實川 風 ピアノ・リサイタル
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2025年8月10日(日)14:00 新潟市北区文化会館
ピアノ:實川 風
 
モーツァルト:デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調 KV573

ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66
ショパン:雨だれのプレリュード Op.28-15

ショパン:幻想曲 ヘ短調 Op.49
ショパン:スケルツォ第2番 変ロ長調 Op.31

(休憩15分)

ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

實川 風:伝説 〜ピアノソロのための〜(2025)

J.S.バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV813

(アンコール)
J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ(バウアー編)
ドビュッシー:花火
 

 今日は魅力あるコンサートがいくつも重なってしまいましたが、北区文化会館で開催された實川風(じつかわ かおる)さんのコンサートを選びました。
 實川さんの演奏は、2023年3月の五泉市のさくらんど会館で開催されたコンサートを聴いて感動し、また聴きたいと思っていました。
 その年の10月には、りゅーとぴあ・1コイン・コンサートに出演されましたが、平日でしたので聴くことはできず、このコンサート開催の情報を得て、是非とも聴きに行きたいと思い、チケットの発売早々に購入して楽しみにしていました。
 実川さんは昨日から北区文化会館入りしてリハーサルをされておられたようです。プログラムは、ショパンやバッハのほか、新しいレパートリーのモーツァルトやラヴェル、そして自作のピアノ曲の「伝説〜ピアノソロのための〜(2025)」などを演奏するそうで、期待が高まりました。

 昨日は好天に恵まれましたが、今日は朝から雨になり、鬱陶しい日曜日になり気分も晴れませんでした。昨日のコンサートの記事を書き上げてアップし、ひと息つきました。
 恵みの雨にはなりましたが、今夜の花火大会は中止となり、出掛けるには生憎の天候でした。開き直って早めに家を出て、某温泉で休息することにし、雨のバイパスを車で進み、某温泉に到着しました。
 温泉で心身を癒し、食事処で昼食をいただき、大リーグ中継で大谷の活躍を見届けて退館しました。降りしきる雨の中に車を進め、まだ駐車場がガラガラの北区文化会館に到着しました。

 裏口近くに車をとめて時間調整し、雨が弱い頃合を見て駆け足して館内に入りました。開場まで時間がありましてので、ロビーでこの原稿を書いていましたら、高校・大学の同級生で音楽好きの友人に出会い、しばし談笑している間に開場になりました。
 受付には館長さんがおられましたので挨拶を交わし、客席に着いてこの原稿を書きながら開演を待ちました。ステージにはヤマハのCFIIISが設置されていました。
 客の入りとしましては、それなりと言えましょうか。私は實川さんの演奏を聴かせていただいていて良く知っていましたが、北区の皆さんにへの知名度は、必ずしも高くはなかったのかも知れませんね。実際に「實川 風」という名前を読める人がどれほどおられますでしょうか。

 開演時間となり、實川さんが登場して、譜面台にタブレットを設置して、挨拶代わりにモーツァルトの「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」」で開演しました。私は長らく音楽を聴いてきましたが、初めて聴く曲でした。
 軽やかできらめきのある音。春風を思わせるような爽やかな音楽が淀みなく流れ出ました。ホールの響きもいつもに比して豊潤に感じられ、ヤマハのフルコンサートグランドピアノから美しい音をつむぎ出してくれました。
 9つの変奏の対比も鮮やかに、親しみやすいモーツァルトの音楽世界を具現化し、ホールを和やかな空気で満たし、コンサートの始まりを告げてくれました。

 實川さんがマイクを取って挨拶があり、モーツァルトの音楽は簡単そうでいて演奏は難しいことなどを話され、これから演奏するショパンについての解説があり、2曲続けて演奏されました。

 まずは「幻想即興曲」です。スピーディに、流れるように大きなうねりを作りながら演奏が進みました。緩急やダイナミックレンジを大きく取って、緩徐部ではゆっくりと切なく歌わせて、急速部では猛スピードで駆け抜けて、大きな感情のうねりを作って激しく燃えた後、ゆったりと静かに曲を閉じました。

 間をおかず、続いては前奏曲の「雨だれ」です。ゆったりと、しっとりと、雨が降る今日の天気のように演奏が進み、中間部は重厚に激しく泣き叫びますが、感情が乱れすぎることはなく、しっとりとした美音とともに、優しく曲を終えました。

 再び實川さんによりショパンについての解説があり、「雨だれ」を作曲した頃のショパンについての話など、興味深く聴かせていただき、曲目解説の後に2曲が続けて演奏されました。

 まずは「幻想曲 へ単調」です。この曲は聴くたびに「雪の降る街を〜」と口ずさんでしまいますが、このキャッチーな出だしに始まり、静かに、ゆったりと曲が進みました。突然曲調が変わって激しさを増し、熱く情熱をほとびらせ、ぐいぐいと突き進み、穏やかさを取り戻し、静けさが訪れました。
 しっとりと静かに、ゆったりと歩みを進めるも、突然激しく爆発して、マグマを噴き上げ、その激しさに圧倒されましたが、再び静けさが訪れて曲が終わりました。

 続いては「スケルツォ第2番」です。激しい打鍵とともに始まり、突き抜ける高音が煌きました。これを繰り返して軽やかに走り抜けて、その後に足取りを止めて立ち止まり、悲しげに心を揺り動かして胸を高鳴らせました。緩急を繰り返してスピードを上げて感情を高ぶらせ、その高まりを抑えきれず、冒頭の音楽を繰り返してエネルギーを増し、激しく爆発させました。

 休憩時間には入念なピアノの調律がなされていました。後半も實川さんはタブレットを持って登場し、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」で始まりました。
 しっとりと切なく歌うも過度に感傷的にはならず、あっさりにも感じましたが、透明感のあるピアノは美しく、うっとりと聴き入りました。

 實川さんによるお話しがあり、次は自作の曲の「伝説」を演奏するとのことでした。これまで弦楽とピアノのための曲は作曲したそうですが、今回初めてピアノソロのための曲を作曲したそうです。
 東洋の伝説の世界を音楽にしたとのことですが、実は楽譜はなく、音楽は頭の中にあるそうです。すでに東京で1回演奏しているそうで、今回は2回目になりますが、全く同じ演奏にはならず、新潟バージョンの演奏になるとのことでした。楽譜はありませんので、タブレットは片付けられて演奏開始です。

 強靭なエスニックな響きの音で始まりました。激しく打ちのめされるようで、低音の打鍵に圧倒されるも静けさが訪れ、朝霧が立ち込める朝のような情景が広がりました。
 再び激しく感情を高ぶらせて、溶岩が煮えたぎる火口のようでしたが、静寂が戻って、穏やかな夕暮れの情景が広がり、静寂の中に曲は終わりました。
 「伝説」という曲であり、どんな伝説なんだろうと自問しましたが、良く分かりませんでした。ここは聴く人のイマジネーションで良いと最初に實川さんが話しておられました。

 続いて實川さんによりバッハについてのお話がありましたが、この話の中で、ピアノを演奏している人は? という質問に対して、多くの人が手を挙げていてびっくりしました。北区の人たちは、たいしたものですね。

 最後の曲はバッハの「パルティータ第2番」です。6曲の舞曲からなる組曲であるとの説明があって、タブレットが設置されて演奏が始まりました。
 しっとりとし、しかし煌きのある導入部で始まり、軽やかに、流麗に音が湧き出ました。スピード感のある音の流れは、急流下りをするようでした。
 第2曲は、憂いを秘めた音楽が淀みなく流れ、しっとりと終わりました。第3曲も音楽が流麗に流れ、第4曲は、しっとりと、ゆったりと、第5曲は、少し明るさを取り戻して軽快に駈け抜けました。
 そして第6曲は、力を取り戻して、熱を帯びていき、熱量を上げてスピードアップしました。めまぐるしいスピード感に圧倒されながらパワーアップし、熱きフィナーレへと駆け上がりました。
 ホールの聴衆に大きな感動をもたらして、熱狂的な拍手とブラボーが贈られて、實川さんの流麗ながらも熱く燃える素晴らしい演奏を讃えました。
 
 大きな拍手に応えて、アンコールにバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」を、最初は速めにサラリと演奏し、あっさりした感じがありましたが、最後はゆっくりと演奏して情感を漂わせて、感動を誘いました。
 そして拍手に応えて、もう1曲ドビュッシーの「花火」を、花火大会のスターマインの如く、最初は小さく、そしてだんだん大きく音楽を奏で、中止になった新潟まつりの花火大会の代わりに、音楽の花火を打ち上げてくれて、大きな感動とともにリサイタルは終演となりました。

 透明感と輝きのある美しいピアノ。このホールのピアノから、こんなにも美しい響きを創り出してくれるなんて、只者ではありません。
 自作曲も聴き応えあるものであり、作曲者としての才能の豊かさも感じ取られました。演奏もトークも誠実であり、實川さんの人間性が伺えるように思います。

 聴衆の心を鷲掴みにして、盛大な拍手を沸き起こし、ブラボーの声やスタンディングオベーションを引き起こしました。今日ホールに来た人たちは忘れえぬ感動をいただいたものと思います。
 客の入りとしてはもうひと息だったかもしれませんが、内容は素晴らしく、大きな感動をもたらしてくれた實川さんと、このようなコンサートを企画してくれた関係者に感謝して、大きな満足感とともに雨降る駐車場へと駆け足しました。
 

(客席:8-8、¥4000)