今日は日本を代表するチェリストである堤 剛さんと、その門下生の新倉 瞳さん、西田 翔さん、ルプランス楚亜さんらによる演奏会です。
堤さんは日本チェロ界のレジェンドであり、今さら紹介するまでもないでしょう。私が新潟での演奏を聴くのは、2017年9月の「無伴奏オール・バッハ・プログラム」以来です。
共演する新倉 瞳さんは、実力と美貌を兼ね備えた人気チェリストであり、新潟への来演も度々あります。2016年6月の茂木大輔さんとのドボコンや2013年2月のリサイタルなど記憶に新しいです。堤さんに見いだされたという若き俊英の西田
翔さん、ルプランス楚亜さんは今回が初めてです。
老練の堤さん、円熟期の新倉さん、そして若き西田さんとルプランスさん。この世代を超えた4人がどのような音楽を創り出してくれるのかが楽しみでした。
正直申し上げれば、東響新潟定期会員の特典で販売された割引の他公演とのセット券を買ったということもあったのですが、せっかくのコンサートを楽しませていただこうと思います。
今日は敬老の日。私も立派な高齢者の端くれですが、誰も敬ってはくれません。ちょっと寂しさも感じますが、自業自得なんて言わないでくださいね。
ゆっくりと休日の午前を過ごし、某所で簡素な昼食を摂り、りゅーとぴあへと向かいました。雲が多いながらも、穏やかな天候で、清々しさも感じられました。
駐車場に車をとめて、一旦りゅーとぴあの館内に入りましたが、天候に誘われて、開場前に信濃川ベリを散策しました。
雄大な信濃川の流れ。通り過ぎる水上バス。川面を渡る風に吹かれながら川の流れを見ているうちに、心にたまった雑念が消えて行きました。
陽射しが強くなって暑さを感じてきましたので、りゅーとぴあに戻りますと、既に開場が進んでおり、私も入場して席に着きました。
定期会員向けのバリューパックでチケットを購入しましたので、席は選べなかったのですが、1階席前方のベストポジションでラッキーでした。
開演時間となり、4人が登場しました。新倉さんは薄緑色に模様が浮かぶドレス、ルプランスさんは鮮やかな黄色のドレスです。左から堤さん、新倉さん、西田さん、ルプランスさんと並びました。新倉さんとルプランスさんはタブレットの楽譜です。
1曲目は、フレスコバルディの「トッカータ」です。3人をバックに堤さんがソロを取りました。ゆったりと、しんみりと始まり、そして軽快に明るく歌いました。再びゆったりと力強く演奏し、風格を感じさせる堤さんのチェロにうっとりとしました。堤さんは目を閉じて、楽譜を見ている様子はありませんでした。さすがですね。
ここで新倉さんによる挨拶がありましたが、新倉さんは堤さんの半分の年齢、さらに西田さんとルプランスさんは新倉さんの半分の年齢とのことで、ほーっという声が客席から上がりました。
この間に席の配置が入れ替えられて、左から堤さん、西田さん、新倉さん、ルプランスさんという並びになりました。
2曲目は堤さんの独奏によるハイドンの「チェロ協奏曲第1番」の第1楽章です。バックを支える3人の演奏も素晴らしく、オケを聴いているかのようでした。
長い序奏の後に堤さんの独奏が加わって、堂々とした、しかし、しなやかな演奏に心奪われ、チェロ協奏曲の名曲を存分に楽しませていただきました。
全員が退場してステージが整えられ、西田さん、ルプランスさんが登場し、3曲目は若手2人によりバルトークの「18の二重奏曲」からの7曲が演奏されました。
第1曲は、音量豊かにゆったりと、第3曲は、軽快に、第4曲は、おどろおどろしく、第7曲は、軽快に踊るように、第9曲は、しっとりと、ゆったりと歌うように、第11曲は、どこか哀愁を感じさせて静かに歌い、第18曲は、軽やかに細かくリズムを刻み、そしてゆったりと歌い、静けさから激しい和音とともに終わりました。
それぞれが非常に短い曲で、あっという間に終わってしまいましたが、それぞれの曲の対比も鮮やかで、若さ溢れる演奏に聴き入りました。
ここで西田さんによるフレッシュなトークがあり、堤先生から学んだことなどを話されていました。この間に他の3人が入場しました。
並びは左から新倉さん、西田さん、ルプランスさん、堤さんとなり、曲目紹介の後、前半最後の曲として、ピュッツの「タンゴ・パッショナート」が演奏されました。
タンゴのリズムにのせて、新倉さんがしっとりと、艶やかに演奏し、その美しい音色にうっとりとしました。ピュッツはドイツの作曲家だそうですが、初めて聞く名前であり、当然この曲も初めて聴きましたが、情熱的なリズムと哀愁を感じさせるメロディに心奪われました。
休憩後の後半は、まず堤さんが登場してトークがありました。自分が弟子を育てのではなく素晴らしい弟子に恵まれたこと、アメリカ留学をしたときに素晴らしい師に恵まれたことなどの話がありました。
また、新潟には何度か来演していますが、りゅーとぴあは初めてで、ステージ裏のたくさんの出演者のサインに驚いたことなどを話されていました。そして音域が広いチェロの魅力について話され、この間に他の3人がステージに登場して席に着きました。
左から堤さん、新倉さん、ルプランスさん、西田さんという並びで、前半最初はバッハの「G線上のアリア」です。3人をバックにして、堤さんがしっとりと歌い、しんみりと心に響く優しいチェロの調べは絶品でした。
4人が退場して、ステージが転換され、堤さんと新倉さんが登場し、後半2曲目はボッケリーニの「2つのチェロのためのソナタ」です。
第1楽章は、燻し銀のような堤さんのチェロと、円熟した新倉さんのチェロの生き生きした演奏にうっとりとし、第2楽章は、ゆったりと、極上の二重奏を堪能し、第3楽章は、軽やかに明るく雄弁に歌い、爽やかにフナーレとなりました。
2人が退場してステージ転換され、4人が登場。今度は左から新倉さん、ルプランスさん、西田さん、堤さんという並びになり、ベルギーの音楽家で、チェリストとしても活動しているデ・スワートの「エレジー」です。
美しく、ゆったりと歌う四重奏。新倉さんが奏でるメロディが美しく、しんみりとホールに響く極上のサウンドに、心が癒されるようでした。
ここでルプランスさんのお話がありましたが、フランス出身で、現在桐朋音楽大学のソリストディプロマコースに在学中で、堤さんのレッスンを受けていることなど話され、母国の作曲家のビゼーのカルメンを演奏するとの説明がありました。
4人が登場して、並びは左から堤さん、新倉さん、西田さん、ルプランスさんという一番最初の並びになって、最後の曲はビゼーの「カルメン幻想曲」です。
「前奏曲、闘牛士の歌」は、堤さんのソロで始まりましたが、各人が同等に活躍する編曲で、力強くメロディを奏でました。
「アラゴネーズ」は、それぞれがソロをとる場面があって編曲の良さが光り、ピチカートも心地良く、情熱的な音楽を熱く演奏しました。
「ハバネラ」は、抜群のアンサンブルによる四重奏で魅了しました。4人が順にソロを弾き、それぞれの見せ場がありましたが、甲乙付けがたい音色の違いも楽しむことができて良かったです。
「ジプシーの踊り」は、西田さん、ルプランスさんのピチカートにのせて、堤さんと新倉さんがスピードに乗って歌いました。そのスピードを落とすことなく突き進み、堤さんと新倉さんが交互にメロディを奏で、そのままフナーレへと駆け上がりました。ホールに興奮をもたらして、盛大な拍手が贈られ、4人の素晴らしい演奏を讃えました。
拍手に応えて堤さんの挨拶があり、アンコールにカザルスの名曲「鳥の歌」が演奏されました。繊細に演奏する3人をバックにして、堤さんが朗々とメロディを歌い、そのチェロの音は神々しいまでに美しく、極上の音楽にうっとりを身を委ね、むせび泣く鳥に涙し、ピアニシモから無音の時間が訪れ、静寂の中から大きな拍手が沸き上がりました。
熟練の堤さんは年齢を感じさせない素晴らしさであり、積み上げれた年月が燻し銀の音楽となって昇華し、年代の違う3人の奏者とともに、一期一会の珠玉の音楽を生み出してくれました。
堤さんと若き2人のチェリストの間を持つ新倉さんも素晴らしく、艶やかな音色は出色でした。終始堤さんに目を配って、演奏を支えておられました。
若き2人も音量豊かで存在感があり、その美しいサウンドと音楽性の豊かさは堤さんの指導のなせる業なのかも知れませんが、今後のさらなる発展が期待されました。
それぞれの曲毎にフォーメーションを変えながらの演奏で、内容的にも素晴らしく、大きな感動と満足感をたっぷりといただきました。
期待以上の感動をいただき、爽やかな気分でりゅーとぴあを後にしました。西日が強く照りつけて、暑さを感じましたが、4人による熱い演奏にはかないません。
(客席:1階6-17、S席:バリューパック:¥2800) |