イ・ムジチ合奏団 結成60周年記念公演
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2011年10月4日(火) 19:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
 
 
バカロフ:合奏協奏曲 (イ・ムジチ結成60周年記念作品)

   (ヴァイオリン:アントニオ・アンセルミ)

モリコーネ:組曲 (イ・ムジチ結成60周年を祝して)
        「カジュアルティーズ」より メインテーマ
        「海の上のピアニスト」より 愛を奏でて
        「ワンス・アポン・ア・タイム」より デボラのテーマ
        「ミッション」より ガブリエルのオーボエ

   (ヴァイオリン:マルコ・セリーノ)

坂本龍一:「ラストエンペラー」テーマ 〜イ・ムジチ結成60年のために

(休憩15分)

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」op.8

   (ヴァイオリン:アントニオ・アンセルミ)

(アンコール)
ロッシーニ:ボレロ
山田耕筰:赤とんぼ
ナポリ民謡:サンタ・ルチア
ヴィヴァルディ:アラ・ルスティカ
 
 

 10月になり、肌寒い日が続き、体調もイマイチ良くありません。こんな時に限って忙しかったりして、心身のストレスがたまるばかりです。今日のコンサートも疲れがたまって行く元気が失せてしまいそうでしたが、気力を振り絞って出張先から大急ぎで駆けつけました。
 今日は朝は雨模様でしたが、午後からは秋晴れ。日本海沿いの国道を走ってきましたが、夕日が大変きれいでした。

 イ・ムジチといえば「四季」。「四季」といえばイ・ムジチ。音楽好きの方ならイ・ムジチの名を知らない人はいないでしょう。来日公演の度に「四季」が演奏され、逆に「四季」目当てにイ・ムジチを聴くという人が多いものと思います。興業的には公演プログラムから外せないというのが実情でしょう。

 イ・ムジチは新潟にも度々来演しており、私も何度か聴いています。とはいえ、最後に聴いたのは1999年10月ですから、12年ぶりということになります。ついこの間という気分でしたが、月日のたつのは早いですね。
 今回の演目にも当然「四季」は入っています。これだけなら触手は動かないのですが、今回は前半に結成60年を記念して、バカロフ、モリコーネ、そして坂本龍一が特別に編曲した曲が演奏され、私の好きな曲が並んでいるので、これは是非聴かねばと思いました。クラシック以外の曲を演奏するというのが興味深く、期待を抱かせました。

 さて、今回はP席と3階席は発売されませんでしたが、8割程度の入りでしょうか。S席エリアは空席が多かったですが、B席エリアがたいそう賑わっていたのがアンバランスでした。ステージ上にはチェンバロのほかにピアノも用意されていました。
 拍手の中団員が入場。ヴァイオリン6、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1、チェンバロ(ピアノ)1の計12人の編成です。

 最初はバカロフの合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)。どんな曲かわからなかったので、ネットで調べたら、ニュー・トロルスというイタリアのプログレ・ロックバンドが1971年に発表した代表作なんだそうですね。独奏のアントニオ・アンセルミは椅子に座っての演奏でした。初めて聴いたのですが、大変美しい曲で、第2楽章などはうっとりとしてしまいました。協奏曲としてもイ・ムジチのイメージに良く合っていて、違和感がありませんでした。40年前のロックバンドがこんないい曲を演奏していたなんて全く知りませんでした。これを聴けただけでも今日来た甲斐があったと思えました。(家に帰って、早速ニュー・トロルスのCDを注文してしまいました。)

 続くモリコーネの組曲はチェンバロがピアノに変わり、独奏はマルコ・セリーノに交代し、今度は立っての演奏でした。お馴染みの美しいメロディに心が和み、癒されました。モリコーネというと、2004年6月の初来日公演を聴いているんですが、今日のような抒情的メロディには泣かされてしまいます。

 前半最後は坂本龍一の「ラスト・エンペラー」。美しい弦楽合奏でしたが、これまでの曲に比して、ちょっと単調にも感じました。

 休憩後はお馴染みの「四季」。60年の歴史の中で、当然メンバーは入れ替わり、時代も変わって演奏スタイルも大きく変化しています。聴く度に演奏スタイルが変わり、前回の12年前も戸惑いを感じましたが、ちょっと崩した程度で、まだ許容範囲だったと思います。今回はあまりの変化に驚き、感激、失望など様々な感慨が入り混じりました。

 イ・ムジチの「四季」といえば、LPの時代はアーヨ盤、ミケルッチ盤が定番であり、私も愛聴していました。今思えば古き良き時代の演奏なのかもしれませんが、スタンダードな演奏として私の頭にインプットされています。
 アントニオ・アンセルミの独奏による今日の演奏は、テンポも強弱も大きく揺り動かし、迫力ある攻撃的な演奏であり、うっとりとメロディに聴き入るという瞬間はありませんでした。速いテンポで駆け抜けて、F1が轟音を立てながら爆走するという感じでしょうか。その分飽きることもなく、高揚感を感じましたが、一方では疲労感も感じました。
 これはこれで楽しめたというのは紛れもない事実なのですが、昔のイ・ムジチのイメージとの違いに当惑したというのも確かです。随分昔(13年前)にイル・ジャルディーノ・アルモニコの「四季」を聴いて驚いた記憶がありますが、その時以来の衝撃でした。

 猛スピードの演奏で8時40分過ぎには終演になってしまいました。その後のアンコールをサービス良く4曲も演奏して、ちょうど良い時間にお開きとなりました。終演後はサイン会も開かれましたが、家路に急ぎました。

 ちょっと崩しすぎた「四季」に戸惑いましたが、イ・ムジチというブランドに安住することなく、マンネリに陥らない努力を重ねているということであり、良かったと思えました。
 一方、イ・ムジチは伝統を守ったスタンダードな演奏であってほしいという思いも強くあります。相反することであり、難しい問題です。
 ということで、いろいろ感じることは多かったのですが、前半のプログラムは期待通りのもので、特にこれまで知らなかったコンチェルト・グロッソという曲を知ることができたのは収穫でした。

 届いたばかりのニュー・トロルスのCDを聴きながらこの記事を打っていますが、こんな素晴らしいバンドをこれまで知らなかったことを嘆いています。
 

(客席:2階C4-5、S席:会員割引:6300円)