温泉雑学メモのページに記載しましたが、温泉の効能としては、温熱作用の他に、静水圧、浮力といった物理作用、皮膚の清浄作用、温泉成分による薬理作用、温泉地に行ったという転地効果などがあります。これらが相乗して肉体的・精神的効用をもたらすものと思います。しかし、当然ながら入浴するに当たっては、注意しなければならないことがあります。この注意点についてこれから述べたいと思います。
入浴効果の主体になるのは、やはり温熱効果でしょう。しかし、温度によってその効果は違います。42度以上の高温では、熱による刺激によって、交感神経が緊張した状態になります。その結果、心拍が増え、血圧は上昇し、呼吸は促進され、消化管運動は抑制され、発汗が促されます。 逆に、39度以下の低温では、交感神経の緊張が解かれ、副交感神経優位になります。その結果、心拍は減り、血圧は下がり、胃腸の動きが活発となり、体の緊張が解かれ、鎮静効果が得られます。この反応から推測できると思いますが、高血圧の人、心臓の悪い人、呼吸器や消化器の病気のある人などは、高温の風呂は避けた方がいいと言えます。
さらに、ここに静水圧が加わります。お湯に浸かった部分には水圧がかかりますから、下半身が圧迫され、静脈血は心臓に押し上げられ、心拍出量は増します。腎血流量は増え、尿生成が高まります。さらに、首まで浸かると、胸も圧迫されますので、呼吸はしにくくなります。さらに心臓や呼吸に負担がかかります。
そして、入浴中の発汗、尿生成の増加によって、体は脱水状態になり、血液粘度が上昇します。つまり、血液が流れにくくなります。その結果、動脈硬化があるような人では、血管がつまりやすくなります。
高血圧や動脈硬化がある人が、熱い風呂に長く浸かるということは、体にとって逆効果だということです。健康人でも、42度程度の風呂なら、10分以内にとどめておくことが賢明です。そして、入浴後に水分補給することが大切です。生ビールをグイッといきたいところですが、入浴直後は、いわゆるスポーツドリンクがいいでしょう。特にご年輩の人は、皮膚が鈍感になっているためか、熱い風呂を好みます。そういう人に限って、病気持ちだったりしますから困りものですね。
熱い風呂の効能は当然あるのですが、交感神経を刺激するショック療法みたいなものです。この効果を期待する場合もあろうと思いますが、十分な注意を要します。長湯しすぎないよう注意して下さい。一般には、少しぬるめの風呂に繰り返し入るのがいいようです。また、静水圧のことを考えると、深い風呂より寝湯の方がいいかもしれません。ぬるめの風呂にゆっくり浸かることが、体をリラックスさせ、精神を落ち着かせます。
温泉に溶け込んでいる成分にも注意がいります。泉質別に、効能の他に、禁忌症の掲示が義務付けられていますから、病気持ちの人は必ず確認して下さい。また、高張な食塩泉がアトピーに効いたりすることもありますが、一般には皮膚の弱い人は刺激的な温泉は避けた方がいいと思います。通常は、温泉に入った後は、シャワーで洗い流さないのが効果的ですが、高張性の温泉に入った後は、軽く流した方が皮膚のためにいいと思います。ベタベタもしませんし。
飲泉は、許可されている温泉だけにしましょう。この温泉は飲めませんという表示をよく見かけると思います。飲めない温泉というのはどういうことでしょうか。成分的に下痢しやすかったり、しょっぱすぎたりとそのままでは飲泉に適さない場合も当然あります。飲んでも効能が期待できない場合もあるでしょう。でも、飲めませんということはないですよね。
こういう温泉はたいてい循環式です。湯を温め直して何度も循環させて使用しているわけです。湧出量の少ない温泉、温泉利用権の少ない旅館などは、間違いなく循環式です。全く循環式でない、いわゆる「かけ流し」は珍しいくらいです。基本は循環式でも、源泉をチョロチョロ流していることもあります。そういうところは飲泉コップを置いています。循環式の温泉と言ってもピンとこないかと思いますが、家庭で言えば24時間風呂と同じです。レジオネラという細菌が増殖したりして、問題が指摘されたことはご存じでしょう。濾過はしてあっても、決してきれいとは言えません。循環しているうちに、ガス性の温泉成分は飛んでしまいます。
入浴すれば必ず汗をかきます。それがお湯に溶け込みます。人気施設になれば、一日何百人もの人が入浴します。溶け込んだ汗の量を考えただけでもぞっとします。子供は排尿したりもします。それらが循環されているわけです。飲めないのも当然です。毎日浴槽のお湯を入れ替えているとも限りません。月2回の定休日しか入れ替えていない施設も知っています。定休日後は澄んでいるのに、定休日前は濁ったりしていることもあります。
要するに、飲泉は源泉の注ぎ口からにしてください。浴槽に勢い良く注がれているところは、たいてい循環したお湯を注いでいるだけですから、決してきれいとは限らないということを思い出して下さい。こう考えると、改めてかけ流しの温泉のありがたみが分かります。この問題については、苗場の美人の湯のご主人がおもしろく話してくれます。一度温泉談義をしてみるとおもしろいですよ。
(関連情報:天然温泉に潜む危険)
当然ながら、発熱していたり、急性の疾患の場合は、入浴は禁です。炎症が激しくあるときは入浴は避けるべきです。一般に、急性期は冷やす、慢性化したら温めるというのが基本です。病気の治療を期待する方は、入浴メニューを良く検討して、プログラムに従った入浴が必要です。クアハウスや、古くからの湯治場では入浴の仕方が決められています。ここでは触れませんが、いわゆる湯治は複雑な問題がさらにありますので注意して下さい。反復入浴による温泉の刺激、温泉地の環境による刺激などが総合して体に作用し、乱れた生体リズムが正常化していくとされ、非特異的変調作用(総合的生体調整作用)と呼ばれます。4〜5日目頃から反応は現れ始めます。湯当たりの時期があったり、交感神経優位の時期、副交感神経優位の時期などが周期的にきます。そのため、湯治としての効能を期待するには、最低でも2週間程度は続ける必要があるようです。逆に3〜4週目以降になると体の慣れにより刺激効果が薄れてしまいます。
1.42℃以上の高温浴は避け、それ以下の入浴を反復する。
2.首までとっぷりと浸からず、浅い入浴を心がける。
3.急な血圧変動を避けるため、浴槽には掛け湯をしたあとゆっくりと入り、ゆっくりと出る。
4.浴室・脱衣場の温度にも注意する。(冬場は寒すぎないよう)
5.入浴後30分以上横になり、水分補給(イオン飲料がよい)する。
6.一人では入らない。
以上、簡単に述べてきましたが、温泉が体にいいからといっても、入浴の仕方には十分注意して下さい。特に、高齢の方、血圧の高い方、心臓病や脳卒中をやった方、腫瘍性疾患など体力の消耗している方は慎重に入浴して下さい。