小黒亜紀 ピアノ・リサイタル
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2017年1月17日(火)19:00 新潟市民芸術文化会館 スタジオA
 
ピアノ:小黒亜紀、中川賢一(協奏曲第2ピアノ)
 

スカルラッティ:ソナタ ホ長調 K.380
スカルラッティ:ソナタ ホ長調 K.531
スカルラッティ:ソナタ ト短調 K.35

ショパン:ノクター 第2番 変ホ長調 作品9-2
ショパン:ノクターン 第13番 ハ短調 作品48-1

ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53「英雄」

リスト:ハンガリー狂詩曲 第12番 嬰ハ短調

(休憩20分)
 
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18(2台ピアノ版)
       (第1ピアノ:小黒亜紀、第2ピアノ:中川賢一)
 第1楽章 モデラート
 第2楽章 アダージョ・ソステヌート
 第3楽章 アレグロ・スケルツァンド

(アンコール)
ドビュッシー:月の光

 りゅーとぴあアウトリーチ事業第2期の登録アーティスト連続リサイタルの2回目は、いよいよ小黒亜紀さんの登場です。小黒さんといえば、リサイタルジョイントコンサートなど、いろいろな機会で数々の名演を聴かせていただいております。ピアノ演奏に限らず、朗読活動も素晴らしく、その人柄も相まって、新潟には数多くのファンがいます。もちろん私もそのひとりです。

 平日開催のコンサートは行くのが大変であり、これまでも何枚ものチケットを無駄にしています。今回はラフマニノフのピアノ協奏曲もプログラムにあり、自称ファンクラブの一員としましては、これは何としても聴かねばなるまいということで、無理をしてスケジュール調整しました。業務終了を早め、夜の重要な会合もキャンセルし、まさに万難を排して駆けつけました。

 大雪も一段落つき、道路事情もようやく改善しました。大急ぎで車を走らせ、開演10分前に到着することができました。
 入場しますと、会場のスタジオAの客席はほぼ埋まっており、右側の最前列が空いていましたので席を取りました。結果として非常に良い席で良かったです。日曜日の小山さんの公演と同様に、ピアノはスタインウェイが用意されていました。

 開演時間となり、赤ピンク色のドレスの小黒さんが登場して、スカルラッティのソナタを3曲続けて演奏して開演しました。
 最初の2曲は、春のお花畑の上に舞う蝶のように、軽やかで輝きがあり、色彩感あふれる演奏に引き込まれました。3曲目は春風が吹く草原の坂道を自転車に乗って駆け抜けるような爽快感を感じました。

 ここで小黒さんの挨拶があって、ショパンのノクターンが2曲続けて演奏されました。第2番は、情感豊かに甘く切なく演奏し、うっとりと聴き入りました。第13番は静かに始まり、やがて心に秘めた熱き思いが燃え上がり、音量豊かに聴く者の心を震わせました。軽やかなスカルラッティの音色とは異なって、ノクターンでは柔らかなピアノの響きが美しく、音色の違いにも驚きました。

 続いては、小黒さんの十八番と言っても良い英雄ポロネーズです。可憐な容姿とは裏腹の強靭な打鍵から繰り出されるパワーあふれる音の洪水は、決して荒っぽくはなく、音量豊かでありながらも美しさを失いません。スピーディに駆け抜けて、聴衆の心を揺り動かし、否が応でも高揚感を誘います。これぞ小黒ワールドです。

 そして前半最後はハンガリー狂詩曲です。重戦車で荒野を突き進むかのような、重厚感あふれるパッセージと、流れるように軽やかなパッセージとの対比が素晴らしく、音楽性の豊かさを感じさせました。

 前半だけでも十分に満足できる内容でしたが、休憩後はいよいよラフマニノフのピアノ協奏曲です。スタインウェイ2台が向かい合うように配され、第2ピアノがちょうど私の眼前にありました。どういうつながりなのか不明ですが、東京から中川賢一さんを第2ピアノに迎えました。

 黒地にピンクのバラが鮮やかなドレスに着替えた小黒さんと燕尾服の中川さんが登場。しばし息を整えて、アイコンタクトを取り演奏が開始されました。
 スタジオAというサロン的な濃密な空間に置かれたスタインウェイから、鮮やかな色彩感とパワーあふれる音楽を引き出し、音の洪水の中に身をゆだねるようでした。オケパートを弾く中川さんは若き小黒さんをどっしりと受け止め、燃え上がる小黒さんの演奏を冷静に見守り、支えていました。
 この協奏曲を弾きたいと願っていた小黒さんの演奏する喜びが聴く方にも伝わってきました。最前列で聴いていた私は、2台のスタインウェイから繰り出される圧倒的なパワーに打ちのめされそうでした。感傷を誘う第2楽章から燃え上がる第3楽章へ。精神的高揚を抑えきれず、いつしか目に涙がこみ上げてきました。
 期待以上の素晴らしさに、スタジオAを埋めた満員の聴衆とこの圧倒的な感動を共有しました。優しく見守り、サポートした中川さんにもブラボーを贈りたいと思います。さらには清楚で美しい譜メクリストにも感激しました。ご苦労様でした。

 アンコールは月の光。これまでのパワーあふれる演奏から一転して、澄み切った清廉な音楽を紡ぎだしました。熱狂し興奮した心を鎮めるに最良な極上のデザートとなりました。冬の空に浮かぶ月の光ように、クリスタルのような澄み切った音に心洗われました。

 毎回期待を裏切らず、期待以上の感動を与えてくれる小黒さん。こんなピアニストが新潟にいるなんて幸せだと思います。日々進化を続け、まだ見ぬ高みに向かって成長し続けています。
 演奏中の集中した真剣な表情とは裏腹の、演奏後の愛らしい笑顔は魅力的であり、視覚的にも心をくすぐります。ますますファンが増えることでしょう。

 今日は2台ピアノ版でしたが、いつの日かオーケストラとのコンチェルト演奏を期待したいと思います。地元にはいくつものオーケストラがありますので、是非ソリストとして招聘してほしいです。

 以前、東響と地元音楽家が共演するコンサートが1回だけありましたが、もう一度こういう機会があると良いですね。地元新聞社か放送局が主催してくれると良いのですが・・。あるいはりゅーとぴあ開館20周年記念公演なんてのも良いのではないかなあ・・・。と、想像は膨らみます。新潟には小黒さん以外にも素晴らしい音楽家がたくさんいますので、ぜひ実現してほしいものです。さらには東響定期に登場する日も夢見たいと思います。

 

(客席:1列目右、会員割引:¥2700)