三浦一馬五重奏団
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2024年11月30日(土)14:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
三浦一馬五重奏団
バンドネオン:三浦一馬、ヴァイオリン:石田泰尚、ピアノ:山田武彦
コントラバス:黒木岩寿、ギター:大坪純一
 
1st stage《コンチネンタル・タンゴ》

 ラルフ・アーウィン:奥様お手をどうぞ
 ヤコブ・ゲーゼ:ジェラシー
 ホセ・パディーヤ・サンチェス:ラ・ヴィオレテラ(花売り娘)
 ヨーゼフ・リクスナー:碧空
 ウィル・グロシュ:カプリ島
 フィリッポ・シュライエル/アルド・ボッテロ:バラのタンゴ
 ポール・アブラハム:ニーナのような娘
 レオネッロ・カズッチ:いとしのジゴロ
 ジョルジュ・ビゼー:真珠採り
 イサーク・アルベニス:タンゴ(組曲「スペイン」よりOp.165-2)
 アントン・ルビンシテイン:へ調のメロディ
 ルロイ・アンダーソン:ブルータンゴ

(休憩20分)

2nd stage《オール・ピアソラ・プログラム》

アストル・ピアソラ:
 悪魔のロマンス
 天使の死
 ブエノスアイレスの夏
 オブリヴィオン
 タンガータ
 エスクアロ(鮫)
 リベルタンゴ

(アンコール)
アストル・ピアソラ:
 チェ・タンゴ・チェ
 アレグロ・タンガービレ
 
 今日は、純クラシックではなく、たまにはタンゴの名曲を楽しもうということで、バンドネオンの世界的奏者の三浦一馬さん率いる三浦一馬五重奏団(キンテート)の演奏会に行くことにしました。
 三浦一馬五重奏団は、バンドネオンの三浦一馬さんのほか、ヴァイオリンの石田泰尚さん、ピアノの山田武彦さん、コントラバスの黒木岩寿さん、ギターの大坪純一さんの5人によるユニットです。
 この五重奏団(キンテート)の編成は、アストル・ピアソラが、生涯にわたって探求したバンド編成だそうです。ということは、この編成でこそピアソラの音楽の本質が理解できるということでしょうか。大いに期待したいと思います。

 さて、三浦一馬五重奏団は、2018年11月にりゅーとぴあに来演しており、6年ぶりになります。また、ヴァイオリンの 石田泰尚さんは、今年の7月30日に石田組として、8月11日には YAMATO SQ として新潟に来られたばかりですし、来年1月5日にも、神奈川フィルのコンサートマスターとして新潟に来られますので、新潟には縁がありますね。

 今日のプログラムは、前半がヨーロッパで華開いたコンチネンタルタンゴの名曲、後半はピアソラの名曲が演奏されます。
 ピアソラは、人気作曲家ですので、様々な演奏会で聴く機会があり、前回の演奏会でも取り上げられていますし、8月の石田さん率いるYAMATO SQ の演奏会でも聴いたばかりです。さらに、今月1日のオーケストラアンサンブル金沢の演奏会でも、バンドネオンの小松亮太さんとともに、ピアソラの名曲を聴いています。続くときは続くものですね。プログラムとしては新鮮味がありませんが、心を無にして楽しませていただこうと思います。

 今週は悪天候が続き、大雨警報が出たりと、落ち着かない日々が続いています。今日も厚い雲が広がって、雨が降ったりやんだりで、肌寒さを感じる生憎の土曜日になりました。雪が降らないだけありがたいと言うべきでしょうね。 
 いつものように、与えられた雑務を終えて、ゆっくりと家を出ました。今日の開演は15時でしたので、余裕を持って某所で安価な昼食を摂り、りゅーとぴあへと向かいました。

 白山公園駐車場に車をとめて、雨降る中に、りゅーとぴあ入りしました。ロビーは開場を待つ人たちで混雑していて、開場の列ができていました。ほどなくして開場となり、私も列に並んで入場し、席に着きました。
 ステージ中央にはスタインウェイが鎮座し、マイクやスピーカーなど、PA装置が賑やかに設置されていました。ピアノを含めて、各楽器にマイクが置かれ、ステージ両脇の巨大なスピーカーが目立っていました。さらに、1階席中央の最後方の客席をつぶしてPAの調整卓が設置されていて、係のお兄さんがPCを起動してスタンバイしていました。
 開演時間が近付くに連れて、次第に客席は埋まりました。B席エリアは満席でしたが、A席エリア、S席エリアのサイド席には空席がありました。正面の席はびっしりでしたので、それなりの入りと言えましょうか。

 開演時間となり、三浦さんをはじめ、5人のメンバーが登場。最後に石田さんが、ノシノシと登場し、早くも存在感たっぷりでした。
 前方左から、ヴァイオリンの石田さん、中央にバンドネオンの三浦さん、右にコントラバスの黒木さん、エレキギターの大坪さん、後方にピアノの山田さんが並びました。

 1曲目の「奥様お手をどうぞ」で開演しました。おなじみの名曲を、ゆったりとソフトに演奏し、爽やかな空気間の中に演奏が始まりました。生音ではなく、PAが使用されていますので、左右のスピーカーから音が出て、広がって聴こえて、加工感は否めませんでしたが、慣れてしまえば違和感なく音楽に没頭できました。

 ここで、三浦さんのMCがあり、挨拶の後に、今回初めてコンチネンタルタンゴを演奏することなどの説明がありました。
 2曲目は「ジェラシー」で、ヴァイオリンで始まり、切れの良いタンゴのリズムとともに、甘いメロディーが美しく流れ出ました。以後続けて演奏が進みました。
 3曲目は「花売り娘」で、明るい演奏で楽しませ、4曲目の「碧空」は、しっとりと始まり、明るく情熱的にリズムを刻みました。5曲目の「カプリ島」は、明るく爽やかで、心もウキウキしました。6曲目の「バラのタンゴ」は、憂いを秘めながら、明るいリズムで奏でました。7曲目の「ニーナのような娘」は、ほのかな明るさとまどろみの中に、押し殺した思いが迫りました。第8曲の「いとしのジゴロ」は、情熱的に熱く訴えかけました。

 ここで三浦さんのMCがあり、アルゼンチンからヨーロッパ大陸へと渡ったコンチネンタルタンゴについて、アルゼンチンタンゴとの違いなどが語られました。コンチネンタルタンゴといえばアルフレッド・ハウゼ楽団ですが、その演奏曲の中にクラシック曲をタンゴに編曲した曲があり、その中から3曲を演奏するとの話がありました。
 そして、最初(9曲目)は、ビゼーの「真珠採り」をしっとりと演奏し、10曲目のアルベニスの「タンゴ」は、明るく爽やかに、地中海や南欧の空気感を感じました。11曲目のルビンシテインの「ヘ調のメロディ」は、お馴染みの曲を情熱的に演奏し、最後はしっとりと終わりましたが、編曲の面白さで楽しませてくれました。

 再び三浦さんのMCがあり、アメリカ版のコンチネンタルタンゴとして、ルロイ・アンダーソンの「ブルー・タンゴ」が爽やかに演奏されて、前半のプログラムが終了しました。

 軽音楽といいますか、イージーリスニング的に聴きなじみの良い曲目で、気兼ねなく楽しめて、ゆったりとした気分で音楽に浸りました。
 三浦さんのバンドネオンが中央にありましたが、メロディラインを弾くことが多いヴァイオリンがバンドネオン以上に目立っていました。石田さんの挙動は、やっぱり石田さんですが、演奏はしっとりと美しく、艶やかな音色が気持ち良く感じられました。

 休憩後の後半はオール・ピアソラです。5人が登場して開演しましたが、前半よりも照明が暗めになって、大人のムードを醸し出していました。
 1曲目は「悪魔のロマンス」で、聴き慣れた感のあるタンゴの名曲も、このキンテートの編成で聴きますと、全く違って聴こえて、ムーディな世界にうっとりしました。ゆったりと、しっとりと、情感豊かに心に滲みる音楽に泣かされました。

 ここで三浦さんのMCがあり、後半はピアソラのモダンタンゴを演奏する旨の話があり、メンバー紹介が行われました。
 そして後半2曲目は「天使の死」で、コントラバスの胴を叩いたりして、激しいリズムで始まって圧倒されました。一時ゆったりするも、再び激しさを増しました。
 3曲目の「ブエノスアイレスの夏」は、重々しいリズムに始まり、夜更けの場末の裏通りの空気感が漂い、しんみりとバンドネオンが歌い、ヴァイオリンが滲みてきました。そして激しさを増して、情熱的にスピードアップし、抑えきれない感情とともに泣き叫びました。
 4曲目の「オブリビオン」は、一転してしっとりと曲が流れ、しみじみとしたメロディが胸に迫りました。冷たい雨が降るブエノスアイレスの街の路地裏で悲嘆にくれて、涙が頬を伝い落ちました。この切ない思いは何でしょう。涙を抑えきれず、泣き叫びました。
 5曲目の「タンガータ」は、バンドネオンが静かに歌い、しっとりと始まりました。夜霧に咽ぶ場末の情景の物悲しさに涙しました。むせび泣くピアノ。そして、吹っ切れたように激しく感情を高ぶらせ、情感豊かなヴァイオリンとともに、熱量を上げ、高揚しました。
 6曲目の「鮫」は、心地良いリズムで情熱的に歌い、切れよく曲が終わりましたが、ヴァイオリンが光っていました。

 ここで三浦さんのMCがあり、この曲を演奏しないわけにはいかないだろうとのことで、プログラムの最後に「リベルタンゴ」が演奏されました。激しいリズムとともにヴァイオリンが歌い、どんどんど加速し、猛スピードでクライマックスへと上り詰め、興奮と感動をもたらして、予定のプログラムは終演となりました。

 大きな拍手とともにブラボーがこだまし、アンコールに「チェ・タンゴ・チェ」が、小気味良く、爽やかに演奏され、ヴァイオリンとバンドネオンの掛け合いも面白く、大いに楽しませてくれました。
 演奏を終えて、石田さんだけ、早々とステージから去ろうとしましたが、引き戻されて、もう1回エンディングが演奏されて、ユーモアとともに盛り上げてくれました。
 カーテンコールでの熱気は収まらず、アンコール2曲目に「アレグロ・タンガービレ」が演奏されました。ここまで三浦さんは座って演奏していましたが、立っての演奏でした。猛スピードで始まり、そのままスピードを落とすことなく突進し、爽快なスピード感とともに終演となりました。

 客席は熱く燃え上がり、興奮は最高潮となりました。石田さんが左右のステージサイド席に向かって礼をし、それに促されて他のメンバーも礼をしましたが、石田さんは他のメンバーを置いたまま、さっさとステージから去ったりと、いかにも石田さんをしていました。
 鳴り止まない拍手に呼び戻されて、全員がステージ前方に並んで拍手に応え、客席はスタンディングオベーションの盛り上がりとなりました。
 客席の熱狂は収まりませんでしたが、最後は石田さんが譜面台から楽譜を取って、バイバイしながらステージを去り、感動の演奏会はお開きとなりました。

 前半は、聴きなじみのあるコンチネンタルタンゴの名曲のオン・パレードでした。BGMとして耳にする機会も多く、有名な割には生では聴く機会がない曲ばかりでしたので、貴重な機会になりました。
 そして、後半は定番のピアソラのモダンタンゴの数々で、ピアソラが想定したキンテートの編成での演奏で、曲の魅力を余すことなく表現し、否応なく楽しませてくれました。
 三浦さんのバンドネオンの素晴らしさもさることながら、やはり石田さんのパフォーマンスは賞賛すべきでしょう。演奏に専念して、見事な演奏で魅了しましたが、その挙動は、まさしく石田さんであり、抜群の存在感でした。

 コンサートのプログラムも演奏も素晴らしく、PAを使用していたものの、聴くにつれて違和感はなくなり、演奏にどんどんと引き込まれました。素晴らしい演奏を聴かせてくれた五重奏団の皆さんにブラボーを贈りたいと思います。

 大きな感動と、胸の高鳴りとともにホールを出ますと、雨は止んでいました。雨にぬれた歩道を、足早に駐車場へと向かい、家へと車を進めました。
 

(客席:2階C2-8、S席:フレンズ会員:\4000)