晩秋の休日、誘われるがままに温泉巡りに出かけた。以前より気になっていた新井の長沢茶屋に行き、ついでに寸分道の深山の里に行ってみようと計画した。空は快晴、心地よいドライブ日和である。 まずは、新井から国道292号に入り、長野県境を目指す。途中、寸分道方面への道を確認する。山を登るにつれ道は細くなり、センターラインもなくなる。県境近くに長沢地区があり、長沢川に沿って家並みがみられる。すると橋の欄干に「長沢茶屋」という大きな看板が出ているのでここだとわかった。峠の茶屋みたいな風情を期待したが、特徴のない普通のそば屋であった。橋を渡った先にあるが、駐車場は狭い。ここの2階に温泉があるというのは、温泉通の間では有名な話。 時刻は10時を回っている。玄関には営業中の看板が出ている。店にはいるとオバサン方がそばを打っていた。温泉に入れるか尋ねたら、湯はまだ沸かし始めたばかりという。上がってテレビでも見ながら待っていてくれというので、ついでに名物のそばをいただくことにした。手打ちそばである。腰が強く、幅広く切った麺で、野性的なそばである。私には堅すぎるように感じたが、通好みのそばであろう。 そうこうしているうちに、そろそろいいかもというので、料金を支払って、浴室に向かった。待たせて悪かったとまけてくれた。2階には休憩用の和室が両側にあり、その先に浴室が作られていた。脱衣場は狭いのに、旧式のマッサージ椅子が置いてあるので、2人以上は無理。浴室もコンパクトで、四畳半位の広さに浴そうがひとつ。窓を開けたら国道が見えるだけで、景色は良くない。入る前に泉質を確認しようと成分表を探すが、保健所の営業許可証は掲示してあるが、成分表・効能書きがない。まあいいか。 裸になっていよいよ入浴。表面は温かかったが、底の方はまだ水。湯は、淡黄色で白い湯花が大量に浮遊し、飲めば柔らかい塩味。これはなかなかの泉質である。しかし、何せまだ沸いていない。シャワーのお湯で暖をとった。しばらく沸くのを待っていたがきりがないので、温まりきらぬままやめにした。 下に降り、その旨話す。もうちょっとゆっくりして、また入ってくれというが、やめにした。成分表はないかと尋ねたら、捜して見せてくれた。泉質は、ナトリウム・カルシウム塩化物泉。成分総計は3353.1mg/kgと程良い濃度。成分的には特徴はないが、湯花が浮遊する湯は成分表以上に魅力的である。成分総計に比して、蒸発残留物が4495mg/kgといやに多いのは何故だろうか。一般にはあまり有名ではないが、隠れた名湯である。 さて、長沢茶屋を後にして、いよいよ寸分道に向かうべく、国道を引き返す。南中学校の所から国道から分かれ、入っていく。携帯電話が幸い通じるみたいなので、深山の里に電話してみたら営業中とのこと、一安心である。寸分道方面の看板を頼りに進んでいく。幻の大滝の看板も出ている。寸分道の先に国土地理院の地図にも載っていない幻の滝があるのである。でも、この話は今や有名になったので、幻ということもあるまいが。小局という所まではバス路線もあるようだが、その先は山道が続くのみ。道はだんだん悪くなる。曲がりくねった細道を登っていく。途中木々の間から見える紅葉の山々の景色はすばらしい。しかし道は悪いので、この道でいいのか不安になってくるが、やがて寸分道まであと2kmという看板があって安心する。 しかし、である。やがて工事のため通行止めの看板。右に迂回路の案内がある。でも、えらく細い道である。せっかくここまで来たんだからと車を進める。木立の中の細道で、舗装されていない。落ち葉でどこまで道なのか分からない。すれ違いは全く困難で、大型車の通行は不可能である。本当にこれが迂回路なのかと不安になる。道はどんどん悪くなる。坂も急である。でこぼこ道で車の底がこすれている。泥はねも相当なもの。車が通ったような跡もない。行けるところまで行こうかと思ったが、潔く引き返すことにした。下に人家が見え、犬が一匹つながれているのが見えたが、不安だったのでやっとの事で方向転換し引き返した。どこかで道を間違えてしまったのか。今思えば、あの人家があるところが寸分道だったのかもしれない。しかし、案内の看板などどこにもなかった。地元の人はどうしているんだろうか。雪が降ったらどうなるんだろうか。勝手に心配になる。人家のあるところまで戻り、車を見たらすごい泥だらけ。地元の人に道を聞いて再挑戦しようかと思ったのだが、無惨な車の姿を見て、止めておこうと決心した。情報をもっと仕入れて訪れることにしよう。 その後情報を集めたら、車で行きついたところが寸分道であったらしい。引き返さなければよかった。悔やみきれないなあ。 追記:2001年夏、ようやく訪問しました。やっぱり前回行き着いた場所が寸分道で、深山の里のすぐ前まで行っていたことがわかりました。犬がつながれていた家がそうだったのです。 |