< 目 次 > ○ はじめに ○ 目 次 1 研究主題 2 研究主題について 3 研究の仮説 4 研究の実際 5 研究の成果と今後の課題 ○ おわりに |
成人の日に放送されたNHK総合テレビ「21世紀・あなたの人生」のひとコマは、これまで教育論文執筆に際して「教室に魅力を」という主題にこだわり続けてきた私にとって、大いなる自信と責任を自覚させてくれた。
「21世紀・あなたの人生」とは、たとえば「一人に一台ウソ発見器」とか「性格を変える薬」といった、現在は不可能でも決して非現実的な話ではないテーマについて、スタジオに集まった20代の若者100人が「あり」「なし」の立場を鮮明にした上で、激論を交わすという番組である。
その中で、私に強烈な印象を与えたひとコマとは、「IT革命・現在の学校をなくして、ネットワークによる在宅学習の学校登場」というテーマに対して、90人もの若者が「なし」、つまり現在の学校体制を維持すべき、と答えたことだ。
言うまでもなく、在宅学習となれば登校する必要がないのだから、「不登校」の問題は一挙解決だ。「いじめ」も「学級崩壊」も、絶対に起こるわけがない。そして、会場に集まった100人の若者の中には、(人を外見や職業で判断してはいけないとは言え)髪をきんきらきんに染めた者やフリーターの者など、どう見ても学校になじんで有意義な毎日を送ってきたとは思えない者が多数いる。当然、「あり」という立場の賛同者がかなりの数に上ると、私は予想した。
ところが、実際に「あり」と答えたのは、わずか1割にしかならない10人。圧倒的多数が、多少の注文はあるにしても、基本的に現在の学校システムを支持したのだ。「不登校」や「いじめ」「学級崩壊」がどこの教室で起こってもおかしくない今日ではあるが、こうした若者たちでさえそうなのだから、まして世の中の圧倒的多数の人々は、依然として大いに学校の存在意義を認め、それがより魅力的なものとなっていくことを望んでいるのだ。私には、そう思えてならない。
では、学校をより魅力あるものとするためには、どうすればいいだろうか。その一つの鍵となるのが、「総合的学習」であると、私は思う。そして、ちょうど今年度より試行の始まったその総合的学習に、私はたまたま人より熱心に取り組まざるを得ない事情があって、半年以上にわたる実践に取り組んできた。それらの活動を振り返り、新たなものを生み出すための指針とするため、本稿にまとめてみた。
教 室 に 魅 力 を
−総合的学習「日本一おいしいスイカのできるまで」の実践を通して−
(1) 本校の情報教育環境との関連について
今年度から、熊本市内の小学校にもようやくパソコン導入がスタートした。文部省の設置基準の半数にしか満たないとはいえ、待ちに待った本格的パソコン導入に小躍りしている指導者や児童は数多い。
しかし川上小学校には、すでに旧北部町時代の平成元年に20台のパソコン(FM77)が導入され、エアコン付きの「視聴覚室」まで整備された。そうして、こうした恵まれた環境を生かして早くから情報教育の研究実践に取り組んできた。
<図1 FM77がずらりと並んだ視聴覚室 (H10.7撮影)>
また、平成8年にスタートした「熊本市パソコン通信モデル校」(熊本市立の学校9校)と「こねっとプラン参加校」(全国1000校)の両方に指定され、いちはやくネットワーク接続が実現した。
<図2,3 本校視聴覚室で行われた「こねっとプラン」開幕イベント(H8.11.27)>
さらに平成11年からは、「学校インターネット」の指定校となり、同時に新しいネットワーク型のパソコンシステム(端末13台)が整備され、衛星通信回線を使った快適なインターネット接続環境も整った。
<図4 整備された現在のネットワーク型パソコンを使って活動する本学級の児童
(H12.7撮影)>
加えて本校は、平成12年11月10日に行われる「九州地方放送教育研究大会小学校部会」の会場校となり、私が担任する3年1組も当日は公開授業を行うこととなった。こうしたことから、実践にあたっては、こうした恵まれた情報教育環境との融合を十分配慮しながら、先進的な試みを図っていくことにした。
(2) 児童の実態について
私が今年度受け持つことになった3年1組の男子21名・女子16名・計37名は、3年生進級時にクラス替えがあった、明るく無邪気な子どもたちである。
パソコンの操作に関しては、ごく一部の子どもたちは、低学年のころゲームなどを通じてパソコンに親しんでいたり、家庭で簡単な文書作成をした経験を持っている。しかし大半の子どもたちは、パソコンを使った活動に取り組むのは初めてであった。
とはいえ、子どもたちの意欲は旺盛で飲み込みも早い。3年生になってすぐ、ネットワーク対応のグループウェア・ソフト(後述する「スタディノート」)を使って、メールの送受信や電子掲示板への書き込みの仕方を教えたところ、すぐにやり方をマスターして、日常的に使うようになった。ローマ字入力(国語科でローマ字を習うのは4年生だが、後のことを考え、ローマ字を覚えて入力するよう勧めた)での入力も、短期間で比較的スムーズにできるようになった。
また、放送教育研究との関連で、後述するNHK教育テレビ番組「しらべてまとめ伝えよう」の視聴を通して、情報機器を効果的に使うと、様々な情報を発信する際に極めて有効なメディアとなることを学んできた。
こうした環境や経験を生かせるような活動を設定することで、より深化した総合的な学習が可能になるものと考えた。
(3) 「スイカ」と総合的学習について
川上小校区は、日本一のスイカ産地熊本県の中でも、とりわけ主要な地域の一画にある。実際、本学級にも、専業農家で主にスイカを栽培している家庭の子どもが、37人中5人もいる。これは、今の時代にはたいへんな数である。
平成8年4月、私がこの川上小に転勤してきた年、当時担任していた5年生の保護者で、スイカ農家の小佐井亮介さんの協力を得て、社会科の発展学習としてスイカが育つ様子を子どもたちと調べ、その年「パソコン通信モデル校」で導入されたWindowsマシンを使ってプレゼンテーションにまとめた。さらに、その年8月に開設されたインターネットワールドエキスポ(IWE)・熊本パビリオン内に試験的に開設した川上小のホームページ上に、そのプレゼンテーションを公開した。
<図5 ホームページ上に公開したスイカ学習のまとめ
(「個人情報保護条例」による規制のため現在は非公開)>
当時はまだ学校のホームページ自体が珍しく、しかもテーマ性のある内容だったため、たくさんの訪問者から好意的な評価を寄せていただいた。
しかし、当時のデジタル機器はまだ性能が低く、通信環境も極めて脆弱だったため、それに合わせて作成したプレゼンテーションは、画像の粗さや動きのなさなどといった不十分さが目立つようになってきた。また、苗づくりから収穫までの段階はあるものの、その前の種まきやその後の選果、さらにはいろいろな種類のスイカなどの部分が欠けていた。そのため、いずれ機会のある時に、もう一度「スイカ」の学習に取り組んでみたい、という思いがここ数年私の心の中にはあった。
折しも、本校が11月10日に行われる「九州地方放送教育研究大会」の会場校となり、私も授業者の一人に決まった。これを機に、現在担任している3年生の「総合的学習の時間」を使い、改めてもう一度取り組んでみることにした。
情報機器を活用した「日本一おいしいスイカのできるまで」の総合的学習活動を展開することで、魅力ある教室を作ることができる
(1)
総合的学習「日本一おいしいスイカのできるまで」への取りかかり
今年度から試行することになった「総合的な学習の時間」。3年生のテーマは「川上校区のお宝さがしをしよう」。試みに、子どもたちに「川上校区の『お宝』って、何だろう」と投げかけてみると、すんなり「スイカ!」という答えが返ってきた。スイカは、子どもたちも大好き。しかも、ちょうどその頃、川上校区はスイカの最盛期。それで、すんなりそんな反応が返って来たのだろう。
しかし、これに安心してはいけない。「じゃあ、熊本県のスイカ生産高は、日本で何番目なの?」と問いかけ、これだと思う1〜47の数字を書かせてみる。案の定、1〜45まで幅広い数字が並ぶ。平均は、14.9。「答えは…もちろん1。つまり、熊本県のスイカは日本で1番!」と発表すると、一斉に「エーッ!」というどよめきが起こる。でも、これで驚いてはいけない。4年前に、インターネットを使って集めたデータ、つまり「遠くの学校ほど、熊本のスイカについて詳しく知っている」という調査結果の具体的な内容を披露する。
<表1 「スイカについての全国アンケート」結果の一例
(H8.5実施) >
※棒線が短いほど正解(1位)に近い
唖然とする子どもたち。いかに自分たちが、校区のお宝を粗末にしているかを、実感した瞬間である。
幸い我が3年1組には、スイカを作っている家庭が5軒もあり、そのうちの1軒である齊藤勝治さんから、協力の約束をとりつけることができた。そこで、スイカについて詳しく調べていくことにした。
(2) 「日本一おいしいスイカ」の取材
はじめに、齊藤さんのおうちのスイカ畑に、3年生みんなで見学に行った。普段から目にすることの多いビニルハウスだが、中に入ったことがあるのは農家の子でも少ない。そのハウスの中に入って、暑さを我慢したり飛び回るミツバチにびくびくしたりしながら、齊藤さんからスイカを育てるためにどんなお仕事をされているか、とか、どんな工夫をされているか、とかの説明を聞いた。
<図6 齊藤さんのスイカ畑見学(H12.5.18)>
また、格別のご厚意により、代表の児童が実際にスイカを収穫させていただいたりもした。
<図7 代表の児童がスイカの収穫を体験(H12.5.18)>
さらに、見学の後にはおいしいスイカをたくさんごちそうになった。
<図8 おいしかった齊藤さんちのスイカ(H12.5.18)>
ちなみに、つよし君のお母さんは、1学期末の学級懇談会で「うちの子は、この時食べたスイカがあまりにもおいしかったので、おうちのスイカを食べなくなってしまいました」と笑いながら語っておられた。
この見学は、子どもたちにたくさんの感動を与えてくれた。一例として感想文を、以下に掲げる。
スイカ見学に行ったら かなえ わたしたちは、さいとうさんちのスイカ畑に、社会の勉強で、見学に行きました。 |
(3) 選果場のビデオ視聴
さらに、齊藤さんのご紹介で、JA熊本・北部選果場のビデオを撮らせていただいた。本当は子どもたちに実地見学をさせたかったのだが、危険ということで断られ、ビデオでの間接的な見学となったのである。ちなみに、このビデオ視聴は授業参観で行ったのだが、子どもたちはもちろん、保護者の方々も初めて見るものばかりで、驚きの声を漏らされていた。
<図9 北部選果場のビデオから
(機械が箱詰めする様子)>
このビデオを見た子どもたちの感想を、以下に掲げる。
選果場のビデオを見たかんそう なぎさ わたしは、選果場の中を初めて見ました。わたしは、初めて見たので、初めて知ったこと・ぎもん・ほかに聞きたいこと、がたくさんありました。 |
(4)
NHK教育テレビ番組「しらべてまとめて伝えよう」との関連
こうして見たり聞いたりしたことを、パソコンを使ってまとめることにした。ちょうどそのころ、毎回継続視聴している、NHKの教育テレビ番組「しらべてまとめて伝えよう」で、デジタルカメラで撮った写真をパソコンの画面に貼り付けて説明を書き加える、という勉強のやり方を放送していた(第6回放送分)ので、この手法を取り入れることにした。
「IT革命」や「デジタル放送開始」に代表されるように、今日の社会ではテレビ放送自体が大きな変質を遂げようとしている。学校放送番組の中にも、視聴者との双方向性を強く意識し、番組の詳しい情報をホームページで発信したり、番組の中で視聴者に情報提供を呼びかけたり、さらに寄せられた情報をホームページで発信したりしている番組も登場している。
<図10 「しらべてまとめて伝えよう」のホームページから>
このような流れを受けて、中学年向きに今年度から始まったのが、「しらべてまとめて伝えよう」である。この番組は、子どもたちに1年間を通じて、段階的に情報処理能力を身につけさせる内容になっている。毎回の番組の中で、「ボス」から受け取った任務を遂行するため、子どもたちが試行錯誤しながら一生懸命活動し、「ボス」に報告する様子が、生き生きと描かれている。さらに、画面には現れなかった詳しい情報が、番組のホームページで紹介されているのはもちろん、毎回番組の最後に「君たちも、こういう活動をしてできあがった作品を、送ってくれたまえ」という、視聴者への指令が出され、それが毎学期の末に番組の中でまとめて紹介されることになっている。
この第6回「メディアを使いこなせ!」の任務が、デジタルカメラで撮った写真をパソコンに読み込み、説明をつけてボスに送る、というもので、ちょうどスイカについてのまとめに取りかかろうかと考えていた矢先の本学級にぴったりの内容だった。しかも、この時番組の中で紹介された学校が使っていたのが、本校も試験的に導入している「スタディノート(シャープ・システムプロダクト)」だった。そんな縁もあって、この活動に力を入れて取り組んでみることにしたわけだ。
(5) 「スタディノート」との関連について
「スタディノート」とは、筑波大学が中心になって開発した教育用パソコンソフト「スタディシリーズ」のひとつで、イントラネットで共同学習環境を実現するものだ。インターフェースも、さすが学校現場との連携を密に図りながら開発されただけあって、子どもたちの思考に合ったもので、機能も多すぎず少なすぎずの、ちょうどいい程度である。本校では、ネットワーク型コンピュータがどうにか稼働を始めた昨年末に、販売元であるシャープ・システムプロダクトの厚意で試用版を導入したところ、子どもたちにたいへん好評であった。そんなわけで、今年度も引き続きこのソフトを使い、様々な活動に取り組んできた。そこに、上記したようないきさつから、このソフトを総合的学習「日本一おいしいスイカのできるまで」に使っていくこととなったのである。
とはいえ、子どもたちは写真を貼り付けたりするのは初めての経験だったので、大変苦労した。それでも、次第にイメージ通りのきれいな作品が出来上がってくると、歓声を上げながら意欲的に取り組んでいった。
<図11 スタディノートによる作品づくりの様子>
このようにして、「なえづくりのひみつ」「ハウスのしくみ」「スイカの花」「スイカの実・玉がえし」「スイカのしゅうかく・選果」「いろいろなスイカ」の6つからなる、「日本一おいしいスイカのできるまで」が、次第に輪郭を表してきたのである。
<図12 スタディノートで作った作品「日本一おいしいスイカのできるまで」から>
(6) NHK第一放送「地球ラジオ」との関連について
そんなある日、「いろいろなスイカ」について調べる班から、「外国のスイカについて、もっと調べたいが、調べる方法が分からない」という相談があった。たまたま、私が時々視聴していたNHK第一放送の番組「地球ラジオ」が思い浮かんだので、その番組のホームページに質問を書いて送るようアドバイスした。
「地球ラジオ」とは、国内向けの第一放送と海外向けのラジオニッポンを使って、世界同時生放送をしている番組で、その特性から、インターネットを番組づくりにうまく活用している。つまり、リスナーはNHKのホームページ内にある番組のホームページにアクセスし、質問を書き込んだり、書き込まれた質問に対する回答を書き込んだり、他の人が書き込んだ回答を見たりする。そのやりとりを、番組がうまくリードし、その一部を番組の中で紹介するのである。
外国のスイカに関する子どもたちの質問にも、文字だけ(このホームページ上での制限)とはいえ、さっそく多数の詳しい回答が寄せられた。その範囲は、香港、マレーシア、ロシア、ギリシャ、アメリカなど、世界中に及んだ。
<図13 掲載された質問と答え 〜NHK「地球ラジオ」のホームページから〜>
さらに、7月29日の番組の中で取り上げられることになり、放送3日前の26日、代表の子どもたちが、東京のスタジオを経由して、南米パラグアイの藤井信一郎さんと電話でお話をした。
<図14 電話による取材の様子(H12.7.26)>
藤井さんは、国際協力事業団の仕事で現地におられるが、元々は鳥取(熊本に次ぐスイカの産地)でスイカの研究に携わって来られた方で、スイカの発祥地であるアフリカ・ボツワナに行かれたこともあるという。そんな藤井さんとの20分あまりに及んだ会話は、まさに驚きの連続だった。この出会いを企画してくれた番組スタッフの藤川まゆみさんによれば、この会話のすべてが、あまりに削るのがもったいなくて、編集は難航を極めたという。かくして、初め本校に番組出演の依頼があったときは、「1分くらいで」ということだったのが、本番では破格の6分半で、厳選された会話が電波に乗って世界中へと伝えられた。
もちろん、カットされた中には、たとえば「日本では甘味の足りない時には塩をかけるけど、外国では、砂糖をかけるんだよ」「日本では食べ物を目で見て楽しむので、スイカも外見をとても大切にするけど、外国ではあまりそうではないので、なるようにならせているんだよ」といった非常に興味深い話が多数含まれており、2学期になってノーカット版を聞いた代表以外の子どもたちは、改めて藤井さんのお話に感動していた。
ちなみに、この話には後日談がある。お世話になった藤井さんへ、お礼の意味を込めて、後述する「学習発表会」のビデオ(もちろん「地球ラジオ」での会話も、発表の中に織り込まれている)を送ることした。ついでに、何かお礼の品を添えて送りたい。いったい、何がいいだろうか。「そうだ、お米だ。出来たばかりの新米を、パラグアイの藤井さんに送って食べてもらおう!!」早速準備に取りかかった。ただ、ひとつだけ不安がよぎる。農作物は、税関で止められるのではないか…「あっ、お米はダメですね。」分厚いマニュアルをめくっていた北部郵便局の職員の口から、恐れていた言葉が漏れてくる。私も確認。仕方がない、諦めて、ビデオだけ送ろう。
その後藤井さんからは、機械の調子が悪くて届いたビデオをなかなか見れないでいたが、ようやく見れたという報告に加えて、「当地では今〜」という季節の便りを記したFAXが届いた。それにはE-mailアドレスも書き添えてあり、その後は「早い、安い、簡単」E-mailでのやりとりを続けている。藤井さんから毎月届けられる「パラグアイ通信」には、互いの季節が交錯していく様子や、習慣や価値観の違いなど、非常に興味深い内容が満載されている。地球の裏側パラグアイから、オンラインでもたらされるこれらの情報を、子どもたちも私も、心から楽しみにしている。
(7) 学習発表会
こうしたいろいろな人たちとの出会いを通して、子どもたちはたくさんのことを学び取りながら、「日本一おいしいスイカのできるまで」をまとめ上げることできた。そしてそれを、インターネットを使ったテレビ会議で、他校のお友達に聞いてもらうことになった。しかしそれには、まとめた内容に誤りはないか、もっとよくなるアイディアはないか、といったことを、事前に情報提供者に確かめていただいた方がよいのではないか。そこで、齊藤さんと、選果場の西村吉輝さんを「学習発表会」のゲストティーチャーとして教室にお招きし、お二人から感想やアドバイスを伺うことにした。
「人前で話すのは、どうも。まして、子どもたちに分かるようになんて…。」と言われていたお二人だが、いざ学習発表会が始まってみると、その道の専門家にふさわしい適切なアドバイスを、次々に繰り出される。
<図15 スイカに貼るシールを手に熱弁を振るう西村さん(H12.9.27)>
「実が育っていく様子の説明の中に、『摘果』という作業を入れて下さい」(齊藤さん)、「画面には、スイカを『洗う』となっていますが、水は使っていません。馬の毛を使って、スイカを磨いています」(西村さん)などのお話に、子どもたちは目を輝かせながら聞き入っていた。
<図16 ゲストティーチャーのお話に目を輝かせる子どもたち>
お二人からいただいたアドバイスの詳細は、以下の通りである。
○「なえづくりのひみつ」について ・ 接ぎ木の台木には、「カンピョウ」だけでなく「カボチャ」も使うことがある(ただし川上校区は、ほとんど全部がカンピョウ)。 ・ 接ぎ方には、「よびつぎ」「さしつぎ」のほかに、「わりつぎ」という方法もある。 ・ 苗づくりはとても大切な作業で、「苗半作(苗づくりがうまくいけば、スイカづくりは半分うまくいったようなもの)」とまで言われている。 ○「ハウスのしくみ」について ・ 昔は小さいビニルハウスしかなかった。でも、中くらいのハウスと大きいハウスができてから、作業がしやすくなってきた(大きいハウスの方が、作業はしやすい)。 ・ 冬は寒いのでボイラーをつける。温度が低いと、花が咲かなかったり、実が赤くならなかったりする。寒い日には、24時間でドラム缶1個の重油を燃やす。 ・ 去年の台風18号みたいな台風が来たらいけないので、齊藤さんのおうちではがんじょうなビニルハウスを今年作った。 ○「スイカの花」について ・ すいかの実が赤ちゃんの時(雌花の付け根)には、大きくなった時の形がもう決まっているので、形が悪い物は切ってすてる。 ・ ミツバチの巣の中には、1万5千びきから2万びきものハチがいる。 ・ ミツバチは、1週間から1ヶ月くらい、ハチ屋さんから借りている。そうしないと(ハウスの中は自由に飛び回れないので)ハチにストレスがたまる。 ○「スイカの実・玉がえし」について ・ スイカのツルを3本残すのは、1本だと葉っぱの数が少なくて、実に栄養がいかなくなるからである。 ・ 3本のツルに1個ずつ実をならせるが、最終的には1個だけを残して、あとは摘果する。 ・ 残すのは、一番形のいいもの。この時丸いものは、後でつぶれてしまうので、細長いものを残す。 ○「スイカのしゅうかく・選果」について ・ スイカは、水で「洗う」のではない。約7mの機械の中を15秒くらいかけて通り抜ける間に、馬の毛でできたブラシを使って磨く。 ・ スイカの大きさを測ると思っていた機械は、ハンマーでたたいた音を聞いて、中身が入っているかどうかを調べるものである。 ・ 北部選果場で貼るシールには、ダルマさんの絵が描かれている。「真ん丸で座りがいい」という意味である。 ○「いろいろなスイカ」について ・ スイカは、南アフリカで生まれた。日本には、シルクロードを通じて伝えられた。アメリカを経由して来た品種もある。 ・「御馬下の角小屋」には、江戸時代に薩摩のお姫様が、ここで休憩した時にスイカを2切れ食べた、という記録が残っている。 ・ 大正時代から、本格的な品種改良が行われるようになった。現在は、カット売りが主流なので、中に空洞のない硬めの品種が好まれている。 |
お二人のアドバイスをもとに、さらに練り上げた「日本一おいしいスイカのできるまで」は、番組のホームぺージに応募したほか、テレビ会議の相手を務めてくれる日吉東小・西原小はもちろん、他に興味を示してくれた学校など計7校に届けた。
(8) テレビ会議システムの選定および設定
この作品づくりと相前後して、テレビ会議システムの技術的な検討と、設定も行った。
現在、学校間交流で利用されるテレビ会議システムは、ほとんどが以下の3つのうちいずれかである。
@ フェニックス
NTTが扱っている商品で、ISDN回線の2チャンネルを同時に使う(バンド幅は128Kの固定)。テレビ会議というよりはテレビ電話で、操作が簡単で非常に安定している。そのため、研究会で「テレビ会議」といえば、ほとんどはフェニックスを使っている。ただ、機器が高価な上、双方がフェニックスを持っていないと通信できない。しかも、2地点間の電話料金の2倍にあたる通信費がかかるのも難点。
A ネット・ミーティング
マイクロソフトが開発したソフトで、Windows98に付属しているほか、ホームページからも無料で入手できる。回線もインターネットをそのまま使うため、カメラやマイクなどの周辺機器が揃ってさえいれば、実質タダでテレビ会議に取り組める。そうした手軽さの反面、安定度は低く、操作も分かりづらい。画像の解像度などもかなり低い。
B シーユーシーミー
元々は、アメリカ・コーネル大学が開発したフリーソフトで、バーションアップを繰り返した現在は、最新版が1万円ちょっとで販売されている。有料の分だけ、安定性や操作性・画像解像度はネット・ミーティングよりはるかに優れている。それに、インターネット回線を使うので、通信費の心配もいらない。
これら3つを比較検討した結果、今回のテレビ会議には、
・ フェニックスは、相手校に機器がなく、通信費も確保できないので使えない。
・ ネット・ミーティングは、安定性などで不安がある。
・ シーユーシーミーならば、相手校には「学校インターネット」によるソフトの配布があっているし、かなり安定しているので、どうにかなりそうだ。それに、このソフトと「ミーティング・ポイント」(詳しくは後で述べる)を組み合わせることで、複数の学校でのテレビ会議が可能である。そうした形態のテレビ会議は、あまり前例がない。
などの理由で、シーユーシーミーを採用することにした。
とは言え、実際にテストを始めてみると、トラブルの続出。しかし、本体には簡単なマニュアルしか付属されておらず、詳しい解説書なども市販されていない。そのため、シーユーシーミーの設定は、実質試行錯誤の連続だった。加えて、テレビ会議という相手のいることなので、期日や時間帯も限られる。そのたびに、携帯電話を片手にお互い連絡を取り合いながら、逐次解決していった。たとえば、
○ 「学校インターネット」で配布されたビデウムのビデオキャプチャーボードを使うと、パソコン本体が急にフリーズする → ビデオキャプチャーボードを使うのをやめ、USB接続のCCDカメラを使うことで解決
※ その代わり、画像が粗くなるし、ズームなども使えなくなった。
○ マイクのスイッチは入ってるのに、相手に音声が届かない → パソコン本体を立ち上げる前に、すべての周辺機器の接続を完了しておかなければ、動作しないことがある。その際は、シーユーシーミーだけでなく本体を再起動する。
※ この辺りが、パソコンのまだまだ分かりにくい部分である。
○ ローカルでは映っている画像が、先方では真っ黒になる。接続者のリストを見ると、校内のシーユーシーミーをインストールした別の端末の名前がある → テレビ会議用端末を立ち上げる前に、他のパソコンの電源を切って、ネットワークケーブルも抜いておく
※ なぜどうなるのかはわからないが、この方法でどうにか切り抜けられた。
○ 熊本市教育センターのサーバー内にある「ミーティング・ポイント」を使うと、衛星通信や光ファイバー・CATVなどの高速回線を使っているのに、画像がコマ送り状態で、音声が途切れ途切れになって何と言っているのか全く聞き取れなくなる → バンド幅の設定をLAN(バンド幅:200k)にすると、ミーティング・ポイントの処理が追いつかずに、上記のような状態になってしまう。したがって、欲張らずにバンド幅をISDN(バンド幅:50k)まで落として設定する
※「ミーティング・ポイント」は100万円を優に超えるソフトである。教育センターでも、かなりチューンナップに取り組んで下さったが、大差なかった。どうしてこれほど高価な市販ソフトがこういう状態なのかは、今のところ分からない。
(9) テレビ会議本番
11月10日、いよいよ「九州地方放送教育研究大会」当日。
<図17 研究大会当日の授業風景>
本番のテレビ会議では、事前に送った「日本一おいしいスイカのできるまで」についての、日吉東小・西原小からの質問や感想を聞いた。事前のテストでは機器のトラブル続出で、大きな不安を抱えてのテレビ会議だったが、幸い当日は大したトラブルもなく、順調に行うことができた。授業の大まかな流れは、以下の通りである。
時間 |
学習活動 |
教 師 の 支 援 | |||||
か か わ り | 学習の場・学習材 | ||||||
5分
35分 |
1 本時のめあてと進め方を確かめる。
<めあて>
(TV会議 開始) 3 本時のまとめをする。 |
○ 本時の活動のめあてと進め方をきちんと把握し目的をもってテレビ会議に参加することができるようにする。 ○ コンピュータを使ったテレビ会議を行うので、機器の操作など適切な支援を行う。 ○ 時間節約のため、プレゼンテーションはあらかじめ 日吉東小へメールで送り、質問や感想・アドバイスなどを考えておいてもらう。 ○ 質問の答えやアドバイスの生かし方などを考えながら聞くようにする。 ○ 自分たちでは答えが分からないときは、齊藤さんや西村さんにアドバイスを受ける。 ○ 意見交換が不充分な場合は事後にメールなどで交換できるようにする。 ○ 齊藤さんや西村さんからご意見やご感想を伺い、子どもたちがテレビ会議から学んだことを再確認して、今後の活動につながるようなまとめをする。 |
視聴覚室 コンピュータ テレビ会議用ソフトウェア プロジェクター |
意見交換の中で、他校から出された「スイカが、こんなに苦労して作られているとは、知らなかった。」「スイカの赤ちゃんの時に、もう縞模様があることに、びっくりした。」などの好意的な感想は、子どもたちの充実感を得るのに十分なものだった。
また、「タネをまいてから、何日くらいで芽が出るんですか?」「世界じゅうで、スイカは何種類くらいあるんですか?」などの質問には、この日もお越しいただいたゲストティーチャーの齊藤さん・西村さんからアドバイスを受けながら、答えていった。
<図18 齊藤さん・西村さんからアドバイスを受ける子どもたち>
自分では分かったつもりでいても、改めて聞かれるとまだまだ知らないことがたくさんあることに気づき、子どもたちは今更ながらスイカづくりの奥深さを実感したようだった。その一例として、以下に児童の感想文を掲げる。
研究大会の感想 熊本市立川上小学校3年1組 つよし 11月10日に、ぼくたち3年1組は、西原小、日吉東小の2つの学校と、テレビ会議をしました。 |
(10) テレビ会議その後
かくして、無事に大役を終えた子どもたちだが、話はまだここでは終わらない。
月曜2時間目の恒例で、前述したNHK教育テレビ番組「しらべてまとめて伝えよう」の第15回(12/11放送分)「みんなの作品しょうかい〜2学期〜」を視聴していた我が3年1組一同は、思わず一斉に「アーッ!」と叫んだ。そこには、以前送った「日本一おいしいスイカのできるまで」が登場したのである。
<図19 「しらべてまとめて伝えよう」第15回放送分の画面から>
後にいただいた、番組担当和泉田ディレクターからのお手紙によれば、たくさんの画面の中からいったいどこを紹介するか、直前まで迷いに迷っているうち、とうとう「番組で使いますよ」という連絡が間に合わなかったらしい。それほど、いいできだと評価していただいたわけだ。びっくりするやら嬉しいやら、子どもたちと狂喜乱舞したものである。
そして、こういう感動というのは、たくさんの人たちと共有すればするほど、さらに大きなものとなる。放送の翌日に届いた出水小・藤本先生(研究大会では役員として、私のクラスの授業をサポートしてくれた)と、そのクラスの子どもたちからの以下のメールは、大いなる励みとなった。
今日の しらべてまとめてつたえよう 見ましたよ。 川上小の3年生のレポート、ばっちり紹介されていましたね。 出水小の3年生にも、刺激になりました。 感想を送ります。 デジカメの写真を使って、上手にわかりやすくまとめてあって、 初めてみる写真がいっぱいでびっくりしました。 すごいなあと思いました。3年生でもすごいなあ。 けいすけ |
さらに、こうした活躍の噂を聞きつけた読売新聞社から、12月上旬、元日の特集記事に使いたいので取材をさせて欲しい、という依頼があった。石井校長先生の許可を得た上で、快諾。15日に取材に訪れた白石記者は、子どもたちがその2日前に行った第2回目のスイカ畑見学で、デジタルカメラを使って撮ってきたスイカの種まきの画像に、パソコンを使って説明を書き加える授業を見学。地域の特産物を生かした内容もさることながら、子どもたちがテキパキと学習を進めていく様子に、しきりに感心しておられた。後日いただいたメールに書かれた言葉、すなわち
取材にお伺いして、子供たちのパワーをたくさんもらって帰りました。「日本一おいしいスイカのできるまで」のCD−ROM、大切にさせていただきます。 |
を額面通り受け取らせていただくとすれば、いかに子どもたちの姿が意欲に溢れていたか、ということだ。
その白石記者の手による元日の記事を、以下に掲げる。
<図20 「読売新聞」H13.1.1 第32面から>
(11) 研究大会がもたらした新たな広がり(その1)
研究大会では、当日、万一テレビ会議システムが不調だった場合に備えて、協力を申し出てくれた学校からビデオメールを寄せてもらっていた。幸い、大会当日はテレビ会議システムが無事動作してくれたため、これらのビデオメールに出番はなかったが、せっかく寄せてもらった質問や感想であるから、大会終了後順次視聴し、答えやお礼をビデオに撮ったり電子メールに書いて送ったりした。いろいろな地域の、校種や学年も異なる人たちと、同じテーマについて考えを深めることができたのは、たいへん貴重な機会だったと思う。
このうち、宮崎市立本郷小4年1組には、大会で研究発表をされた情報教育専科の水野先生から、子どもたちにと日向夏のサブレをお土産にいただいていたので、そのお礼代わりに当時校区内で収穫の最盛期だったアールスメロンを一緒に送った。すると、それに恐縮した担任の中村先生が、今度は桃太郎トマトを2箱も送って下さった。
<図21 宮崎から届いたトマトに驚喜する子どもたち(H12.12.18)>
何でも、中村先生が以前6年目研修でお世話になった農園(「ロックウールファーム」)がトマトを作っておられたので、そこに頼んで送って下さったのだそうだ。
もっとも、実は冬場のトマトは我が熊本県が日本一。そして、川上校区周辺も、八代市に次ぐトマトの一大生産地帯であり、事実、スイカ見学でお世話になった齊藤さんも、裏作ではトマトを作っておられる。つまり、川上小にトマトを送るというのは、まるで我が川上小が天草で手に入れたサトウキビを、沖縄の学校に送るようなものだ。
おまけに、八代市にトマト専業農家の友人を持つ私が、調子に乗って「みんな、おいしいトマトは、どうすれば見分けられるか知っているかな? 水の中に入れて、沈んだら、中身の詰まっているおいしいトマトなんだよ!」(私は直接見ていないが、最近テレビでもやっていたらしい)と言いながら水の中に入れた宮崎産トマトは、すべてぽっかりと浮き上がってしまった。「しまった!」と後悔しても後の祭り。
だが・・・「余計なこと、しなければよかった」と後悔している私の眼前で、子どもたちは「わあっ、おいしい!」「甘い!!」などと歓声を上げながら、大粒のトマトをペロリと平らげていった。
<図22 大粒のトマトをペロリと平らげる子どもたち>
そんな姿を見ながら、私はパソコン通信時代からの師匠である熊本大・山中守先生の言葉、すなわち「トマトに込められた気持ちが分かれば、そのトマトは世界で一番おいしいトマトになる」を思い返し、大いに納得させられると同時に、そうした気持ちを感じ取ることができるようになった子どもたちの姿に、胸を熱くしたものである。
(12) 研究大会がもたらした新たな広がり(その2)
ビデオメールを寄せてくれた学校で、もうひとつ絶対に忘れはならないのが、大津南小6年生である。11月下旬、その学級担任の岩崎先生(岩崎先生も、研究大会での発表者の一人だった)から、「『環境フェスティバル』で6年生が発表するプレゼンテーションを、3年生がどう感じるか、感想を聞かせてほしい」という依頼があった。何でも、環境フェスティバルには1年生から参加するので、低学年の子たちはどんな目で見ているか、生の声を聞かせたいのだという。今度はこちらが発表のビデオを見て、感想や質問を考えビデオメールにまとめて送るという、重大な任務を負うことになった。
とは言え、地球温暖化とか、砂漠化とか、酸性雨とか、はっきり言って「発表している本人たちも、どの程度まで理解しているのか疑問」(岩崎先生)な大きなテーマばかりで、発表内容にまで踏み込むことは難しかった。もっとも、その「3年生には難しいテーマだった」ということ自体も、貴重な感想だったそうだが…。
また、プレゼンテーションの仕方に関しての、「画面が早く変わりすぎて、分からなかった。」「画面が切り替わるときの音(効果音)がうるさかった。」などの指摘は、ずいぶん参考になったらしい。また、「こんな難しい環境の問題について、詳しく調べることができるなんて、さすが6年生だなあと思いました。」という感想には、大いに満足げだったそうだ。こちら側にしても、そういう6年生に自分もなりたいという意欲づけになったと思う。
こうしたつながりが、今後ますます充実した活動をもたらしてくれるものと、期待している。
(13) 「トルコ語のお手紙を読んで下さい」
以上述べてきた「日本一おいしいスイカのできるまで」と直接の関連はないが、国際理解の分野に関わって、どうしても触れておきたい事例を紹介する。
今年の5月中旬、昨年11月にトルコ地震で被災した子どもたちへ、児童会が中心になって送った文房具に対するお礼の手紙が、トルコ語で届いた。
<図23 トルコ語で書かれたトルコの子どもからの手紙>
せっかくのお手紙ではあるが、内容が全くわからない。そこで、国際交流会館や熊大の留学生担当など、考えられるあらゆるつてを辿って、このメッセージを翻訳してくれそうな方を探した。しかし、身近にトルコ語が読める人は全くいなかった。そこで、スキャナーで撮った画像ファイルをホームページに上げ、各種のメーリングリストを使って呼びかけかところ、トルコへの留学経験がある、東京の、ハンドルネームあやのすけさんという方が名乗り出て下さった。しかし、この文章の綴りは余りに癖が強くて、さすがのあやのすけさんも細かい部分が読みとれず、困っていたという。ちょうどそんなところに、友人がトルコから数年ぶりに一時帰国され、最終的にこの方が読んで下さったそうだ。何という偶然。そして、顔も知らない人たちの、この温かさ。まさに、ネットワークなればこその成せる技である。
この日本語に翻訳したメッセージを、メールで受け取った子どもたちが、満面の笑みを浮かべながら文字を追う姿は、とても感動的だった。あやのすけさんから届いたメッセージは以下の通りである。
こんにちは、**さんに紹介された##です。 数日でお渡しするつもりだった手紙の訳、数日どころか数週間になってしまいました。大変お待たせして申し訳ないです。 では、以下さっそく訳を。 --------------こ こ か ら----------------- ユウスケさん、こんにちは 以前贈り物をいただいて、どうもありがとうございました。友達も、ぼくも、あなた(がた?)からの贈り物が大好きになりました。このお返事は、そのことをあなたに告げるために書いています。こんな災害がトルコでも日本でも起きなければいいのにと願いながら、(あなたの)学業での成功をお祈りします。私たちも機会があったら、あなた方のお役に立てればと思っています。(名前は未記入) トルコ民族には、たくさんの援助をしてくれた友がいます。その(民族の)名は日本です。日本のみなさんと日本国に大変感謝しています。 追伸 私は12歳です(注:最初の子の筆跡で) |
もちろん、あやのすけさんへお礼として、齊藤さんにお願いしてスイカを送ったのは、言うまでもない。奇遇なことに、あやのすけさんもスイカが大の好物だったそうで、お礼のメールには「また翻訳が必要な時は、遠慮なくいつでもどうぞ」という、ありがたい言葉も書かかれていた。
トルコからのお手紙は、他にも写真だけのものや英単語を並べたものなどを含めて、我が3年1組だけで3通を受け取った。そこで、あやのすけさんのアドバイスに従い、平易な英語で記したお手紙を、航空便で送った。それには、写真を多用し、簡単な学校や学級の紹介、今後もトルコとの交流を望んでいること、などを明記し、Eメールアドレスも書き添えておいた。しかし、向こうの身近に英語の読める人がいなかったのか、それともトルコの通信事情が整っていないのか、残念ながら今日まで反応は返ってきていない。
しかし、トルコとの交流は不発に終わったものの、その橋渡しのために協力して下さったあやのすけさんの温かさに触れたことは、子どもたちの大きな心の財産となるに違いない。
ちなみに、あやのすけさんからは、スイカのお礼にと9月に香港土産の「月餅」を送っていただき、みんなでおいしくいただいた。
<図24 あやのすけさんから届いた「月餅」(H12.9.18)>
※中国では、中秋の名月の夜にこれを食べるのが一般的なのだそうだ
ここまで述べてきたように、私は「教室に魅力を」というテーマを掲げ、「情報機器を活用した『日本一おいしいスイカのできるまで』の総合的学習活動を展開することで、魅力ある教室を作ることができる」という仮説のもとに、本研究を行ってきた。その結果、以下のような結論を得ることができた。
(1) 「情報機器の活用」について
本年度は、放送教育研究大会に向けて取り組んだ結果、パソコンやインターネットなどのパソコンネットワークを活用したのはもちろんだが、テレビやラジオの番組とどちらかと言うとややなおざりにしてきたものも、うまく活用した実践を展開することができた。
もちろん、テレビ・ラジオの番組といっても、番組そのものが従来のような垂れ流し型から、関心意欲を喚起するような双方向型に変貌を遂げ、格段に活用がしやすくなっているのも事実である。
また、そうした双方向型の番組を活用したことで、コンピュータの利用法そのものも、従来の私の実践に比べて、ずっと双方向性の強い使い方となった。それによって子どもたちは、これまでしたことのない経験をすることができた。
この実践を一区切りするにあたって、子どもたちにとったアンケート(H13年1月実施)のうち、
「1 パソコンを使った学習は、楽しいですか?」
という問いに対して、
ア 楽しい・・・35人 イ ふつう・・・2人 楽しくない・・・0人
という答えが返ってきた。圧倒的多数の子が、パソコンを使った学習を楽しいと答えたわけだ。もちろんこれだけなら、ちょっとパソコンを触ったことのある学級なら、同じような結果になるだろう。典型的なのは、これに続く
「2 どんなところが?(自由記述)」
という問いに対して、
・ テレビ会議で、相手の顔を見ながら話ができたから。
・ テレビ会議で、ほかの学校や学校の周りのことを、教えられたり教えたりすること。
・ 電子メールをやりとりしたこと。
・ いろいろな学校に、たくさんの友達ができたこと。
といった答えが、ほとんどを占めたことだ。このことは、いかに子どもたちが、双方向型のこの実践に、従来にはなかった魅力を感じたかを、如実に物語っていると言えよう。
情報機器には、それぞれに独自の持ち味がある。それらを必要に応じてもっとうまく活用すれば、さらに有意義な魅力ある実践が展開できるはずだ。そのために、今後も常にアンテナを張り巡らしながら、工夫を重ねていきたい。
(2) 「総合的学習活動の展開」について
今年度から試行が始まり、まさに手探りしながら進めてきた総合的学習だったが、やっていく中で、私にもだいぶ見えてきたものがある。
学習指導要領には、総合的学習で取り扱う内容として、「環境,福祉・健康,国際理解,情報」の4つが例示されている。「この4分野の中から、どれかひとつを選んで〜」「この4分野に落ちや重なりがないように〜」、さらにもっと凄いのになると「各分野**時間ずつのうち〜」こんな会話が、私の周辺で飛び交っているのは事実だ。そのたびに、「何か違うんじゃないの?」と思ってきたのだが、それを口にするだけの実践が、私にはなかった。
今回、「日本一おいしいスイカのできるまで」の実践に取り組んでみて、私は、たったひとつの材料から、いかに多くの広がりが生まれるかということを思い知らされた。自然を相手にする農業は、即環境に直結する。ゲストティーチャー齊藤さんの話に出てきた後継者不足の問題は、福祉につながる。そして、全く縁がないと思っていた国際理解こそ、パラグアイ・藤井さんとの出会いによって、最も深めることができた分野だ(こういう分野わけ自体がナンセンスな気もする)。
こうした、無限の広がりをもつ総合的学習の意義は、子どもたちもよく認識しており、
「3 総合的学習は、ためになりましたか?」
という問いに対して、
ア なった・・・37人 イ ふつう・・・0人 ならなかった・・・0人
という答えが返ってきた。全員が、総合的学習がためになったと答えたわけだ。
今後学年が上がるに連れ、子どもたちの自ら学ぶ力もついてくる。自分の興味関心に応じた、自分なりの切り口で学習を深めていくことが可能になってくるわけだ。その分だけ、学習活動はますます魅力あふれるものとなるに違いない。そういう意味からも、総合的学習の最も初歩である3年生の段階で、スイカという非常に身近なテーマから、大きな広がりをもつ学習活動を子どもたちに体験させてあげることができたのは、意義深いことだったと信じてやまない。
ただ、これをさらに、子どもたちの学年が上がるに連れて、あるいは年を経るに従ってこれまでのテーマが手垢にまみれていくとともに、どう変化を持たせながら内容に一貫性を持たせていくかは、今後の大きな課題である。
(3) 「魅力あふれる教室づくり」について
11月下旬、熊日新聞に掲載された熊本大・山中先生の文章は、自分の実践を改めて振り返るいいきっかけとなった。日頃から、山中先生はコンピュータや、コンピュータネットワークが極めて大きな可能性を秘めた、有効な教育手段であることを大いに認めながらも、「だからこそ、その一方で実体験も大切にしていかねばならない」ことを強調しておられる。今回の文章も、その主張に沿った内容だ。
先に紹介したアンケートの、「(パソコンを使った学習で)どんなところが楽しかったか?」という問いに、ひろみは「テレビ会議でどんなことを発表するか、みんなで考えたこと」(傍線筆者)と答えている。そうはっきりは書いていなくても、同じ思いの子は多いに違いない。教室で、みんなと一緒に知恵を絞り考えを出し合い、よりよいものにするため協力しながら作り上げてきたテレビ会議だからこそ、圧倒的多数の子どもたちが、楽しい理由としてそれをあげているのだ。まさに、教室という場での実体験に裏打ちされているからこその魅力と言うことができよう。
また、同じアンケートの
「5 もっとこんなことができたらいいな、ということは?(自由記述)」
という問いに対して、
・ 学校でも、スイカを育ててみたい。
・ メロンを育ててみたい。
といった意見がかなりあった。見学という受け身なものだったとはいえ、まさに実体験に裏打ちされていたからこそ、そうした更なる意欲も生まれてきたのであろう。
このような活動をさらに積み重ねていくことで、その場となる教室はますます魅力あるものになっていくものと、私は信じてやまない。
昨年末、私は3年間愛用したNTTドコモの携帯電話機を、最新の機種に更新した。バッテリーがもたなくなったからだが、バッテリー交換よりは本体交換の方が安いと言われ、そうしたわけだ。その際、「iモードは使われますか?」と聞かれたので、当然新しい物好きの私は「はい!」と答え、必要な手続きをとった。
しかし、この瞬間、自分のことを一般庶民の中ではIT革命の先駆者の部類に属する、と信じていた私の自負は、もろくも崩れ去った。持ち帰った私は、はたと行き詰まった。「iモードって、何するの?」「どうやって使うの??」この危機を救ってくれたのが、かつての私の教え子であるまゆこ(18才:留学のため1年留年してただ今高校2年生)である。
まゆこが、昨年6月に1年間のアメリカ留学から帰国するまでは、ご両親と娘とのEメールでのやりとりを、私がサポートしてきた。その恩を着せて、帰国直後の7月6日には我が川上小に足を運んでもらい、3年生100人あまりを相手にアメリカの学校生活について話をしてもらった。「アメリカの学校では、授業中にお菓子を食べていても、ほとんどの先生は注意しません。そのかわり、成績が悪かったら『ちゃんと授業を聞いていなかったあなたが悪いのよ』というわけで、ばっさり落とされます。それくらい、自由な反面、自分がちゃんとしていなければいけません」という話は、子どもたちはもちろんだが、一緒に話を聴いた先生方にも、たいへんな感銘を残したものである。
さて、そのまゆこにiモードの手ほどきを受けることで、立場は一変した。「今度から、『まゆこ先生』と呼ばなきゃいけないね」と言ったのも、あながち冗談ではない。
さらに正月には、あまりパソコンとは縁のない高校生の姪と甥までが、携帯電話でメールをやりとりしているのに衝撃を受けた。しかも、面白がって私が送ったメールを見た甥から、「おじちゃん、ショートメールで送ったら、もっと安く済むよ!」と言われ、更なる衝撃を受けた。
時代は、確実に、そして劇的に変わっている。今はその流れに取り残されている学校も、ここ数年のうちに、大きな波に飲み込まれるだろう。その時こそ、一人一人の教師の真価が問われるに違いない。
「テクノロジーを身につけることが目的になってはいけないが、テクノロジーを身につけていることで、いろいろな発想が湧いてくるようになるのも、また事実である」9月27日の学習発表会を、助言者として参観された熊大附属小・前田康裕先生のお話の一節である。確かに、子どもたちはもちろん、担任の私も新しい環境が整い、新たなテクノロジーを身につけていったことで、自分たちの活動をさらに豊かなものにするための発想が広がってきた。
ただ、絶対に忘れてはならないのは、それが多くの人たちとの人的ネットワークに支えられているということだ。この文章に登場しただけでも、我が3年1組の実践を支えてくれた人たちは、たいへんな数に上る。それら多くの人たちのおかげで、また新たな発想が生まれ、有意義な活動を展開することができた。これらの方々には、言葉では言い尽くせないほど感謝している。
情報教育の分野はまだ未開拓の部分が多くで、技術的にもまだまだ不安定だったり、使い勝手が悪かったりする部分がかなりある。しかし、そのような課題は、時が解決してくれるだろう。大切なのは、それを、何にどう使うか、ということではなかろうか。しかもそれは、結局人的ネットワークの支えがなければ成り立たない。私は、今後も様々な機会を生かして人的ネットワークを広げながら、さらにいろいろなことに取り組んでいきたいと考えている。
・マルチメディアで学校革命 | 鈴木敏江 | 1996年 | 小学館 |
・ポートフォリオがよくわかる本 | 小田勝巳 | 2000年 | 学事出版 |
・総合的な学習で育てる実践スキル30 | 田中博之 | 2000年 | 明治図書 |