6. おわりに
これまでに、蛋白分解酵素阻害剤、カルシウム拮抗剤、蛋白同化ホルモンなど種々の治療が試みられてきましたが、
有効なものはありません。
現在も、ステロイドホルモン(プレドニゾロン)などの臨床試験が行われていますが、 めざましい効果はないようです。ただし、心不全・呼吸不全に対する治療・管理は確実に進歩しており、延命が得られているのは間違いありません。将来的には、遺伝子治療が根本的治療として期待されますが、臨床応用にはまだしばらくかかりそうです。
現状としては、病気の進行をいかに遅くするか、合併症の発生をいかに予防するか、生じた合併症をいかに治療 するかが重要です。特に病初期における機能訓練が進行の予防、合併症の発生予防に大変重要です。
筋肉の短縮による関節拘縮、変形が機能障害を助長するため、その予防のために、日常的な機能訓練が重要となります。 特に側弯や胸郭の変形が進行すると、心機能・呼吸機能に悪影響を及ぼすため注意が必要です。
さらに、進行し起立・歩行が困難になった場合は、車椅子の作成が必要となりますが、障害に見合った工夫が必要です。
また、進行し入院が必要な段階以前の、家庭や地域社会での生活をいかに維持していくかも問題です。 家庭での機能訓練、学齢児にあっては学校での運動・訓練がたいへん重要です。
また在宅医療の推進が叫ばれる昨今にあっては、たとえ機能的に重症であっても在宅生活の保障をしてあげる努力も必要です。筋ジス患者は療養所に入所させ、養護学校に通わせ、医療・生活・教育の場を保証をすると
いうこれまでの日本の筋ジス医療システムは、世界に例をみないものであり、画期的なものであったことは間違いありませんが、 障害者を社会から安易に隔離してしまったことに対する反省もなされています。
障害者に対する社会の見方が変化し、生活の質、人生の質、生き甲斐、Quolity of Life(QOL)を尊重する考え方が広まっています。
医療的に入院が必要な場合は仕方ありませんが、生活の援助さえあれば在宅生活、社会生活が可能な場合は、 何とか支援体制を作り、生活の保障、QOLの保証をしなければなりません。
このためには地域社会、行政の障害者や病気に対する理解と連携がますます重要と思われます。
筋ジス患者のQOL向上のために