気管切開について(家族説明用資料)


呼吸不全の治療法

 肺での酸素・二酸化炭素のガス交換(空気中の酸素を取り入れ、血液中の二酸化炭素を吐き出す)がうまく行われない 状態を呼吸不全といいます。その原因は、肺炎などの呼吸器自身の病気の他、筋ジスなどのように、呼吸する筋肉(横隔 膜や肋間筋など)の麻痺・機能障害のために呼吸がうまく行われない場合もあります。このような場合、血液中の酸素の 量、二酸化炭素の量を測って、呼吸不全と判断されたとき、必要により人工呼吸器の使用を検討します。
 人工呼吸の方法としては、体外式人工呼吸(CR)、鼻マスク式人工呼吸(NIPPV)、そして陽圧式人工呼吸など がありますが、患者さんの状態を総合的に判定して、どの方式を用いるか決定します。一般に、CRやNIPPVという 方法は、比較的簡便であり、軽症な場合は有効ですが、進行例では陽圧式人工呼吸が必要となります。
 陽圧式人工呼吸を行うためには、気管内に空気を送り込むための管を入れる必要があります。管は口、あるいは鼻から 入れますが、この操作を気管内挿管といいます。緊急時や短期間の呼吸管理はこの気管内挿管で十分ですが、長期間行う ためには、次に述べるように気管切開を行う必要があります。
 

気管切開とは

 気管に、肺に空気を送ったり痰を吸引したりするための穴を開けることを気管切開と言います。具体的には、のど(の ど仏の下)に手術により穴を開けます。これによって呼吸管理を行ったり、分泌物の吸引を行ったりします。
 気管切開は呼吸不全の患者さんに対して行うのが普通ですが、痰や分泌物ががうまく吐き出せず、つまりやすい(窒息 しやすい)場合には、たとえ呼吸自身に問題なくとも気管切開が必要となります。

気管切開の適応

 次のような場合、気管切開が必要です。
  1.気管内挿管(口や鼻から気管に管を通すこと)による気道確保、人工呼吸が長期化した場合。
  長期間管を入れたままにしていると、管によって組織が圧迫され、潰瘍、壊死を起こし ます。また、長期間同じ管 を使用していると、痰や分泌物によって管がつまりやすくなり、また不潔になりやすいため、定期的な管の入れ替えが必 要です。そして、この管を入れる操作(気管内挿管)はある程度の技術を要し、危険を伴います。さらに、口や鼻から太 い管を入れられていることは、意識のある患者にとってはたいへんな苦痛です。
2.気管内挿管では分泌物の吸引が難しい場合。
  口や鼻からの長いチューブを経由しての吸引はしにくく、また、つまりやすくなります。患者さんにとっても痰が出 しにくいです。気管切開の場合は、直接気管に穴を開けているため吸引は容易です。
3.上気道閉塞の場合。
  のどの病気などで口や鼻からの気管内挿管が困難な場合。この場合気道確保のために気管切開が必須です。
4.体外式人工呼吸器(CR)、NIPPVの継続が困難な場合。
  呼吸不全が進行すると、CRやNIPPVでは対処できなくなってしまいます。これに代わる方法は、気管内挿管あ るいは気管切開による人工呼吸法しかありません。今後長期に続けることを考えれば、気管内挿管で済ますには限界があ りますので、気管切開を行う必要があります。

気管切開の利点と欠点

 気管切開にも利点、欠点があります。

利点

1.気管内吸引が容易。
2.カニューレを挿入しやすく、固定しやすい。
3.患者の苦痛が少ない。
4.口腔内が解放される。
  口からの食事も可能。
5.場合によっては、声が出せる。話せる。

欠点

1.手術を必要としますので、それに伴う危険はあります。
  出血、感染 など
2.気管切開に伴う合併症
  長期気管カニューレを使用していると以下のような合併症は避けられません。
  気道感染、気管粘膜の潰瘍、壊死、出血(大出血を起こすこともある)

気管切開のやりかた

 手術は原則として手術室で行いますが、場合によっては病室で行うこともあります。通常局所麻酔で行いますが、睡眠 薬を注射して眠っていてもらうこともあります。
手術時間は通常30分程度です。ただし前後の準備、状態観察などのため全体としては通常1〜2時間位要します。
 方法としては簡単に言えば、局所麻酔ののち、前頚部を3〜4cm切開し、気管を露出させ、気管カニューレを挿入する 穴を開けるというものです。手術操作自身は単純ですが、一応手術でありますので、危険がないわけではありません。

その他

1.不明な点は遠慮なくお尋ね下さい。
2.手術当日はお手数でも病院にお出で下さい。
3.気管切開の必要性につきましては、われわれ医師が判断しますが、最終的にするかどうかは、患者さん本人、ご家族 の希望を尊重いたします。