新潟A・フィルハーモニック 第三回定期演奏会
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2024年6月8日(土) 14:30 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
ソロコンサートマスター:渡辺美穂
チェロ独奏:海野幹雄
 
プロコフィエフ:交響曲第1番 ニ長調 作品25「古典交響曲」
ショスタコービチ:チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 作品107
(ソリストアンコール)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 サラバンド
カタロニア民謡/カザルス:鳥の歌

(休憩15分)

モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
(アンコール)
チャイコフスキー:モーツァルティアーナ 第3曲「祈り」
 
 
 新潟A・フィルハーモニックは、新潟と縁とゆかりがある音楽家により、2022年に創設されたプロのオーケストラです。
 2022年6月に第一回演奏会が、2023年6月に第二回演奏会が開催され、全国から結集したトッププレイヤーによる見事なアンサンブルに魅了されました。
 そして、今回の第三回演奏会は、これまでの弦楽アンサンブルに管楽器・打楽器が加わって、オーケストラとしての新たなスタートとなります。

 メンバーはソロコンサートマスターの渡辺美穂さんを中心に、全国のプロオケの首席奏者を始め、実績豊富なトッププレイヤーが集まり、その中に新潟で活躍するお馴染みの音楽家も加わっています。
 公式サイトに記載されているメンバー紹介を見ているだけでわくわくし、演奏を聴く前からこのオケの素晴らしさを感じてしまいます。
 でも、新潟で活躍する音楽家や新潟出身の音楽家はわかりますが、渡辺さんを始め、他の音楽家が新潟とどのような縁とゆかりがあるのかは不明です。そして、A・フィルハーモニックの「A」に込められた深い意味は何なのか、3回目の今回になってもわかりません。

 ともあれ、第一回から参加している私としましては、当然今回も参加しないわけにはいきません。今回は、前半にプロコフィエフの古典交響曲とショスタコーヴィチのチェロ協奏曲、後半がモーツァルトのジュピターという正にオーケストラとしてのプログラムです。今回も指揮者なしでの演奏になりますが、どのような演奏を聴かせてくれるのか期待が高まりました。

 今日は朝から晴れ渡り、清々しい土曜日になりました。いつものように、洗濯、掃除、カメの水替え、ネコのトイレ掃除、ゴミ出しと、ルーチンワークを終えて、着飾って万代に出かけた暴君を見送って家を出ました。
 白山公園駐車場に車をとめて上古町を歩き、いつもの桜蘭で絶品の冷やし中華をいただきましたが、今日は若者の客も来られていました。学生さんには大盛りがサービスだと話しておられましたが、若い世代にも人気で何よりです。
 お腹を満たして、上古町をゆっくり歩きましたが、暑すぎることもない初夏の陽気が心地良く感じられました。白山神社をぶらついて、りゅーとぴあへと向かいました。

 インフォメーションで某コンサートのチケットを買い、開場とともに入場して席に着き、この原稿を書きながら開演を待ちました。
 となるはずだったのですが、私の後ろに高齢女性のグループがおられ、世間話を賑やかに始められて、修行が足りない私は、いたたまれずにロビーに避難して、この原稿を書きながら開演を待ちました。

 開演時間が近付いたところで席に戻りましたが、使用された客席は、1階席とステージ周りを除いた2階席のみで、3階席は使用されませんでした。
 これまでは新潟市音楽文化会館で演奏会を開催してきましたが、工事で長期休館のため、今回は否応なく大きなコンサートホールに変更されたものと思います。
 客の入りとしてはまずまずでしょうか。2階サイド席には、左右とも高校生が団体で着席していました。こういう若者に聴いてもらうのは良いことですね。

 ほどなくして拍手の中にメンバーが入場。全員席に着いたところでコンマスの渡辺さんが入場して、チューニングとなりましたが、チューニングの音からして当然ながらプロの音。期待が高まりました。
 弦の配置は通常の並びで、弦5部は 6-5-4-4-2 です。コンマスの隣は、新潟出身で関西フィルの増永さんでしょうか。在新潟の音楽家の皆さんは後方におられました。

 1曲目はプロコフィエフの交響曲第1番「古典交響曲」です。ハイドンが現代に生きていたら作曲したであろうという趣旨で作曲した曲だそうです。指揮者はいませんので、コンマスの動きとともに演奏開始しました。
 ティンパニの一撃とともに、颯爽と演奏が開始され、その躍動感溢れる音楽に心も弾み、一気に演奏に引き込まれました。
 ピチカートが快い第2楽章。美しく優雅に、ステップを踏んで踊る第3楽章。そして第4楽章は、軽快に駆け足してスピードアップ。溢れるばかりの躍動感に、心はウキウキ、ズキズキ、ワクワク。興奮の中にフィナーレとなりました。
 この曲の魅力を見事に具現化し、聴衆を沸かせ、一気に心をつかみました。いきなりの快演に圧倒され、このオケの実力をまざまざと見せ付けられました。お見事です。
 でも、指揮者なしでこれほどの演奏ができるなんて、すごいですね。個々の奏者の実力と、このような小型オケならではなんでしょうけれど。

 一旦全員がステージから下がって、中央にチェロの演奏台が設置されました。2曲目はショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番です。団員が再入場してチューニング。海野さんが入場して席に着き、演奏開始です。
 ショスタコーヴィチ自身が「おどけた行進曲」と表現したように、まさにおどけたメロディーで始まりました。切れのある海野さんのチェロの素晴らしさは言うまでもありませんが、バックの管楽器が見事であり、チェロとの絡み合いが、スピード感とともに緊迫感を生みました。特にホルンがいい仕事をしており、ティンパニの味付けもお見事。
 第2楽章は、暗い弦楽合奏で始まり、ホルンが加わってチェロがしっとりと歌わせました。切なく、むせび泣くようで、重苦しい空気に押しつぶされそうでした。切々と奏でるチェロが胸に滲みました。
 そして、重苦しさの中にエネルギーをみなぎらせ、ティンパニの一撃で我に帰り、ホルンが鳴り響いて、チェレスタとともにチェロが繊細な高音でむせび泣きました。
 第3楽章のカデンツアは、超絶技巧が駆使されて、海野さんの力がまざまざと示されました。地を這うような低音がホールに響き、剃刀のように迫ってくる緊迫感溢れる長大な演奏に息を呑むばかりでした。
 そして第4楽章は、オケとチェロがせめぎ合い、第1楽章のメロディが回帰され、感動と興奮の中にフィナーレとなりました。
 海野さんの独奏の素晴らしさ、それと渡り合うオケの素晴らしさ。そのパワーと繊細さにひれ伏しました。私の乏しい語彙では言い尽くせないほどのいい演奏でした。

 大きな拍手に応えてのアンコールに、バッハの「サラバンド」をしっとりと演奏し、コンチェルトの興奮を鎮めてくれました。
 これで終わりかと思いましたが、さらにカザルスの演奏で知られる「鳥の歌」を、切々ともの悲しく演奏し、胸を打つチェロのクリアで豊潤なサウンドに酔いしれ、青白い炎のようにメラメラと沸き上がる感動に涙しました。静寂がホールを満たし、我慢しきれなくなったところで拍手が始まり、感動の渦で満たされました。
 前半を聴いただけでも大きな満足感をいただき、お腹いっぱいの感動に、これで終わりでも良いくらいにさえ感じました。

 休憩後の後半は、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」です。以前はしばしばコンサートの演目に取り上げられていたことがあったように思いますが、最近は生で聴く機会がないのはどうしてなんでしょう。この曲を避けているんでしょうか。

 拍手の中に団員が入場。チューニングが終わって、渡辺さんの合図とともに演奏開始です。快活で伸びやかに演奏が始まり、アンサンブルの美しさに再度魅了され、生き生きとした生命感溢れる音楽がホールを満たしました。
 第2楽章は、ゆったりと美しく歌わせ、至福の響きにうっとりし、第3楽章は、大きくアクセントを付けて、ワルツのステップを踏みました。
 第4楽章は、軽快にスピードアップし、高速ギアにチェンジしてアクセルを踏み、次第に熱量を上げてヒートアップ。アップダウンを繰り返して、どんどんと高みへと駆け上がり、最後のフーガも心地良く、興奮のフィナーレを迎えました。圧倒的な演奏にホールを埋めた聴衆に感動をもたらしました。

 アンコールは、チェレスタを含めて出演者が全員ステージに出てきて、モーツァルトつながりということだと思いますが、チャイコフスキーの「モーツァルティアーナ」からの「祈り」が演奏されました。
 「アヴェ・ヴェルム・コルプス」の美しいメロディが、優しくしっとりと奏でられ、最後の消え入るチェレスタと弦の音に、汚れた私の心は清められ、祈りの時間を終えました。

 極上のデザートをいただいて演奏会は終演となりましたが、期待以上の素晴らしい内容に大きな満足感をいただきました。
 今回からこれまでの弦楽アンサンブルに管楽器・打楽器が加わり、小編成の室内オケではありますが、高水準なプロオーケストラが新潟の地に誕生した喜びを感じ、胸を熱くしました。
 今後は定期演奏会を重ね、プロオケの団体であるオーケストラ連盟への加入も視野に入れているという話も伝え聞きました。これからのますますの発展を祈り、期待したいと思います。

 これまでも新潟では、プロの音楽家が集う新潟ARS NOVAが活動していますし、セミプロの新潟セントラルフィルもあります。プロの弦楽アンサンブルである新潟シンフォニエッタTOKIも活動しています。かつてはプロの吹奏楽団もあったはずでしたが、どうなったのでしょうか。
 と、今後の新潟の音楽界の発展を祈念し、残された私の人生は短いですが、大いに楽しませていただきたいと思います。
 
 
(客席:2階C3-7、\4500)