今日は、ウクライナ国立フィルハーモニー交響楽団による「2つの第九」と題された公演で、ドヴォルザークの交響曲第9番とベートーヴェンの交響曲第9番が同時に演奏されるというヘビーなプログラムです。
2017年12月にも同様の公演があり、私も聴かせていただきました。そのときはキエフ国立フィルハーモニー交響楽団という名前でしたが、日本での名称表記が変わっただけで全く同じオケです。
オケの皆さんは、12月9日から、北海道から九州まで日本全国を巡演し、大晦日、元日にも公演を行う予定になっています。
当初は12月7日から全19公演が開催される予定でしたが、フジコ・ヘミングさんと共演する予定の2公演がフジコさんの健康上の問題(怪我)により中止されたため、全17公演になりました。それでも休みのない超過密日程には驚かされます。
オケとしてのツアーが終わった後もオケの皆さんは日本にとどまり、1月3日からは、サーカスと共演する「シルク・ドゥラ・シンフォニー」で日本全国を回り、10公演が開催され、新潟にも再来されます。これも前回の公演のときと同じ流れです。
オケの皆さんは、音楽を武器にして、外貨獲得のために、過密日程に臆することなく、休みなしで戦っておられます。オケの皆さんにとっては、コンサートホールが戦場ということでしょうか。
芸術やスポーツと政治問題は分けて考えるべきだとは思いますが、オケの皆さんの頑張りに応え、ウクライナを支援する意味を込めて、今回の新潟公演に参加させていただくことにしました。
昨夕から強風が吹き、大荒れの天候になりました。朝から雨は雪に変わって、これから明日にかけて、平野部でもまとまった降雪になるとの予報が出ています。交通障害や大雪による被害が出ないことを祈ります。
ゆっくりと昼食を摂り、車に積もった雪を払って、吹雪の中にりゅーとぴあへと車を進めました。途中にある道路の案内板では、白山公園の各駐車場は満車の表示が出ていましたが、幸いいつもの場所に駐車できました。
荒れ模様の中にりゅーとぴあに入館しますと、既に開場されており、ロビーはいつもとは違った熱気が感じられました。NST開局55周年記念公演ということもあってか、当日券販売窓口の隣には来賓受付があり、特別なコンサートの雰囲気を漂わせていました。
入場口では、チラシが2枚渡されただけで、前回と同様にコンサートのプログラムの配布はなく別売でした。ホワイエには加茂市長からの花籠が飾られていましたが、政治的意味があるのでしょうか。
席に着いてこの原稿を書きながら開演を待ちましたが、客の入りは良く、多少の空席はありますが、大入りと言って良いでしょう。ウクライナ問題で注目されているためもあるのでしょうか。
合唱団席はP席ではなく、前回と同様に、ステージの後方に合唱団席が設けられていました。私の席は3階正面最前列で、見晴らしは抜群です。通常の公演ではS席に設定される席であり、今回設定されたA席としては最良の席ではないでしょうか。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場しました。オケの配置は通常の配置ですが、チェロは客席側で、ヴィオラが奥側という並びでした。
弦は12型で、私の目視で弦5部は、12-9-8-9-6 でした。ティンパニは左奥に設置されていました。指揮台前には譜面台はありません。
ジャジューラさんが登場して、前半はドヴォルザークの「第九」である「新世界より」です。緊張感ある中に演奏が始まりました。その後はやや速めに演奏が進みましたが、音はクリアで、美しいアンサンブルでした。
第2楽章はゆったりと歌わせ、聴かせどころのイングリッシュホルンも美しかったです。第3楽章は、急-緩-急-緩-急と進行していきますが、緩徐部はゆったりと歌わせたものの、急速部はかなりのスピードで疾走しました。
終楽章もスピード感に溢れ、重くはなく、軽快で心地良い音楽が流れ出ました。たった1発だけのシンバルも良い味を出していました。ゆったりと歌わせた後、熱量を上げてフィナーレを迎えました。
さすがに連日演奏しているだけあって、演奏に抜かりはなく、淀みなく湧き出る泉の如く、美しい音楽が流れ出ました。音楽に込められた願いは別にして、濃厚さ、重さはなく、熱くなりすぎることのない爽やかさを感じさせる演奏でした。
休憩後の後半は、ベートーヴェンの「第九」です。第1楽章は、前半の印象と同様に、軽めに快活に演奏が進みました。第2楽章も軽快に演奏が進み、ティンパニのスパイスは良く効いていましたが、全体としてはあっさり味で、立ち止まることなく、速足で駆け抜けました。
ここで合唱団が入場しましたが、左にソプラノが25人、中央に男声(テノール/バス)が40人、右にアルトが16人並びました。
続いて独唱者4人が登場し、オケの後方の合唱団の前の席に着きました。女性の二人は落ち着きのある黒いドレスでした。
第3楽章は、さすがにゆったりと美しく歌わせましたが、それでも速めの演奏であり、爽やかで、あっさり感を感じさせる演奏でした。
第4楽章の出だしも、これまでの演奏と同様に緊張感が溢れる感じではありません。これまでの楽章のメロディを否定する低弦のメロディも重々しさは感じさせず、美しく歓喜の歌が流れ出ました。
合唱団とバスが立ち上がって、いよいよ声楽と合唱が加わります。バスの歌声は素晴らしく、重厚感があって良かったです。他の独唱者も素晴らしいパフォーマンスでした。
合唱団は、どういうメンバーなのか全く情報はありませんが、全て暗譜で、大人数ではないものの、十分な声量で歌いました。
行進曲の場面では、トライアングルをティンパニ奏者が演奏していて驚きました。大太鼓とシンバルは大人しめで、もう少しパワーが欲しかったかなというのが私の感想でした。
終盤の4人の独唱者が競う合うように最後の四重唱を歌う場面は素晴らしく、力の限りに歌う合唱団も良かったです。最後のオケの煽り具合はほどほどで、安全運転の範囲内でフィナーレとなりました。
客観的に振り返れば、軽めの演奏に感じましたが、ウクライナ問題を思い浮かべながら聴きますと、曲に込められた平和へのメッセージを感じないわけにはいきません。
客席からは大きな拍手が贈られましたが、カーテンコールの間、オケの皆さんは最後まで着席することなく、起立したまま拍手に応えました。独唱者4人が奥からステージ前方に呼び出され、大きな拍手でそのパフォーマンスを讃えました。
合唱指揮の二階堂さんも呼び出され、合唱団に大きな拍手が贈られました。繰り返されるカーテンコールの中で、独唱者がウクライナ国旗を持って入場し、ウクライナ国旗が指揮台前に掲げられました。
そして、二階堂さんの指揮によって、合唱団だけでウクライナの作曲家ミコラ・リセンコによる讃美歌「ウクライナへの祈り」が歌われました。これが「第九」以上に美しい歌声で、しっとりと心に響き、思わず感動の涙が込み上げてきました。この曲は観客へのアンコールではなく、ウクライナでの犠牲者や、戦禍の中で苦しむウクライナ国民へ捧げる曲だったと思います。
しんみりとした感動の中にコンサートは終演となりました。冷静に考えますと、音楽に政治を持ち込んで、国旗を掲げることには異論もあるかもしれませんが、私は素直にウクライナに思いを馳せて、平和を祈りました。
オケの皆さんは、故国を離れて日本ツアーの真っ最中であり、これからさらに長い演奏旅行が続きます。お疲れのことと思いますが、健康に留意されて使命を全うしていただきたいと思います。
外に出ますと、強風とともに霰が降っており、駐車場まで駆け足しました。これからしばらくは雪の日々が続きます。大雪にならないことを祈りながら家路に着きました。
付記:
・コンサートの模様が、主催者であるNSTの夜のニュースで紹介されました。
→ https://www.youtube.com/watch?v=4F7gj9_HwuA
・「ウクライナへの祈り」の動画がありましたので紹介します。
→ https://www.youtube.com/watch?v=pFX7zY_ArKc
(客席:3階 I 1-9、A席:¥7500) |