今週末も魅力あるコンサートが各地で開催されていますが、その中から秋葉区文化会館での山田磨依さんのピアノリサイタルを聴かせていただくことにしました。
このリサイタルについては、コンチェルトさんからの情報のほか、新潟日報で紹介されましたが、私はこれまで山田さんの名前は存じ上げず、どのようなピアニストか全く知りませんでした。
桐朋学園大学卒業後、パリ地方音楽院最高課程を修了。全日本ピアノオーディション(第1位)、フランスのクロード・カーンコンクールなど国内外のコンクールで入賞し、ダマーズを中心に、仏・英の作曲家の作品を積極的に取り上げ、数々の日本初演も担っているそうです。
フランスの作曲家ダマーズのデビューアルバムを2017年に出されて注目され、自主レーベル(モリスレコード)を設立して2023年に出された2枚目のアルバム「ダマーズ:ピアノ作品集」はレコード芸術特選盤に選ばれたそうです。
そして、ピアノエチュード全30曲を世界で初収録した3枚目のアルバム「ダマーズ:ピアノ作品集2 エチュード全集」を5月に発売し、更に注目を集めておられ、YouTubeで配信をされたり、各地で演奏会を開催されたりと、活発な演奏活動をされています。
しかし、不勉強な私は、ダマーズという作曲家自身も知りませんでしたので、山田さんの偉大さは全くわかりませんでした。
そんな訳で、このリサイタルの開催を知ったものの、どうしようかと思案しましたが、プログラムのメインのダマーズのほか、演奏予定の作曲家の名前はすべて初めて聞くような名前であり、それが逆に興味深く感じられました。
私の残された人生を考えたときに、少しでも見聞を広め、想い出に残そうということで、思い切って参加することにしました。
さて、山田さんは、東京都のご出身ですが、お父様が新潟市(新津)の出身で、お祖母様が秋葉区に住んでおられ、新潟にルーツを持つ音楽家でいらっしゃいます。血縁には映画評論家の佐藤忠男さんがおられるというのも驚きです。
こんな山田さんの新潟での演奏会は、CDショップ・コンチェルトでの小さな演奏会を別にすれば、今回が初めてになります。
今回は「3rd アルバム発売記念ツアー」の一環で、5月6日に東京公演を行っており、そして今日が新潟公演、6月22日に水戸公演、7月27日に名古屋公演と続きます。
誠に失礼な表現で申し訳ないですが、まったく知らない作曲家の、まったく知らない曲を、まったく知らない演奏家の演奏で聴くというのも面白いと思い、ネット予約させていただきました。
今週は一気に気温が上がって、夏の到来を実感させる陽気になりました。今日も朝から晴れ渡り、気温も上がっています。
いつものように雑務を終えて、ゆっくりと昼食を摂り、秋葉区へと車を進めました。気温はぐんぐんと上がり、車の外気温計は30℃を表示していました。
バイパスを使用せずに、ショートカットの下道で、快適に秋葉区文化会館に到着しました。思いのほか早く着きましたので、車の中でこの原稿を書きながら時間調整しました。
頃合いをみて、館内に入りますと、今日は10月にこのホールで開催される石田泰尚さんのリサイタルのチケット発売日で、受付には購入する人が次々と訪れていました。
この賑わいを見せている受付を横目に左奥に進みますと、今日の会場である練習室1があり、開場待ちの人が数人おられました。
用を足して戻ってきますと、ちょうど開場となり、2000円を払って入場し、右横に席を取りました。この受付をされていたご婦人は、山田さんにそっくりでしたが、もしかしましたらお母様でしょうか。
会場の練習室1には初めて入りましたが、小さな演奏会を開催するには、ちょうど良い会場ですね。正面にはグランドピアノ(カワイCA60)が設置されていました。開演時間が近付くに連れて席は埋まり、なかなかの盛況になりました。
開演時間となり、しばしの静寂の後に、朱鷺色のドレス姿が麗しい山田さんが、私のすぐ横を通って登場して、その美しさにはっとしました。
1曲目のピエルネの「奇想的即興曲」で演奏が始まりました。ゆったりとした美しい曲で、穏やかな風が吹くようでした。ピアノの響きも豊潤で、うっとりと聴き入りますと、突然曲調が変わり、軽やかに跳ね回り、そして再びゆったりと歌いました。初めて聴く曲でしたが、馴染みやすく、山田さんの演奏に一気に引き込まれました。
山田さんの挨拶があり、東京では10年くらい活動していますが、CDショップ・コンチェルトさんでの演奏を除けば新潟でのコンサートは今回が初めてであること、父が新津出身で、新潟には度々来ていること、などのお話しがありました。
曲目紹介がありましたが、1曲目のピエルネの曲は、ハープの曲としては有名だそうですが、それを作曲者自身がピアノ用に編曲したものだそうです。しかし、ピアノで演奏されることは珍しいとのことでした。以後、山田さんによる曲目紹介とともに演奏が進められました。
2曲目は、デュポアの「ブルーベリー」で、新潟のイメージに合わせて、今回の新潟でのリサイタルのために選曲したそうです。
ネズミが跳ね回るように、軽やかに、コロコロと転がりながら始まり、スピードを落として、再び軽快に、生き生きと走り回りました。ブルーベリーというイメージは良く分かりませんでしたが、昭和のアニメ「トムとジェリー」を見ているかのような楽しい曲でした。
続いて、スコットの紹介がありましたが、イギリスのドビュッシーと称されているそうです。今回はダマーズのエチュードを演奏するので、エチュードつながりで、スコットの「2つのエチュード」を選んだそうです。
第1番は、軽快さとミステリアスさを感じさせて始まり、穏やかさをはさんで、再び快活に走り回り、躍動感を感じさせました。
第2番は、軽やかに、大きなうねりを作りながら美しい響きを作り、足早に走り抜けました。メリハリのある心地良さを感じました。
続いて、今日のメインであるダマーズの紹介がありました。ダマーズはフルートやハープの作品で知られますが、高名なピアニストのコルトーの弟子であり、ピアニストとしても活躍し、ピアノ曲も数多く作曲しているそうです。
最初に、「プレリュードとトッカータ」が演奏されましたが、この曲はこれまでダマーズの作品一覧には記載されておらず、山田さんが偶然楽譜を手に入れて、今回のツアーでの演奏が日本初演だそうです。
プレリュードは幻想的な響きで始まり、青白い光がさす月夜を思い浮かべ、透き通るような清廉な世界が広がりました。続くトッカータは、軽やかに、激しい急流を下るように、美しい響きとともに走り抜けました。
次は、シフラに献呈された曲という「8つのエチュード」から、第3番と第6番が演奏されました。第3番は、超絶技巧の曲で、手の交差が何度もあり、スリリングな曲だと話されていました。歯切れのよい音楽が、激しく揺れ動きました。その激しさが軽快なリズムを刻んで、心地良く響いてきました。
第6番は、ゆったりとした美しい響きが、優しく心に染みてきました。熱く燃えるような思いを感じさせながら、ゆったりと、大きなうねりとなって迫ってきました。美しい曲であり、うっとりと聴き入りました。
続いては「自転車」です。この曲もエチュードとして作られています。猛スピードで始まり、畳み掛けるリズムで心はウキウキ。自転車のペダルを力いっぱいにこいで、明らかなスピード違反で走り抜けました。コミカルにも感じさせる楽しい曲であり、心がハイになる爽快感を感じました。
ローラン・プティに委嘱されたバレエ音楽をダマーズ自身がピアノ用に編曲した曲だそうですが、実際のバレエでは、この曲でどのように踊るのだろうかと興味深く感じました。
ここで、ダマーズのエチュードを集めた3枚目のアルバムについての説明があり、世界初録音が数曲あるとのお話しがありましたが、大したものですね。
そして次は、「公式と問題」です。良く分からない曲名ですが、「ピアノのためのエチュード」の第9番と第10番です。
第9番は、軽やかに転げ回り、第10番は、ゆったりと美しく、輝くような音が魅力的に響き、夢幻の世界を創り出していました。どこが「公式」で、どこが「問題」なのか、聴いていても理解はできませんでした。
プログラムの最後は、アイアランドの「デコレーションズ」です。ドビュッシーの「前奏曲集」に影響を受けて作曲された曲だそうです。
第1曲「魔法の島」は、幻想的な澄んだ響きで始まり、水面に水滴が落ちて波紋が広がり、大きな波を作って、眩しく輝きました。そして、ゆったりとした静けさの中に、パッと光がさして終わりました。
第2曲「月明かりの水面」は、ゆったりとして、不安感を感じさせて、その揺れ動く静けさが胸を打ちました。月夜の静けさ、月の光が映る水面が幻想的でした。
第3曲「緋色の儀式」は、激しく噴水が吹き出すように、音楽が流れ出ました。その流れは止めようがなく、ときどきボコボコと吹き上げて、その激しさに圧倒されました。
幻想的なダイナミックさに圧倒されて、山田さんの繊細さとパワー溢れる演奏に大きな感動をいただいて、予定されたプログラムは終わりました。
拍手に応えて、アンコールとして、トマジの「木漏れ日(夏の朝)」が演奏されました。ゆったりと、やわらかに、ゆりかごが揺れるような心地良さを感じました。朝日がさす木漏れ日の情景が目に浮かび、心が癒されるように感じました。
さらに拍手に応えて、ジョルジュ・ユーの「アルバムの一葉」が演奏されました。これもゆったりと、しっとりとした優しい曲で、今日のリサイタルを締めくくるに相応しい極上のデザートになりました。
時間としては1時間ほどでしたが、内容の濃い演奏会で、大きな感動と満足感を感じました。近現代の曲ばかりでしたが、緊張感を強いられることもなく、楽しく、親しみやすい美しい曲ばかりで、新たな世界を知ることができた貴重な演奏会でした。
もちろん山田さんの素晴らしい演奏があってのことです。容姿端麗でトークも上手であり、その話し振りから人柄の良さが伝わってきました。曲目解説も分かりやすくて良かったです。
終演後に、アンコールの曲名を確かめるためにお話ししましたら、曲名をわざわざプログラムに書いてくださいました。ありがとうございました。
ダマーズをはじめとして、これまで知らなかった作曲家を知ることができ、山田さんという素晴らしいピアニストを知ることができたのは大きな収穫でした。
いい音楽を聴いた満足感とともに、外に出ますと、気温は高かったですが、心は爽やかで、快適なドライブで秋葉区から南区、西区へと車を進めました。
(客席:2列目右、¥2000) |