マーラーが大好きな私。特に9番は特別な曲です。ここ数ヶ月、泊まり勤務以外の日は、毎晩寝る前に9番のCDを聴いています。
生演奏を聴くのも、この一年で6回目、今年に入ってからでもこれが5回目になります。こんなに聴いている物好きは新潟では私くらいじゃないかと反省していますが、好きなものは好きなので、仕方ありません。
今回のコンサートも、老齢のプレヴィンを聴く機会はこれからないのではという危惧と、人生の、まさに終盤におられるプレヴィンさんの演奏する9番は味わい深いに違いないという期待を感じ、チケット発売開始の早々に、仕事のスケジュールも考えないまま買ってしまった次第です。
月初めに上京したばかりであり、土曜日とはいえ、仕事の週であり、正直とても行ける状況ではなかったのですが、この機会を逃すと、プレヴィンさんを聴く機会はもうないように思え、後で後悔しても悪いので、思い切って出かけることにしました。
職場を2時前に出て、新潟駅に直行。大宮から湘南新宿ラインで新宿に出て、山手線で原宿へ。順調に到着できました。この経路は東京経由より早くて安いです。
代々木公園ではベトナムフェスティバルをやっていて、たくさんの屋台が出ていて大賑わいでした。雑踏をかき分けてNHKホールに到着しました。
今回の席は、経済的事情もあって2階のB席。3階の屋根の下で、音響的問題はありそうですが、見晴らしは良かったです。FMの生中継とテレビ収録があり、たくさんのマイクとテレビカメラが配されていました。
FMの放送に合わせてか、5分くらい遅れて、拍手のない中、静かに団員が入場しました。コンマスに拍手を贈ることもなく、そのままチューニングに入りました。新潟方式に慣れていると、寂しく違和感を感じます。今日のコンマスは篠崎さんです。
係員に手を引かれ、杖をついたプレヴィンさんが足取りもおぼつかなく登場しました。介助により指揮台に上がり、椅子に座っての指揮でした。
老齢のプレヴィンさんということで、ゆったりとした、枯れた演奏を期待したのですが、明るく元気の良い演奏で驚きました。
最初管が若干怪しげなところがありましたが、以後は演奏としてはミスもなく、さすがN響、管も弦も隙がなく良かったです。ただし、席によるのかもしれませんが、オケの音は響きすぎ、特に管楽器がにぎやかに感じました。
ダイナミックレンジの幅が狭く、ピアニシシモを味わうことができず、終始ある程度以上の音量がありました。プレヴィンさんが耳が遠くなって、必要以上の音量を要求したということはないとは思いますが。
演奏は早めで、終始同じようなリズムと音量で、単調に感じました。、そんな状況で、第1楽章はオケは良く鳴ってはいましたが、曲の奥深さや、味わいを感じ取ることができませんでした。
第2楽章も同様で、面白味に欠けました。第3楽章も同様なのですが、前の席のおじさんが急に元気を出して、体でリズムを取ったり、手で指揮をしたりして、煩わしく、ますます欲求不満を感じました。速めのテンポで、終盤の甘美なメロディの歌わせかたもイマイチ。最後はバシッと決めてはくれましたが。
第4楽章はアタッカで行ってほしかったですが、休憩を入れて演奏。最終楽章くらいは、ゆっくりと歌わせてほしかったですが、やっぱり早めに飛ばしてにぎやかな演奏でした。
うねるような感情の揺れ動きを感じさせてほしかったですが、かないませんでした。最後の最後も、消え行くような感じではなく、ある程度の音量は維持されていて、息をのむような緊張感は乏しかったと言わざるを得ません。
フライング拍手もなく、静かに余韻を楽しんだのですが、プレヴィンさんはすぐに手を下ろしてしまい、数秒の沈黙だけでオケを起立させようとして、否応なく拍手になってしまいました。
プレヴィンさんは篠崎さんに支えられて椅子から立ち上がり、拍手に応えていました。係員に手を引かれてステージから下がり、その後のカーテンコールも手を引かれて、危なげな足取りで痛々しかったです。
歩く姿、指揮をする姿は老齢を感じさせましたが、作り出された音楽は、若々しく、生き生きとした、にぎやかなもので、これは全く予期せぬものでした。演奏だけ聴くと年齢を感じさせないものでしたが、私の思い描くマーラーの9番とは対極的な演奏であり、私の心に響くものはありませんでした。
FMの生中継を聴かれた皆さんはどのよな感想を持たれましたでしょうか。好みの問題なのでしょうが、ちょっと期待はずれというのが私の偽ざる感想であり、残念な思いを胸に帰路につきました。
(客席:2階L14−15、B席:¥5500) |