今日は、天皇誕生日の振り替え休日です。りゅーとぴあでは新潟シューベルティアーデのコンサートがあり、行きたいところでしたが、毎回チケット完売の人気公演であり、新潟市内の音楽愛好家はそちらに行くでしょうから、私は五泉市の村松まで遠征することにしました。
会場の五泉市さくらんど会館のイベントホールは、音楽用とは言い難い多目的ホールですが、ステージに音響反射板を備え、ベーゼンドルファー・インペリアルという超高級なピアノを有しており、毎年そのピアノを用いた魅力的なコンサートを開催しています。私も何度か聴かせていただいていますが、昨年は山中惇史さんのコンサートを楽しみました。
今回は、第67回ミュンヘンコンクールのピアノ三重奏部門で日本人団体として初優勝し、現在最も注目される葵トリオの演奏会です。今回が葵トリオの新潟県内初公演であり、その地が新潟市でなく五泉市の村松というのが何とも素晴らしいことだと思います。
五泉市教育委員会の主催ですが、毎年魅力的な演奏会を企画してくれる五泉市の担当者を賞賛したいと思います。
新潟市は晴れていましたが、五泉市に入るとともに激しい雪が降りだし、ちょっと残念に思いながら村松市街へと車を進め、早目に駐車場入りしました。開場時間まで車の中でテレビを観て待ちましたが、その間に雪雲は過ぎ去り、雲間から日が差して来ました。天候が回復して良かったです。
13時半の開場でしたので、5分前に館内に入って待機し、開場開始とともに入場しました。まさに体育館というべき広々とした多目的ホールですが、ステージには立派な音響反射板が設置され、ピカピカのベーゼンドルファー・インペリアルが鎮座していました。
広いホールの中央に、横13列X縦15列のパイプ椅子が、左右の間隔を取って並べられていました。全て指定席でしたが、私の席は、4列目の中央と、ベストポジションです。
空調がフル稼働していて、その音がうるさくて、とても音楽を聴く環境には思えず、どうなるかと心配になりましたが、開演中は空調が切られて静かになりました。その分底冷えになりましたが。
当初は案内されていませんでしたが、開演前にマネージャーの川井さんとピアニストの秋元さんによるによるプレトークが開催されました。
室内楽について、ピアノ三重奏曲について、そして、ハイドン、ベートーヴェン、メンデルスゾーンなど、それぞれのピアノ三重奏曲でピアノをどう弾き分けているのか、そして、ベーゼンドルファーのことなど、楽しい解説がありました。
開演時間となり、うるさかった空調が静かになり、場内が暗転してステージが明るくなって、3人がステージに登場しました。
ヴァイオリンの小川響子さんは赤いドレス風のパンツルック、チェロの伊東裕さんは白シャツに黒チョッキ、ピアノの秋元孝介さんは黒シャツに黒チョッキです。
挨拶代わりの1曲目は、エルガーの「愛の挨拶」です。やさしさに満ち溢れたさわやかな演奏でした。4列目ということもあってか、音が良く届き、ヴァイオリン、チェロとも、音量十分に美しく響きました。体育館にパイプ椅子を並べたような、いかにも「田舎」という雰囲気ではありましたが、音に不満はなく、以後美しいサウンドで演奏を楽しむことができました。
チェロの伊東さんによる挨拶とメンバー紹介があり、葵トリオのAOIは、秋元、小川、伊東の頭文字を取ったものだとの説明がありました。そして小川さんにより、メンバー紹介代わりに、それぞれの楽器で1曲ずつ、3曲演奏するとの話がありました。
まず伊東さんが退場して、秋元さんのピアノ伴奏とともに小川さんのヴァイオリンで、クライスラーの「愛の喜び」が演奏されました。元気のよい、切れのある演奏でした。
小川さんが退場して伊東さんが登場し、続いてはピアノ伴奏でサン=サーンスの「白鳥」をゆったりと、情感豊かに演奏し、美しいチェロの響きを楽しませてくれました。
伊東さんとともに秋元さんも一旦退場し、秋元さんが再登場して、続いてはピアノ独奏でラフマニノフの前奏曲「鐘」が演奏されました。ベーゼンドルファーにぴったりな選曲で、低音部の芳醇な響きが重厚で美しかったです。激しさに圧倒されましたが、音の濁りはなく、ピアノの良さを素人の耳でも感じられました。
続いては、いよいよピアノ三重奏曲です。前半はハイドンのピアノ三重奏曲「ジプシー」です。葵トリオの3人が譜めくりとともに登場しました。譜めくりの女性は、ピアニストの○○さんのようにお見受けしましたが・・・。
演奏前に、ピアノの秋元さんによる解説があり、ハイドンの数多くあるピアノ三重奏曲の中でも、最も有名な曲であること、第3楽章がジプシー風の曲で斬新であることなどを説明してくれました。
そして演奏の開始です。第1楽章は、明るく爽やかに始まり、春が来たかのようなのどかな情景が眼前に広がりました。三者が一体となり、軽やかに、明るく、優雅に演奏が進みました。
第2楽章は、ゆったりと美しく、やすらぎのひと時で、うっとりと聴き入りました。第3楽章は、曲調がガラリと変わって、激しく駆け回り、大きくリズムを刻んで、情熱的にステップを踏みました。まさに「ジプシー」という標題にふさわしく、激しいリズムの洪水に、心もウキウキ。猛スピードの中にエンディングとなりました。客席に興奮をもたらしで、ブラボーの声も上がりました。
20分間の休憩になりましたが、新潟市から村松まで音楽を聴きに来る物好きはいないと思っていましたが、何と音楽好きの同級生に会ってしまいました。昨日は東京の上野で二期会の「カルメン」を観ていたはずなのに、今日こんな所で出会うとは・・。お見それしました。
休憩時間中、暖房がフル運転され、後半開演とともに切られました。場内が暗転して、3人が譜めくりとともに登場し、後半はメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番です。
演奏前に、チェロの伊東さんにより曲目紹介がありました。ハイドン〜ベートーヴェン〜メンデルスゾーンと、時代が進むにつれて、ピアノ三重奏曲での各楽器の扱い方の変遷についての解説がありました。
続いてメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番についての説明がありました。ピアノ三重奏曲の中で一番有名であること、そして4つの各楽章について解説してくれました。
演奏が開始されましたが、第1楽章は、チェロの物悲しげなメロディにヴァイオリンが加わって始まりました。前半のハイドンと異なり、3つの楽器が独立して音楽を作り上げていることが素人の耳にも理解されました。3つの楽器が、激しく、情熱的に絡み合い、緩徐部ではゆったりと歌い、この楽章を聴けただけでも十分に満足するくらいに、胸を熱くしました。
チューニングして、第2楽章は、静かに、ゆったりと、優しいピアノに始まり、ヴァイオリン、チェロが加わって、穏やかな、癒しの音楽の中に、秘めた思いを感じさせて、切なく心に響いてきました。
第3楽章は、軽快なピアノに始まり、ヴァイオリン、チェロが加わって、スピーディに走り出しました。爽快な疾走感が心地よく、終始スピードを落とすことなく、走り抜けました。
第4楽章は、激しいリズムで始まり、畳み込むように攻めてきました。緩急を付けながらも脇目はふらず、まっしぐらに蒸気機関車が走り抜けるようでした。中間部ではゆったりと歌わせ、ひと呼吸おいて再び加速し、激しく疾走しました。大きな感情のうねりを乗り越えて、スピードアップ、エネルギーアップしました。チェロが歌い、ヴァイオリンが呼応して寄り添うのも束の間に、再び激しく熱量を上げてフィナーレへと突進しました。否応なく盛り上がり、ブラボーが贈られました。
拍手に応えて小川さんの挨拶があり、CDの紹介、現在ベートーヴェンのピアノ三重奏曲の全曲録音のプロジェクトを進めていることなどのお話があり、アンコールに、ドヴォルザークの「ドゥムキー・トリオ」の第6楽章を演奏する旨の説明がありました。
演奏は、まさに「ドヴォルザークだあ!」という響き。当然ではありますが、これまでの演奏曲とは曲調が全く異なり、哀愁が漂う胸に迫る音楽が流れ出て、ゆっくりと、そして激しく歌わせて、フィナーレを迎えました。大きな拍手が贈られて、感動の演奏会は終演となりました。
その後サイン会が行われましたが、早々に退館して、雪が降る中に車を進めました。秋葉区に入りますと雪は止み、バイパスは使わずに、ショートカットの道を進み、快適なドライブで家まで38km、55分で到着できました。
ローカルな雰囲気の中で聴く本格的なピアノ三重奏曲。巨大なホールに用意された客席は少なかったですが、聴衆は熱心に集中して聴いていて、終演後の盛り上がりも良かったです。今度は新潟市内のホールで演奏を聴きたいですね。
なお、このホールでは、3月22日に、高木竜馬さんによるコンサートが開催されます。これも楽しみですね。
(客席:D-7、¥1500) |