4月29日から始まった Marutake-hall Golden Week Concert 2021 も、残すところ今日と明日になりました。いよいよ新潟の音楽ファン待望のミューズ、トリオベルガルモとして活躍中の石井朋子さんと渋谷陽子さんが登場して最後を飾ってくれます。
明日の最終日は大ファンである渋谷陽子さんなのですが、仕事のスケジュールが決まらなかったことと東響新潟定期との時間関係で、どうしようかと悩んでいる間にチケットは完売となり、断念せざるを得ませんでした。
ということで、今日の石井朋子さんは何としても聴かなければなりません。今日は他にも聴きたいコンサートがあったのですが、そちらは断念しました。どこに行こうか悩めるということは喜ぶべきでしょうね。
さて、石井さんの演奏を聴くのは、昨年10月に巻文化会館で開催されたトリオ・ベルガルモとしてのコンサート以来半年ぶりになります。今回は単独でのリサイタルですので、どんな演奏を聴かせてくれるか楽しみでした。
今日は天候にも恵まれ、気温も上がって過ごしやすい陽気となりました。黄砂襲来が残念ですが、行楽日和となりました。でも、遠出するのは止めにして、感染予防を図って、音楽を楽しみましょう。
ということで、所用を済ませ、マルタケホールのある新潟駅前へと車を進めました。このホールに来るのは先週木曜日の加藤さんのコンサート以来です。
駅前の駐車場に車をとめ、時間がありましたので新潟駅を一回りしました。駅の改札からはキャリーケ−スを引いた若い女性がたくさん出てこられ、その数の多さに驚きました。何かのイベントでもあるのでしょうか。
駅南の大型書店で時間をつぶし、14時過ぎにマルタケビル入りしました。エレベーターで8階に上がりましたが、ホール前には係員だけで誰もおらず、私が最初の客となりました。
しばらく誰も来られず、気まずい思いで開場を待ちましたが、14時20分頃に漸く次の客が来られて一安心しました。その後はパラパラと客が来られて短い列ができたところで開場となり、前回と同じく正面中央に席を取りました。
前過ぎとは思いましたが、前方は無人ですし、両横は座れない席になっていましたので、感染リスクが低い席との判断です。正直言えば、できるだけ石井さんに近付きたいとの思いもありましたが。
さて、時間となり、上が白と黒で袖はシースルー、下が黒のドレスの石井さんが登場。ピアノの後方を回って一礼し、椅子に座って開演です。今日の公演は、シューマン・リサイタルと題され、オール・シューマン・プログラムです。
まずは、アラベスクです。5つの部分からなるという変奏曲だそうですが、耳によく馴染む主題を形を変えながら落ち着いたタッチで淡々と演奏し、硬軟自在、包み込まれるような音の漣。石井さんの世界へと引き込まれました。
続いては、ユーゲントアルバム(子供のためのアルバム)からの2曲です。第38曲は、美しいメロディで冬の冷たさ、清らかさを感じさせ、クリアな音響で魅了しました。続いて、第39曲は、暖炉で燃える炎の如く揺れ動く感情の起伏を、力強くも優しく演奏しました。
一旦退場して、前半最後は交響的練習曲です。主題に続いて、12の練習曲(変奏曲)が演奏されました。多彩な変奏が次々と繰り出され、ときに優しく、ときに激しく、飽きる暇もなく壮大なフィナーレへと盛り上がり、聴き応えたっぷりな演奏に感激しました。
休憩後の後半は謝肉祭です。序章と終章を伴う全21曲からなる変奏曲ですが、大きく性格が異なる曲が次から次へと演奏され、今どの曲なのか分からなくなってしまいました。
各曲の対比も面白く、飽きる暇もなく楽しませていただきました。まさにお祭り騒ぎといえましょうか。フィナーレでは力強い打鍵で、パワーあふれる演奏に圧倒されました。
プログラムの解説に書かれていたこの曲に込められている意味合いなどは、私に理解できるはずなどありませんが、石井さんは癖が強そうな小型スタインウェイを我が物とし、サロン的に濃密な小さなホールの空間を謝肉祭の賑わいに変えてくれました。
髪を後ろに束ねた凛とした姿。終始表情を変えることなく演奏を続けました。挨拶やトークは一切なく、演奏一本で押し通し、立ち込める品格は正にクールビューティーといえましょう。
アンコールもシューマンかと思いましたが、意外なことにロシア物で、グリンカ/バラキレフの「ひばり」でした。これがまた素晴らしい演奏でした。澄み切った音。美しい高音の連打。パワーと共に透明感のあるピアノに感激しました。さすがにロシアで研鑽を積んだ石井さんですね。
期待通りの石井さんの演奏。パワーがありながらも十分に余裕を持ち、ノーブルさを失いません。年月を積み重ね、風格すら感じさせる熟練のピアノは、包み込むような安定感を感じさせ、キラキラ輝く若手とは違った魅力にあふれています。熟成されたワインといいますか、ひとつひとつの音に濃厚な芳香が漂うような感じを受けました。
終始表情を変えずにクールな表情で淡々とする演奏するお姿、そこから生み出されるパワーあふれる演奏とのギャップが石井さんの魅力といえましょう。
終演時に見せてくれた抑えられた微笑がチャーミングさを感じさせ、煩悩だらけのジジイの心をくすぐりました。贅沢を言うなら、石井さんのお言葉を聞きたかったかな。
シューマンのピアノ曲といえば、ピアノ協奏曲を別にすれば、いろいろ聴く機会はあったはずにも関わらず、すぐに思い浮かぶのは「トロイメライ」くらいしかない無教養な私です。今回シューマンのピアノ曲をいろいろ聴くことができて、私の残された人生を考えましても貴重な時間でした。いい音楽を聴けた喜びを胸に、ホールを後にし、新潟駅前の現実世界に身を投じ、駐車場へと向かいました。
(客席:B-9、¥3000) |