アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル
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2014年6月11日(水) 19:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
ピアノ:アリス=紗良・オット
 


ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調「テンペスト」Op.31-2

J.S.バッハ:幻想曲とフーガ イ短調 BWV.944
J.S.バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ

(休憩15分)

リスト:愛の夢
       第2番「幸いなる死」
       第3番「愛しうるかぎり愛せ」
     
リスト:パガニーニ大練習曲
       第1番「トレモロ」ト短調
       第2番「オクターブ」変ホ長調
       第6番「主題と変奏」イ短調
       第4番「アルペッジョ」ホ長調
       第5番「狩り」ホ長調
       第3番「ラ・カンパネラ(鐘)」嬰ト短調

(アンコール)
シューマン:3つのロマンス Op.28 から 第2番
ショパン:ワルツ第14番 ホ短調

 
 

 一般価格はS席3,500円ですが、りゅーとぴあ友の会会員は特別優待価格2,000円で聴けるというコンサートです。会員増を狙った企画と思いますが、アリス=紗良・オットを2,000円で聴けるなんて、大変お得であり、行かないわけにはいきません。

 アリスさんといえば、2008年11月に小出郷文会館でアイスランド交響楽団と共演する公演があり、私はチケットを買っていたのですが、アイスランドの経済危機でアイスランド交響楽団が来日できず中止となりました。代替公演として、当日ソリストとして出演予定だったアリスさんとジョセフ・リンのジョイント・リサイタルが小出郷文化会館で開催されたのですが、それには行けませんでした。その後のアリスさんの活躍を目にして、万難を排して行けばよかったと悔やんでいました。

 ということで、今度こそはと意気込んでコンサートに臨んだのですが、平日のコンサートは厳しいものがあり、職場から大急ぎで駆けつけて、どうにか開演のチャイムとともに入場することができました。最近テレビ番組で紹介されたためか、チケットの売れ行きも良かったようであり、販売された席はかなり埋まっていました。

 銀色っぽくキラキラ輝くスリムなドレス姿が美しいアリスさんが登場。音楽仲間の話では裸足だったとのことです。椅子の高さを念入りに調整して、べートーヴェンの「テンペスト」で開演しました。
 まず、ピアノの音の美しさに感激し、ダイナミックレンジの大きさに驚嘆しました。緩急、強弱の幅を大きく揺り動かし、独自の音の世界を創り出していました。
 弱音の美しさにうっとりしたかと思えば、強烈なフォルテシモで圧倒されました。アクセントを大きく付け、むしろ付けすぎかとも思われる演奏は、デフォルメされて、早いパッセージは弾き飛ばしたような部分も垣間見えました。上辺だけで深遠さが足りず、演奏精度に難ありと思われないこともなく、好みが分かれるだろうなと感じましたが、私の好みにはピッタリでした。
 りゅーとぴあのスタインウェイから、こんなにも光り輝く音を紬だし、コンサートホールを、こんなにも音量豊かに豊潤な響きで満たしたピアニストは何人いたでしょうか。絶妙のペダリングで、響きが豊かにも関わらず、大音量でも音が濁らないのは驚きです。
 賛否はありましょうが、名曲「テンペスト」も別の曲に思えるくらいに、新鮮な感動を得ることができました。第3楽章などは、絶叫するかのようであり、心にダイレクトに響いてきました。この曲を聴けただけで、今日は十分に満足と感じるほどでした。しかし、これはまだ序章にすぎませんでした。

 一旦ステージを降り、続いてはバッハの2曲を続けて演奏しました。演奏スタイルはベートーヴェンと同様であり、強弱や緩急を大きく揺り動かして、独自の世界を創り出していました。「テンペスト」から続けて聴いても、全く違和感がなく、一連の曲のように聴こえました。
 「幻想曲とフーガ」から間をおかずに演奏された「シャコンヌ」は圧巻でした。魂が揺さぶられる演奏とはこういうものを言うのでありましょう。容姿端麗、アイドル顔の若い女性が、こんなにも激しい音楽を聴かせるなんて・・。力が入り、ピアノが壊れるのではないかと心配しました。荒っぽさと紙一重であり、暴力的にすら感じるほどで、ハンマーで殴られたような心の衝撃を感じました。
 この「シャコンヌ」は、昨年8月に、小黒亜紀さんの演奏で聴いて大感激しましたが、その時の感動がよみがえりました。

 休憩時間にピアノの調律が入念になされ、後半はリストです。前半同様に独自の音楽世界を創り出していました。聴き飽きた感のある「愛の夢」も全く別の曲に聴こえました。力だけでなく、感性でも魅了しました。

 「パガニーニ大練習曲」は、当初は順番通りに演奏する予定でしたが、6番と3番の順番を入れ変え、「ラ・カンパネラ」を最後にした構成となりました。最後を盛り上げて終わろうという演出なのでしょう。
 ピアノの特定の鍵盤の音に違和感を感じた場面もありましたが、演奏は唖然と聴きほれるばかり。これでもかというような超絶技巧のテクニックを駆使し、有無を言わせぬ快演に、参ったと言うしかありませんでした。

 拍手に応えてアンコールを2曲演奏して終演となりました。深々と丁寧に礼をする姿は好感度満点です。冷静に振り返れば、全体としては力で押して圧倒する演奏であり、その分繊細さや、内面的な深さというものは排除された演奏だったかもしれません。老練のピアニストのいぶし銀的演奏とは対極の、容姿とは裏腹の豪快さを印象付ける演奏でした。
 でも、精神性がどうのだの芸術性がどうのだのと堅苦しく論ずることは意味はなく、楽しく聴けたということがすべてだと思います。彼女の手練手管にまんまと乗ってしまった感じはありますが、聴きごたえあるコンサートで満足感は高かったです。

 ご本人は新潟は7年振りと話されていましたが、6年振りの来県と思います。早くも次の来演が楽しみになりました。美貌と実力を兼ね備えた若き才能に唖然としたひと時でした。

 終演後はサイン会が開かれましたが、多くの人の行列ができていました。CD買ってサインをもらえばよかったと今頃悔やんでいます。こういう盛り上がって賑わいのあるコンサートっていいですねえ・・。

 他の音楽愛好家の感想を拝見しましたが、私の感想と随分違うのに驚きました。単に好みの違いだけとも思えず、私の感性がずれているのかなあ・・。でもまあ、私の感想は上記のとおりでした。
 

   
(座席:2階 C5−3、S席:会員割引、2000円)