品田真彦ピアノリサイタル
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2026年2月11日(水)14:00 だいしほくえつホール
ピアノ:品田真彦
 
ベートーヴェン:ピアノソナタ第11番 変ロ長調 作品22

ベートーヴェン:ピアノソナタ第12番「葬送」変イ長調 作品26

(休憩15分)

ベートーヴェン:ピアノソナタ第13番 変ホ長調 作品27-1

ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番「月光」嬰ハ短調 作品27-2

 
 

 新潟県内で、現在最も活発な演奏活動をしている男性ピアニストとして、品田真彦さんの名前を挙げることに新潟の音楽ファンなら異論はないでしょう。
 新潟県立新潟中央高等学校音楽科の第1期卒業生で、卒業後はすぐにドイツに留学されました。研鑽を積まれて帰国された後は、演奏家として、教育者として、新潟の音楽界に多大な貢献をされておられます。その誠実で真摯な人柄に裏打ちされた音楽は、聴く者の心を温かく癒してくれます。

 私個人としましては、2012年12月に開催されたリサイタルで初めて演奏を聴かせていただいてファンになり、以後2019年10月のリサイタルをはじめ、新潟セトラルフィルとの協奏曲や他の演奏家との共演など、様々な機会で何度も演奏を聴かせていただいていますの、とてもここでは紹介しきれません。

 今回のリサイタルは、2023年1月に始まった「ベートーヴェン・ツィクルス 新ウィーン楽派作品と共に」と題されたリサイタルシリーズの第4回目になります。
 このシリーズは、ベートーヴェンのピアノソナタのほかに、その100年後に活躍したシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンらのウィーン楽派の作品を取り上げるのを売りにしていました。
 しかし、開催直前の先週末に、当初演奏を予定していたシェーンベルクの「3つのピアノ小品 作品11」は、今しばらく熟考の時間が必要であると判断したとのことで、ベートーヴェンの作品に集中して演奏するとの発表がありました。
 プログラムの変更は残念ではありましたが、今回演奏予定だったシェーンベルク、昨年演奏したベルクのソナタに加え、同時代の他国の作品を含めたリサイタルを番外編として別途企画し、今回のチケットの半券で無料招待するとのことでした。
 安易な妥協は許さず、納得できる演奏を求めて、音楽に真摯に向き合う品田さんの姿勢には敬意を表したいと思います。こんな点も品田さんの魅力なんだと思います。

 さて、今日は建国記念の日で休日です。今日は、りゅーとぴあでは小林愛実さんのピアノリサイタルがあり、見事に日時が重なってしまいました。小林さんのリサイタルは、曲目にも魅力を感じ、通常なら聴きに行くところなのですが、品田さんのリサイタルは外すことはできませんので、残念ながら小林さんのリサイタルは断念しました。2023年11月以来の新潟でのリサイタルでしたので、きっと多くの観客で賑わったことでしょう。

 ということで、昨年3月のリサイタルに引き続いて、今年も品田さんのリサイタルを聴かせていただくことにしました。このところ生活があわただしく、なかなかコンサートには行けず、1月15日の辻井伸行さんのコンサート以来、久し振りのコンサートです。

 今シーズン最強の寒波が去り、雪ではなく雨が降る建国記念の日を迎えました。幸い今日は急ぐ仕事はなく、ゆっくりと休日の午前を過ごしました。
 昼食を摂り、雨の中に車を進め、だいしほくえつホールの直ぐ近くのコインパーキングに車をとめて、傘はささずにホールまで速足しました。このホールに来たのは、昨年3月の前回の品田さんのリサイタル以来ですので、久しぶりでした。
 1階の自販機で喉を潤し、チラシ集めをして2階に上がりますと、数人の客が開場を待っておられました。程なくして開場となり、いつもの中段左寄りに席を取りました。

 さて、このリサイタルシリーズでは、ベートーヴェンのピアノソナタを順に演奏してきましたが、今日は第11番から第14番までの4曲が演奏されます。
 第32番まであるピアノソナタのうち、通常の演奏会で聴くのは「悲愴」「月光」「熱情」という三大ピアノソナタを中心とした限られた曲ばかりですので、このように順に聴いてくというのは、日頃聴く機会が少ない曲も知ることができて良いですね。今回のプログラムでは「月光」は何度も聴いていますが、ほかは聴く機会があまりなく、そんな曲を聴くのも楽しみに思いました。
 開演時間が近付くにつれて客席は次第に埋まってきましたが、それなりの入りというところでしょうか。隣を気にせず、ゆったりと聴くことができて良かったです。

 開演時間となり、上下黒一色のの品田さんが登場して、ベートーヴェンのピアノソナタ第11番で開演しました。軽快ながらも力強さを感じさせながら演奏が始まり、このホール自慢のベーゼンドルファーの豊潤な響きがホールを満たしました。何度も来ているホールですが、こんなに響きが良かったかなあと新鮮な感動を感じました。
 軽快に駆け抜けた第1楽章か終わり、第2楽章は、ゆったりと優しく、美しい調べにうっとりと聴き入りました。この楽章はロマン派のノクターンのようだと評されますが、なるほどと思いました。
 第3楽章は、明るく爽やかに、春が来たかのように感じましたが、軽やかさだけでなく、速いパッセージは力強く奏で、この対比が鮮やかでした。
 第4楽章は、これも明るく爽やかに始まり、情熱的な力強さも見せて、緩急を繰り返して、軽やかさの中に終わりました。

 一旦退場してすぐに登場し、2曲目はピアノソナタ第12番です。この曲はピアノソナタでありながらソナタ形式の楽章がなく、新機軸を打ち出した曲として知られます。
 第1楽章は変奏曲形式です。軽やかにゆったりと始まり、少し形を変えて繰り返し、軽快なりズムに形を変え、再びゆったりと変化して暗さを感じさせ、明るくゆっくりとリズムを刻み、そして流れるように爽やかに歌って、静かに終わりました。
 第2楽章は、軽快に力強く、緩急を反復して、力を増して終わりました。第3楽章は、この曲を代表する葬送行進曲です。暗い空気感の中に葬送のリズムを刻みました。切ない思いが胸を打ち、反復して激しい胸の高鳴りを引き起こし、静かに終わりました。
 第4楽章は、一転して軽やかに、淀むことなく、明るく音楽が流れ出ました。力強く、スピードを緩めることなく空き進み、静かに、少しあっけなく曲が終わりました。

 休憩後の後半は、同じ作品27の1と2のピアノソナタ第13番と第14番で、ともに「幻想曲風ソナタ」というタイトルが付いています。
 品田さんが登場して挨拶があり、新ウィーン楽派の曲を演奏するはずでしたが、準備ができずに今回は演奏せず、代わりの演奏会を会場は未定ながら今年度中に開催し、今日聴きに来た観客は無料招待するとのお話がありました。そして曲目紹介があり、後半の演奏が始まりました。

 最初はピアノソナタ第13番です。第12番と同様にソナタ形式の楽章がなく、全4楽章がアタッカで演奏するようにとの指示がある曲です。
 第1楽章は、ゆったりと穏やかに始まりました。そして、激しく、力強く音楽が進み、再びゆったりと穏やかになり、静かに終わりました。
 第2楽章は、激しく情熱的に始まり、軽快に、跳ねるようなリズムで攻めたてました。第3楽章は、ゆったりと1歩ずつ確かめるように歩きました。
 激しい高音の連打から第4楽章となり、スピーディに流れるように音楽が溢れ出ました。力強さを感じさせながら激しく走り抜けました。少し穏やかさを見せるもスピードを落とすことなくパワフルに疾走し、ゆったりとひと息ついて、穏やかさを取り戻し、再びスピードアップして終わりました。

 最後はピアノソナタ第14番「月光」です。誰もが知る名曲中の名曲で、私も何度聴いたかわかりません。第1楽章は、しっとりと、ゆったりと、おなじみのメロディを歌いました。切々とした調べが心に染みました。
 第2楽章は、明るく跳ねるように始まり、少し重々しさも交えました。アタッカで第3楽章は、スピードアップして猛スピードで疾走しました。激しい鍵盤の連打で、否応なく心は揺さぶられ、高揚感を誘いました。スピードを落とすことなく駆け抜けて、緩急を繰り返し、ひと息ついてスピードアップして曲を閉じました。

 大きな拍手が贈られて、品田さんが再登場し、アンコールは用意できなかった旨の話があって、終演になりました。

 音楽を聴くのは好きですが、楽譜も読めず、音楽的教養のない私には、ベートーヴェンのピアノソナタを論ずることなどできようもありませんが、第11番から第14番まで、それぞれに個性があり、飽きることなく聴かせていただきました。
 第11番第2楽章のロマン派的響き、第12番の変奏曲形式の第1楽章、そして「幻想曲風ソナタ」と題された第13番と第14番。第13番は全楽章が続けて演奏され、第14番「月光」は、いきなり緩徐楽章で始まり、創作意欲に燃えたこの時期のベートーヴェンは、先進的な試みをいろいろしていたんだろうなあと、素人ながらに感じ入りました。

 このような感慨に浸れたのは、もちろん品田さんの演奏があってのことです。振り返って、ピアノの音量は豊かで、響きすぎるようにすら感じました。芳醇な響きのベーゼンドルファーとともに、力強い音楽がホールを満たしました。愚直なまでに真摯に音楽に立ち向かう姿から、品田さんの誠実な人柄が滲み出るようでした。

 予定していたシェーンベルクの曲がなかった分だけ速い終演時間となりましたが、満足度は十分でした。素人の私ですので、シェーンベルクを楽譜通りにさっと弾いても、演奏の良し悪しなど評価できようもないのですが、こんな素人相手にも決して妥協は許さず、納得できる演奏を追求して今回演奏を回避した品田さんには、敬意を表したいと思います。

 外に出ますと雨は止んでいました。コインパーキングの料金はいつの間にか値上げされていて1000円でした。少し離れれば600円なのにと嘆きましたが、確認不足で後の祭りでした。ちょっと悔しく感じたりしましたが、久しぶりにいい音楽を聴くことができて、心は晴れやかでした。
  

(客席:F-6、¥2000)