反田恭平 X A.オッテンザマー(指揮) バーゼル室内管弦楽団
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2024年6月28日(金) 19:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:アンドレアス・オッテンザマー
ピアノ:反田恭平
 
ワーグナー:オペラ「ローエングリン」第3幕より ファンファーレ
オネゲル:交響詩「夏の牧歌」
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58
(ソリストアンコール)
シューマン:トロイメライ

(休憩20分)

ウィンケルマン:ジンメリバーグ組曲
メンデルスゾーン:交響曲 第4番 イ長調 Op.90「イタリア」
(アンコール)
ロッシーニ:踊り
 

 今日は、バーゼル室内管弦楽団の初来日公演で、反田恭平が共演し、アンドレアス・オッテンザマーが指揮をするということで注目の公演です。

 バーゼル室内管弦楽団 は、1984年にスイスで創設され、古典と現代の作品を組み合わせた多彩なプログラムで活動しているそうですが、不勉強な私は、今回の公演の案内を目にするまで、このオケのことは全く知りませんでした。
 この公演は、反田さん人気にすがったようなプロモーションがされていましたが、反田さんというよりも、どのようなオケなのか興味深く思われましたので、聴かせていただくことにしました。

 指揮のアンドレアス・オッテンザマーは、1989年にウィーンで生まれ、2011年3月より弱冠21歳でベルリン・フィルのクラリネット首席奏者に就任というスター・クラリネット奏者でありながら指揮者としても活躍しています。クラリネット奏者としての名前は知っていましたが、指揮者もしているとは最近まで知りませんでした。
 偶然にもオッテンザマーは、9月15日(日)に開催される東京交響楽団第138回新潟定期演奏会で指揮することになっており、今回はその前哨戦とも言えて、お手並み拝見ということになります。

 ソリストとして共演する反田恭平さんは、ショパンコンクール2位の実力と絶大な人気を兼ね備えたピアニストであり、指揮者、経営者としても華々しい活躍をしています。
 私が反田さんの演奏を聴くのは、2018年9月の長岡市でのリサイタル、2022年2月の、りゅーとぴあでのジャパン・ナショナル・オーケストラの公演、そして、2023年2月の、りゅーとぴあでの務川彗悟さんとのデュオコンサート以来、1年4か月ぶり4回目となります。

 さて、今回の日本ツアーは、香港公演に引き続いて行われ、新潟のほかに静岡、東京(2公演)、大阪、広島と全6公演が開催され、ツアーの初日が新潟です。バーゼル室内管弦楽団が日本で初めて演奏する地が新潟というのは記念すべきことであり、注目すべきコンサートだと勝手に思っています。

 ということで、コンサート当日になりましたが、朝から思わねアクシデントがあり、行けるかどうか微妙になっしまいましたが、幸いに何とか行くことができました。
 混雑していた駐車場に何とか空きを見つけて駐車し、りゅーとぴあへと急ぎ足で向かい、開演10分前に入館することができました。
 今夜は劇場ではNoism Company Niigataの20周年記念公演が同時刻に開演となるため、ロビーはたくさんの人で混雑し、熱気が満ち溢れていました。こういう賑わいは良いですね。
 ちなみに今日の昼には「りゅーとぴあ・1コイン・コンサート」が開催されており、コンサートホールは休みなしです。ホールでのゲネプロが十分行えたのか心配になりましたが、余計なお世話ですね。

 開演時間が迫っていましたので、急いで入場しました。受付では、A3の紙を六つ折にした内容は十分ながらも非常に簡素なプログラムと曲目変更の案内の紙が配布されました。
 当初は、1曲目にストラヴィンスキーのオペラ「放蕩児の遍歴」よりのファンファーレが演奏されるはずでしたが、ワーグナーの「ローエングリン」の第3幕からのファンファーレに変更とのことでした。どういう事情なんでしょうね。

 客席に着きますと、反田さん人気で満席かと思っていましたが、予想に反して2階サイド席の空席が目立ちました。それでもなかなかの入りには違いありませんけれど。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、揃ったところで全員で礼をして驚きました。
 オケの配置は、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置で、コントラバスとチェロが左、ヴィオラが右です。室内オケということで、弦5部は 6-5-4-3-2 という小編成です。小型のティンパニのほか通常のティンパニが第2ヴァイオリンの右横に配置されていました。

 スリムで長身、イケメンのオッテンザマーさんが登場し、1曲目はワーグナーの「ローエングリン」からのファンファーレです。
 2階席AブロックとBブロックの間のスペースに、トランペット2人がバンダとしてオケとともに演奏し、立体的な音響効果も良かったのですが、あっという間に終わってしまいました。

 あっけなくて拍手するタイミングもなく、すぐに弦楽合奏が始まって、2曲目のオネゲルの「夏の牧歌」にシームレスにつながりました。この間にバンダの2人とステージ上の金管奏者が静かに退場し、ホルン1人と木管が残りました。
 ホルンと木管の響きが美しく、ゆったりと幽玄に流れる音楽が疲れた心を癒してくれるような、まさに「牧歌」を思わせる静かな曲にうっとりと聴き入りました。

 ステージ転換されて、ステージ左に置かれていたピアノが中央に移動され、続いてはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番です。ティンパニは小型です。コンミスが弦の各パートの前まで出向いて行き、入念なチューニングが行われました。
 オッテンザマーさんと並ぶと非常に小柄に見える反田さんが登場。反田さんのソフトなピアノに弦が加わって演奏が始まりました。ピアノの音がこのホールで聴くスタインウェイとは随分と異なり、クリアさよりもソフトフォーカスさを感じましたが、私の気のせいでしょうか。(後でプログラムを見ましたら、使用ピアノはSHIGERU KAWAI SK-EX と小さく書かれていましたが、このせいでしょうか。)
 やたらオケが賑やかに鳴っていて、ホルンはうるさくすら感じて、ちょっと違和感を感じながら聴いていました。反田さんの長大なカデンツァは聴き応えがありました。
 第1楽章が終わったところで、盛大な拍手が沸きあがり、あれっと感じました。皆さん何の躊躇もなく拍手されており、いつものクラシックコンサートの客層とは随分と異なるようでした。
 第2楽章は、力強い弦と優しくソフトなピアノとの掛け合いで始まり、その対比も美しく、思いっきりゆったりと歌わせて曲を揺り動かしていました。
 そして第3楽章は、軽快に演奏が進み、オケもピアノも緩急・強弱のメリハリを思いっきり付けて、ロックでも聴くかのように、グイグイト迫る演奏に圧倒され、口をあんぐりとしている間にフィナーレとなりました。
 私が抱くこの曲のイメージを、グロテスクに感じるほどに大きく崩して、新しい音楽を作り上げていました。おもちゃ箱をひっくり返して、ベートーヴェンがブレイクダンスを踊るかのような、正に21世紀のベートーヴェン、令和のベートーヴェンとでも言いましょうか。やりすぎに思いましたけれど。

 ブラボーと大きな拍手に応えて、アンコールとして反田さんが「トロイメライ」を演奏して、ホールの興奮を鎮めてくれました。心にしみる美しい演奏でした。

 休憩後の後半は、指揮者左横に演奏台が設置されており、オッテンザマーさんとともにアコーディオン奏者が登場して着席しました。
 オッテンザマーさんがマイクを持って日本語で挨拶し、その後英語でこれから演奏する「ジメンバーグ組曲」の説明がありました。スイスの民謡を題材にした6曲からなる組曲で、スイスの女性作曲家・ウインケルマンが、2020年にアコーディオンと小型の弦楽のために作曲した曲です。作曲者は、なんと第1ヴァイオリンのコンミスの隣で次席を務めておられました。
 アコーディオンが楽しく歌い、いかにもスイスというような明るく軽快な舞曲に挟まれて、非常に静かで、しっとりと心にしみる曲もあり、大いに楽しめました。現代曲らしからぬ親しみやすい曲にほっこりしました。演奏後はアコーディオン奏者とともに作曲者も立ち上がって大きな拍手が贈られました。

 ステージ転換されて、アコーディオンの演奏台が撤去され、管が増員されてフルメンバーとなりました。コンミスが各パートを回っての入念なチューニングが行われ、いよいよ最後のメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」です。オッテンザマーさんが登場して演奏開始となりましたが、このとき既に時刻は20時50分を回っていました。
 明るく快活に演奏が始まりました。大きくアクセントを付けて、スピード感に溢れていました。弦が小編成のため、メロディラインが目立たない面もありましたが、生き生きとした演奏は気持ちよいものでした。第1楽章終了後も大きな拍手が沸きあがりました。このとき時刻は21時を回っており、途中退席する人の姿がパラパラとありました。
 静かで哀愁を感じさせる第2楽章も、どこか明るさを感じさせ、弦が美しくリズムを刻み、美しい木管が絡み合いました。
 第3楽章は、弦楽のアンサンブルがゆったりと流麗に歌わせましたが、ホルンが奮闘して、美しく柔らかに鳴り、いい味を出していました。
 そして第4楽章は、もともと曲がそういう作りなんですけれど、激しく音を刻んでスピードを上げて、グイグイと突き進みました。軽自動車にF1エンジンを積んで加速を続け、制限速度のないアウトバーンを猛スピードで走り抜けるかのようでした。オケは乱れることなく指揮に応えて熱量を増し、血潮が吹き上がるような熱い演奏でホールに興奮をもたらしました。ここまでやられると返す言葉もなく、ただただ圧倒されるのみでした。

 客席からはブラボーとともに大きな拍手が贈られ、帰りを急いで立ち上がった人も含めて、スタンディングオベーションの盛り上がりとなりました。
 時間はかなり押していましたが、アンコールにロッシーニの「踊り」が、タンバリンとともに賑やかに演奏されました。コントラバスをのだめのSオケの如く回転させたりして、ノリノリの演奏でホールは興奮の渦となりました。
 スタンディングオベーションの熱狂の中に客席の明かりがつけられ、団員は全員で礼をし、振り返って後方にも礼をして、興奮と感動の演奏会は終演となりました。

 時刻は21時半。内容豊富な演奏会に、お腹は空腹ですが、胸はいっぱいになりました。あまり個性的な演奏に面食らってしまったというのが正直な感想ですが、ここまで激しい演奏を聴かされますと、否が応でも興奮させられ、朝からストレスいっぱいだった1日の心身の疲れを吹き飛ばすことができました。
 会場では、音楽仲間と久しぶりに遭遇し、お話しをすることができたのも良かったです。その人は演奏をかなりけなしておられましたが・・。

 時間が遅くなりましたので、オケの皆さんは今日は新潟泊まりと思います。ゆっくり休息する時間もなさそうですが、新潟の夜を楽しんでください。
 明日は移動日で公演はなく、6月30日から5日間休みなしの公演が続きます。他の会場でも熱い演奏を聴かせてくれることでしょう。
 
 感動を胸に駐車場に急ぎ、夜も更けて交通量が減った道路を快適に家へと向かいました。家が近付くにつれて興奮が醒めて、ストレスが頭をもたげてきましたが、負けてはいられません。
 
 
(客席:2階C6-11、S席:¥16000)