1. Duchenne型筋ジストロフィー
 (Duchenne muscular dystrophy:DMD)

 筋ジスの中でも頻度が高く、出生男児3000〜5000人に1人の発生率です。10万人当たりでは2.5〜3人(全国で約3000人)の頻度になります。遺伝子疾患といっても1/3 は突然変異による発症であり遺伝歴不明です。正常女性から患児が生まれる確率は、およそ15000人に1人程度です。
 症状は、2〜5歳で、転倒しやすい、動揺性歩行、階段昇降困難等で発症します。近位筋(胴体に近い筋肉)優位の筋障害分布をとります。腓腹部などが堅く肥大することがありますが、これは脂肪組織の浸潤であり筋が肥大するわけでないので、仮性肥大と呼びます。床から起きるとき、床→膝→大腿と手で支えながら立ち上がる(登はん性起立、Gowers徴候)のが特徴的です。進行とともに四肢関節拘縮、脊柱変形をきたします。10〜12歳頃には歩行困難で車椅子生活となります。胸郭変形、心筋の障害等に伴って、呼吸機能、心機能の低下が次第に強くなり、20歳前後で肺炎、呼吸不全、心不全等で死亡するとされていましたが、近年は、人工呼吸器の使用、全身管理の技術向上により延命が図られるようになり、確実に寿命は延びています。40歳ころまで生存する例も増えていますが、残念ながら心不全の急激な進行により小児期に死をむかえる例もあります。
 病因は、筋細胞膜のジストロフィン蛋白の欠損です。1987年、Kunkelらにより病因遺伝子が解明され、原因蛋白質はジストロフィンと命名されました。ジストロフィンは3685個のアミノ酸からなる巨大な蛋白質で、筋細胞の細胞膜の支持、安定、シグナル伝達に関わる重要な構造物です。これが欠損することにより、細胞膜が破壊され、筋細胞が崩壊するのがこの病気の原因です。
 ジストロフィン遺伝子はX染色体短腕(Xp21.2)にあり、2.3x106塩基対からなります。X染色体の1%を占める巨大遺伝子であり、79個のエクソンからなります。ジストロフィンは、筋細胞に主に発現する筋型ジストロフィンだけでなく、臓器分布の異なる脳型、プルキンエ型など多彩な種類があり、その機能解明が進んでいます。
 ジストロフィン遺伝子変異には、欠失が60%、重複が10%、点変異などの微小変異が30%あります。PCR やサザンブロットという通常の検査方法では、欠失や重複がある程度以上の大きさがないと検出できないため、検出率は70%程度であり、直接シーケンス法での微小変異の検出が試みられています。したがって、DMDであっても必ずしもDNA異常を確認できない場合も多いのが実情です。また、欠失や重複などの遺伝子異常の程度と臨床症状の重症度とは関連がありません。この遺伝子異常は、1/3が突然変異により生じ、残りの2/3が母からの遺伝によります。ジストロフィン遺伝子欠失の突然変異発生には性差がなく、女性保因者も突然変異により発生する頻度が高いと思われます。

 
 → 関連情報:筋ジス研究の進歩


2. Becker型筋ジストロフィー
 (Becker muscular dystrophy:BMD)

 X染色体劣性遺伝で頻度は出生男児10万人当たり2〜6人です。発症は5〜15歳とDMD に比して遅く、経過はゆるやかであり、歩行不能になるのは、 20歳代後半以降が多いです。DMD と同様に、近位筋優位の筋力低下を示し、下腿の仮性肥大もみられます。知能は正常です。DMD を悪性型とすれば、BMD は良性型です。経過が良いため、子孫を残すことがありますが、男児は正常ですが、女児の場合は必ず保因者となります。心筋の障害が早期から生じ、四肢の筋力障害が殆どないのに心臓だけが障害される場合もあります。
 病因は、DMD と同様にX染色体上のジストロフィン遺伝子の異常によります。DMDでは、3塩基毎の遺伝子配列のずれにより、ジストロフィン蛋白が作られず完全に欠損し重症化するのに対し、本症では、3塩基毎の遺伝子配列の異常はあるものの、3塩基の基本構造は保たれます(in frame deletion)。そのためアミノ酸配列の異常はあるものの、不十分ながらもジストロフィン蛋白は形成されます。したがってジストロフィン蛋白の質的・量的な異常を呈するものの筋障害は軽くすみ、比較的緩徐な経過をとると考えられます。
 


3. 肢帯型筋ジストロフィー
 (Limb-Girdle type muscular dystrophy:LG)

 常染色体劣性遺伝がほとんどです。両親のそれぞれが保因者で、その子がたまたま発症したという場合です。多くは孤発例であり、遺伝歴がはっきりしません。血縁者に同病がある例は 10%程度にすぎません。優性遺伝の例もありますがまれです。
 10〜20歳代の発症が多く、上下肢の近位筋(肩周辺、腰周辺)の障害から始まります。この部位は上肢帯あるいは下肢帯と呼ばれ、肢帯型というのはこれに由来します。本症は四肢近位筋優位の障害分布をとり、他の病型に分類されない筋ジスを広く包含します。病因的には均一な疾患単位でなく、種々雑多な疾患が含まれていますが、診断法の進歩によりこの病型から次々と新しい遺伝子変異が発見され、新しい疾患概念が生まれつつあります。
 常染色体劣性遺伝を示すものは、進行の緩やかな、従来からの肢帯型筋ジストロフィーがほとんどを占めますが、小児期に発症し、DMD と同様の経過を示す重症型もあります。従来本邦では悪性肢帯型と呼ばれ、外国では SCARMD と呼ばれたものですが、ジストロフィンと結合して、細胞の構造維持に関わる蛋白質であるアダリン(αサルコグリカン)という蛋白質が欠損していることが解明され、最近ではサルコグリカン異常症として分類されています。一方、常染色体優性遺伝を示すものには、早期に発症するものの、比較的良性の経過を示す型(Bethlem myopathy)と成人に発症し、良性の経過をとる型などが知られています。
 また、最近細胞質内のCa2+依存性中性プロテアーゼである calpain 3 の異常による筋ジスが発見されたり、Dysferlin という蛋白質の異常による筋ジスが解明されたりと、従来包括的に漠然と分類されていた肢帯型筋ジストロフィーという病型は、研究の進歩により遺伝形式、異常部位によって細分化が進んでいます。さらに、遺伝形式と遺伝子異常による再分類が進められており、常染色体優性遺伝形式のものを LGMD1、常染色体劣性遺伝形式のものを LGMD2 とし、遺伝子座位が明らかになった順に、A、B、C、D を付けて分類が進められ、その原因蛋白質の解明も進められています。

 → 関連情報:肢帯型筋ジストロフィーの再分類
 


4. 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
 (Facio-scaplo-humeral type muscular dystrophy:FSH)

 常染色体優性遺伝で第4番染色体長腕に遺伝子座があります。原則として両親のどちらかが病気ですが、両親が全く正常で、突然変異による発症と考えられる例が30%あります。多くは10代に発症し、病名のように顔面、肩甲部、肩、上腕を中心に障害されます。進行すると腰や下肢の障害も生じ歩行困難となることもあります。顔面筋の障害により閉眼力低下、口輪筋障害(口笛吹けない)などを来たし、独特の顔貌(ミオパチー顔貌)を呈します。肩や上腕の筋萎縮が高度なのに比し前腕部は比較的保たれるため、ポパイの腕と形容されます。下肢の障害は、下腿に強いもの、腰帯・大腿に強いものなどいろいろです。血液の CK 上昇は軽度です。比較的良性の経過をたどり、進行すると腰や下肢の障害も生じ歩行できなくなることもありますが、生命に関しては良好な経過をとります。筋症状以外では、感音性難聴、網膜血管異常の合併が高率であり、知能は正常ですが、まれに精神遅滞やてんかんの合併があります。
 


5. 福山型先天性筋ジストロフィー
 (Fukuyama type congenital muscular dystrophy:FCMD)

 常染色体劣性遺伝であり、男女とも発症します。小児の筋ジスでは DMD に次いで多く、DMD の約1/3の頻度で 10万人当たり約2〜4人です。両親は保因者ですが、有病率から計算すると、日本人では 80人に1人が保因者となります。第9番染色体長腕31領域に遺伝子座があり、その部位に異常な遺伝子(レトロトランスポゾン)の挿入がみられます。日本人の FCMD はひとりの祖先から由来し、日本人の隔離集団の中で、レトロトランスポゾン挿入福山型染色体が全国に広がったものと考えられます。また、レトロトランスポゾン挿入がみられない場合は、点変異による遺伝子異常があります。本来この遺伝子部位が作るべき蛋白質はフクチンと命名されましたが、基底膜に関係するものと推測されるものの、その機能は解明されていません。このフクチン遺伝子を調べることで筋生検しなくとも確定診断することが可能です。
 症状としては、生下時あるいは出生後数ヶ月以内に「首がすわらない」「ミルクの飲みが悪い」「お座りが遅い」など筋緊張低下、筋力低下で気付きます。幼児期までは、成長に伴う運動発達も起こるため、運動機能の改善が多少なりともみられます。遅れながらも首の座りがみられ、お座りができるようになります。歩行を獲得できる良性型もありますが、原則として歩行は獲得できません。四肢・手指の関節拘縮を早期に来すことも特徴です。顔面筋、頚部筋の筋萎縮のため特有の顔貌を呈します。中枢神経系の障害も伴い、全例高度の知能障害を来します。半数以上に熱性痙攣がみられます。脳皮質の奇形(小多脳回)や白質病変など、脳の発達障害が注目されています。また、DMD と同様に、10歳すぎくらいから、心筋障害による心不全が問題になることもあります。
 

非福山型先天性筋ジストロフィー
(non-Fukuyama type congenital muscular dystrophy:nonFCMD)

 
 生下時あるいは生後数ヶ月以内に発症する筋ジスを先天性筋ジストロフィーと総称します。この中には脳形成障害(知能障害)を伴うものと伴わないものがあり、前者の代表が福山型先天性筋ジストロフィーです。後者は非福山型先天性筋ジストロフィーと総称します。この中には、様々な病型が存在し、重症から軽症までいろいろです。この中にはメロシン欠損型先天性筋ジストロフィー(遺伝子座は第6番染色体長腕)やメロシン陽性型先天性筋ジストロフィーなどが含まれます。
 

ウールリッヒ型先天性筋ジストロフィー(Ullrich congenital muscular dystrophy)
 
 手足の遠位の関節は軟らかく過度に伸展、屈曲するのに、脊柱や首、肩、股関節のような躯幹に近い関節は拘縮して伸縮しないことを特徴とします。乳児期から筋力低下があり、発育・発達の遅れがあります。股関節の脱臼が高頻度にあり、乳児期から手関節、足関節が軟らかく過伸展します。進行は緩徐ですが、呼吸筋が侵されやすいので、人工呼吸器を必要とすることがあります。心臓はあまり侵されません。患者さんは知的に優れているといわれます。本症はコラゲンYの欠損であることが報告されています。


6. 筋強直性ジストロフィー
 (Myotonic dystrophy:MyD)

 常染色体優性遺伝で、男女とも発症します。両親のどちらかが患者です。人口10万人当たり5人程度と成人の筋ジスでは最多です。10〜30歳代の発症が多く、筋緊張症(ミオトニア:筋が弛緩しにくい。たとえば手を握ると開きにくい。)が特徴です。顔面、頚部、四肢遠位部から発症し、白内障、禿頭、心筋伝導障害(心電図異常)、内分泌障害(糖尿病やホルモンの異常)、知能障害など多彩な症状を示します。顔面筋が障害され頭が禿げたりして特有の顔貌を呈します。知能障害のため精神薄弱者施設にいることもあります。症状が軽く、診断されないまま一生を送る例もあります。本症は多彩な合併症があるため、筋症状以外の全身症状にも十分注意しなければなりません。特に心臓の伝導障害による突然死も時にあり、ペースメーカー植え込みが必要な場合もあります。
 本症は第19番染色体に遺伝子座(MT-PK:myotonin protein kinase)があり、DNAの中に CTG という3つの塩基配列が繰り返しみられる部位(triplet repeat)があり、その繰り返し(repeat)が患者では増大しています。正常では 3〜35repeat ですが、患者では 50〜3000repeat にも増大しています。この repeat数を調べることで遺伝子診断が可能であり、さらにこの繰り返し数が多いほど発症年齢が早く、重症化しやすいことが知られ、遺伝子を調べることで将来の重症度まである程度推定できます。筋生検の組織像は、筋ジストロフィーに見られる壊死とそれに続く再生所見はほとんどなく、筋線維は細くなり、特にタイプ1(赤筋)線維が萎縮します。
 

先天性筋強直性ジストロフィー(Congenital myotonic dystrophy)

 母親が筋強直性ジストロフィーで、筋ジスの子が生まれた場合、新生児期から重篤な筋力低下を示す場合があり、これを先天性筋強直性ジストロフィーと呼びます。胎児期に、母親から何らかの体液性因子(ホルモン?)が働いて、発育が障害されたものと考えられています。出生当初は人工呼吸管理を要するほど重篤であっても、新生児期を過ぎると症状は改善傾向を示し、2〜3歳で歩行も獲得されます。しかし、知能障害は改善されません。小児期は成長に伴い、運動機能の発達がみられますが、成人期になれば、通常の筋強直性ジストロフィーとしての経過をたどるので、次第に機能障害が進行します。一時的にも症状の改善がみられるという点では、特異的な病気です。通常の筋強直性ジストロフィーとしての経過の上に、胎児期に別のファクターが加わったために、特異な経過をたどるのではないかと考えられます。
 

注:従来、筋緊張性ジストロフィーという呼び方もありましたが、筋強直性ジストロフィーという呼び方に統一されました。
  (日本神経学会用語集も筋強直性とされた。)
 


7. 遠位型ミオパチー
 (Distal myopathy:DM)

 筋ジス一般は、近位筋優位の障害を示すことが多いのですが、指、前腕、下腿などの遠位筋から障害される筋原性疾患を総称して遠位型ミオパチーと呼びます。日本では次に示す2型が知られています。その他に Welander型というのもありますが、本邦ではみられません。
 

1)rimmed vacuole(RV)型遠位型ミオパチー(DMRV:Nonaka型)

 常染色体劣性遺伝で第9番染色体に遺伝子座があります。15〜40歳の若年発症が多く、つま先に力が入らない、スリッパが脱げやすい、階段昇降しにくい等で初発します。前脛骨筋(足首を上げる筋)の障害が強く、「垂れ足」を呈し、発症10年以内に歩行困難となります。上肢も手指の障害から進行します。筋組織に rimmed vacuoleと呼ばれる空胞があるのが特徴です。
 

2)三好型遠位型筋ジストロフィー(三好ミオパチー Miyoshi myopathy)

 常染色体劣性遺伝で第2番染色体に遺伝子座があります。10〜30歳の若年者に発症し、腓腹筋(ふくらはぎ)の障害が強く、つま先立ちできないというのが特徴で、特有の立ち上がり方をします。経過は比較的良好です。筋組織は筋線維の壊死、再生、脂肪組織、結合織の増生があり、血液の CK 値も高値です。原因蛋白質は dysferlinと命名され、この蛋白質は細胞膜にあることが解明されていますが、肢帯型筋ジストロフィーの中にもこの蛋白質の異常を呈する例があり注目されています。
 


8. 眼咽頭型筋ジストロフィー
 (Oculopharyngeal muscular dystrophy:OPMD)

 常染色体優性遺伝で第14番染色体長腕に遺伝子座があります。発症は、多くは中年以降(40歳以降)で、眼瞼下垂、眼球運動障害、嚥下障害が徐々に進行します。眼症状主体で、嚥下障害のない例(眼筋型)もあります。四肢筋はあまり侵されませんが、進行すると、顔面筋、四肢近位筋も障害され、起立・歩行障害も生じます。筋組織では、DMD でみられるような壊死・再生像は少なく、rimmed vacuole を認め、RV型遠位型ミオパチーとの関連が議論さています。また、両者の中間的な、眼筋・咽頭筋と四肢遠位筋とを障害する眼咽頭遠位型ミオパチーという病型もあります。
 

眼咽頭遠位型ミオパチー(oculopharyngodistal myopathy)
 
 眼咽頭型筋ジストロフィー(oculopharyngeal muscular dystrophy)と類似していますが、手足の先の方(遠位筋)が侵されるのが特徴です。常染色体優性遺伝であり、家族の中に同じような症状の患者がいます。眼咽頭遠位型ミオパチーと眼咽頭型筋ジストロフィーが同じ病気かどうか長く議論されていますが、多くの患者は眼咽頭型筋ジストロフィーの遺伝子変異(PABPN1)を有していませんが、有する例もあります。生命的予後は良好であり、天寿を全うします。眼瞼下垂が強い場合は眼瞼挙上術を検討します。


9. エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー
 (Emery-Dreifuss muscular dystrophy:EDMD)

X染色体劣性遺伝で、原因遺伝子(STA遺伝子)はX染色体長腕(Xq28)にあり、原因蛋白質はエメリンと命名されています。2〜10歳前後の幼小児期の発症で、脊椎や四肢の関節拘縮が特徴です。早期より後頸部、肘、アキレス腱の拘縮、肩甲・上腕・下腿を中心とする筋萎縮・筋力低下がみられます。心伝導障害を伴う心筋症を特徴とし、徐脈や不整脈をきたし、ときに心伝導ブロックによる突然死例もあり、ペースメーカーの植え込みも検討が必要になります。筋症状の進行は緩徐で、歩行不能になる例はまれです。また、血清CKの上昇は軽度です。
 原因蛋白質であるエメリンは核膜に存在することが知られていますが、発症機序についてはよく分かっていません。

 


10. 先天性非進行性ミオパチー
 (Congenital nonprogressive myopathy)

 生下時あるいは乳児期早期から筋緊張が低下し、運動障害を示すとき、その原因が神経原性であるときは、次に述べるWerdnig-Hoffman病がまず考えられます。また、筋原性の場合は、前述した福山型を代表とする先天性筋ジストロフィーのほか、先天性非進行性ミオパチーと呼ばれる一群があります。その中にはいろいろな病型が含まれ、それぞれ病理学的に特徴ある所見を示しています。病理学的特徴から、ネマリンミオパチー、セントラルコア病、ミオチューブラーミオパチー、先天性筋タイプ不均等症などの病型が分けられています。
 先天性ミオパチーはどの病型でも、乳児重症型、良性先天型、成人発症型の3型に分けられていますが、病理学的違いにかかわらず、臨床症状は共通であり、区別はつきません。非進行性で、良性の経過をとることが多いのですが、乳児期に死亡する重症型もあります。そのため、必ずしも「非進行性」ではないため、最近は単に先天性ミオパチーと呼称するようになりました。
 乳児重症型は、新生児期から呼吸困難、哺乳力低下があり、人工換気、経管栄養を必要とします。細長く、表情のない顔をしていて、高口蓋を認めます。手足の動きはほとんどなく、足関節の拘縮、先天性股関節脱臼をしばしばみとめ、腱反射は消失しています。予後は不良で、大多数は1歳までに死の転帰をとります。
 良性先天型は、先天性ミオパチーの大半を占め、乳児期に発達の遅れがあり、筋力・筋緊張が低下したいわゆるフロッピーインファント(floppy infant)を呈します。歩行開始も遅れ、1歳半を過ぎることが多いです。歩行開始後も走れず、階段の昇降に手すりがいるなど筋力低下は持続します。中には症状がほとんどない軽症例もあります。筋力低下は非進行性か、あるいは進行してもとても緩徐です。筋力低下は全身にありますが、頸部屈筋が弱いのが特徴的です。顔面罹患があり細長い顔で表情に乏しく、高口蓋があります。咽頭筋や呼吸筋は障害されますが、心筋は障害されません。関節拘縮も早期からみられます。
 成人型は、良性先天型で幼少期にはきわめて症状が乏しく、成人になって急性増悪したものと、成人発症の2型があると考えられています。
 

ネマリンミオパチー(nemaline myopathy)

 先天性ミオパチーの中で最も高頻度です。常染色体劣性、優性遺伝が報告されています。筋組織をGomoriトリクローム変法染色でみると、糸くず(nemaはギリシャ語で糸の意味)のような封入体をみることから、この病名がつけられました。
 

セントラルコア病(central core disease)

 主に常染色体優性遺伝をとり、遺伝子座は第19番染色体にあって、リアノヂン(ryanodine)受容体遺伝子に変異がみられます。筋線維の中心部に筋小胞体やミトコンドリアがなく酸化酵素染色(NADH-TRなど)で中央部が果物の芯(core)をみるように染色されないのが特徴です。
 

ミオチュブラーミオパチー(myotubular myopathy)

 比較的良性の経過をとる常染色体優性(劣性もある)と、乳児期から重篤な症状をとるX連鎖劣性遺伝をとるものが知られています。筋発生途上にある筋管細胞(myotube)に構造が似ているので上記の名が与えられました。この病気では筋細胞の中心に核あるので、中心核病(centronuclear myopathy)と呼ばれることもあります。乳児重症型では筋線維は胎児の筋肉のように未熟のままです。乳児重症型ではX連鎖劣性遺伝をとるものが大半で、責任蛋白はミオチューブラリンと名付けられています。この蛋白はtyrosine phosphataseに属しますが、この酵素が欠損するとなぜ筋の未熟性がくるのか、よく分かっていません。
 

先天性筋線維タイプ不均等症(congenital fiber type disproportion)

 筋線維内の異常な封入体や構造異常がなく、タイプ1(赤筋)線維がタイプ2(白筋)線維より12%以上の差をもって小径である場合の診断名です。タイプ1線維はタイプ2線維より小径で、タイプ1線維の数が正常上限の55%以上を占める(タイプ1線維優位:type 1 fiber predominance)ことが特徴です。さらに、筋線維径は全体に細く、未熟で未分化なものが多く存在します。筋線維タイプ分布の異常と未熟性が筋力、筋緊張低下の原因と考えられています。
 


11. ミトコンドリアミオパチー
 (Mitochondrial myopathy)

 ミトコンドリアは、細胞内でエネルギー産生に関与する重要な小器官であり、この異常により、エネルギーが十分作られず、筋肉の機能障害を示す疾患がミトコンドリアミオパチーです。ミトコンドリアの異常があるとき、必要なエネルギーが十分に作られないため、体の中で一番エネルギー消費の多い筋肉、脳の機能が障害されます。筋症状だけでなく、眼球運動障害、聴力障害、けいれん、不随意運動などいろいろな中枢神経症状を伴うので、ミトコンドリア脳筋症とも称されます。
 ミトコンドリアには細胞の核とは別に独自の DNA(ミトコンドリアDNA:mtDNA)が5〜10個存在し、ミトコンドリア内の電子伝達系酵素を作っています。細胞内のミトコンドリアはすべて卵子由来(母由来)であり、ミトコンドリアDNA の異常によって起こるミトコンドリア脳筋症は母からの遺伝です。異常な mtDNA(変異mtDNA)の割合はそれぞれの細胞毎に異なり(ヘテロプラスミーと呼ぶ)、変異 mtDNA の割合が一定レベル以上になるとその細胞が傷害されるものと考えられています。
下記がその代表的疾患です。
 

a.Kerns-Shy症候群(KSS)

 外眼筋麻痺、網膜色素変性、心ブロックを3主徴とし、その他、四肢筋障害、知能低下、小脳失調、難聴など、種々の症状を伴います。3主徴が揃わない不全型もあります。従来慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)と称されてきた疾患群の中に本症が含まれ、KSSはCPEOの中の重症型と考えられます。瞼が下がり、眼球運動が制限されます。網膜の障害も生じます。手足の筋力も低下し、心伝導障害によりペースメーカーが必要になる場合もあります。ミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常が明らかにされており、異常mtDNAの割合は、CPEOで40〜65%、KSSで90%以上と報告されています。
 

b.高乳酸血症・卒中様症状を伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS)

 ミトコンドリアミオパチー、脳症、高乳酸血症、脳卒中様発作が特徴で、精神・身体発達障害、頭痛、発作性嘔吐、痙攣発作の他、片麻痺、同名半盲、失語症などの脳卒中様発作を伴います。比較的若年に発症し、80%以上が20歳前に発症します。全身の小動脈、特に血管平滑筋細胞が強く侵されるのが特徴です。ミトコンドリア転移RNAの点変異が知られています。
 

c.Ragged-red figerを伴うミオクローヌスてんかん(MERRF:福原病)

 ミトコンドリアミオパチー、ミオクローヌスてんかん、小脳失調、知能低下、視神経萎縮、難聴などを伴います。通常10歳前後に発症します。ミトコンドリアDNA の点変異が知られています。
 


12. 代謝性筋疾患
 (Metabolic myopathy)

 筋ジスとは異なりますが、先天性代謝異常の中に、筋症状を呈し、筋ジス類似の臨床症状を示す場合がありますので、参考までに記しておきます。
 

1)糖原病

  糖原(グリコーゲン)代謝に関わる酵素の先天的異常により発症します。糖原代謝は主に肝臓と骨格筋で行われるので、肝臓や筋肉が障害されます。欠損酵素の違いから8種類に分けられ、このうち骨格筋症状が中心の病型を筋型と呼びます。筋型には、U型(酸性グルコシダーゼ欠損:Pompe病)、V型(脱分枝酵素欠損)、W型(筋ホスホリラーゼ欠損:McArdle病)、Z(ホスホフルクトキナーゼ欠損:垂井病)などがあります。病型により症状は異なりますが、生後早期から筋症状が強くて死亡する例や、小児期、成人期に発症して、DMDや肢帯型筋ジスに類似した症状を呈する例があります。
 

糖原病II型(酸マルターゼ欠損:acid maltase deficiency)

 遺伝子座は第17番染色体長腕にあり、酸マルターゼをコードする遺伝子にいくつかの点変異があります。本症は発症時期により、次の3型に分類されます。

a.乳児型(infantile acid maltase deficiency: ポンペ病 Pompe disease)
 生後数カ月以内に近位筋の筋力低下、筋緊張低下、心、舌、肝肥大をみます。呼吸不全、哺乳力低下がみられ、通常2歳までに呼吸不全、あるいは心不全で死の転帰をとります。心電図では心肥大所見と、PR間隔の短縮が特徴的です。筋生検による組織化学的検査と、酸マルターゼ酵素活性の測定で診断が確定されます。病理学的には神経細胞、骨格筋、心、肝、平滑筋細胞内に著明なグリコーゲンの蓄積をみます。筋生検ではリソゾームが増加し、酸フォスファターゼ活性は著明に上昇しています。

b.小児型(childhood acid maltase deficiency)
 乳児期あるいは小児期に筋力低下で気付きます。近位筋の筋力低下が主症状で、心、肝肥大はありません。血清CK値は軽度上昇し、肢帯型筋ジストロフィーと臨床診断される例が多いです。四肢の筋力低下はゆっくりと進行し、呼吸筋も侵されやすいです。

c.成人型(adult-onset acid maltase deficiency)
 20歳以降に発症し、進行性の筋力低下をみます。臨床的には肢帯型筋ジストロフィーと同じで、心、肝肥大はありません。呼吸筋が侵されやすいこと、頸屈筋の筋力低下が目立つこと、筋電図で偽ミオトニー現象をみることが本症の特徴です。
 

糖原病III型(脱分枝酵素欠損:debranching enzyme deficiency)

 肝腫大、成長障害、低血糖を主症状とします。思春期以降に症状が改善することが多く、予後がよい疾患とされています。ただし小児期ないし成人にかけて、進行性の筋力低下を主な症状とする例があります。遠位筋、近位筋とも侵され、心筋の異常もあります。血性CK値は上昇し、臨床的には肢帯型筋ジストロフィーと診断されることが多いようです。筋生検では、筋線維内に著明なグリコーゲンの蓄積をみます。リソソーム酵素(酸フォスファターゼなど)の活性上昇はほとんどありません。
 

糖原病V型(筋型ホスホリラーゼ欠損:myophosphorylase deficiency; マックアードル病: McArdle disease)

 運動中の筋痛、易疲労、筋強直を主症状とします。多くは15歳以下に発症します。筋痛などの症状が出現した後に少し休むと症状が軽減します。激しい運動をすると筋細胞が壊れ、ミオグロビンが血中に流出し、ミオグロビン尿を呈します。ときにはミオグロビンが腎臓の尿細管を閉塞し、急性腎不全を来すことがあります。これらの症状は年齢とともに軽くなる傾向があります。検査所見では、発作時、安静時ともに血中CK値は上昇しています。
 

糖原病VII型(ホスホフルクトキナーゼ欠損:phosphofructokinase deficiency: 垂井病)

 V型(McArdle病)と同様に、激しい運動をした後に筋痛とミオグロビン尿がみられます。本症では赤血球の酵素活性も低下するので、溶血傾向があり、高ビリルビン血症、網状赤血球の増加をみます。

 

2)脂質代謝異常

 カルニチン欠損症が代表です。脂肪の分解・代謝に必要なカルニチンの欠損により、脂質がエネルギー源として利用できなくなるのが原因です。全身型、筋型がありますが、筋型は肢帯型筋ジストロフィー類似の症状を呈します。カルニチンの経口投与で治療可能です。
 


13. 遺伝性の神経原性筋萎縮症

 筋の一次的異常でないという点で、筋ジスと分けて考えるべきですが、同様の臨床症状、経過を呈し、区別も難しいので、「進行性筋萎縮症」としてここでは同様に扱うことにします。遺伝性のものとしては、次に示す病型があります。
 

1)脊髄性筋萎縮症type1(SMA1):乳児脊髄性筋萎縮症:急性型(Werdnig-Hoffmann病)

 胎内あるいは生後3ヶ月以内に発症する重症型の Werdnig-Hoffmann病を指します。胎動微弱、哺乳力低下、呼吸困難など生後早期に発症し、急激に進行します。多くは1歳未満で死亡します。常染色体劣性遺伝ですので両親が保因者です。発症は出生2万人に1人で、保因者は60〜80人に1人の頻度です。第5番染色体長腕に遺伝子異常が存在します。原因遺伝子としては、運動神経細胞生存遺伝子(SMN遺伝子)、神経細胞アポトーシス抑制蛋白遺伝子(NAIP遺伝子)などの異常が想定されています。
  

2)脊髄性筋萎縮症type2(SMA2):小児脊髄性筋萎縮症:中間型(Werdnig-Hoffmann病)

 上記 SMA1 の良性型で遺伝子座も同様です。発症は6ヶ月前後が多く、SMA1 に比して経過は緩徐です。坐位を維持できる例もありますが、起立・歩行は不可能です。筋力低下は近位筋に著明です。関節拘縮が年齢とともに進行し、脊柱変形(側弯)が高頻度かつ高度です。
 

3)脊髄性筋萎縮症type3(SMA3):若年型脊髄性筋萎縮症:慢性型(Kugelberg-Welander病)

 遺伝子座は第5番染色体長腕にあり、病因は SMA1 と同様です。発症は遅く、歩行を獲得した後に発症します。経過は緩徐であり、生命的な予後は良好です。症状は歩行異常、近位筋優位の筋力低下であり、外見上は筋ジスと必ずしも区別できません。
 

4)遺伝性運動・感覚性ニューロパチー(HMSN)

 Charcot-Marie-Tooth病がその代表です。常染色体優性遺伝あるいは劣性遺伝で、小児期〜思春期に発症します。下肢の遠位筋の筋萎縮・筋力低下から発症し、大腿部に比して下腿の萎縮が高度であり、足の変形も伴います。「こうのとりの足」とか「シャンペン瓶を逆さにしたような」とか形容されます。歩行は垂れ足となり、その後手や前腕筋の障害が出てきます。末梢性の感覚障害も伴い、四肢末梢の冷感・循環障害もみられます。下記のように7型に分類されています。

 HMSN T型:常染色体優性遺伝(Charcot-Marie-Tooth病:脱髄型)
     TA:第17番染色体(ほとんどがこの型)
     TB:第1番染色体
 HMSN U型:常染色体優性遺伝、劣性遺伝(Charcot-Marie-Tooth病:軸索障害型)
 HMSN V型:常染色体劣性遺伝(Dejerine-Sottas病:肥厚型)
 HMSN W型:Refsum病
 HMSN X型:痙性対麻痺を伴う
 HMSN Y型:視神経萎縮伴う
 HMSN Z型:網膜色素変性を伴う
 

5)球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung症候群:KAS)

 X染色体劣性遺伝。成人期発症の近位筋優位の筋萎縮・筋力低下、球麻痺(舌萎縮、咽頭筋麻痺)を示します。筋肉のけいれんや、振戦(ふるえ)、ホルモンの異常(精巣萎縮)を伴います。本症を筋ジスと分類することはありませんが、遺伝性であるので参考までに記します。最近X染色体長腕にあるアンドロゲンレセプター遺伝子の異常が解明され、CAG という3塩基の繰り返し配列(triplet repeat)が増大していることが明らかにされています。正常では21〜26の繰り返しですが、本症では43〜51に増大しています。この繰り返し数が多いほど早期に発症し、重症化する傾向が知られています。
 


14. 鑑別を要する進行性筋萎縮症

1)運動ニューロン疾患(Motor neuron disease:MND)

脊髄性進行性筋萎縮症(Spinal progressive muscular atrophy:SPMA)

 運動ニューロンの変性疾患のうち、脊髄前角細胞(二次運動ニューロン)の障害のみで、 一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)の障害を伴わないものを、SPMAと呼びます。
 しかし、純粋に二次運動ニューロンだけの障害はごくまれであり、多少なりとも一次運動ニューロン の障害を伴うことが多いため、ALSに含めて、独立した疾患と考えない立場もあります。
 Werdnig-Hoffmann病、Kugelberg-Wellander病などの遺伝性の脊髄性進行性筋萎縮症は、分けて考えています。
 多くは遠位筋(手指など)に始まり、近位筋、下肢などに広がりますが、近位筋に初発し、Kugelberg-Wellander病と類似する病型もあります。
 典型的ALSに比して、経過は長く、筋ジストロフィーと鑑別が問題となることがあります。
 

筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:ALS)

 運動神経系が選択的、系統的に進行性に障害される疾患です。一次運動ニューロン、二次運動ニューロンともに障害されます。
 上下肢の筋萎縮、筋力低下のほか、構語障害・嚥下障害(球症状と呼ぶ)などを伴います。
 通常は経過が急であり、筋ジストロフィーと鑑別を要することはないですが、なかには経過が緩やかなものがあります。

2)その他

 頚椎症性筋萎縮症、多発性神経炎、慢性炎症性脱髄性多発性根神経炎、脊髄空洞症、多発性筋炎、甲状腺中毒性ミオパチー などが、鑑別にあげられることがありますが、詳細は略します。