(三月六日品川停車場にて) プラットホームに子供を抱いた女があつち向いて居た。山の手電車を待つてるらしかつた ――汽笛が鳴った。自分の乗つてる汽車は動き出した。女はやつぱりあつち向いてゐた。 段々小さくなつた。やつぱりあつち向いてゐた。 スケツチブツクの女は永劫あつち向いてゐる。
渡辺与平