スタニスラフ・ブーニン ピアノ・リサイタル
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2007年10月20日(土)19:00 加茂文化会館
 
ピアノ:スタニスラフ・ブーニン
 
J.S.バッハ=W.ケンプ:目覚めよと呼ぶ声あり BWV645

ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」Op.13

(休憩15分)

シューマン:アラベスク Op.13

ベートーヴェン:ピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」Op.31-2

ショパン:舟歌 Op.60

(アンコール)
ショパン:ワルツ第7番嬰ハ短調 Op.64-2

 
 

 秋も深まり、肌寒さを感じるようになりました。今日は冷たい雨の中、ブーニンの大ファンである家内のお供で、はるばる加茂まで出かけました。夕方のラッシュも重なって、1時間かけてホールに到着しました。やっぱり遠いですね。新潟市でも開催してくれればいいのですけどね。
 今日は公開のピアノレッスンもあったのですが、そちらには参加しませんでした。レッスンが伸びたためかどうかは分かりませんが、開場が遅れて玄関前は大混雑でした。ホールは満席。椅子の背に「加茂信用金庫」と書かれたビニールカバーが掛けられていて、昭和の雰囲気が漂っています。ピアノのメーカーは確認できませんでしたが、このホールにはスタインウェイDとヤマハCFがあったはずです。おなじみのスタインウェイのロゴがなかったので、ヤマハだったのかな。

 定刻より少し遅れて開演です。足音を響かせてブーニンの登場。最初のバッハからブーニンの世界です。流麗な演奏で、一気に会場の空気を自分のものにしました。続くベートーヴェンも緩急自在、ダイナミックレンジが広く、目の覚めるような演奏です。大好きな第2楽章はゆっくりと歌ってくれました。配布されたプログラムでは次はシューマンのはずでしたが、ここで休憩が入りました。
 後半はシューマンに始まって、ベートーヴェン、ショパンと進みました。シューマンは面白味に欠けましたが、圧巻は「テンペスト」でした。ブーニンの演奏スタイルに曲があっていたのかも知れませんが、力強くもしなやかな、疾風のごとき演奏で、思わずため息が出ました。ブラボーを叫びたくなるような聴き応えある演奏に大満足でした。最後のショパンの舟歌がちょうど良いデザートになりました。客席から花束が渡され、アンコールにショパンのワルツを演奏して終演となりました。
 
 いずれの曲も緩急・強弱のメリハリが強く、全速力で駆け抜けるような、いかにもブーニンというような演奏でした。鍵盤にうつ伏して一心不乱に弾き、たまにだけチラシの写真のように顔を上げます。ときどき足を踏み鳴らす音も聞こえます。ちょっと挑戦的・攻撃的で、曲を聴きながらウトウトなんてできません。これもまた音楽の楽しみと言えるでしょう。CDで繰り返し聴くには疲れてしまいそうですが、コンサートで聴くには気持ちよい演奏でした。曲を聴くというより、ブーニン節を聴くという感じです。こういう演奏スタイルには賛否両論あろうかとは思いますが、芸術性がどうの、精神性がどうのとうんちくを傾ける前に、スカッと爽やかに気持ちよく音楽を楽しめるということが何よりも重要であり、私が重視する点です。この点ではすばらしいコンサートだったと思います。満員の観客も熱心に聴き入っていました。1000席余りの多目的ホールではありますが、残響がけっこうあって、良い響きだったと思います。

 ブーニンのコンサートを聴くのはこれで3回目だったかと思いますが、ちょっと老けたようにお見受けしました。隣の家内は、いい男だと感激し、ずんぐりむっくり・短足の私と見比べてため息をついていました。最近話題に出ることが少なくなったような気がしますが、今後の活躍を期待したいと思います。今度は新潟市でのコンサートを楽しみにしています。

 帰り道も冷たい雨。でも、いい音楽を聴いた後は心は温かです。今日は家内と久しぶりのコンサートだったので、悦びもひとしおでした。いつもひとりでのコンサート通いですが、やっぱり連れがあった方が楽しいですね。


附:聞き覚えのあるアンコールの曲名を忘れていたのですが、私の隣の席のご老人が演奏が終わるやいなや「ショパンの○○嬰ハ短調」(○○は良く聞こえず)とつぶやいていたのを思い出し、調べてみたら、確かにワルツの嬰ハ短調でした。すごい。
 

(客席:15-36、S席:8000円)