実験舞踊vol.2 『春の祭典』+『Fratres V』 プレビュー公演
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2020年8月27日(木) 19:00  新潟市民芸術文化会館 劇場
Noism0+Noism1+Noism2
 

『Adagio Assai』
 
演出振付:金森穣
 音楽:M.ラヴェル《ピアノ協奏曲 ト長調 第2楽章 Adagio assai》
 出演:Noism0 (井関佐和子、山田勇気)


『Fratres V』
 
演出振付:金森穣
 音楽:A.ペルト《Fratres for Violin, Strings Ochestra and Percussion》
 衣裳:堂本教子
 出演:Noism0(金森穣)、Noism1


(休憩20分)

実験舞踊vol.2『春の祭典』
 
演出振付:金森穣
 音楽:I.ストラヴィンスキー《春の祭典》
 椅子:須長檀
 衣裳:RATTA RATTARR
 出演:Noism0 (井関佐和子、山田勇気)、Noism1、Noism2

 


 

 Noism は、2004年に新潟市民芸術文化会館専属舞踊団として創設され、国内唯一の公立劇場専属舞踊団として、芸術監督の金森穣とともに、日本のみならず、海外にも活動の場を広げて活躍を続けてきました。

 しかし、芸術文化の振興に理解を示していた篠田市長から、2018年に現在の中原市長に交代し、財政危機の新潟市の建て直しのため、年間4〜5000万円の税金が投入されている Noism の存在意義が議論されたことは記憶に新しいところです。
 芸術性を追い求めるストイックな姿勢が、一般市民との乖離を生んでいたことは否めず、その存在が広く市民に認知されていなかったというのは事実として認めざるを得ませんでした。

 有識者による評価会議を経て、最終的には中原市長の決断により、積極的な地域貢献等を行っていくことを条件に、2022年8月末までの活動延長が決まりました。
 この決定に応じて、市民に身近な舞踊団として活動するため、名前を「Noism Company Niigata」と改称し、新たなスタートを切りました。
 これまでのプロフェッショナルカンパニーの Noism1(ノイズムワン)、研修生カンパニーの Noism2(ノイズムツー)に加えて、プロフェッショナル選抜メンバーによる Noism0(ノイズムゼロ)が新たに創設され、活動を再開しました。
 市民向けのワークショップの開催などを行うほか、新生 Noism としての最初の公演が昨年12月に開催され、大きな感動をいただきました。

 そして、半年ぶりの Noism 公演として、6月12日、13日、14日に新潟で、19日、20日、21日は東京で、さらに7月2日、3日は札幌で公演が組まれ、期待が高まりましたが、新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、この公演は中止され、来夏への延期が発表されました。(残念でしたので、幻のコンサート情報掲載しました。)

 公演そのものは中止となりましたが、練習は積まれており、その成果の発表として、新潟県在住の活動支援会員とマスコミを対象とした公開リハーサルが、6月13日、14日に、各回50人限定で、りゅーとぴあ・劇場で開催されました。私はテレビのニュースで垣間見ただけですが、素晴らしい内容のようでした。

 そして今回は、来年夏に予定している本公演で行うような演出を伴わない形で、プレビュー公演として、上演されることになりました。
 8月28日、29日の2回公演されますが、仕事の予定があって、何とか都合がつけられた28日の公演を観させていただくことにしました。客席は密接を避けた形でチケットが発売されましたが、ステージ全般を見渡したいため、後方の席を確保しました。


 さて、今回の公演は金森穣氏による新作で、ストラヴィンスキーの「春の祭典」、「Fratres V」、さらに追加として「Adagio Assai」が上演されます。

 「春の祭典」は、「火の鳥」、「ペトルーシュカ」と並んで、ストラヴィンスキーの3大バレエとして有名ですが、数ある管弦楽作品の中でも私が大好きな曲のひとつです。
 大規模な管弦楽編成による演奏は、オーケストラの醍醐味を実感できます。若い頃からLP、CDを買い込んで楽しんでいましたが、新潟では生演奏を聴く機会はなく、実演を初めて聴いたのが1995年11月に東京で聴いたゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管弦楽団でした。新潟で初めて聴いたのは1999年10月の東京交響楽団第4回新潟定期演奏会です。以来、何度かオーケストラ演奏は聴いていますが、バレエ公演は観たことがありませんでした。

 「春の祭典」の初演は、ニジンスキーの振付、ピエール・モントゥー指揮によりパリのシャンゼリゼ劇場で行われ、賛否両論の大混乱を巻き起こしたことは有名ですが、その後は20世紀を代表するバレエ作品として定着しました。
 このバレエにはいくつもの振付がありますが、一番有名なのはモーリス・ベジャール振付によるものでしょう。私も20世紀バレエ団による公演や、東京バレエ団の公演などを映像で見たことがありますが、その素晴らしさに感動したことは記憶に残っています。
 今回は、Noism0+Noism1+Noism2 の総勢21人による舞踊です。プレビュー公演ということですので完成形ではないわけですが、モーリス・ベジャールの薫陶を受けた金森さんが、どんな振付・演出で楽しませてくれるのか期待が高まりました。

 また、「Fratres V」は、2019年7月のNoism15周年記念公演で演じられた「Fratres I」、2019年12月の公演で演じられた「Fratres U」に続く3部作の最終作となります。
 アルヴォ・ペルトの「Fratres」に載せて、Tは群舞で、Uは金森さんの単独の舞踊により感動を誘いました。Tでの度肝を抜くような演出は、忘れられないものとなっています。今回は3部作の最終作品として、どのような舞踊・演出で楽しませてくれるか楽しみでした。

 そして、今回のプレビュー公演に追加として加わった「Adagio Assai」は、ラヴェル作曲のピアノ協奏曲の第2楽章 Adagio Assai により演じられます。この曲も私が好きな曲であり、どのような振付で楽しませてくれるのか期待が膨らみました。


 前置きが長くなりましたが、昨日に引き続いて、2日連続のりゅーとぴあです。猛暑の中、職場から大急ぎで車を走らせ、開演10分前に到着しました。間に合ってよかったです。無事に検温を通過し、チケットを自分でもぎって入場しました。
 後方の右寄りに取った席に着席し、開演を待ちました。客席は前後左右1席おきに販売されました。もともと劇場は傾斜が強くて見晴らしが良いのですが、前の席が空いていますので、さらに眺望は良好です。
 チケットは完売となり、現状の安全基準での最大人数が集ったということになりましょう。客席の前方2列の客にはフェイスシールドが配布され、安全対策が取られました。

 開演時間となり、幕が上がりますと、ステージ上にはNoism 0 の井関さんと山田さんの二人がいて、全くの無音、無動の中に開演しました。
 背景には雲の画像が投影されていました。音楽が流れず、沈黙の中に時間が経過し、どうしたのかと心配するうちに、二人の体が少しずつ動き出しました。
 しばらくの静寂の後に、ピアノの演奏が流れだし、スクリーンには二人の姿が投影され、実像とスクリーンの映像とがシンクロしました。
 その後スクリーンの裏に山田さんが移動し、山田さんの影と井関さんが絡み合いました。最後に山田さんがスクリーン前に戻り、井関さんと融合し、ステージ奥からの閃光に目がくらまされる中に井関さんが消え、そして山田さんが消えてエンディングとなりました。

 ラヴェルのピアノ協奏曲の第2楽章Adagio assai の美しいメロディにのせて演じられる二人の舞踊に酔いしれましたが、その余韻に浸る間もなく轟音がとどろき、闇の中から金森さんが登場し、前の演目からシームレスに次の演目であるい 「Fratres V」へと移行しました。

 前記しましたように、「Fratres V」は、群舞で演じられた「Fratres T」、金森さん1人で演じられた「Fratres U」に続く3部作の最後ということで、その両者の融合型ということになります。
 初めは金森さんが、「FratresU」のときように一人で踊り、その後、後方にNoism 1 の11人のダンサーが並んで、円形のスポットライトの下で「FratresU」のような一糸乱れぬ群舞で魅了しました。 
 金森さん以外の11人の頭上に前の公演同様の白砂が降り注ぎました。ステージに降り積もった白砂に足で描かれる曲線の美しさ。11人がシンクロし、全く同じ曲線を描くさまに感嘆しました。最後に11人が金森さんを取り囲み、金森さんの頭上に白砂が降り注いで幕が降りました。

 ソロと群舞、個と集団、さらには個人と社会、この演目に込められた金森さんの思いは深いものと思いますが、そんな思いに馳せる間もなく、ただ眼前で繰り広げられるパフォーマンスに息を呑むばかりでした。

 これまでの「Fratres」以上の感動に胸を熱くしました。「Adagio assai」から連続して、一連の作品として演じられた前半を目にしただけで Noism の凄さが伝わり、大きな喜びと満足感をいただきました。

 余韻に浸る時間もないまま、客席が明るくなり、休憩のアナウンスが流れて20分間の休憩に入りました。休憩時間中に先ほどの白砂が掃除されて、ステージ前方に21脚の白い椅子が横1列に並べられました。

 開演時間となり、無音の中に、左右からダンサーが一人ずつふらりふらりと登場し、意味ありげな表情で椅子に座りました。座る場所を変えたりしながら、21人のダンサーが全員が揃ったところで「春の祭典」の音楽が流れました。

 音楽とシンクロして各ダンサーが舞い、楽譜を見るかのような演出に見入りました。その後はフォーメーションを変えながら、椅子をうまく使った群舞に魅了されました。
 素晴らしい振付・演出、そして私の大好きな音楽ということもあって、時間はあっという間に過ぎました。音楽と寸分の狂いもなくシンクロするダンサーたちの動きに驚嘆し、終始休むことなく激しく動き回るダンサーたちの鍛え上げられた肉体とパワーに圧倒されました。

 この曲は本来バレエ音楽であり、このような舞踊とともに音楽を楽しむのが本当なんだということを実感しました。プレビュー公演ということで、本番で行うような演出はないとのことなのですが、十分に満足できる内容だったと思います。来年予定されている本公演はどうなるんだろうと期待が高まりました。

 幕が降り、繰り返されるカーテンコールで、スタンディングオベーションと大きな拍手でメンバーを讃えました。最後に金森さんがステージに登場して公演の成功を満場の観客とともに祝い、終演となりました。

 今回もまた Noism の凄さをまざまざと実感させられました。新潟に留めておくべき内容ではなく、全国に、世界に発信しうる内容だったと思います。
 Noism は世界に誇りうる新潟の宝だということを再認識し、今日の猛暑以上に胸を熱くし、高揚した気分で劇場を後にしました。
  

(客席:2階17-25、¥3000)