TOKI弦楽四重奏団 2021
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2021年8月1日(日)14:00 新潟市音楽文化会館
TOKI弦楽四重奏団(Vn1:岩谷祐之、Vn2:平山真紀子、Va:鈴木康浩、Vc:上森祥平)
ゲスト(Va):島田 玲
 

ヘンデル(ハルヴォルセン編):パッサカリア ト短調 HWV432

レフラー:単一楽章による弦楽五重奏曲

ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1番 ホ短調「クロイツェル・ソナタ」

(休憩15分)

バーバー:弦楽四重奏曲 ロ短調 作品11より 第2楽章“アダージョ”

ドヴォルザーク:弦楽五重奏曲第3番 変ホ長調 作品97

(アンコール)
バーンスタイン:「キャンディード」より 終曲 Make Our Garden Grow
 

 毎年夏に恒例のTOKI弦楽四重奏団の公演です。今年は7月30日に十日町の越後妻有文化ホール、31日に刈羽村生涯学習センターで公演し、3日目の今日は新潟市での公演です。また、8月3日には東京の浜離宮朝日ホールでの公演を予定しています。

 新潟縁の演奏家により結成されたTOKI弦楽四重奏団の演奏は、これまで何度も聴かせていただいていますが、昨年に引き続き、今年も聴かせていただくことにしました。
 昨年はコロナ対策で密を避けるため、りゅーとぴあコンサートホールで客席を制限しての開催でした。今年は昨年以上に厳しい感染状況ですが、いつもの会場である新潟市音楽文化会館での開催となりました。

 日曜日の朝、ゆっくり寝ていようと思うと早く目が覚めてしまいます。HPの記事をアップし、雑用を済ませ、近所のスーパー銭湯で疲れを癒し、ゆっくりと昼食を摂って家を出ました。

 りゅーとぴあの東ロビーで、漏れ聴こえる新潟県音楽コンクールのピアノ演奏をしばし聴き、その素晴らしさに後ろ髪を引かれながら音楽文化会館へと向かいました。

 開場待ちの列にしばし並んで入場。10列目左寄りに席を取り、開演までの間、この原稿を書いていました。こんなことを書くと、またお叱りを受けそうですが、私の周囲の各所でご婦人方のおしゃべりが賑やかでした。開演までしゃべりっぱなし。たいしたものです。声が大きいことには気づいておられないのでしょうね。

 開演時間となり、4人がステージに登場。平山さんは小豆色のドレスです。1曲目は、ヘンデル(ハルヴォルセン編)の「パッサカリア」です。
 私の好きな曲であり、実演で、CDで、しばしば聴いていますが、弦楽四重奏での演奏は初めてでした。激しさというより、柔らかさを感じさせ、4人の美しいアンサンブルに、うっとりと聴き入りました。

 4人が退場してステージが整えられ、ゲストのヴィオラの島田さんを含めて5人が登場。鈴木さんによる挨拶とメンバー紹介、プログラム紹介がありました。今日のプログラムはヨーロッパとアメリカがテーマだそうです。

 2曲目は、ベルリン生まれで、パリで活動した後アメリカに渡った作曲家レフラーの「単一楽章による弦楽五重奏」です。平山さんが見つけた曲だと紹介されましたが、めったに聴く機会のない珍しい曲です。
 “単一楽章による”とありますが、実際はいくつかのパートに分かれており、楽章の分かれた弦楽五重奏曲という感じでした。馴染みやすいメロディに始まり、急・緩と次々に音楽が展開して行く長大な曲で、聴き応えがありました。

 全員ステージから下がって、ステージが弦楽四重奏用に整えられ、3曲目はヤナーチェクの弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」です。
 ベートーヴェンの「クロイツェル」に触発されて書かれたトルストイの同名の小説の物語に沿って曲が進むそうですが、そう言われて聴きますと、全4楽章のそれぞれが、なかなか劇的な曲であり、ドラマが眼前で繰り広げられているような印象を受けました。味わい深い曲であり、演奏に引き込まれました。

 休憩後の後半は、アメリカの作曲家バーバーの弦楽四重奏曲の第2楽章“アダージョ”です。バーバーといえばこの曲というほどの、誰もが聴いたことのある追悼の曲です。通常は弦楽アンサンブルで聴くことがほとんどで、オリジナルの弦楽四重奏で聴く機会はこれまでになく、感動もひとしおでした。心に重くしみこむメロディーは、コロナ禍に苛まれている現状に、あまりにも相応しい音楽であり、切なさの中に、青白い感動をもたらしました。

 五重奏用にステージが整えられて、プログラム最後はドヴォルザークの弦楽五重奏曲第3番です。アメリカの地で、祖国に思いを馳せながら作られた曲であり、弦楽四重奏曲「アメリカ」とほぼ同時期に作曲された曲だそうです。
 いかにもドヴォルザークという感じの、ボヘミアの香りが漂う親しみやすい曲です。第1楽章は、何となく「新世界より」の第1楽章を髣髴させ、第2楽章は、軽快に曲が始まりますが、中間部でのヴィオラのソロの美しさに酔いしれました。第3楽章は、ゆったりと、しっとりとした美しい音楽に身を委ね、第4楽章は、中間部ではメロディをしっとりと歌わせ、その後は急加速して、興奮のフィナーレへと駆け上がりました。交響曲を聴いたかのような充実した演奏は、最後を飾るに相応しいものでした。

 拍手に応えて、鈴木さんの挨拶と、11月に予定されているリサイタルの宣伝があり、その後は岩谷さんによる曲目紹介の後、アンコールにバーンスタインの「キャンディード」の終曲が演奏されました。
 5人とも、これまで着けていなかったマスクを着けて演奏を開始して、どうしたのかと思わせましたが、最後にサプライズが待っていました。
 弦楽五重奏での演奏だけでも素晴らしかったのですが、何と最後は岩谷さんがマイクを持って歌いだし、他の4人も演奏しながら歌って、ミュージカルのフィナーレを再現し、観客を驚かせました。
 暗い世相に明るさと元気をもたらす選曲と、見事なパフォーマンスによって、聴衆に大きな感動をもたらし、コンサートは終演となりました。

 これまで何度もこのメンバーの演奏を聴いていますが、今回はこれまででも最高の演奏ではなかったでしょうか。それぞれが抜群のパフォーマンスを発揮し、ゲストを含め、5人のアンサンブルの美しさに息を呑みました。新型コロナ禍にあえいでいる社会に祈りを捧げ、勇気と元気をもたらしてくれるようでした。

 毎年夏に新潟の地に参集し、素晴らしい音楽を聴かせてくれるTOKI弦楽四重奏団の皆さんに感謝し、さらなる活躍を祈念したいと思います。
 今年のベストコンサートにノミネートすべき演奏に接し、大きな感動と満足感を胸に、音楽文化会館を後にしました。

 帰りにりゅーとぴあを覗いてみましたら、東ロビーでは新潟県音楽コンクールのフルートの演奏が漏れ聴こえていました。今年の優勝者は誰になるでしょうか。

 劇場方向に進みますと、ちょうどAPRICOTの最終公演の開場が行なわれており、家族連れでごったがえしていました。子どもたちは夏休みの真っ最中。素晴らしい夏の思い出になることでしょう。

  

(客席:10-8、¥3500)