全国の皆さん!おしりの具合はいかがですか。痔の悩み相談室をやっていると、時々「手術は本当に痛くないの?」とか、「実際に手術を受けた人の話を聞いてみたい。」と言う、疑い深い(失礼! m(__)m)メールを戴きます。そこで実際に私が手術した患者さんの手記第一弾。 
 患者さんは1997年1月16日、私が手術した34歳の男性Mさん。私のずうずうしいお願いに、ボランティアで原稿を執筆して下さいました。この場を借りてお礼申し上げます。



 96年12月、痔瘻と脱肛により要手術を言い渡されました。そもそも痔で肛門科にかかるのが初めてだっただけに、それを聞いた時はかなり動揺しました。‘敏感な部分を切る’なんて、きっと痛いのだろう、などとも勝手に想像したりもしました。でも、ひどくならないうちに切った方が楽に違いない、と自分に言い聞かせ、翌97年1月、早々に手術を受けました。以下はその体験談です。  

 入院は手術前日でした。病歴の問診・レントゲン撮影などの準備を行います。同室の二人も、明日手術を受けることになっています。「今日から皆さん、お尻合いよ」という看護婦さんのジョークそのままに、合間には互いの病歴などを語り合いました。へんな話ですが、やはり“同士”がいるのは心強いものです。 また、入院時オリエンテーションの一環で、手術室も事前に見せていただきました。お尻を突き出すような体勢でうつ伏せになる手術台が中央に置いてあります。どのような段取りで麻酔注射を受け、手術の体勢になるかまで説明していただき、少し不安が和らぎました。実際、手術本番になって慌てたり緊張のあまり、勝手に手術台に登ったりする患者さんもいらっしゃるそうで、とにかく「看護婦や医師の言う通りにしていれば、大丈夫ですから」と念押しされました。 
 夜、肛門の周りの陰毛も剃ってもらいました。これは正直なところ恥ずかしかったです。毛が硬い自分は、思い返してみると、手術以上にヒリヒリしたのでした。 病院の常で21時には消灯です。心配してもやはり明日の手術が気になってしかたありません。まぁ、思い悩んでも仕方ないんですが…。 

 手術当日は朝食が最後の食事です。その後、座薬を入れて排便を促し、直腸に便がない状態にします。午後になって、ゆかたのような手術着に着替え点滴を受ける段になると、さすがに緊張でドキドキし始めました。病室から点滴をしたまま手術室隣の控え室で待機した後、いよいよ自分の順番です。 手術室に入ると、名前を確認されます。不安をかき消すように「よろしくお願いします!」とカラ元気で挨拶し、手術台上に横になりました。
 まず、胎児のように足を抱え込んだ姿勢を取って背中に麻酔注射です。「背骨と背骨の間に注射しましょう」という先生の声が聞こえます。チクリ。予防注射程度でしょうか、さして痛みもなく、あっけなく麻酔注射が終わりました。1分もしないうちに麻酔が効き始め、下半身がホンワカ熱くなってきます。もうこの段階で足を動かされても全然感じなくなっていました。うつ伏せの体勢になり、いよいよ手術の開始です。 
 ヘンな言い方ですが、物音や気配から、なにやらいじくられて(失礼!)いるのは、分かります。でも、肛門はもちろん下半身に感覚がないので、痛みはまったくありません。これは不思議な体験でした。その日はBGMにエルトン・ジョンが流れていました。彼の歌声に勇気づけられた、と言ったら少々大袈裟でしょうか。結局、手術は3曲分も耳にしないうちに終了したのでした。
 麻酔のため歩けませんので、ストレッチャーに寝かされ病室まで戻ります。ベッドに横たわり天井を見つめていると、ほっとした気分でいっぱいになってきました。「ああ、これで痔が治るんだなぁ」と妙にしみじみしながら。その後時間が経つにつれ麻酔が切れ、傷が少々ズキズキしましたが、それも鎮痛剤で治まりました。
 そうこうする内に消灯時間となり、手術前の緊張からの解放感を味わいつつ、うつらうつら眠りに就きました。 

 翌朝からはもう、自分で立ってトイレに行ったり、座って食事もしました。もちろん、まだまだ傷がありますから、すべて日常通りにはいきません。でも、私の場合、手術後の痛みがほとんどなかったので、特に不便はありませんでした。
 多少面倒だったと言えば、排便関係でしょうか。催すと洗面器をガーゼ数枚を持ってトイレに急ぎます。お通じの後は、肛門を温水を張った洗面器につけ、濡らしたガーゼで汚れを取り、最後に乾かします。座浴というそうですが、排便時以外にもこれを1日何度かするように言われました。手間はかかりますが、ぬるま湯に肛門を浸すのは、トイレットペーパーで拭くより全然気持ちがいいです。私は退院時まで、排便自体もぬるま湯をはった洗面器の中にしていました。ちょっと汚い感じもしますが、肛門が温められてスムーズにお通じできるのです。

  その後の入院生活は、正直なところ暇でした。点滴は毎朝約1週間ほど続きました。そのほかは、1日1回の肛門のチェック、検温くらいでしょうか。私は、読書三昧の日々を送ったのですが、これは仕事で忙しい身にとっては、逆に貴重な時間となりました。痔に関する書物も読みました。また、同室の患者さんたちとは、傷の具合やら痛みなどについてざっくばらんに話したり励ましたりして、まさに“同士”の関係でした。
 日ごろはなかなか注意の行き届かないの肛門ですが、こうやって手術まで経験すると、その大切さには痛感させられました。くわえて、症状があまりひどくなる前に手術したせいか、痛みがほとんどなかったことも、今考えるとよかったと思っています。


どうですか、少しは手術に対しての不安が和らぎましたか。「調子の良い患者さんを選んだんじゃあないの」またまた、あなたも疑い深いお人ですねぇ。
 Mさんは手術後、偶然にこのホームページを見つけて、メールをくださった、まさに「運命の出会い」(大げさか (^^ゞ )をした人です。その後の経過も順調で、よかったよかった。
 もう一度Mさんにお礼申し上げます。m(__)m