今日は、コンサートに、録音にと、活躍目覚しいアリス=紗良・オットさんのリサイタルです。私はアリスさんのファンであり、CDを何枚も購入て楽しませていただいていますが、特に「NIGHTFALL」は、眠れぬ夜のお供に欠かせない1枚となっています。
そんなアリスさんは、今年10月にジョン・フィールドのノクターン全曲の録音を行い、ドイツ・グラモフォンから来年2月にリリースする予定ですが、録音前に、日本限定で、収録曲のコンサートを開催することになりました。
その名も「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン&ジョン・フィールド独占先行レコーディング・ツアー 日本公演限定」です。
CDリリース後には、ヨーロッパの17都市を巡るコンサートツアーを実施し、その後日本でのコンサートが予定されているそうですが、新潟は予定に入っていないでしょうね。
今回の録音前の日本での演奏会は4公演だけです。9月14日に青森県の六ヶ所村、16日に前橋市、19日に鹿児島市で公演を行い、今日の新潟公演が最後になります。
あえて大都市を避けて、地方が選ばれていますが、どういう意図なんでしょうね。中でも青森県の六ヶ所村というのは驚きです。
録音前の地方公演で曲の理解を深め、CD録音後の発売記念ツアーで正式に大都市を巡るということなんだろうと推測します。理由はともあれ、今回の演奏会は、世界に先駆けてアリスさんの演奏を聴くことができる貴重な機会ですし、CDの出来を占う貴重な演奏会になるものと思われますので、大いに楽しませていただこうと思います。
さて、ノクターンといいますと、まずショパンが思い浮かびますが、ノクターンというジャンルを確立したのはジョン・フィールドという作曲家なんだそうです。ジョン・フィールドは、アイルランド出身で、ベートーヴェンと同じ時代に活躍しましたが、現代ではほとんど知られていません。これについてアリスさんのメッセージがありますので、是非ご覧ください。
当然ながら、ジョン・フィールドという作曲家について、私はまったく知らず、今回演奏されるノクターン(夜想曲)がどのような曲なのか興味深く思われました。また、全国で4公演だけの貴重な演奏会ですので、チケット発売早々に購入し、楽しみにしていました。私がアリスさんの演奏を聴くのは、2014年6月のリサイタル以来、10年振りになります。
今日は、秋分の日の振替休日です。大雨をもたらした雨雲が去り、青空が見えています。日差しは強いですが、暑すぎることもなく、清々しい休日となりました。
雑務を済ませて、白山公園駐車場に車をとめて、上古町の楼蘭で極上の冷やし中華をいただきました。毎度のことながら、食べると幸せになります。今あるスープがなくなったら終わりにするそうですので、これが食べ終わりになりそうです。
大変美味しかったと礼を言って店を後にし、穏やかな空気が流れる上古町を歩き、白山公園を抜けてりゅーとぴあ入りしました。
ちょうど開場時間で、ロビーは入場する列が長く伸びていて、熱気が感じられました。列が短くなったところで私も入場し、席に着きましたが、それなりの入りのようでした。
配布されたプログラムを見ますと、フィールドはノクターンを18曲作曲しているそうですが、今日はそのうち9曲を演奏するそうです。各曲の番号は、1859年に
J.シューベルト社から出版された F.リスト版に準拠しているとのことです。
フィールドのノクターンとベートーヴェンのピアノソナタが演奏されますが、選曲と演奏順には大きな意味がありそうですね。
開演時間となり、上が白、下が黄緑色のロングスカートのアリスさんが登場。足元が良く見えませんでしたが、いつものように裸足のようでした。
椅子に座るなりすぐに演奏が始まりました。1曲目は、ジョン・フィールドのノクターン第17番です。優しく、爽やかで、明るい響きが気持ちよく感じられ、フィールドのノクターンの良さがすぐに理解できました。
続けてベートーヴェンのピアノソナタ第19番が演奏されました。フィールドから切れ目なく演奏が始まりましたが、何の違和感もなく、ひとつの曲のようにベートーヴェンの移行しました。
第1楽章は、柔らかく、軽やかに、ときに激しさも交えて、ゆったりと歌いました。第2楽章は、軽快に、軽やかに音楽が流れ、緩急・強弱のメリハリをたっぷりと付けて、その対比も鮮やかで、大いに楽しめました。
ここで拍手が贈られ、アリスさんの挨拶がありました。新潟市は10年振りであること、17歳のときに、小出郷文化会館でコンサートとレコーディングをする予定でしたが、インフルエンザにかかって、2週間旅館で寝込んでしまったことなどのお話がありました。
その後、今日のプログラムについての説明がありました。通常は、レコーディングした後に、CD発売記念のツアーを行うのですが、今回は初の試みとして、レコーディング前に、日本で4公演だけ演奏することにしたそうです。
そして、フィールドについての説明がありました。アイルランド出身で、ノクターンというジャンルを確立した人で、ベートーヴェンと同じ時代を生きていた人であること、今日は18曲のノクターンのうち9曲演奏することなど、わかりやすい語り口で解説してくれました。
続いて、フィールドのノクターン第1番、第2番、第4番が続けて演奏されました。第1番は、ゆったりと優しく、明るく爽やかで、癒やしてくれるような甘いメロディが気持ち良く感じられました。第2番は、胸に秘めた憂いを感じさせ、もの悲しく心に響いてきました。第4番は、穏やかな温かさを感じるも、ソフトさの中にも揺れ動く思いがあり、激しく感情を吐露し、そして穏やかに曲を終えました。
ここで再びアリスさんの解説がありましたが、フィールドはロシアで活躍し、54歳でモスクワで死亡したそうです。曲目の説明の後、ノクターン第14番、第15番、第10番が続けて演奏されました。
第14番は、明るく、湖に反射する日の光が、爽やかに、優しく輝き、うっとりと癒やされました。第15番は、暗く、もの悲しく、しみじみと切ない思いを心に訴えました。第10番は、明るさを取り戻して、優しく軽やかに、大きく感情を高ぶらせて、川の流れのように、優しく、明るく輝いて、きらめきの中に、しっとりと終わりました。
再びアリスさんの解説がありました。ノクターン第9番と「月光」の第1楽章との類似性、「月光」がモーツァルトの「ドン・ジョバンニ」からインスピレーションされたことなど、演奏を交えて、わかりやすく解説してくれました。そして、ノクターン第9番、第12番、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」が続けて演奏されました。
ノクターン第9番は、確かに「月光」とそっくりで、もの悲しい切なさを、切々と心に訴え、しっとりと胸に迫りました。第12番は、明るく軽快に、楽しげにダンスを踊るようで、軽やかにステップを踏んで、鐘を12回打ち鳴らしました。
そして、シームレスに「月光」へと繋がりました。第1楽章は、これ以上ないくらいに、ゆったりと、しっとりと、極上のサウンドで魅了しました。
第2楽章は、明るく爽やかに、低音の濁りのない美しさに驚嘆し、これほど美しい音を、りゅーとぴあで聴いたことがあっただろうかと自問しました。
第3楽章は、激しくスピードアップし、強靱な突き抜けるような打鍵に圧倒され、大きく曲を揺り動かして、ダイナミックレンジの大きさにひれ伏しました。まさに爆演というべきでしょう。これほどの「月光」は過去に聴いたこともなく、胸が高鳴りました。
客席に大きな興奮と感動をもたらし、拍手に応えて、アンコールは、サティの「グノシェンヌ第1番」でした。ゆっくりと、ゆったりと、ミステリアスな演奏で、先ほどの興奮を鎮めてくれました。
休憩なしのコンサートでしたが、アリスさんによるわかりやすい解説付きで、内容は十分でした。フィールドという作曲家を知ることができたことは大きな収穫でした。ベートーヴェンと組み合わせたプログラム構成も秀逸であり、アリスさんの素晴らしさを再認識しました。
終演後は、CD購入者に対してサイン会が行われ、長い列ができていました。私も並びたかったですが、CDを買うにしても売り場がごった返していましたし、時間がかかりそうでしたので潔く断念しました。来年のCD発売を楽しみに待ちたいと思います。
良い音楽を聴いた喜びとともに外に出ますと、青空が見えていました。暑さ寒さも彼岸までということで、気温は高くなく、過ごしやすい秋の空気を感じました。
追記:新潟公演終演後のアリスさんのお姿が X にありました。
→ https://x.com/japan_arts/status/1838153452670832957
(客席:2階C5-3、S席:セット券:¥3900) |