フランチェスコ・トリスターノ ピアノ・リサイタル
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2015年11月26日(木) 19:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
ピアノ:フランチェスコ・トリスターノ
 

J.S.バッハ: パルティータ 第3番 イ短調 BWV827
   ファンタジア、アルマンド、クーラント、サラバンド、ブルレスカ
   スケルツォ、ジーク

F.トリスターノ: Kyeotp
J.S.バッハ: パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825
   プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット1
   メヌエット2、ジーク
ジョン・ケージ: ある風景の中で

(休憩20分)

J.S.バッハ: パルティータ 第6番 ホ短調 BWV830
    トッカータ、アルマンド、コレンテ、エール、サラバンド
    テンポ・ディ・ガボット、ジーク

ストラヴィンスキー: ペトルーシュカの3章
    ロシアの踊り、ペトリューシュカの部屋、謝肉祭

(アンコール)
F.トリスターノ: ラ・フランシスカーナ

 今月初めのメストレのリサイタルに引き続いて、りゅーとぴあ友の会会員増を狙っての会員特別優待コンサートの第2弾です。通常料金S席5000円が会員は2000円で買えるというお得な企画であり、今回はピアノのトリスターノです。この名前はどこかで聞いたことがあったと思いましたが、アリス=紗良・オットとのピアノ・デュオのCDを持っていたことを思い出しました。
 なかなか楽しみなコンサートであり、早々にチケットを買ってしまったのですが、平日の開催で、どうなるか心配でした。案の定、仕事が終わるはずもなく、やりかけた仕事を途中でやめて、冷たい雨が降り続く中、りゅーとぴあへと車を進めました。初めから開演に間に合わないのは明らかでしたので、開き直ってゆっくりと向かいました。

 入場しますと、最初のバッハのパルティータの演奏がされており、ロビーで漏れ出る音を聴きながら演奏の終わりを待ちました。
 拍手が起こったところで入場して着席。客席は1階と2階のB、C、Dブロックのみが使用されましたが、正面はほぼ埋まっていたものの、サイド席には空席がありました。

 スリムなトリスターノが再登場し、胸に手を当てて大きくお辞儀をして演奏を開始しました。曲はトリスターノの自作曲です。
 無音の静寂の中、小さなピアノの響きに始まり、やがて大きな音のうねりを作り出しました。低音の一撃がホールに響き、心地よい音の流れに矢が射られたかのようでした。低音部の弦に手を差し入れて音の変化を作り出し、ジャズのテイストも感じさせるこの曲は、まさに現代の、21世紀の音楽です。一気に演奏に引き込まれました。
 その後間をおかずにバッハに突入し、静かに、軽やかに組曲の数々を奏でました。演奏はよどみなく流れ、爽やかさを感じさせました。
 バッハの最後の一音の消え行く響きを最後まで楽しませ、無音となったところで20世紀の音楽であるケージの演奏が始まりました。
 息を呑むような静寂の中に響くピアノの弱音。清らかな残響の美しさ。胸に切々と迫ります。やがて照明が徐々に落とされ、暗闇の中に音が消え、再び無音の世界へと戻りました。

 現代からシームレスにバッハへの時代へと旅立ち、再び現代へと戻りました。この3曲が一連の曲のように違和感なくつながり、バッハを聴いたのが夢の中の出来事であったかのように感じてしまいました。聴衆は現代とバッハの時代とを時空を超えて旅するタイムトラベラーとなり、夢幻の世界に誘われました。
 開演時間に遅れて、最初のバッハを聴けなかったのは残念でしたが、前半のこの演奏を聴けただけでも今日来た甲斐があったように思えました。

 静かな感動を反芻しながら休憩時間を過ごし、後半は再びバッハで開演しました。軽やかに流れる音楽は、谷間を下る渓流のようであり、静かに、ときに岩にぶつかりながら流れていきました。決して古臭さは感じさせず、美しい音の響きが心地よく心の中を通り過ぎて行きました。

 プログラム最後はストラヴィンスキーです。バッハとは打って変わった音の洪水。炸裂するリズム。まさに現代の音楽です。卓越した演奏技術をベースにして、若さを爆発させた興奮の演奏に、ホールは感動の渦に満たされました。

 アンコールに自作曲を演奏して終演となりましたが、久しぶりに感じる精神的高揚感に胸が高鳴りました。チラシに書かれた「天才」という言葉が嘘でないことを実感し、このような演奏に接することができた喜びをかみしめました。演奏もさることながら、現代曲とバッハからなるプログラム構成も考え抜かれたものであることが理解できました。
 創り出す音楽は、容姿そのままに、洗練された美しさを感じさせます。まさに弱音の美学。豪快に熱く燃え上がるのではなく、心の中で青い炎が種火のように燃えているようです。1981年生まれという若き俊英。これからの活躍がますます楽しみです。

 使用されたピアノはヤマハのCFX。りゅーとぴあには無いはずですので、持ち込んだものと思います。低音の響きは弱いように思いましたが、明るく華やかな音色は、コンサートホールの豊潤な響きと絶妙にマッチして、色彩感と輝きのある音楽を創り出していました。今夜の感動は、ホールとこのピアノの存在も重要だったと思います。
 
 冷たい雨の中家路に着きましたが、よい音楽を聴いたという満足感でいっぱいでした。
 
   

(客席:2階C5-3、S席:会員特別価格¥2000)