11月になり、晩秋から初冬へと季節は移ろい、今日も冷たい風が吹いています。雨が降ったり止んだりと、落ち着かない天候で、肌寒さを感じます。
ホールに着きますと、ちょうど開場時間で、私も列に並んで入場しました。客席は1階席と2階B、C、Dブロックだけ使用されましたが、客の入りとしましてはまずまずというところでしょうか。
アファナシエフがステージに登場。1曲目は「悲愴」です。一瞬客席を見るとともに椅子に座り、すぐに演奏が開始されました。始めは通常のスピードでしたが、後半からゆっくりとなり、一音一音を確かめるように響かせ、その芳醇な響きに耳を奪われました。
第二楽章もこれでもかというくらいにゆっくりでした。ちょっとロマンチックで、ポップスにも使用される甘いメロディも、重々しく、ずしりと心に響いてきました。第三楽章も同様にゆっくりと進み、重厚な音楽に圧倒されました。暗くて、まさに「悲愴」というネーミングがぴったりな演奏に感じました。演奏が終わるとすぐに立ち上がり、客席を見るなり足早にステージを後にしました。
続いては「月光」です。これもゆっくりした演奏です。柔らかな月の光が降り注ぐイメージの第一楽章も、重々しく、一歩一歩踏みしめて歩んでいくようであり、葬送行進曲のような印象すら感じました。
さすがに第三楽章はスピードアップして始まりましたが、終盤には過剰なまでの「ため」と「間」」をつくり、音をしっかりと響かせていました。
休憩時間には念入りな調律が行われていました。後半は「熱情」です。前半同様に、ゆっくりとした重厚な演奏です。一つ一つの音を大切に鳴らし、響きを確認しながら進んでいくようでした。第二楽章も重々しく進みました。第三楽章は突然スピードアップし、ダンプカーで疾走するような迫力を感じました。圧倒的な音楽にノックアウトされるばかりでした。
アンコールを1曲演奏し終演となりましたが、その豊かで圧倒的な音楽に、お腹いっぱいになりました。演奏は、緩急の幅、ダイナミックレンジが大きく、これでもかというくらいに揺り動かし、畳み掛け、有無も言わせず聴く者を圧倒しました。
ピアノの音は豊潤で輝きがあり、強奏でも音の濁りが全くありません。特に低音部の美しい響きは素晴らしかったです。りゅーとぴあで、これほどきれいなピアノの響きを聴かせてくらたピアニストは何人いたでしょうか。
ピアノの響きがいつも聴くスタインウェイとは全く違っていました。これほど豊潤な響きはめったに聴けません。遠目で良く分かりませんでしたが、ピアノはベーゼンドルファーじゃなかったでしょうか。演奏とピアノの響きが良く合っていて、一期一会のこの上ない音楽を作りだしていました。
振り返って、非常に「濃い」演奏だったと思います。これまで何度も聴いたはずのベートーヴェンの三大ソナタですが、過剰なまでの味付けがなされ、デフォルメされた演奏は、初めて聴く音楽にすら感じました。
音の美しさ、響きの豊かさが相まって、ゆっくりでも冗長さはなく、このスピードで演奏されるべきなんだと感じさせました。
三吉屋にラーメンを食べに行ったら豚骨ラーメンが出てきてびっくりしたけれど、濃厚な味わいに大満足した、そんな印象のコンサートでした。
終演後はサイン会が行われましたが、所用があって足早に会場を後にしました。良い音楽が聴けてよかったです。
(客席:2階C3-11、A席:¥4000) |