東京交響楽団第88回新潟定期演奏会
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2015年3月1日(日) 17:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
指揮:秋山和慶
ヴァイオリン:大谷康子
ピアノ:キット・アームストロング
コンサートマスター:水谷 晃
 


ヴォーン・ウィリアムズ:グリーンスリーヴズの主題による幻想曲

サラサーテ:スコットランドの歌 作品34

ブリテン:ピアノ協奏曲 作品13

 (ソリストアンコール)ウィリアム・バード:ジョン、さあキスして

(休憩20分)

エルガー:交響曲第1番 変イ長調 作品55
 
 
 

 昨年12月以来の久しぶりの東響定期です。今回は桂冠指揮者の秋山さんです。先日指揮者生活50周年記念演奏会を開催したニュースが記憶に新しいところです。

 今回の定期は、26日に開催されたサントリー定期と同じ内容で、イギリス音楽特集です。東響とイギリス音楽といいますと、大友さんが思い浮かびますが、秋山さんがどんな音楽を聴かせてくれるか期待が高まりました。

 興奮と感動の小黒亜紀さんのリサイタルから東響定期まで少し時間がありましたので、県民会館の情報ラウンジで音楽雑誌を読んで時間調整しました。あの興奮を一度リセットしないと定期には臨めません。

 ということで、開場時間となり、ホールに入場。秋山さんの新刊がサイン入りで限定発売されていましたので、1冊購入しましたが、なかなか面白そうな内容です。

 秋山さん登場とはいえ、ちょっと集客がきつそうなプログラムで、客の入りが心配されましたが、いつもの入りは確保できたようです。

 開演時間となり、団員が入場。最初は「グリーンスリーブスの主題による幻想曲」で、オケは小編成です。今日のコンマスは水谷さん。次席は廣岡さんです。
 秋山さんが登場して演奏開始。まず、弦楽の美しさに驚きました。いつもに増しての美しい響き。まさに極上のサウンドです。先日ハルビン交響楽団を聴き、中国のオケもいいなあなどと思っていましたが、東響のサウンドは次元が違いますね。ビロードのようになめらかで美しい弦楽に心が洗われるようでした。甲藤さんが奏でるフルートの響きも美しく、お馴染みのメロディに酔いしれました。

 続いては、オケの編成が小さいまま、ドラえもんブルーのドレスが麗しい大谷さんが登場して、「スコットランドの歌」です。実演を聴くのは初めてですが上品な爽やかな曲ですね。サラサーテの作曲であり、技巧的にも難しい曲と思うのですが、大谷さんはエレガントに、のびやかに、艶やかに歌い、透明感ある響きにうっとりと聴き入りました。9分ほどの短い曲でしたが、大谷さんの魅力が十分に感じ取られました。
 ちなみに、大谷さんといえばグァルネリですが、コンチェルトさんの情報によりますと、今夜のヴァイオリンはストラディヴァリウスだそうです。素人の私には、言われなければわかりませんけれど、いや、言われてもわかりませんが・・・。

 次は編成が大きくなり、ブリテンのピアノ協奏曲です。この曲を聴くのは全く初めてです。ピアノのキット・アームストロングも初めてで、初めてづくしです。不勉強な私は、アームストロングの名前すら聞いたことがなかったのですが、すごい経歴と実力の持ち主なんですね。ロンドンの王立音楽院から音楽の学位をもらったというのは理解できるにしても、パリ大学から数学の学位を授与されたというのは信じがたいことです。外見上は小柄なアジア人で、親近感を覚えます。

 何せ聴くのが初めてですので、演奏の評価などできようがありませんが、秋山さんの作り出す音楽は精緻で透明感があり、東響の解像度の高いサウンドは、すんなりと耳に入ってきます。
 4楽章からなるこの曲は、日頃聴く機会はなく、馴染みにくそうな音楽なのですが、シャープでクリアなピアノとオーケストラが混然一体となって攻めぎ合い、魅力ある音楽を構築していたように思います。
 大編成のオーケストラが作り出すサウンドは迫力十分であり、大音響でもサウンドに濁りがないのはこのホールを熟知した東響ならではでないでしょうか。このオケに負けないピアノも賞賛すべきでしょう。難解な曲のように思うのですが、何の苦も無く淀むことなく弾き通すアームストロングの実力の高さを実感しました。
 アンコールもお見事。曲もさることながら、実に美しい音色です。こんな輝きを持ったピアノを聴く機会は滅多にないように思います。

 休憩時間には、ホワイエで大谷さんのサイン会が開かれていました。ステージドレス姿のままでいらっしゃいましたが、年齢を感じさせない(失礼)チャーミングさと気さくさは、ファンを虜にしてしまいますね。

 さて、後半はエルガーの交響曲第1番です。CDは何種類か持っていますが、特に尾高/札響のCDを愛聴しています。いい曲だと思うのですが、これまで実演を聴く機会は全くありませんでした。この曲を秋山さんがどう聴かせてくれるかが楽しみでした。
 ステージいっぱいの大編成のオケ。ハープも2台あり、視覚的にも贅沢気分です。出だしの重厚なリズムを刻みながら朗々と奏でられるメロディーは、まさにエルガーしてるなあという印象です。
 ちょっと長い曲で、冗長さも感じることがあるのですが、今日は違います。いかにもイギリスというような、高貴で洗練された響きに心奪われ、音楽に没頭しました。気迫あふれる東響の演奏とそれを導き出した秋山さんの指揮。50年の指揮生活の集大成とでもいうような鬼気迫る演奏ではなかったでしょうか。この曲のすばらしさも再認識することができました。

 88回に及ぶ東響新潟定期の歴史の中で、秋山さんの指揮は何度も聴いているわけですが、今日ほどに胸に迫る演奏はなかったように思います。すばらしい共演者にも恵まれ、長く記憶に残ると思われる演奏会となりました。

 終演は19時半。フルコースをたっぷりといただいたような満足感を胸に、冷たい雨が降りしきる中、駐車場へと駆け足しました。

 
   
(客席:2階C*−*、S席:定期会員 \5500)