リシハ生徒ノ科学的躾上ノ好例ナリ。 （2）普通学講堂ノ照明用変圧器が著シキカ量不足ナルヲ指 摘シ之ヲ改良セシモ好例ナリ。 （3）生徒浴槽ノ湯ノ温度ハ摂氏何度ヲ標準トセルカ寒暖計 ヲ使用シ調節セルヤ否ヤ （4）1月23日ノ兎狩ニ際シ生徒ノ海上輸送計画ニ於テ水 雷艇ノ「カッター」曳航能力ガ問題トナリシ際，誰モ「カ ッター」ニ或ル員数ノ生徒ヲ乗セタル場合ノ抵抗ヲ基礎 トシテ之ヲ論ズル者ナカリシハ其ノ悪例ナリ。 （5）目下生徒ノ睡眠時間ノ研究ヲ行イツツアルガ其ノ方法 ハ良キ手本ニシテ生徒二物ノ研究ノ態度ヲ教示スルコト トナルベシ。 16 教科書ニ就テ 卒業前返納スベキモノハ別トシテ，其ノ他ノ教科書ハ生徒 卒業後モ相当永ク海軍青年将校ノ必携書トナルガ如キ気持 ニテ編纂スルヲ可トス。教科書ハ考査迄使エバ足り卒業後 ハ用ナシトナスガ如キ考エ方ニハ同意セズ。 従ッテ教科書ノ内容ハ相当ノ普遍性卜持久性トヲ有セシム ルノ要アリ。教科書ニハ其ノ年其ノ年ノ教ウル内容卜厳格 ニ合致セシムルノ要ナシ。本校ノ教育ハ教科書ヲ使用シテ 之ヲ実施スルモ教科書所載ノ事項ナルガ故ニ全部教エザル ペカラズト為スノ要ナシ。教科書ハ相当完備セル良キモノ ヲ一度作り置キ爾後必要ニ応ジテ追加補足スル分ハ別刷ノ 追補又ハ続編等トシテ加刷スルハ可ナルモ一々教科書ヲ改 版スルハ愚ナリ。同様教程ヨリ削除セルノ故ヲ以テ之ヲ過 敏ニ教科書ヨリ削除スルノ要ナシ。 卒業後ソノ人ノ進路又ハ境遇ニ由り学校ニテ教エヲ受ケザ リシ部分モ時機ヲ得バ本校ノ教科書ニ就キ自力研究ヲナス ベシトノ原則ニ依り教科書ヲ作ルヲ可トス。 之ガ為ニ現在ハ三年ノ短縮教程ナルモ教科書ハ四年教程 （四年制ヲ一応可トスルナラバ）ノ完全ナルモノヲ整備シ之 が使用ニ充ツベキヲ期シテ計画スルヲ要ス。 17 自信カノ養成 生徒ノ学習ニ於テ各種課題ヲ生徒が解ク場合，其ノ答ナリ 解ナリガ正シキヤ否ヤハ結局教官ヨリ検討指導ヲ受クル所 ナルヲ以テ生徒ハ自学，自啓卜謂ウモ特別ノ優秀者ヲ除キ テハ其ノ大部ハ真ノ意味ノ自力解決ヲナセリト見ルヲ得 ズ。 生徒ハ数学又ハ理化学ノ演習問題ヲ解ク場合，自己ノ解法 ナリ計算ナリノ結果ヲ何程ノ自信ヲ以テ主張シ得ルカ，六 分儀ニヨル測角ニ於テ生徒ハ何程ノ信頼ヲ自己ノ測値ニ有 シ居ルカ。何時モ結果ガ出レバ直チニ之ヲ教官二出シテ正 否ヲ確メ合ッテ居レバ夫レナリニ安心シテ顧ミズ，合ツテ 居ラザレバ「左様ヵ」位ニ簡単ニ片附ケ居ラザルヤ。 生徒トシテ右ノ態度ハ修行中ナル故或ハ致シ方ナシト見ル モアラン，サレド生徒ハ卒業後ハ実施部隊ノ実地ノ勤務ニ 服スルモノナリ。此ノ場合将校トシテハ自己ノ測値ナリ計 算ナリ解法ナリニ対シテハ自ラ其ノ結果二責任ヲ負イ自己 ノ結果ヲ基礎トシテ責任アル行為ナリ作業ナリヲ行ウヲ要 ス。其ノ時ハ自己ノ解法ナリ答ナリヲ検セラルルノ教官ハ 居ラズ。生徒ノ間ニ出来ル丈依頼心ヲ起サザル様「自分ノ 事ハ自分デ」卜考エ自己ノ作業ニ自信カヲ漸次持タシムル 様指導スルコト最緊要ナリ。 （1）数学，理化学ノ問題ニ答ヲ附セル教科書アリ。本主旨 ニ反ス。先般第二学年ノカ学ノ教授ヲ見タルニ問題ヲ解 クニ教科書ノ答卜見合セツツ之ヲ解ク者多シ。自己ノ解 法ノ正否及計算ノ正否ハ何等カノエ夫ニ依リ自ラ之ヲ検 討シ一旦自己が正シト為シタル上ハ之二自信ヲ持チ得ル 様指導スルノ要アリ （2）1月18日0800ノ軍艦旗掲揚ノ際生徒ノ報ジタル ８時ハ一戦隊８時卜１分ノ差アリタリ。学校内ニ於テハ 「生徒が１分間違エタ」ニテ相済ムモ実務ニ於テハ将校 ハ之ニ責任ヲ有ス。過誤ハ失敗ニ因ッテ表面化ス，事前 ニ誰モ之ヲ是正セラルル人ナキヲ想ウペシ。時計１分ノ 過誤ハ艦位ニ大ナル偏位ヲ招来ス。故ニ生徒ニハ８時ヲ 正確ニ知ルノ練習ヲナスニ於テモ自己ノ仕事ニハ誤り 無シト主張シ得ル迄ノ事前ノ注意考慮等百方手段ヲ尽ス 習慣，念ニハ念ヲ入ルル習慣ヲ養ワシムル様指導スルヲ 要ス。講堂ニ行キテ忘レ物ヲ生徒館ニ取リニ来ルガ如キ コトナキ様注意スルト其ノ心掛ハ同一ナリ。 18 努カトソノ成果 世ノ中ニハ優秀者ヲ目シテ彼ハ天才ナリト簡単二片附ケ， 其ノ蔭ニ余人ノ知ラザル非常ナル努カノアルコトヲ看過ス ルコト多シ。本職昭和ノ初メ日本郵船会社Ｈ丸船客トシテ 旅行シタルコトアリ。アル日ノタ食後某船長ノ発案ニテ加 算ノ競争ヲ致スコトトナリ，他ノ一般客出題者トナリ， 四桁ノ数約10許リヲ連続読ミ上ゲタル故，本職之ヲ紙片ニ 記シイザ今ヨリ計算ニカカラソトスル時船長ハ早クモ答ヲ 出シタリ。船長ハ之ヲ全部暗算ニテ加算セルナリ。余驚キ テ其法ヲ問ウニ，曰ク頭ノ中ニテ珠算ヲ行エルナリトノ答 ナリシ故如何ニシテ左様ナルコトガ出来ルカトノ問ニ対シ 船長ハ次ノ如ク説明セリ。「船乗ハ船橋ニ立チ乍ラ雨ノ中又 ハ暗中ニテ計算ヲ正確ニ且早ク行ウ必要アリ，之が為余ハ 船乗リ生活ノ最初ヨリ今日迄暗算ノ練習ヲ続ケタリ。多ク ハ厠ノ中ニ坐シ居ル無用ナル時間ヲ之ニ充テタリ」卜。此 ノ事実ハ吾人生徒教育ニ従事スル者ニ重大ナルコトヲ教ウ ルモノナリ。即チ人ハ努カニ依ッテ殆ンド天才的卜思ワル ル如キ水準ニ達スルモノナルコトナリ。努カトハ機関ノ仕 事ニ該当ス。今某ノ或ル事物ニ対スル努カヲ分析シテ考ウ ルニ其ノ人ノ能力（馬力ニ相当）ヲＡ効率ヲＥ努カセル時間 ヲｔトセバ努カハＡ×ＥＸｆ(t)卜見ルヲ得ベシ。努カノ最 モ簡単ナル方法ハ時間ヲ懸クルコトナリ。生徒ハ教官又ハ 監事ヨリ努カセヨト注意セラルルトキハ必ズ時間ニ走ルペ シ。然レド吾々ハ今少シ此ノ努カノ内容ヲ検シ親切ニ具体 的ニ生徒ヲ指導スルノ要アリト認ム，即チ努カノ一要素ト シテｔヲ大ナラシムルコトモサル事ナガラ生徒ノＡナリＥ ナリヲ大ナラシムル方法ニモ着眼シ生徒ヲ指導スルヲ要 ス。之ニ関シ本職ノ所見ハ時機ヲ更メテ述ブルコトトス。 19 学習能カノ要素 学習ニ向ケラル努カノ量ハ其ノ人ノ学習能力Ａ卜学習効率 Ｅ及学習ニ消費セル時間ノ或ル函数f(x)トノ相乗積卜考 ウルコトヲ得ベシ。 （1）学習能カトハ或ル時機ニ於ケル量ヲ考エタルモノニシ テ学習中ハ一般ニ増シ怠慢ニヨリテ減ズペシ。 （2）学習効率モ前項ノ能カノ如ク変化スベシ。今此ノ学習 能カノ内容ヲ考ウルニ実際的ナル見方（心理学上非難ハ アルペキモ）トシテ其ノ人ノ有スル記憶カト理解力卜思 考カトノ合成卜見テ差支ナカルベシ。（合成ノ形が和ナル ヤ積ナルヤ又ハ他ノ複雑ナル形トナルヤハ別ノ研究トシ置ク） 学術ハ理解セラレ之ガ記憶セラレ集積シテ智識トナル。 智識ハ思考カニヨリテ活動シテ演練ヲ重ネテ自己ノモノ トナル。 智識ノ増加ハ理解カヲ増シ又思考カヲモ増進ス。 思考カノ増加八又理解カヲ増加ス。 記憶カハ智識ノ保有集積率卜称スベク，智識向上ノ重要 ナル要素ナリ。此ノ記憶力卜思考カトハ学習能カノ根本 要素ナルガ如シ。 20 記憶訓練 人多クハ記憶ノ良否ヲ目シテ宿命的ナル天分ノ差異トナシ 半バ諦ノノ意味ヲ以テ之ヲ考ウ。勿論記憶ノ良否ハ多分ニ 天分ニ因ル所アルモ余ノ見ル所記憶カモ訓練ニヨリ之ヲ向 上セシムルコトヲ得卜信ズ。 記憶作用ハ心理学的ニ云ワシムレバ難カシカルベキモ大ザ ッパナル実際的ナル見方ヲナセバ次ノ三段階二分チ考ウル コトヲ得ベシ。 （1）記憶セントスル事物ヲ正シク印象付クル作用 （2）上ノ印象ヲ保有スル作用 （3）必要ノ際ニ之ヲ再生スル作用 之ヲ物品ニ譬ウルナラバ物品ヲ「格納」スル作用「保存」 スル作用及「取り出シ」ノ作用ニ相似タリ。海軍軍需部 ノ仕事ニ類ス。 第１作用 事象ヲ正シク強ク印象付クルコトハ記憶ノ第一条件ニシテ 之が方策トシテハ （1）精神ノ集中 （2）完全ナル理解（事柄ヲ理由卜共ニ記憶スルコト,既有ノ 智識卜比較スルコト，事柄ヲ無秩序ニ置カズ完結セル組 織ニスルコト等ヲ含ム） （3）反復 ノ三ケ条ニ帰セシムルヲ得ベシ。 精神ノ集中ハ上ノ中最重要ナルモノニシテ興味ヲ有スル 事柄ニハ何等ノ努力無クシテ精神ハ良ク集中セラル。興 味少キ事柄ニ対シテハ意志ノカニ依り精神ヲ集中セシム ルノ要アリ。 完全ナル理解ハ事柄ヲ分類分析シ之ヲ所要ノ位置ニ格納 スルヲ得シムル次第ニシテ，事柄ガ単独ニ孤立セズ何等 カ他ノ事柄トノ連関ヲ有スルコトトナリ再生ヲ容易ナラ シム。従ッテ全然意味ヲ有セザル無意味ノ信文，数字等 ハ記憶ニ最不利ナルコトヲ知ルベシ。反復ハ主作用トシ テハ事柄ヲ強ク印象付クルニ在ルモ，反復ヲ行イ居ル間 ニ自ラ再生ヲモ行イ居ルコトニ注意スペシ。再読,再視， 再聴ノ如キハ最簡単ナル反復ナルモ，尚同一事柄ヲ視 覚，聴覚及触覚(書クコト)等ニ訴エテ印象付クルモ広キ 意味ニ於ケル反復(実八聯合)作用卜見ルヲ得ベシ。 第２作用 此ノ記憶ノ第２作用タル保有作用ハ或ハ人間ノ頭脳ノ本然 的作用ナランカ個人差モアルベク又同一人ニ就テモ事柄ニ ヨリテ差異アルガ如キモ余今之ヲ詳ニセズ，只記憶作用ノ 中保有ハ立派ニセラレ居り乍ラ再生ガ思ウ通リニ出来ザル 場合ニ何トモナシニ記憶ガ薄クナリタリト考ウル場合多キ ニ非ズヤト思ワルル点ハ注意スペキコトナリ。保有作用ハ 数量ニ表ワスナラバＵtノ形ニテ表ワシ得ベクＵハ其人固 有ノ又其事柄ニ就テノ記憶保有率ノ系数トモ見ルベク零ヨ リ大１ヨリ小ナル数ニシテ記憶セラレシヨリノ経過時間ヲ ｔトセバt時間以後ノ記憶ノ度ハＵtトナル如キ性質ノモノ ナルペシ。記憶ノ非常二良キ人ノＵハ１ニ極メテ近キ数ナ ルペシ。 第３作用 記憶ノ第３作用再生ハ蔵セラレタル記憶ヲ正確ニ再生シ取 り出ス作用ニシテ之ハ最難カシキコトニシテ記憶ノ良否中 相当大ナル影響ヲ持ツコトトナルガ如シ。而シテ物品ノ取 リ出シノ良否ハ格納整頓ノ良否ニヨリ左右セラルルガ如 ク，本作用ハ第１作用ノ良否ニヨリ大イニ左右セラルベ ク，再生ガ上手ニ行ワルルコトハ記憶ノ第２条件ニシテ之 ハ訓練ニヨリ向上セシムルコトヲ得ルガ如シ。以上述ベタ ル記憶作用ハ如何ニモ複雑ナル段階ヲ踏ソデ行ワルルガ如 キモ実際ハ極メテ無造作ニ円滑ニ行ワル。 記憶ノ最困難ナルハ人名，年号，数字等ノ記憶即チ機械的 記憶ニシテ之ガ良ク行ワルルナラバ他ノ記憶ハ容易ナリ。 此ノ機械的記憶モ訓練ニヨリ上達スペク之ガ記憶ノ訓練ニ 依リ記憶力ヲ増進セシムルトキハ其ノ他ノ事柄ノ記憶ハ容 易ナル故大イニ良好トナルペシ。 其ノ方法ハ結局機械的記憶ヲ反復練習スルコトニシテ各其 ノ境遇ニ依リ案出実行スベキモノナリ。 例１ 山形見取，地図，写図，建築物ノ写生，店ノ飾附ノ 見取等短時間(１分或ハ２分等)之ヲ視テ或ル時間ノ後之 ヲ紙上ニ再生ス。不完全ナル場合ハ又之ヲ反復ス。 例２ 街路ヲ歩キ門札ヲ順序ニ見テ置キ家ニ帰リ記憶ヲタ ドリテ順序ニ書クコト。毎日１回町ヲ変エテ行ウ。之ヲ 最初ハ３分位ヨリ記憶シ得ザル人モ練習ニ依り驚ク程良 ク記憶シ得ル様ニナル，進歩ノ度ハ数字ニテ知ラルルナリ。 例３ 商店街ヲ歩キ店ノ種類ヲ順序ニ前項卜同様ニ実行 ス。之モ進歩ノ度ハ数ニテ知ラル。 例４｢カード｣ヲ重ネ順序ニ記憶ス。之モ進歩ノ度ハ枚数 ノ日々ノ増加ニテ知ラル。 右ハ単ニ数例ヲ示シタルニ過ギザルモ訓練構成ノ原則ハ之 ニテ理解スペク,訓練法ハ無数ニ在リ。日常生活ヤ時間ヲ費 サズシテ実行可能ナリ。一般学習モ記憶訓練ナリ。但本訓練 法ハ訓練ニヨル進歩ノ度ヲ知リ得ル点が考案ノ重点ナリ。 記憶雑感（漫談ヲ含ム） （1）数字ノ如キモノノ機械的記憶ノ困難ナルガ為世上種々 ノ所謂記憶法ナルモノアリ。数字ヲ何カニ結ビ付ケテ記 憶スル方法ナリ。余ハ之ヲ排斥スルモノニ非ズ。唯此等 記憶法ニ於テ何カハ記憶スルヲ要スルコトニ注意スベク 又此ノ記憶法ナルモノハ記憶力自体ヲ良クスル方法ニ非 ザルコトニ注意スルヲ要ス。 （2）生徒ハ日々ノ日課ニ於テ之ヲ覚ラズシテ自然記憶訓練ヲ 実施シ居ルモノナリ。日々ノ授業，自習何レモ記憶ノ訓 練トナル。３号ヨリ２号１号卜進ムニ従イ其ノ記憶カハ 漸次増大シツツアル事ハ疑ヲ容レズ。又考査時期ニハ著 シク記憶カノ増シ居ルハ事実ナルベシ。生徒ハ気付カズ ニ看過スル丈ノコトナリ。 （3）復習ハ記憶ノ原則ニ合致セル記憶ノ良法ナルノミナラ ズ之ニ依リ自然ニ記憶再生ノ訓練ヲ行イ居ルモノナリ。 （4）毎日日記ヲ記スコトハ自然再生訓練ヲ行ウコトトナル ニ注意スベシ，カカル人ハ記憶力益良クナルナリ。 （5）Ｍｅｍｏヲ記ス習慣ノ人ハ「自分ハ物ヲ忘レルカラ」 卜称シテ忘レタル時ノ用意ニ覚ヲ書ク。然ルニ之ガ為其 ノ人ハ「メモ」ヲ再見スル要ナキ程マデ之ヲ記憶スルコ トトナルナリ。是レ記憶ノ第一作用ノ反復ヲ行ウガ故ナリ。 （6）記憶ノ第一作用ノ反復ニ於テ印象ノ強サハ反復ノ回数 ニ算術的ニ比例スルヤ。何トナク √n 位ノ割以上ニハ増 加セザルニ非ズヤト思ワル。 （7）反復ヲ連続行ウ場合卜或ル時間ノ経過シタル後ニ行ウ 場合卜其作用ハ同一ニ非ザルガ如ク，連続反復ニ於テハ 前項ニ述ベタルガ如ク其ノ効果ハ √n ニ比例シ或ル時 間経過後ノ反復ハ独立シテ作用スルガ如シ。然リトスレ バ此ノ後者ノ場合回数ナラバ効果ハタシテ発揮セラルル ニ非ズヤト思ワル。是レ授業及復習ノ工夫ニ或ル示唆ヲ 与ウルモノニ非ズヤ。 （8）或ル事柄ヲ印象付クル時間 ｔ 卜刻セラルル印象卜八時 間ニ比例スルヤ否ヤ，何トナク依然√n 位ニ比例スルニ 非ズヤ。然リトセバ t1＋t2 ノ時間ヲ連続ニ使ウヨリハ t1トt2 トノ二ッニ離シテ使ウ方が効率ハ大トナルニ非ズ ヤ，之モ授業法及勉強法ニ対シ何等カノ示唆ヲ与ウルニ 非ズヤ。 （9）記憶スペキ事柄ヲ必要ノ最小限度ニ止メ余計ナル事柄 ハ記憶セザルコトモ集中ノ原則ニ合致シ記憶ヲ良好ナラ シムペシ。「覚エルコトハ忘レルコトナリ」卜謂ウコトハ 此ノコトヲ意味スルモノト思ワル。 (10)記憶スペキ事柄ヲ旋律又ハ「リズム」ニ乗セテ記憶ス ルハー種ノ人工的記憶法ナリ。之ハ再生ヲ助成スルニ大 イニ効果アリ。 兵学校時代衝突予防法ノ講義ニ於テ教官伝授ノ記憶法アリタリ。 曰ク。 「我が前に若し赤を見ば己より 避くべきものと常に忘るな」等々 「蒟蒻」卜云ウ字ノ記憶法トテ昔ノ人ノエ夫セシモ，面白シ。 草 冠 ニ 立 シテ 句 シテ 草 冠 ニ 弓ニチョンチョン弓ニチョンチョン 上ノ如キ人工的ノ記憶法ハ事柄ニヨリテハ便利ナルモ記憶 カノ増進法ニハ非ズ，非常ニ頻繁ニ使ワルル系数ヤ公式等 ノ記憶ニ利用スルハ便利ナルコトアルモ生徒ガ習得スベキ 学術ヲ何モ彼モ之ニテヤッテ行カソトスル如キハ問題トナラズ。 ＴＯＰページへ |